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【令和5年9月リライト】繰延資産とは(損金・経費解説シリーズ②)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2023/09/07

目次

    はじめに

    10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは繰延資産についてです。繰延資産には形がありませんが、所得計算においては重要な概念です。まず、基本的な考え方からお話しし、次に具体的な繰延資産を列挙して説明します。
    なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和5年9月現在の法令に基づいています。

    第1回    減価償却
    第2回(今回)   繰延資産
    第3回    資産の評価損
    第4回    給与、賞与
    第5回    保険料
    第6回    寄附金
    第7回    租税公課
    第8回    交際費、広告宣伝費
    第9回    圧縮記帳
    第10回    貸倒損失、貸倒引当金

     

    繰延資産とは

    繰延資産という言葉は聞いたことがあって何となく意味は分かるけどはっきりした意味は分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?まず、繰延資産の意味、定義を確認しましょう。
    繰延資産とは、支出としてお金が出て行くのは最初の一度きりであるものの、その支出の効果が将来の数年間にわたって及ぶものをいいます。この定義に当てはめると第1回で取り上げた減価償却も同じです。減価償却との違いは、減価償却はモノや権利など自らが保有・占有しているものが対象となりますが、繰延資産は自ら保有・占有しているモノや権利ではないものの、支払った効果は長期間もたらされるというものです。繰延資産と似たような概念に「前払金」「前払費用」がありますが、これら2つは今すぐには効果がないものの将来もたらされる効果のために支払っています。一方、繰延資産は支出時も含めて将来にわたる効果のために支払っているところが違います。
    この説明だけではまだチンプンカンプンかと思いますので、次の項目以降で具体例をご紹介します。

     

    会社法上の繰延資産

    繰延資産の定義に当てはめると多くの経費が将来にわたっての効果のために支払っているという解釈もでき、粉飾の手段につながる可能性もあります。そこで、会社法が会社の会計・決算に当たって法律上拠り所とする会計基準等のうち、「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱いで項目を限定列挙しています。以下、項目を列挙します。

    • 株式交付費
    • 社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む。)
    • 創立費
    • 開業費
    • 開発費

    上記のうち、創立費と開業費との違いは会社設立に当たって支出したものなのか、会社設立後実際に事業を開始する準備のために支出したものかの違いです。また、開発費とは新しい製品の研究開発や新組織の採用、資源開発、市場新規開拓などのために支出した費用のことです。ただし、開発費のうち収益獲得または費用削減が確実かどうかわからないものは「研究開発費に関する会計基準」により費用計上することになっており、実務上開発費が繰延資産に計上されるケースは少ないです。
    支出時からどのくらいの期間でどのように費用化するかについては後述の損金・経費に対するタイミングで説明します。

     

    税法上の繰延資産

    繰延資産はむやみやたらな計上により粉飾手段となることを防ぐため会計基準では限定列挙となっていると申し上げましたが、一方で理論上将来に効果が及ぶと思われる支出についてはやはり将来にわたって費用化するようにしないと、税金計算の面では経費早期計上による租税回避の手段にもなり得ます。なんだか矛盾していますが、将来に効果のある支出の費用収益対応のためにも法人税法では会計基準では列挙されていない項目も繰延資産として数年にわたって損金計上する支出項目があります。以下、法人税法施行令第14条に列挙されている税法独自の繰延資産を掲げます。

    イ 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
    ロ 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用 〔法基通8-1-5〕
    ハ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用 〔法基通8-1-6〕,〔法基通8-1-7〕
    ニ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用 〔法基通8-1-8〕
    ホ イからニまでに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用

    上記のうち、ホについてはあいまいな表現であり先述の粉飾防止のための限定列挙の趣旨に反する規定のように思われます。ですが、規定に反しないのです。なぜならば上記に列挙したものは会社法計算規則の規定上「繰延資産」の一つとして決算書に記載することがそもそも認められていないため、実務上「長期前払費用」として決算書に記載するからです。
    こちらの項目も支出時からどのくらいの期間でどのように費用化するかについては後述の損金・経費に対するタイミングで説明します。

     

    損金・経費にするタイミング

    上記2つの項目で繰延資産に該当するものを列挙しました。では、支出時に資産計上した後いつどのように損金・経費算入すればよいのでしょうか?この項目で説明します。
    【繰延資産の会計処理に関する当面の取扱いに列挙されている繰延資産】

