【令和6年5月リライト】相続税解説シリーズ④|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/05/17
目次
はじめに
今回は現金と預金の相続税について解説します。現金と預金は日常から使用するものでほとんどすべての人が持っており、ほぼ全ての相続で相続財産の項目の一つになる最も重要な財産と言って過言ではありません。
お金そのものですので、財産評価そのものはいたってシンプルなのですが、「お金の流儀は人を表す」の言葉にもある通り、お金の持ち方、使い方が相続税にも大きな影響を与えます。シンプルだからこそ奥が深いのが現金と預金で、相続税税務調査における非違事項(指摘事項)で最も割合が高く、金額ベースで全体の約35%を占めます。今回は相続税課税において問題となりやすい論点に絞って解説します。
各回のテーマは以下の通りです。
第1回 基本事項
第2回 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回(今回) 現金・預金
第5回 不動産
第6回 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回 その他財産・債務・葬儀費用
第9回 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
各回のトピックは基本的な事項の解説とし、相続税とはこんなものなのかというざっくりしたイメージを持っていただくことを想定しています。内容についてもう少し詳しく知りたい方は、お問い合わせフォームなどから個別にご相談ください。
なお、今回リライトした内容は2024年(令和6年)5月現在の法令に基づいています。
相続税における現金預金の評価・範囲
評価額に関しては相続税法第22条に「当該財産の取得の時における時価」と規定されています。この規定を現金及び預金について当てはめると、相続時点での被相続人の保有する現金と預金の残高金額がそのまま相続税計算のもとになる評価額となります。この点は他の財産と違い大変分かりやすいところです。
現金と預金の相続税における論点は金額よりもむしろ相続財産に含まれる現金と預金の範囲です。税務調査の指摘が多い論点も現金預金についての相続財産への加算漏れです。特に以下の論点で税務調査での指摘が多いため、次以降の小項目で解説していきます。
- 過去の資金贈与
- 名義預金
- へそくり(タンス預金)
- 海外口座
- 暗号資産
いずれも、財産隠ぺいの手段とされやすいものであることから日本に限らず世界各国の税務当局が重点的に調査しています。
「相続財産」は相続した財産だけではありません
「相続財産」という言葉を聞くと「相続時に亡くなった被相続人から相続した財産」と思いがちです。もちろん言葉の意味としては正しいのですが、税金対策の観点から言いますと例えば被相続人予定者が病気等で余命わずかな状況で財産を相続人予定の家族などに予め贈与しておくことで、文字通りの「相続財産」とならないようにして相続税課税を逃れることも考えられます。
そこで相続税法第19条で相続開始直前3年以内に被相続人から贈与された財産を受けた相続人については、相続開始前3年以内に贈与された財産も相続税の対象となる相続財産に含めると規定されています。この規定は婚姻期間が20年以上の配偶者からの住宅・住宅資金の生前贈与を除き、現金預金に限らず全ての財産に適用されます。この場合の評価額は贈与時に贈与された金額で、贈与時に贈与税が課税された場合二重課税を排除するため課税された贈与税の金額を控除して相続税課税対象となる生前贈与財産の評価額とします。
なお、欧米では日本よりも相続税課税対象となる生前贈与の範囲が広く、アメリカでは生涯すべての生前贈与、フランスでは相続開始直前15年、ドイツでは相続開始直前10年、イギリスでは相続開始直前7年分が対象になっています。日本でも国際的な動向に合わせ令和5年度税制改正で令和6年(2024年)1月1日以降に行われた贈与に関しては贈与実施日から7年以内に相続が生じた場合相続財産に加算することになり、財産移転を生前贈与と相続いずれを選んだとしても税負担が結果として同じになる範囲が拡大されました。
なお、第9回でも触れますが生前贈与の贈与税を相続時にまとめて精算する相続時精算課税制度を適用した生前贈与財産については上記の年数に関係なく全て相続財産に加算されます。
口座の名義は相続人だけど…
相続税の対象となる財産は必ずしも名義など客観的なものだけで判断するわけではありません。実際にお金を使っている人とは違う人の名義にすることで、亡くなるまでの間ある程度被相続人が自由にお金を使いつつ相続税逃れをする可能性があるためです。このような実際に使っている人と口座名義が異なる預金を名義預金といいます。
