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貸倒損失と貸倒引当金(損金・経費解説シリーズ⑩)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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【令和5年11月リライト】貸倒損失と貸倒引当金(損金・経費解説シリーズ⑩)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2023/11/17

目次

    はじめに

    10回にわたってお届けした損金・経費解説シリーズ、最終回である今回のテーマは売上金や売却代金などが回収できなくなった状態である貸倒(かしだおれ)の経理及び税金の取扱いについてです。貸倒はどの企業においても避けたいことです。でも、万が一代金が回収できない状況になった場合どのように対応するのか知っておくことで冷静な対応ができます。ここでは代金回収及び債権整理などの実務対応については取り上げず、あくまで経理及び税金計算の取扱いについて解説します。
    なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和5年11月現在の法令に基づいています。
    第1回    減価償却
    第2回    繰延資産
    第3回    資産の評価損
    第4回    給与、賞与
    第5回    保険料
    第6回    寄附金
    第7回    租税公課
    第8回    交際費、広告宣伝費
    第9回    圧縮記帳
    第10回(今回)  貸倒損失、貸倒引当金

     

    貸倒と損失計上する要件

    冒頭でもお話しした通り、貸倒(かしだおれ)とは売上や売却などによって生じた債権の回収ができなくなった状態をいいます。この状態になることはそのまま損失になることはわかるでしょう。経理上貸倒状態になった場合は「貸倒損失」という科目を使って損失処理します。
    では、具体的にどのような状況が「貸倒」になるのでしょうか。税務当局内部文書である法人税法基本通達では貸倒に該当し損失処理することができる事項を3つ掲げています(参考:国税庁HP No.5320 貸倒損失として処理できる場合)。

    1. 金銭債権が切り捨てられた場合
      次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。
      (1) 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
      (2) 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定および行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
      (3) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額
      つまり、法律による倒産手続や当事者による協議、債務免除通知により客観的に回収不能額が確定したときにその回収不能額を貸倒損失として損金に計上するものです。個人事業主の場合も売掛金など事業によって生じた金銭債権の切り捨てについては貸倒損失として必要経費に算入できます。
    2. 金銭債権の全額が回収不能となった場合
      決算書などから債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし担保物があるときは、担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。理由は担保物の処分代金の一部回収の可能性があるためです。また、保証債務の求償権については実際に保証債務を履行した後でなければ貸倒の対象とすることができません。
      こちらも個人事業主においては、売掛金など事業によって生じた金銭債権の回収ができないことが明らかになった場合は、担保物の処分完了後処分によって回収できなかった金額を貸倒損失として必要経費に算入できます。
    3. 一定期間取引停止後弁済がない場合等
      次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などを除く)について、その売掛債権の額から備忘価額(1円だけ残高を残す処理をいいます)を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。
      (1) 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき(ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。)
      なお、不動産取引のように単発的に取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
      (2) 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
      こちらも個人事業主においては、継続的な取引のあった債務者と1年以上取引及び代金回収のいずれも停止している場合は、担保物の処分完了後未回収額から1円を差し引いた金額を貸倒損失として必要経費に算入できます。一定期間取引停止後弁済がないことを具体的に証明するため、売上及び代金回収は少なくとも月次での記帳をお勧めします。

       

    貸倒に備えて積み立てる引当金

    貸倒が発生すると損失となりますが、貸倒になってから損失計上すると突然一度に多額の損失が発生し顧客や金融機関などからの信用を一気に失うリスクがあります。そこで、貸倒になる可能性を何らかの予測を基にあらかじめ見積って経費計上しておき、万が一貸倒が起こっても突然の信用失墜リスクに備える経理処理があります。この処理によって計上される将来の貸倒見込を「貸倒引当金」といいます。
    貸倒引当金の見積方法は大きく2つあり、
    ①個別貸倒引当金:相手先ごとに個別に回収不能額を見積もる
    ②一括貸倒引当金:同じ回収リスクの債権をひとまとめのグループにしてそのグループにおける回収不能確率を見積もる
    があります。①は長期間回収が滞ったり業績が著しく悪化したりしているなど貸倒発生の可能性が極めて高い債務者に対する債権に適用し、それ以外の債権に②の方法を適用します。詳しい見積り方法については次項以降で解説します。
    いずれの方法を適用する場合でも見積りという主観性が入るため、政策的に節税の機会を与える、元々債権回収リスクが高いなどの理由があるなどの理由で認めている以下に掲げる企業を除き、安易な損失計上による過度な節税の防止のため貸倒引当金として計上した経費は税金計算上経費に算入することができず、申告書上で所得加算します。

    1. 資本金が1億円以下の中小法人または青色申告をしている個人事業主
    2. 公益法人等又は協同組合等(信用金庫と信用組合を含む)
    3. 人格のない社団等
    4. 銀行法に規定する銀行
    5. 保険業法に規定する保険会社
    6. イ又はロに掲げるものに準ずるものとして政令で定める内国法人(長期信用銀行、短期保険事業者など)

