【令和6年5月リライト】相続税解説シリーズ⑥|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/05/31
目次
タイトル①
相続税解説10回シリーズ第6回目の今回は有価証券の相続税です。有価証券を保有しているケースの多くは、資産家か会社のオーナーです。有価証券は保有目的によって評価方法が異なり、その方法も複雑です。ですが、この解説では難しい計算方法の説明ではなく、ざっとこんな感じで評価されることを理解していただけるよう、なるべく細かい点は触れず、概要を中心にお話しします。もしもの時の有価証券の評価についてイメージいただけますと幸いです。
なお、各回のテーマは以下の通りです。
第1回 基本事項
第2回 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回 現金・預金
第5回 不動産
第6回(今回) 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回 その他財産・債務・葬儀費用
第9回 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
各回のトピックは基本的な事項の解説とし、相続税とはこんなものなのかというざっくりしたイメージを持っていただくことを想定しています。内容についてもう少し詳しく知りたい方は、お問い合わせフォームなどから個別にご相談ください。
なお、今回リライトした内容は令和6年5月現在の法令に基づいています。
対象となる有価証券
対象となる有価証券はいわゆる「有価証券」といわれるもの全てであり、具体的には株式、債券、投資信託です。所有している有価証券が円貨建てか外貨建てかを問いませんし、証券口座が国内で開設したか海外で開設したかも問いません。
投資信託に限らず「信託」といわれるものについては、分配金や精算利益を得る人いわゆる「受益者」に課税される原則があります。このため、受益者の死亡に伴い別の方が受益者となる場合新たな受益者が相続人または遺贈受取人とみなされ相続税が発生します。なお、財産を信託する人である委託者と受益者が当初から異なる「他益信託」の場合、委託者が財産を証券会社や信託銀行などの受託者に信託した時に受益者に財産を贈与したとみなされ贈与税が発生しますので、合わせて押さえていただきたいところです。
相続税計算における有価証券の評価
有価証券や信託の相続税について解説しましたが、税金計算に当たり実際にどのように評価するのか解説します。
- 上場または店頭公開されている株式・公社債・投資信託:上場している金融証券取引所等が公表する相続日(被相続人が亡くなった日)の最終取引価格(終値)×株式数
相続日当日に取引がなかった場合は相続日前後で最も近い取引日の終値を用います。また、個人間売買または負担付贈与以外で取得した上場株式の場合、株価変動を和らげるため相続日の月前過去3か月間の月間平均価格の最低価格が相続日終値を下回る場合はその最低価格を用います。 - 取引相場または気配値のない株式:後述します
- 取引相場または気配値のない公社債:発行価額に源泉徴収控除後経過利息の価額を加算した金額
ただし、いわゆる割引発行など特殊条件のある公社債には異なる評価方法を用います。 - 取引相場または気配値のない投資信託:相続日において解約または買取請求したと仮定した場合に証券会社等から支払を受けることができる価額
結構ややこしい非公開株式の評価
取引相場または気配値のない株式については評価方法が複雑なため別タイトルで解説します。
まず、発行している会社の規模を「大会社」「中会社」「小会社」の3つに分類します。この分類は従業員数を主に業種・総資産額・売上高の4つで判定します。詳細はここでは割愛します。
次に、3つの会社分類に合わせて1株当たり価額を以下の通り評価します。
- 大会社 類似業種比準価額(1株当たり純資産価額も選択可能)
- 中会社 類似業種比準価額×L+1株当たり純資産価額×(1-L)
(Lは従業員数・業種・総資産額・売上高により変動) - 小会社 1株当たり純資産価額((類似業種比準価額+1株当たり純資産価額)÷2でも可能)
類似業種比準価額とは、自社の配当・利益・純資産(帳簿価額ベース)の3つについて同一業種の平均と比較した倍率に同一業種の株価をかけたものです。業種平均指標及び株価は国税庁から定期的に公表されています。
1株当たり純資産価額とは文字通り一株当たりの純資産価額ですが、帳簿価額ではなくあたかも被相続人の相続時点での課税評価額を計算するかのように会社の資産と負債を相続時点で評価します。
ただし例外的な評価方法もあり、同族会社の株主のうち同族グループに該当しない株主だった被相続人の場合、配当還元方式といわれる年間の配当額を基礎とした計算方法で評価します。また、いわゆる持株会社や土地等保有会社なども例外的な評価方法で評価します。
事業資産の価値評価
株式評価額のうち1株当たり純資産価額はあたかも被相続人の相続時点での課税評価額を計算するかのように会社の資産と負債を相続日時点の価値で評価すると説明しましたが、ここでは評価対象となる財産のうち他の回で取り上げない法人または個人事業主に特有の資産の評価について解説します。
事業者特有の資産のうち主なものとして、売掛金と棚卸資産の評価について解説します。
- 売掛金、未収入金、貸付金などの債権:元本金額+経過利息-破産などにより回収不能と見込まれる金額
- 棚卸資産
- 商品・製品: 相続時点における消費税抜の販売価額-(適正利潤+販売経費)
- 原材料: 相続時点における仕入価額+引取運賃
- 半製品及び仕掛品::上記の原材料評価額+加工費
ここで棚卸資産に含まれるものについて補足しますと販売目的で保有している資産がすべて含まれ、例えば分譲用の不動産や建設中の建物も上記の通り評価します。
名義株ありませんか?