現実的によくある名義預金の例は未成年の子供の将来資金を貯金するために、口座名義を子供名義にして実際のお金の出し入れや管理は親が行っている場合です。実務上名義預金なのかそうでないのかの判断は、登録されている印鑑の他の口座での使用状況や通帳・届出印の管理状況、過去数年間の入出金状況、名義人の生活状況など総合的に行います。ですので、グレーゾーンの多い論点で税務調査でも争点になりやすいところです。
逆に名義は被相続人で見かけ上は相続財産に該当する口座であっても、実際には相続人となる子供が口座を自由に使っているなど実質的に相続財産に当たらないケースもあります。この場合、過去にさかのぼり実質的に子供にお金が移転したと思われる時点で親から子へ贈与が行われたとみなされ、贈与税がかかることがありますので合わせて注意が必要です。
へそくりについて
相続税の税務調査で執拗と思われるほど重点的に調査されるのが、いわゆるへそくりやタンス預金といわれるものです。前項目の名義預金よりも使っている人や使い道がより不透明になるため、税務当局が税金逃れの手段として疑いをかけてくるのです。
でもへそくりは家の中にあって動きがわからないので税務当局はわからないのではと思っていればそれは違います!税務調査の候補を探すにあたって預金口座の動きや所得状況を事前調査するのです!所得と生活費の動きを見て隠し財産の存在の可能性を判断し、税務調査の対象にするかどうか決めているようです。
ですので、税務調査が来てタンスなどプライベートなところに調査官が執拗に調べようとしていれば、高い確率で財産隠しがあると疑っていることになります。そうなって加算税を追徴課税される前に、資産運用や安全な資産管理のためにもへそくりはなるべく控え、相続時には正直に申告しましょう。
相続後亡くなった人の預金口座はどうする?
ここまで相続財産に含まれる現金預金の範囲を解説しましたが、一旦税金の話から話題を変えて相続時の預金の取り扱いについて触れます。
かつては死亡した人の預金口座は口座名義人本人でなければ引出しができないため遺産分割協議が整うまで引き出しが出来ず、葬儀費用や今後の生活費工面に苦労することがありました。そこで令和元年(2019年)民法改正で「預金仮払い制度」が創設され、金融機関ごと(口座ごと、本支店ごとではありませんのでご注意ください!)に、相続時口座残高×1/3×法定相続割合(最大150万円)を限度に遺産分割協議成立前でも相続人が引き出せるようになりました(民法第909条の2)。なお、「預金仮払い制度」により引き出した預金は遺産分割協議の結果に関わらず、実際に預金を引き出した相続人に遺産分割されたものとみなされて相続税課税が行われる点には注意が必要です。
「預金仮払い制度」で引き出されなかった預金については、通常の分割協議の対象となります。遺産分割協議が整った後金融機関に口座相続の手続をしますが、必要な書類が場合により異なります。リンクの全銀協HP「必要書類一覧全国銀行協会HP 預金相続の手続に必要な書類」をご参照ください。
外貨、暗号資産、電子マネー、QR決済残高の相続
相続税の課税対象の現金預金は国内海外、円建て外貨建てを問いません。ですが、相続税の計算はすべて日本円で行うため、外国通貨や外貨預金はそのままでは計算できません。そこでレート換算をするのですが、使うレートは相続のあった日(被相続人が亡くなった日)のレートです。ただし、一般に公開されている円相場とは限らず、財産評価基本通達では納税者が取引している金融機関が公表している電信買相場(TTB)とされています。
近年、暗号資産の流通や保有が増加していますが、暗号資産も相続税の課税対象です。暗号資産も日本円に換算し、活発な市場のあるものについては相続のあった日の市場での取引レートで換算し、そうでないものは個別判断となるようです。
また、決済手段として電子マネーやQRコード決済が普及し始めていますが、近年電子マネーやQRコード決済手段では約款で必要な手続きをすれば死亡した人の残高について相続による引継ぎあるいは現金による払い戻しが可能になっています。こうした残高引継ぎまたは払い戻しが可能な決済手段の場合は残高が相続財産となり相続税の課税対象になります。参考までに2021年(平成31年)1月のペイペイ規約改定のプレスリリースのリンクを載せておきます。
PayPay利用規約改定のお知らせ
おわりに
今回はほとんどすべての相続で発生する現金預金について解説しました。現金預金はお金そのものであるため評価は単純ですが、課税対象が複雑で広範にわたります。今一度、自分だけでなく家族の身の回りの現金預金の状況を確認し、万が一の時に思わぬところで相続税が課税されて大きな負担になったということがないようにしましょう。