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2024年&2025年の賃上げ促進税制|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2024/04/19

目次

    はじめに

    近年、人材確保を主な目的として賃上げの動きが大企業だけでなく中小企業にも波及しています。また、政府も安倍政権時代から現岸田政権に至るまで賃金の引上げを促進し日本経済を盛り上げる政策を継続しています。賃金引き上げ政策の中で特に広く知られ多くの企業で適用されているのが賃上げ促進税制です。
    一方で賃上げ促進税制は判定や税金控除額の計算が煩雑なうえに、毎年政府が力を入れる点が変わるためか税制改正でも毎年改正事項に上がります。そこで、今回は使えると雇う企業にとっても働く従業員にとっても恩恵がある一方、計算がややこしい賃上げ促進税制について改正点や関連する政策も含めて解説します。

     

    令和5年度の大規模法人向け制度

    はじめに大企業向けの賃上げ促進税制について取り上げます。ここでいう大規模法人とは租税特別措置法で定義されている「中小企業者等」以外の者をいいます。具体的に大規模法人に該当する企業は以下のいずれかに該当する青色申告書提出法人です。

    1. 直近3事業年度における所得平均額が15億円以上ある
    2. 資本金または出資金が事業年度末時点で1億円を超える
    3. 事業年度末時点で他の大規模法人または当該大規模法人と完全(100%)支配関係がある法人にあわせて2分の1(50%)以上の出資を受けている
    4. 複数の大規模法人から3分の2以上の出資を受けている
    5. 資本または出資のない法人で常時使用する従業員数が1,000人を超える
    6. 大法人(次の(1)から(3)に掲げる法人)との間に完全(100%)支配関係がある普通法人である
      (1)資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人
      (2)相互会社および外国相互会社のうち、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
      (3)受託法人

    まず前事業年度と当事業年度の賃金の上昇率と雇用・賃金に関する情報公開の状況でで賃上げ促進税制が適用可能か判断します。次に賃上げ率、教育訓練費(従業員の研修費や資格取得費、自習用図書購入費など)の支出増加率などに応じて算定した控除額を算定します。具体的には以下の通りです。

    1. 適用可能要件に該当するかの判断
      (1)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が3%以上 
      →「継続雇用者」とは前事業年度から当事業年度において24か月間継続して雇用されている雇用保険法の一般被保険者をいい中途休職者や雇用保険非加入者、高年齢雇用者は除外されます。また、雇用する立場である役員への報酬・賞与は除外されます。

      「給与等支給額」とは給与、賃金、賞与など名称を問わず雇用に対して支給されるものをいい、こうした支給に対して助成される助成金を控除した金額(ただし雇用安定目的の助成金の受取額は控除しません)です。
      (2)資本金の額または出資金の額が10億円以上、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合
       (a)インターネットを利用する方法によりマルチステークホルダー方針(給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事業上の関係者との関係の構築の方針に関する一定の事項)を公表すること

      (b)そのマルチステークホルダー方針を公表していることについて経済産業大臣に届出があった旨を証する書類の写しを確定申告書等に添付していること

    2. 控除額

      (1)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が3%以上の場合
       (当事業年度継続雇用者の給与等支給額-前事業年度継続雇用者の給与等支給額) ×15%、(当事業年度調整継続雇用者の給与等支給額-前事業年度調整継続雇用者の給与等支給額) ×15%または賃上げ促進税制適用前の法人税額の20%のいずれか低い金額
      →「調整継続雇用者の給与等支給額」とは上記の「給与等支給額」から雇用安定目的の助成金の受取額を控除した金額、すなわち全ての支給に対して助成される助成金を支給額から控除した金額をいいます。
      (2)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が4%以上の場合
      上記(1)の控除率15%に10%上乗せ
      (3)教育訓練費の前事業年度比増加率が20%以上の場合
      上記(1)の控除率15%に5%上乗せ

    なお、(2)と(3)の上乗せ要件のいずれにも該当している場合いずれの上乗せも適用されます。
    継続雇用者の分だけが判定及び控除の対象となっているのは「賃上げ促進」が趣旨であるため実際の賃上げ額だけが反映されるようにするためであり、助成金の控除があるのも同じ理由です。また、教育訓練費増加による控除率上乗せがあるのは、利益向上と賃上げ余力増加につながる従業員の技能向上のための教育投資を促進させるためです。
     

    令和6年度の大規模法人向け制度

    令和6年度税制改正では賃上げ促進税制について根本的な変更はありませんが、控除率や要件について変更点がいくつかあります。この変更は2024年(令和6年)4月1日以降開始される事業年度から適用されます。

    1. 適用可能要件に該当するかの判断
      前年度増加率3%以上で従来と変更ありません
    2. 控除額

      (1)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が3%以上の場合
       控除率15%→10%に引下げ
      (2)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が4%以上の場合
       控除率の上乗せ率10%→5%に引下げ
       ただし、中堅企業(従業員数2,000人以下の企業)の場合は上乗せ率15%となり合計した控除率は従来と変更ありません
      (3)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が5%以上の場合(新設)
       控除率の上乗せ率10%
      (4)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が7%以上の場合(新設)
       控除率の上乗せ率15%
      (5)教育訓練費の前事業年度比増加に伴う上乗せ
       増加率要件20%→10%に緩和
       なお、控除率の上乗せ率は従来の5%で変更ありません
      (6)プラチナくるみんもしくはプラチナえるぼし認定がある場合(新設)
       控除率の上乗せ率5%
       ただし、中堅企業(青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業)の場合、えるぼしについては三段階目以上で足ります