有価証券も他の資産と同じように実質的な保有者に対して課税されます。いわゆる名義株といわれるもので、かつての商法で会社設立に最低7人の発起人が必要とされていたため、数合わせのために名義だけ借りたケースが多いです。
名義株かどうかの判断は、出資払込や贈与の状況、議決権行使の状況等を勘案し、名義人が株主としての実態があるかに着目します。例えば被相続人の妻名義の株式があるものの、夫婦が同一生計で株主として権利を行使した事実が資料などで判明しなかった場合、妻名義の株式は被相続人である夫の名義株とみなされ、相続税の課税対象となることがあります。また、遺産分割の際相続財産なのかどうかが不明確になり、遺産分割トラブルの原因になることもあります。
現在の会社法では最低株主数は1名のため、もしもの相続の前に株主名義を実質的な株主の名義にあらかじめ変更することも相続対策になります。なお、名義書換えにより株式の譲渡や贈与とみなされ課税されるのではないかと不安になる方もいらっしゃるかと思います。もし、名義株の名義変更を検討されるされる際は、あくまで実質的な株主への名義書換えであることを証明できるよう名義変更に至った経緯を文書で記録しておくとよいでしょう。
亡くなった方にNISA口座があったらどうなる?
2024年(令和6年)から配当金や譲渡益に税金がかからないNISAが拡充され、NISA口座開設が増えています。一方で万が一死亡した場合保有していたNISA口座はどうなるのか、また相続税は課税されるのか気になる方もいると思います。そこでここではNISA口座の相続と税金について取り上げます。
NISA口座は一代限りとなっておりNISA口座をそのまま相続することはできません。相続発生時は口座を開設している金融機関に「非課税口座開設者死亡届出書」を提出しNISA口座の解約を行います。このとき、NISA口座にあった有価証券は相続人の一般口座または特定口座に移管されます。ただし、移管とはいっても死亡時の時価で被相続人から相続人に売却されたとみなされます。そのため、被相続人死亡時までに生じた含み益には所得税が課税されない一方、死亡時以降生じた配当金や含み益は被相続人の所得として課税対象になります。また、死亡時売買とみなされる場合、一旦被相続人が有価証券を時価で現金化し、その売却代金が被相続人に相続された上で相続人は売却した有価証券を相続された売却代金で買い戻したものと捉えます。よって、死亡時にNISA口座にあった有価証券は死亡時の時価で相続税が課税されます。
したがって、相続税に関してはNISA口座にあったとしてもNISA口座外の有価証券と同じ取扱いになります。
NISA口座の相続に関しては、国税庁のNISAに関するQ&AQ24もご参照ください。
国税庁HP NISA及びつみたてNISAの手続に関するQ&A
おわりに
今回は有価証券の相続税について解説しました。非公開株式については計算方法が複雑ですが、生前から株価に影響する論点を押さえて節税対策をすることができます。この点は他の相続財産と比較して生前対策を講じやすい相続財産といえます。
なお、株式については相続から遺産分割協議で相続先が決まるまでの間は各法定相続人の準共有財産とされ、議決権や譲渡などは法定相続人から代表者1人を決めて行使することになります。むろん、代表者が単独で権利行使できるわけでなく法定相続人全員の過半数の同意が必要ですので特に法定相続人同士での連絡が十分に取れない状況にある場合は十分な注意が必要です。