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圧縮記帳とは(損金・経費解説シリーズ⑨)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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【令和5年11月リライト】圧縮記帳とは(損金・経費解説シリーズ⑨)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2023/11/10

目次

    はじめに

    10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは圧縮記帳についてです。圧縮記帳は文字通り金額を圧縮して帳簿に記録することなのですが、税金面で優遇を受けるためのものであり可能なケースが限定されています。今回は圧縮記帳の意義と適用できるケース、実際の経理方法と申告書での記載方法についてお話しします。
    なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和5年11月現在の法令に基づいています。

    第1回    減価償却
    第2回    繰延資産
    第3回    資産の評価損
    第4回    給与、賞与
    第5回    保険料
    第6回    寄附金
    第7回    租税公課
    第8回    交際費、広告宣伝費
    第9回(今回)  圧縮記帳
    第10回    貸倒損失、貸倒引当金

     

    圧縮記帳の意義

    まず圧縮記帳の意義を確認します。圧縮記帳とは、補助金や保険金など他者から入金された資金を使って固定資産を購入した場合に、固定資産購入に充当した資金について固定資産の取得価額から差し引くものです。この差し引き処理により損失が生じ補助金や保険金などを得たことによる利益と相殺される効果が生じることから、補助金や保険金などの臨時多額の利益が生じることで固定資産取得時の税金負担が重くならないようにするために行います。
    もちろん、固定資産の取得価額が圧縮記帳を行うことにより少なくなるため、その後の減価償却費が小さくなったり、処分時損益の利益が大きくなったりすることで税金が増加するため、中長期的にみると節税ではなく納税延期(課税の繰り延べ)効果となります。ですので、赤字見込みの年度に取得した場合は圧縮記帳しても税金の減少効果が小さくなる一方、事後的に業績が回復すると税金の負担感が大きくなるため、赤字年度における圧縮記帳はあまりおすすめしません。

     

    圧縮記帳できるケース

    では、どのような場合に圧縮記帳ができるのでしょうか?可能なケースを以下に列挙します。

    1. 補助金で固定資産を購入した場合
      圧縮記帳の利用が最も多いパターンが固定資産取得に当たり国や地方自治体などから補助金を受け取った場合です。補助金のうち固定資産購入に充てたもののうち、交付決定通知書などにより返還不要が確定したものについて圧縮記帳をすることができます。
    2. 施設の建設に当たって工事負担金を受取った場合
      こちらのパターンは電気やガス、水道、鉄道といったインフラが対象です。インフラ設備建設に当たりその設備を利益を享受する者から工事負担金という金銭又は建設資材を受取って工事費の一部を負担させることがあります。工事負担金について対応する固定資産建設に充てた部分を圧縮記帳することができます。
    3. 出資のない組合が組合員の賦課金で固定資産を購入した場合
      組合員になると出資金という脱退時に返還される形で資金を拠出する場合と、入会金や年会費のように返還されることがない形で資金を拠出する場合があります。このパターンは、組合員から出資金を受取っていない組合が組合員に建設負担金などの名目で組合員から固定資産を購入資金を調達して購入した場合に購入に充てた部分を圧縮記帳できるものです。
    4. 保険金を受取って固定資産を購入した場合
      台風や火災などで所有していた固定資産が損壊して火災保険金などの対物補償型の保険金を受取った場合に、受取った保険金から損壊した資産の帳簿価額と解体費用などの損壊処理費用を差し引いて差益が出た場合、差益のうち代替固定資産の購入に充てた部分について圧縮記帳できます。
    5. 同一用途の固定資産を交換した場合
      土地や建物、機械など規模が大きく価額も高い資産については、当事者双方の利害で同じ種類の固定資産を物々交換することがあります。交換で受け取った資産の時価が交換に出した資産の簿価よりも高くなると差益という形で所得に加算されます。差益への課税リスクによって交換取引の妨げにならないよう、生じた差益が交換に出した資産の簿価の20%以内であれば差益を圧縮記帳することができます。
    6. 収用により補償金を受け取って固定資産を購入した場合
      道路拡張や新道建設などで国や地方自治体から所有していた土地や建物などを収用され補償金を受け取り代替固定資産を取得した場合、名目上の補償金から譲渡経費を差し引いた真水の補償金のうち、収容された土地や建物などの帳簿価額を差し引いた差益に当たる比率の部分について圧縮記帳することができます。なお、収容に伴って発生した差益について年間5000万円以内の部分は圧縮記帳の適用を受ける代わりに事後的な課税の生じない所得の特別控除を受けることができるため、収用の場合は特別控除を選択することが多いです。
    7. 特定の資産を買い換えた場合
      以下に掲げる資産の買換えをした場合、譲渡価額のうち、譲渡した資産の簿価と譲渡経費を差し引いて算出した差益に相当する割合に買替え資産の取得価額の80%をかけた金額を圧縮記帳することができます。
      (1) 既成市街地等の区域内から区域外への買換え(2023年(令和5年)3月31日までの買換えに限る)
      (2) 航空機騒音障害区域の内から外への買換え
      (3) 既成市街地等およびこれに類する一定の区域(人口集中地区)内における土地の計画的かつ効率的な利用に資する施策の実施に伴う土地等の買換え
      (4) 長期所有資産の買換え(所有期間が10年を超える国内にある土地等、建物または構築物から国内にある一定の土地等、建物もしくは構築物または国内にある鉄道事業の用に供される車両運搬具への買換え)
      (5) 日本船舶から日本船舶への買換え
      なお、買い換えに伴う圧縮記帳は国の政策の趣旨にのっとった買い換えを促進するための制度であるため、(2)のうち航空機騒音障害区域に近い地域への買換えや(4)のうち東京23区内や地域再生法の集中地域への買換えの場合は80%とされている割合が60%~75%に縮減されます。

