【令和6年6月リライト】相続税解説シリーズ⑨|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/06/21
目次
はじめに
相続税解説シリーズ第9回目の今回は、いよいよ税金計算についてです。初めに多くの方が相続税で気にする基礎控除から解説し、その後具体的な税金計算について解説します。後半では贈与税の相続時精算課税と外国税額控除について解説し、相続税計算において考慮すべき事項を理解できるように構成しています。
なお、各回のテーマは以下の通りです。今回リライトした内容は令和6年6月現在の法令に基づいています。
第1回 基本事項
第2回 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回 現金・預金
第5回 不動産
第6回 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回 その他財産・債務・葬儀費用
第9回(今回) 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
税金を計算する前にまず基礎控除
「基礎控除」と聞くと相続税がかかるかどうかを判断する基準であると理解されている方が多い、重要な論点です。
基礎控除は課税価格(=相続財産-債務控除額-葬儀費用)から控除するもので、控除額は3,000万円+600万円×相続人の数です。よく「財産が3,000万円以下だから相続税は関係ない」という話を聞きますが、3,000万円は基礎控除の最低金額なのです。
重要なのは600万円部分に掛ける「相続人の数」です。相続税法第15条2項によると「相続人」には相続放棄をした人を含み、養子については実子がいる場合や実子がなく養子が1人の場合は1人、実子がなく養子が2人以上の場合は2人とするとしています。また、相続税法第15条3項によると特別養子縁組の養子や代襲相続した相続人の子孫は「実子」の1人として数えることになっています。理由は相続税が被相続人から財産を相続した行為に対して課税する考え方であるため、実際の相続人が誰になるかにより相続税の総額が変動しないようにするためです。
税額の計算
いよいよ税額の計算について解説します。
税額計算をする前に先ほどの「課税価格-基礎控除額」の総額を法定相続人が法定相続割合で相続したと仮定した割合で各法定相続人に按分します。按分後各法定相続人の按分額それぞれに以下の税率をかけて計算します。
- 1,000万円以下の部分:10%
- 1,000万円超3,000万円以下の部分:15%
- 3,000万円超5,000万円以下の部分:20%
- 5,000万円超1億円以下の部分:30%
- 1億円超2億円以下の部分:40%
- 2億円超3億円以下の部分:45%
- 3億円超6億円以下の部分:50%
- 6億円超の部分:55%
相続税は累進課税であり、たとえばある相続人の按分額が2,000万円だった場合、1,000万円については10%、2,000万円から1,000万円を引いた残額1,000万円については15%を掛けます。つまり、按分額全額に一律の税率が適用されるのではなく、一定金額に至るまでは低い税率、一定金額以上は1段階高い税率が適用されます。以上の累進課税を考慮した分かりやすい速算表方式ですと以下の通りです。
各法定相続人に按分後の課税価額
- 1,000万円以下:按分額×10%
- 1,000万円超3,000万円以下:按分額×15%-50万円
- 3,000万円超5,000万円以下:按分額×20%-200万円
- 5,000万円超1億円以下:按分額×30%-700万円
- 1億円超2億円以下:按分額×40%-1,700万円
- 2億円超3億円以下:按分額×45%-2,700万円
- 3億円超6億円以下:按分額×50%-4,200万円
- 6億円超以下:按分額×55%-7,200万円
その後、各相続人の上記税額を一旦集計し、集計した相続税の総額を再び各相続人(遺贈受益人)の課税価格を基準に按分して各相続人(遺贈受益人)の税額を計算します。この税額計算方式ですと同じ課税価格であったと場合法定相続人が多いほうが有利になる可能性が高くなります。
なお、被相続人の配偶者、父母または子ではない人のうち代襲相続人に該当しない人が相続または受贈した場合は、その人に按分された税額に20%加算した金額が実際の税額となります。
税額控除が使えるケース
相続税は一度に多額の税金が発生するため、負担感が他の税金以上に高くなります。そこで、負担を軽減し生活に支障をきたすことがないよういくつか税額控除があります。
- 贈与税控除
相続開始前3年以内に被相続人から相続人に贈与された財産について(2024年(令和6年)1月1日以降の贈与については贈与後7年以内に相続が発生した場合)相続税の課税対象にもなることは以前説明しましたが、このままですと贈与税と相続税の二重課税となります。この二重課税を防止するため、対象となる贈与の受贈者となった人に贈与時に課税された贈与税のうち、当該受贈者に按分された相続税の課税対象にもなった財産の部分について税額控除をうけることができます(相続税法第19条)。 - 配偶者控除
配偶者が相続に関わる場合配偶者が最も多く財産を相続するケースが多く負担を軽減させるため、配偶者控除として配偶者に按分された相続税額から最大1億6,000万円の税額控除を受けることができます。 - 未成年者控除
