【令和6年3月リライト】相続税解説シリーズ①|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/03/01
目次
はじめに
毎年10回+1回に分けてお届けしている、相続税についての解説シリーズの令和6年版を今回からアップいたします。
相続税は、所得税や消費税、法人税などと異なり、相続時のみ発生することから触れる機会が少ない税金である上に納税義務者が複数となり、申告までの調整が煩雑になります。また、申告期限が被相続人の死亡つまり相続から10か月以内と短期間です。
そこで、この解説シリーズは相続税についてよくある事項について解説し、万が一の相続に前もって準備できるようにすることを目的としています。相続税の性質上意味が分かりにくい点もありますが、できる限り言葉をかみ砕いてわかりやすく解説するよう心掛けますので、よろしくお願いします。
このシリーズでこの記事をご覧の皆様の相続税に関する理解が深まれば幸いです。
各回のテーマは以下の通りです。
第1回(今回) 基本事項
第2回 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回 現金・預金
第5回 不動産
第6回 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回 その他財産・債務・葬儀費用
第9回 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
各回のトピックは基本的な事項の解説とし、相続税とはこんなものなのかというざっくりしたイメージを持っていただくことを想定しています。内容についてもう少し詳しく知りたい方は、お問い合わせフォームなどから個別にご相談ください。
なお、今回リライトした内容は2024年(令和6年)2月現在の法令に基づいています。
相続税の納税義務者
最初に相続税の納税義務者、つまり相続税を払う必要がある人について解説します。相続税の納税義務者は相続税法第1条の3第1項に規定されています。条文をかみ砕いて説明すると、「相続又は遺贈により財産を取得した者」です。
もちろん世界中の相続人が日本の相続税納税義務者ではなく、具体的には以下の相続人が課税対象者となります。
- 相続または遺贈の時点で日本国内に居住する相続人
ただし、一時居住者(相続前15年以内に日本国内での居住実績が通算10年以内の在留資格者)の場合、被相続人(相続対象となる死亡者)が外国籍または日本国外居住者である場合は課税されません - 相続または遺贈の時点で日本国内に居住しない人のうち、過去10年以内に日本国内に居住実績のある日本国籍保有者
- 相続または遺贈の時点で日本国内に居住しない人のうち、被相続人が日本国内に居住する日本国籍者である、過去10年以内に日本国内に居住実績のない日本国籍の人あるいは外国籍の人
「過去10年以上」の非居住要件がある理由は、実態は日本国内で居住・活動しているにもかかわらず、国籍を形式的に外国籍にして課税逃れを図るケースがあり、その課税逃れを防止するためです。相続税など資産税は税金の中でも国際的規模での課税逃れが多く、所得税の居住者判定と比較し厳しい要件となっています。
相続税の課税対象財産
相続税が課税される財産は相続によって引き継いだ財産ではないかと思われるのではないでしょうか。実際に相続によって引き継いだ財産は当然課税対象となります(相続税法第11条)。ただし、財産の性質上課税にふさわしくない以下の相続財産については非課税です(相続税法第12条)。
- 皇位とともに皇嗣が受けた皇位に伴う由緒ある物(いわゆる三種の神器など)
- 墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
- 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者が相続または遺贈により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの
- 条例の規定により地方公共団体が精神または身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利
一方、以下の給付金に関しては死亡を原因として実質的に被相続人から相続人に財産移転することから相続税の課税対象となります(みなし相続財産、相続税法第3条)。
- 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約や共済に係る契約による保険金(共済金)または偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われる損害保険契約の保険金のうち、相続人の死亡の時までに払い込まれた保険料(共済掛金)のうち、被相続人負担の割合に相当する部分
- 被相続人の死亡により当該被相続人に支給されるべきであつた退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与被相続人の死亡後3年以内に支給が確定し、その退職手当金等を相続人などが受け取った部分
- 相続開始の時において、まだ保険事故(共済事故)が発生していない生命保険契約(掛け捨て型の保険を除く)で被相続人が保険料の全部または一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該生命保険契約の契約者であるものがある場合、相続開始の時までに払い込まれた保険料のうち、被相続人が負担した割合に相当する部分
- 相続開始の時において、まだ定期金給付事由が発生していない定期金給付契約(生命保険契約を除く)で被相続人が掛金または保険料の全部又は一部を負担し、かつ、被相続人以外の者が当該定期金給付契約の契約者であるものがある場合、相続開始の時までに払い込まれたもの掛金または保険料のうち、被相続人が負担した割合に相当する部分