       

    法人における圧縮記帳方法

    圧縮記帳できるケースを列挙しましたが、ここでは具体的な圧縮記帳の仕方を説明します。いくつか方法がありますが、今回はよく用いられる2つの方法を紹介します。

    1. 直接減額方式
      この方式は圧縮記帳により固定資産から減額する金額を直接固定資産の取得価額から差し引くシンプルな方法です。差し引いた金額は固定資産圧縮損として経理します。
    2. 積立金方式
      この方式は圧縮記帳により固定資産から減額する金額を固定資産の取得価額から差し引かず、純資産科目である利益剰余金を同じ純資産科目の圧縮積立金に振り替え、申告書上で損金として所得減算して税金計算において実質的に1.の方法と同じになるようにする方法です。この積立金は減価償却や処分に伴って取り崩し、取り崩した金額を申告書上損金不算入として所得加算することで圧縮後の課税回復も実質的に1.の方法と同じになります。なお、この方式が用いられる理由は固定資産の取得価額を明確にするためという理由が多いです。

    いずれの方法を用いる場合でも、固定資産の購入が翌事業年度以降にずれ込むことがあります。この場合でも圧縮記帳を受けることができるよう、補助金等を受け取ったり譲渡したりした時点では「特別勘定」という仮受金または積立金を計上しておき、実際に圧縮記帳対象の固定資産を取得したときに固定資産の取得価額から相殺または圧縮積立金への振替をすることができます。もちろん、圧縮記帳の対象にならないことが明らかになったときは「特別勘定」を直ちに取り崩します。
     

    個人事業主における圧縮記帳方法

    個人事業主の場合、補助金を受け取って固定資産を取得した場合のみ確定申告の際に「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」を添付することで圧縮記帳をすることができます。圧縮記帳の方法は受取った補助金のうち固定資産取得に充てた金額を取得価額から直接差し引きます。個人事業主の場合利益剰余金という考え方がないため、積立金方式という考え方はありません。また、保険金のうち差益部分は非課税、資産譲渡に伴う差益は譲渡所得となり事業所得計算に影響しないため補助金以外の圧縮記帳はできないのです。
     

    おわりに

    今回は固定資産の圧縮記帳について取り上げました。圧縮記帳をすることができるかどうか気が付くことが税理士の腕の見せ所の一つです。税金負担に影響するため、圧縮記帳できるケースで適用しなかったり、圧縮記帳できないケースで誤って適用しようとしたりして税金を損したという税理士賠償案件になりやすいところです。また、圧縮記帳を適用する場合申告書に必要事項を記載するのですが、必要事項の記載漏れや添付書類の付け忘れなど事務的なミスによって適用されなかったというトラブル事例もあります。このため、圧縮記帳を適用する場合は早めに対応し申告前に用意周到な準備をすることが課税トラブル回避につながります。
    何らかの臨時収入で固定資産購入を検討されている場合や不動産の交換や買い替えを検討されている場合は、早めに税理士や税務署にご相談されることをお勧めいたします。

     

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