    一方で、損金算入できなかった貸倒引当金を事後的に取崩したことで生じた利益は申告書で所得減算して相殺します。
     

    個別に設定する貸倒引当金

    ここでは、長期間回収が滞ったり業績が著しく悪化したりしているなど貸倒発生の可能性が極めて高い債務者の債権に対して計上する個別貸倒引当金についてお話しします。金融機関においては、長期間回収が滞っている、業績が著しく悪化していると判断する場合が明確になっており毎年各融資先の決算情報と当てはめて個別貸倒引当金設定対象融資先を判定しています。金融機関以外では判断基準が明確でないこともありますが、長期間回収が滞っている、業績が著しく悪化していると思われる債務者に対する債権には個別貸倒引当金の計上が望ましいです。
    一方、税金計算においては個別貸倒引当金設定対象債務者の判定に恣意性が入ることを排除するため、個別貸倒引当金設定対象債務者を以下の通り定めています。

    1. 更生計画、再生計画、特別清算に係る協定の認可の決定またはこれらに準ずる決定があった債務者
    2. 債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる債務者
    3. 更生手続、再生手続、破産手続、特別清算またはこれらに準ずる手続の開始の申立てがあった債務者

    以上の3つの場合において先述の貸倒引当金を損金又は必要経費算入できる事業者が税金計算において損金または経費算入できる限度額は以下の通りです。

    1.の場合、決定のあった事業年度末日時点における債権額のうち、当該事業年度末日後5年以内に回収が見込まれる額、担保権行使や保証の実行などにより回収が見込まれる金額及び切捨てにより回収不能が確定した金額を控除した残額

    2.の場合、当該一部の金額に相当する金額

    3.の場合、申立てのあった事業年度末日時点における債権額のうち、当該債務者に対する債務など実質的に債権と認められない金額及び担保権行使や保証の実行などにより回収が見込まれる金額を控除した金額の50%

    2.については事由の証明をすることが難しいため実務上あまり利用されません。
     

    一括して設定する貸倒引当金

    貸倒引当金はあらかじめ回収不能予想額を見積もったものであるため、必ずしも現状は回収に問題のない債務者に対する債権であっても計上します。ただし、回収不能となる可能性が高いと予想される債務者と比較すれば対象者が圧倒的に多く回収不能確率も低いため、債務者ごとではなくひとまとめあるいは複数のグループにまとめて貸倒引当金を見積もります。見積方法で多く用いられるのは対象債権について過去3年間の貸倒実績(個別設定対象への変更を含む)を基に回収不能確率とするものですが、統計的トレンドなどをもとに将来の回収不能確率を見積もる方法を採用している企業もあります。
    一方、税金計算においては個別貸倒引当金と同様、回収不能確率に恣意性が入ることを排除するため、一括評価金銭債権に対する貸倒引当金設定方法を以下の通り定めています。
    損金算入可能な法人または個人事業主の繰入限度額=期末一括評価金銭債権の帳簿価額 ×((前事業年度以前3年間の税金計算上の貸倒損失+その3年間の個別貸倒引当金損金算入額-その3年間の個別貸倒引当金益金計上額)×12÷当事業年度の月数)÷(前事業年度以前3年分の期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計÷その合計した事業年度の年数)
    下線部が貸倒実績率に該当し、下線部の箇所を一通り計算後小数点以下第4位未満を切り上げます。
    また、中小法人、公益法人等または協同組合等及び人格のない社団等については貸倒実績率について簡便的に以下の繰入率を貸倒実績率とすることができます。

    • 卸売業および小売業(飲食店業および料理店業を含みます。) 1000分の10
    • 製造業 1000分の8
    • 金融業および保険業 1000分の3
    • 割賦販売小売業ならびに包括信用購入あっせん業および個別信用購入あっせん業 1000分の7
    • その他 1000分の6

    簡便的な繰入率を用いる場合、掛ける対象となる期末一括評価金銭債権の帳簿価額は同一債務者に対する債務を控除(債権より債務のほうが多い債務者については債権なしとみなします)した金額となります。

    なお、公益法人等または協同組合については、いずれの計算方法を用いた場合でも繰入限度額について2022年(令和4年)4月1日から2023年(令和5年)3月31日までに開始された事業年度分について2%の限度額割増があります(2023年4月1日以降開始事業年度については割増特例が適用されません)。
    青色申告をしている個人事業主については、債権(同一債務者に対する債権控除後)に対して簡便的な繰入率1000分の55について貸倒引当金を計上することができます。 

     

    おわりに

    今回まで10回にわたり、損金・経費解説シリーズと銘打ってさまざまな経費の経理上の取扱いと税金計算上の取扱いを取り上げました。今回のシリーズの特徴は法人、個人事業者双方の取扱いを取り上げたことです。解説書や他のブログ記事を見ますと税金の種類も根拠法令も異なることから、法人税のみあるいは所得税のみとしていることが多いです。ですが、事業者特に中小企業にとってはあまり法人形態なのか個人形態なのか意識しないことも多く、また法人成りを検討する場合には双方の取扱いが一目でわかることで共通点と相違点がすんなり理解できるようになります。
    経理や税金の解説ではちょっと挑戦的な記事ですが、ご覧になった方のお役に立てば幸いです。

     

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