- 定期金給付契約で定期金受取人に対しその生存中または一定期間にわたり定期金を給付し、かつ、その者が死亡したときはその死亡後遺族その他の者に対して定期金または一時金を給付するものの場合、相続開始の時までに払い込まれた掛金または保険料のうち、被相続人が負担した割合に相当する部分
- 定期金に関する契約により被相続人の死亡により相続人その他の者が定期金(付随する一時金含む)に関する権利で契約に基づくもの以外の受給権(恩給法による扶助料除く)
また、相続税の課税対象は相続時に財産移転されたものに限定されません。相続開始前3年以内に被相続人から相続人に贈与された財産についても相続税の課税対象になります(相続税法第19条)。相続直近に贈与された財産が相続税の課税対象財産になる理由は被相続人の死期が近いことを理由にあらかじめ生前贈与で相続税課税逃れをすることを防止するためとされています。以上の理由から、贈与税は非課税となった相続開始前3年以内の贈与財産も相続税課税対象となる一方、婚姻期間が20年以上である配偶者から贈与された居住用不動産または当該不動産取得資金のうち年2000万円以内の贈与税配偶者控除適用済の部分については相続税課税対象外となります。もちろん、相続税課税対象となった贈与財産に課税された贈与税は二重課税となるため相続税から控除できます。
なお、生前贈与対策の広まりにより子孫への財産移転について時期に関わらず中立的な課税をする観点から、令和6年(2024年)1月1日以後行った贈与からは相続税課税対象が贈与後7年以内の相続に拡大されています。ただし、激変緩和のため改正により期間が拡大された令和6年(2024年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日における贈与について相続が贈与日から3年以上経過してから生じた場合、各年度の贈与のうち100万円の部分までは非課税となります。
相続税の計算
相続税の計算式は簡単に示すと以下の通りで、相続人一人一人ではなく、1回の相続全体つまり相続人全員の合計額を計算します。
- 課税遺産価額=(相続財産全体の評価額-相続債務全体の評価額-葬儀費用)-基礎控除額
- 相続人全員の相続税総額=(課税遺産価額×税率)
相続人全員の相続税総額を計算した後、各相続人の相続税額を以下の通り計算します。
各相続人の相続税額=相続人全員の相続税総額÷(相続財産全体の評価額-相続債務全体の評価額-葬儀費用)×(当該相続人の相続財産の評価額-当該相続人の相続債務の評価額-葬儀費用のうち当該相続人負担額)-各種税額控除
なお、一親等(両親、子息(代襲の場合の孫))や配偶者以外の相続の場合、及び遺贈(相続対象外の人に対する死亡に伴う財産贈与)により財産を取得した人の場合、上記の各相続人の相続税額に20%の加算があります。
相続税の申告・納税
相続税申告書の提出期限は、相続の開始があったことを知った日(被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月を経過する日までとなっており、相続人(遺贈者)一人一人が実際に住んでいる住所地を管轄する税務署に提出(相続税法第62条)するのが建前です。ただし提出の効率化を図るため、当分の間被相続人が死亡したときの住所地を管轄する同税務署全相続人が共同で一通の申告書を管轄の税務署に提出することができます(昭和25年相続税法附則第3条)。もっとも、2019(令和元)年10月よりe-Taxによる相続税の申告ができるようになり、各相続人の申告を1か所で短時間に行うことができます。
参照)。
相続税の納付は上記の申告期限までに行います(相続税法第33条)。各相続人に当該相続人の税額分だけ納付するのが原則ですが、相続税額の総額について相続人全員が連帯して納付する義務があります(相続税法第34条)。また、納付は現金一括納付が原則ですが、一回の税額が多額になることから年賦延納制度(相続税法第38条)や、不動産・有価証券等による物納制度(相続税法第41条)があります。
申告期限までに分割協議が整わなかった場合や申告後に新たな相続財産が判明した場合
申告期限は相続の開始があったことを知った日(被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月を経過する日までですが、場合によっては遺産分割協議が申告期限までに整わず、各相続人の相続財産が確定しないケースもあります。また、申告後に遺言書や相続財産が見つかるケースもあります。
当初申告後に新たに相続財産が見つかり、相続税額の追加がある場合は期限後申告を行います(相続税法第30条第1項)。一方、遺産分割協議が申告期限日までに整わない場合、整うまで申告を先延ばしすると加算税や延滞税がかかるため、いったん期限内に法定相続分で財産を按分したとみなして各相続人の相続税額を計算して申告・納付します。その後分割協議が整った段階で実際の取得額割合で按分した各相続人の相続税額を計算し、税額の修正に関する更正の請求手続を行います。なお、この場合更正の請求は分割協議が整った日の翌日から4が月以内に行う必要があります(相続税法第32条第1項)。
二次相続も念頭に置きましょう
相続は1回にとどまるとは限りません。例えばお父様が亡くなお母様が財産の一部を相続した場合、お母様が亡くなった際にも相続が発生することがあります。このケースでお父様、お母様それぞれが亡くなったときにご子息様が財産を相続した場合、2回相続税が発生することがあります。
このように財産の相続に当たっては複数回相続税がかかる可能性があることも考慮してお話されるとよいでしょう。相続税は一度にかかる税額が多額になることが多いため、できれば生前に万が一の相続について協議しておくことがおすすめです。その際、遺言書により相続時の遺産分割について文書で明確にすることもおすすめです。
おわりに
今回は相続税の基本事項について説明しました。相続税は一度に係る金額が多額でなおかつ複数の関係者が絡むため、事前の協議や整理がスムーズな相続税申告・納付と遺産整理につながります。また、相続税は多額になる負担を軽減するための制度がいくつかあります。
次回以降、財産や控除制度など詳細な論点について解説致します。事前の協議や整理にぜひお役立てください。