    なお、(2)~(4)のいずれか、(5)、(6)の上乗せ要件のうち複数の要件に該当している場合は該当する全ての上乗せを適用できる点は改正前と同じです。
    改正の要点をまとめますと、

    • 大企業にはより増加率のより高い賃上げを促進するため増加率要件を厳格化する一方、中堅企業要件を新設し規模がやや小規模な中堅企業に対してはあまり厳格化せずまずは賃上げを促す形にした
    • 教育訓練投資増加を進めやすくするため、教育訓練費増加要件を緩和した
    • 働きやすい職場環境整備を促進するため、くるみんとえるぼしの認定による上乗せが設けられた
      となります。中堅企業、くるみん、えるぼしの詳細については後述します。

       

    令和5年度の中小企業向け制度

    次に中小企業向けの賃上げ促進税制について取り上げます。ここでいう中小企業とは租税特別措置法で定義されている「中小企業者等」のことを指し、法人税法で規定される「中小法人」や中小企業基本法で規定される「中小企業」とは定義が異なります。具体的に中小企業者等に該当する企業は以下のいずれにも該当する青色申告書提出法人です。

    1. 直近3事業年度における所得平均額が15億円未満である
    2. 資本金または出資金が事業年度末時点で1億円以下である
    3. 事業年度末時点で他の大規模法人または当該大規模法人と完全(100%)支配関係がある法人にあわせて2分の1(50%)以上の出資を受けていない
    4. 複数の大規模法人から3分の2以上の出資を受けていない
    5. 資本または出資のない法人で常時使用する従業員数が1,000人以下である
    6. 大法人(次の(1)から(3)に掲げる法人)との間に完全(100%)支配関係がある普通法人でない
      (1)資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人
      (2)相互会社および外国相互会社のうち、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
      (3)受託法人

    前事業年度と当事業年度の賃金の上昇率と雇用・賃金に関する情報公開の状況でで賃上げ促進税制が適用可能か判断し、次に賃上げ率、教育訓練費(従業員の研修費や資格取得費、自習用図書購入費など)の支出増加率などに応じて算定した控除額を算定する点は大規模法人向けと同じですが、適用要件や控除率が有利になっています。具体的には以下の通りです。

    1. 適用可能要件に該当するかの判断
      (1)雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が1.5%以上 
      →大規模法人と異なり24か月間継続要件や雇用保険加入要件はありません。ただし、雇用する立場である役員への報酬・賞与が除外される点は大規模法人向けと同じです。
      →「給与等支給額」は大規模法人向けと同じで、給与、賃金、賞与など名称を問わず雇用に対して支給されるものをいい、こうした支給に対して助成される助成金を控除した金額(ただし雇用安定目的の助成金の受取額は控除しません)です。
      (2)情報開示要件については、大規模法人と異なり特にありません。
    2. 控除額
      (1)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が1.5%以上の場合
       (当事業年度雇用者の給与等支給額-前事業年度雇用者の給与等支給額) ×15%、(当事業年度調整雇用者給与等支給額-前事業年度調整雇用者給与等支給額) ×15%または賃上げ促進税制適用前の法人税額の20%のいずれか低い金額
      →「調整雇用者の給与等支給額」とは上記の「給与等支給額」から雇用安定目的の助成金の受取額を控除した金額、すなわち全ての支給に対して助成される助成金を支給額から控除した金額をいいます。
      (2)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が2.5%以上の場合
      上記(1)の控除率15%に15%上乗せ
      (3)教育訓練費の前事業年度比増加率が10%以上の場合
      上記(1)の控除率15%に10%上乗せ

    なお、(2)と(3)の上乗せ要件のいずれにも該当している場合いずれの上乗せも適用されます。
     

    令和6年度の中小企業向け制度

    令和6年度税制改正では中小企業向けについても控除率や要件についても細かい変更点がいくつかありますが、大きな変更点として大規模法人向けにはない未控除額繰越制度が新設されています。この変更は大規模法人向けと同じく2024年(令和6年)4月1日以降開始される事業年度から適用されます。

    1. 適用可能要件に該当するかの判断
      前年度増加率1.5%以上で従来と変更ありません
    2. 控除額
      (1)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が1.5%以上の場合
       控除率15%で従来と変更ありません
      (2)継続雇用者の給与等支給額の前事業年度費増加率が2.5%以上の場合
       控除率の上乗せ率15%で従来と変更ありません
      (3)教育訓練費の前事業年度比増加に伴う上乗せ
       増加率要件10%→5%に緩和
       なお、控除率の上乗せ率は従来の10%で変更ありません
      (4)くるみん認定もしくはプラチナえるぼし二段階目以上認定がある場合(新設)
       控除率の上乗せ率5%