相続人の中に相続開始時点で18歳未満であった未成年者がいる場合、経済力が不十分なため当該未成年者に按分された相続税から(18歳-相続開始時の年齢)×10万円の税額控除を受けることができます。 - 障碍者控除
障碍者認定を受けている相続人については、当該相続人に按分された相続税額から(85歳-相続開始時の年齢)×10万円の控除を受けることが出来ます。ただし、障碍者認定を受けた人に意図的に遺贈させることで過度な節税を図ることを防止するため、障碍者認定を受けている相続人が民法上の法定相続人である場合に限られます。なお、当該相続人の税額から引ききれない障碍者控除の金額がある場合、その相続人の3親等内の親族の相続税額の控除に充てることができます。 - 相次相続控除
例えばお父様が亡くなってから5年後にお母様が亡くなるなど短い期間で2度相続が生じた場合、もともと多額な相続税を短期間で2度負担することになり、負担感がさらに高くなります。そのため、ある被相続人(先ほどの例ではお母様)の相続開始日前10年以内に相続した財産(先ほどの例ではお父様から相続した財産)を相続した場合、最初の相続(一次相続)で払った相続税額相当につき以下の税額控除があります。
相次相続控除:一次相続の際被相続人に課税された相続税額×(今回相続の課税価格総額÷(前回相続の課税価格総額-前回相続の際被相続人に課税された相続税額))×今回当該相続人が相続した財産の割合×(10-前回から今回の相続までの年数)/10
なお、今回相続の課税価格総額÷(前回相続の課税価格総額-前回相続の際被相続人に課税された相続税額)が100%を超える場合一律100%となります。
生前贈与と相続時精算課税
生前に財産の贈与があると通常贈与のあった年に贈与税が課税されます。一方、生前贈与の目的として生きている間にあらかじめ財産を子に受け継ぐということも多くあります。そこで、毎年1月1日時点で60歳以上の父母又は祖父母から18歳以上の子又は孫に対して贈与した場合、「事前」相続と捉え贈与した父母又は祖父母が亡くなったときにまとめて贈与税を精算する「相続時精算課税」という制度があります。
まず、制度の対象となる贈与のあった年にその都度以下の贈与税額を計算し、毎年確定申告の時期に贈与税申告をします。この他初回適用時には相続時精算課税選択届出書を戸籍謄本などを添付して税務署に提出します。
各年度の贈与税:(制度の対象となる贈与財産の金額-(特別控除2,500万円-過年度控除済の特別控除額))×20%
上記の計算式によると1円でも贈与があると結果として各年度の贈与税額が0円であったとしても特別控除額の残額を示すために申告が必要であったため使い勝手が悪いとの声がありました。そこで令和5年度税制改正により令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から暦年申告を選択した場合に適用になる110万円の基礎控除が相続時精算課税の場合にも適用できるようになり以下の通り変更になりました。また、110万円以内であれば申告が不要になりました。
各年度の贈与税:((制度の対象となる贈与財産の金額-110万円)-(特別控除2,500万円-過年度控除済の特別控除額))×20%
次に、相続が発生したとき対象となる相続人の相続税計算について以下の通り計算します。
(当該相続人の按分額+相続時精算課税を適用した贈与財産の贈与当時の財産価格)×税率-相続時精算課税を適用した贈与税の過去納税額
以上の計算結果がマイナスとなった場合は過年度贈与税の還付を受けることが出来ます。また、上記で説明した2024年(令和6年)以降毎年110万円の基礎控除で控除された金額は贈与財産の贈与当時の財産価格から除外されます。
なお、この制度は一度適用すると以後の同じ当事者間の生前贈与についてすべて適用され、贈与の都度贈与税を払う方法に戻すことができなくなり、贈与のあった時期に関係なく全て相続税の課税対象になりますので注意が必要です。また、2022年(令和4年)4月1日の成人年齢引下げ前の親子贈与については、贈与した年の1月1日時点の子や孫の年齢が20歳以上だった場合にのみ適用されますのでご注意ください。
外国で相続税がかかったら
国外に相続財産があったり、被相続人が外国籍の人であったりする場合、財産のある国や国籍のある国からも相続税に相当する税金を課税されることがあります。この場合、2つ以上の国から相続に対する税金を課税される、いわゆる国際的二重課税の状態になります。
そこで相続税においても所得税や法人税と同様に外国税額控除制度があります。
具体的には、全相続財産課税の対象者(相続時に日本国内に居住していた、過去10年間で日本国内に居住実績があった者など)について外国で課税された相続税にあたる税金のうち、日本の相続税の課税対象となった国外相続財産の部分について控除を受けることができます。
おわりに
今回は相続税額の計算について解説しました。相続税は複数の人にまたがって課税されるため、計算が複雑です。複雑だとしても言えることは、
- 相続財産の金額が大きいほど税額が増えること
- 今後の生活への配慮が必要な特に相続人には税額控除があること
- 同じ財産に課税された別の種類の税金は控除できること
- 相続日によって適用される法令が変わること
です。
以上のことを踏まえて万が一の相続の際に税金がかかるのか、またかかるとしたら負担はどのくらい軽減されるのかイメージできましたら幸いです。