    • 株式交付費 株式交付時から3年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法(期間で均等に割って計算する方法)で費用化(損金・経費計上)
    • 社債発行費等 社債発行時から償還期間にわたって利息法(継続適用を条件に定額法も可)で費用化
    • 創立費 会社成立(設立登記完了)時から5年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法で費用化
    • 開業費 開業(操業開始)時から5年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法で費用化
    • 開発費 支出時から5年以内の効果の及ぶ期間にわたり定額法で費用

    上記の規定を見るとすべて「~年以内」とされています。費用化する年数の限度を定めることで粉飾を防止しているのです。また、「~年以内」と規定されているため計上した年に繰延資産を一括して損金または経費算入することもでき、法人税法施行令第64条第1項では年間の損金算入限度額を「繰延資産の額」としていることから法人税の計算においても一括損金計上ができます。また、所得税法施行令第137条第3項の規定により個人事業主も繰延資産計上年度で一括経費算入した場合これを認めると規定されています。

    【税法上の繰延資産】
    法人税法施行令第64条第2項及び所得税法施行令第137条第1項第2号によると、各年度の損金または経費算入限度額は「その繰延資産の額をその繰延資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間の月数で除し、これに業務を行っていた期間の月数を乗じて計算した金額」とされています。つまり、月数で均等に按分する定額法で計算します。
    法令上年数の限度は定められていませんが、恣意的な月数設定による租税回避行為防止のため税務当局内部での文書である法人税法基本通達では以下の通り効果を及ぶ期間が設定されています。

    • 公共的施設の設置又は改良のために支出する費用のうち、負担者が専ら使用する施設の場合 その施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数
    • 公共的施設の設置又は改良のために支出する費用のうち、上記に該当しないもの その施設又は工作物の耐用年数の4/10に相当する年数
    • 共同的施設の設置又は改良のために支出する費用のうち、負担者あるいは構成員の共同の用または協会等の本来用途に用いられる施設
       イ 施設の建設又は改良に充てられる部分の負担金については、その施設の耐用年数の7/10に相当する年数
       ロ 土地の取得に充てられる部分の負担金については、45年
    • 共同的施設の設置又は改良のために支出する費用のうち、商店街のアーケードなど負担者の共同の用とともに一般公衆の用にも供される施設 5年(ただし、施設の耐用年数が5年未満の場合は当該耐用年数)
    • 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合 その建物の耐用年数の7/10に相当する年数
    • 建物の賃借に際して支払った上記以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合 その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数
    • 上記2つ以外の建物賃借のための権利金等 5年
      (ただし、賃借期間が5年未満で契約更新時に再度権利金等を拠出する必要がある場合はその賃借期間)
    • 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 その機器の耐用年数の7/10に相当する年数
      (ただし、計算した年数が契約上の賃借期間を超える場合はその賃借期間)
    • ノウハウの一時金または頭金 5年
      (ただし、設定契約の有効期間が5年未満で契約更新時に再度一時金又は頭金を拠出する必要がある場合はその有効期間)
    • 広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用 その資産の耐用年数の7/10に相当する年数
      (ただし、計算した年数が5年を超える場合は5年)
    • スキー場のゲレンデ整備費用 12年
    • 出版権の設定の対価 設定契約に定める存続期間
      (ただし、設定契約に存続期間の定めがない場合は3年)
    • 同業者団体等の加入金 5年
    • 職業運動選手等の契約金等 契約期間
      (ただし、契約期間の定めがない場合は3年)


    なお、法人税法施行令第134条及び所得税法施行令第139条の2により、上記の税法上の繰延資産の支出額が20万円未満であった場合は支出時に一括して損金又は経費算入することができます。
     

    おわりに

    今回は繰延資産についてお話しました。繰延資産に該当する支出は生じるケースが少なく普段から発生するものではないため、イレギュラーな支出だと感じたら繰延資産に該当しないか確認することをお勧めします。そうすることで未然に税務調査で指摘され追徴課税されることを防ぐことができます。上記で説明した項目には含まれていませんが、私の関与先で事業譲渡に当たって権利金をやり取りする事例がありました。この事例では開業費に該当すると捉え、当初は業績が芳しくなかったため、譲受時から5年(60か月)にわたって均等に損金算入して当初の利益押し下げを防ぎ後々の過度な利益の抑制を図りました。
    ご紹介した事例以外にも繰延資産に該当する可能性がある支出がありますので、気になる方はお気軽に当事務所にご相談ください。

     

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