    なお、(2)~(4)の上乗せ要件のうち複数の要件に該当している場合は該当する全ての上乗せを適用できる点は改正前と同じです。
    また、今回の税制改正では中小企業向け制度のみの新規特典として未控除額繰越ができるようになりました。具体的には、賃上げ額×控除率で算定した控除額が賃上げ促進税制適用前法人税額×20%を上回り、控除しきれなかった部分が生じた場合翌年度以降5年間は、各年度法人税額×20%の限度に税額控除額を繰り越して適用できるものです。つまり、賃上げをして賃上げ促進税制を適用できる状態であるものの赤字や所得が薄くなったたために、当年度は賃上げに伴う税額控除の恩恵を満額受けることができなくなったとしても翌年度以降に税額控除を持ち越せることで将来的に賃上げに伴う節税の恩恵を受けられることになります。
    改正の要点をまとめますと、

    • 利益水準が相対的に低く赤字企業割合も多い中小企業でも賃上げをしやすくするため5年間の未控除繰越ができるようになった
    • 教育訓練投資増加を進めやすくするため、教育訓練費増加要件を緩和した
    • 働きやすい職場環境整備を促進するため、くるみんとえるぼしの認定による上乗せが設けられた

    となります。くるみん、えるぼしの詳細については後述します。
     

    中堅企業とは?

    ここでは、令和6年度税制改正で要件に新たに加えられた項目について解説をします。今般の改正では賃上げ率の上昇割合に応じた控除率について中堅企業と大規模企業で差がつけられました。ここでいう中堅企業とは従業員数2,000人以下の企業をいいますが、なぜ差がついたのでしょうか?その経緯について取り上げます。
    経済産業省の資料(リンクはこちら)によりますと

    • 中堅企業は、海外拠点の事業を拡大しつつも、国内拠点での事業・投資も着実に拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献している。
    • 他方、大企業は、この10年間で圧倒的に海外拠点での事業を拡大してきた。今後成長する中堅企業が、国内投資を拡大し続ける成長戦略を描けるかどうかが、日本経済の持続的な成長に決定的に重要である。
    • 日本全体の賃上げを実現するには、従業者数・給与総額の伸び率が大企業を上回り、さらに地方に多く立地し、良質な雇用の提供者となっている中堅企業の果たす役割が大きい。
    • 中堅企業は一社あたりの従業者数も中小企業より大きく、成長投資等により規模拡大し賃上げすることは、 取引先や周辺企業への波及も含め、地域の賃金水準の引き上げに貢献することに加え、良質な雇用を生む 成長企業への経営資源の集約化など前向きな新陳代謝の受け皿としての役割も期待される。

    とあり、中堅企業が地域や日本経済全体に与える影響の大きさがある一方、

    • 中堅企業から大企業への成長割合は国際的に見ても低い状況にあり、中堅企業のポテンシャルを活 かしきれていない可能性。
    • 中堅企業の成長に向けては、国内外の大企業と競争していくための成長投資やM&A等が十分に行えていな いといった課題がある。
      とされ、中堅企業がより成長投資をしやすくする環境づくりが求められているということです。つまり中小企業よりは人材及び財政に余裕がある一方、競争力や成長力の引上げについてはいまだ改善余地が大きいことから中堅企業向け制度が導入されたといってよいでしょう。

       

    くるみん・えるぼしとは?

    ここでは、控除率上乗せ要件に新たに追加された「くるみん」と「えるぼし」の2つの認定制度について取り上げます。

    1. くるみん
      次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき、労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定し、当該計画に定めた目標を達成したなどの一定の基準を満たして厚生労働大臣から認定を受ける制度です。つまり、子育てと両立しやすい労働環境の整備に関する認定制度です。詳細は厚生労働省HPをご参照ください。
      リンク:次世代育成支援対策推進法
    2. えるぼし
      女性活躍推進法に基づき、女性の活躍推進に関する「一般事業主行動計画」を策定し、当該計画に定めた目標を達成したなどの一定の基準を満たして厚生労働大臣から認定を受ける制度です。つまり、女性がより活躍できる労働環境の整備に関する認定制度です。詳細は厚生労働省HPをご参照ください。
      リンク:女性活躍推進法特集ページ

       

    おわりに

    今回は所得増大に欠かせない賃上げを下支えする賃上げ促進税制について現行制度と改正後制度の2つをとりあげました。この税制はその時々の賃金情勢に応じて毎年変更があります。毎期最新の制度を確認し、間違って適用できないことのないよう今一度ご確認ください。
    本編では取り上げませんでしたが、データ収集の実務として大規模法人向け制度では24か月継続雇用要件と雇用保険一般加入者要件があることから給与システムや賃金台帳のデータを精査して情報収集することになります。一方、人員的にも技術的にも大規模法人よりも資源に乏しい中小企業向け制度では給与データを精査しなくても良いですし場合によっては会計データから情報を拾うことも可能です。
    なお、もう一つデータ収集実務のトピックとして非課税通勤費を含めるかどうかがあります。結論を申し上げますと毎期継続さえしていれば含めても除いても構わないことになっています。

     

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