【令和6年6月リライト】相続税解説シリーズ⑧|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/06/14
目次
はじめに
相続税解説シリーズ第8回目の今回は第4回から第7回で取り上げなかったその他の財産と、相続財産から控除する債務及び葬儀費用について解説します。
今回は取り扱う範囲が広いためこれまでの解説よりも端折った解説になりますが、相続税がかかる財産の種類と控除対象となる項目が理解できるよう説明させていただきます。
なお、各回のテーマは以下の通りです。今回リライトした内容は令和6年6月現在の法令に基づいています。
第1回 基本事項
第2回 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回 現金・預金
第5回 不動産
第6回 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回(今回) その他財産・債務・葬儀費用
第9回 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
生活財産への課税
普段の生活に使っているもの、例えば家具、家電、乗用車などについては売買実例価額、精通者意見価格等を参考にして評価することが原則ですが、売買実例がないケースや査定することがないものもあります。そのため、相続日時点で新品を買った場合の価格から使用年数に応じた償却費を控除した価額で評価することもできます。
しかしながら、生活用動産は多岐にわたり全部を1つ1つ細かに評価すると時間と手間がかかり結果として申告期限に間に合わないことになりかねません。そこで、1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、一世帯単位にまとめて評価することができます。例えば「家財一式○○万円」としてざっくり評価します。多くのケースでは1個5万円を超えるものは購入してからそれほど時間の経っていない新車の乗用車や新品の家具・家電に限られると思われます。
コレクションや骨とう品への課税
人によっては日常生活では普段使わないものや骨董品、美術品をコレクションとしてお持ちの方もいらっしゃいます。相続税は被相続人が保有していた財産全てが課税対象となりますので、骨董品や美術品などのコレクションも相続財産となります。
評価方法は生活用動産とほぼ同じで売買実例価額、精通者意見価格等を参考にして評価しますが、鑑定結果によっては希少価値が認められ高値になることもあるため注意が必要な財産の一つでもあります。また、乗用車でも高級車については中古車市場で高値が付くほどのものですと相続税評価額が高くなりますので、相続税対策としては注意が必要です。
コレクションはその人が愛着を持っているかどうかが大事ですので、別の愛好家や専門店に売却したほうがモノが大切に生かされる場合もありますが、本人が亡くなったからといって安易に処分することはいかがのものかと思います。被相続人と相続人それぞれの愛着度が相続税対策を左右するといっても過言ではありません。
なお、相続したコレクションを相続開始後3年以内に別の愛好家や専門店などに売却した場合、売却価額-(当初買入時の取得価額または売却価額の5%+売却対象財産に対応する相続税額)で計算した譲渡所得に対して所得税が課税されます。
国税庁HPNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
知的財産を持っているときの相続税
相続税が課税される財産は形あるものだけではありません。特許権や著作権、営業権など形のない知的財産も課税対象となります。ここでは、知的財産の相続税評価について概略的に解説します。
知的財産の評価額は、知的財産を持っていることによってもたらされる利益(超過利益)などを基準に評価倍率をかけて計算します。具体的な評価方法は知的財産の種類ごとに定めがあります。
ここで著作権の相続について触れます。著作権は著作者人格権、著作財産権、著作隣接権の3つがあり、このうち著作者人格権は著作者の氏名表示や著作物の公表など著作者本人固有の権利であるため、本人が亡くなっても相続されることはなく相続税の課税対象にもなりません。一方、著作財産権と著作隣接権は著作物の利用に関する権利であり、他人に譲渡ができる他相続財産にもなります。著作権の相続税評価は主に著作財産権の評価となります。
なお、医師や弁護士、公認会計士、税理士のように資格者本人の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権は本人が死亡すると消滅するため、相続財産とはならず相続税も課税対象外となります。
借金などの債務と相続税
ここからは課税価額から控除する債務について解説します。
課税価額から控除できる債務は、銀行などからの借入金をはじめ、未払金や仕入代金、未払税金など別の人に対する支払義務があるものが対象となり、残債額すなわちまだ支払が済んでいない残額が控除額となります。未払税金には被相続人に生前課税された税金のうちまだ納税していない金額の他、第3回で解説した準確定申告により確定した被相続人の所得税及び消費税も含まれます(還付となった場合は相続財産になります)。一方、借入金や家賃などの保証については原則控除対象の債務とはならず、原債務者側の返済が滞り、保証をしなければならなくなった状態で、かつ保証人が肩代わりした債務の代金を原債務者に請求するいわゆる求償権の行使をしても回収のめどが立たない場合に債務控除対象となります。
なお、被相続人が生前相続人となった人から借入をしており、相続の発生に伴い貸し付けた相続人がその借入を引き継ぐ場合、債権者と債務者が同一人物(混同)になるため民法上債務は消滅しますが、相続税の計算においては相続対象債務とみなされ債務控除の対象になることには留意願います。
限定承認と相続税
相続が発生した時、相続人全員が共同して家庭裁判所に申述をすることで相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐいわゆる限定承認という制度があり、この場合相続税ではなく被相続人の所得税の対象になることは第2回で説明しました。今回はもう少し詳しく解説します。
限定承認をすると、債権者に対し債務の限定承認をした旨を伝えたうえで限定承認した財産の評価額相当額を各債権者に債権の割合に応じて按分して返済し、返済できなかった債務は消滅します。この場合、税務上は相続時に被相続人が相続人に相続財産を財産評価相当額で売却し、相続人が売却代金を相続した債務の返済に充てたと捉えます。相続財産の評価額が当初の取得費用を上回るいわゆる含み益の場合、その含み益が譲渡所得とされ所得税が課税されます。かたや相続人は評価額で財産を取得する一方、評価額と同額の債務を引き受けることになるため課税される相続財産は±0円となり相続税がかからないのです。
なお、相続財産を充当しても返済できない債務が残った場合、準確定申告をして確定した所得税納税債務も返済できない債務となることから、準確定申告で確定した所得税の納税は事実上免除されることになります。
葬儀に関する費用と相続税
相続税の計算に当たり控除対象となるものは債務だけでなく葬式費用も控除対象となります。ここでは、葬式費用について解説します。
具体例として国税庁HPでは以下の通り列挙されています。
葬式費用となるもの
- 葬式や葬送に際し、又はこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用
- 遺体や遺骨の回送にかかった費用
- 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用
(例えば、お通夜などにかかった費用がこれにあたります。) - 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
(神道式ですと玉ぐし料、カトリック式ですとミサ料が該当します) - 死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
葬式費用に含まれないもの
- 香典返しのためにかかった費用
- 墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用
- 初七日や法事などのためにかかった費用
以上の例を見ますと、死亡から埋葬に至るまでの間の行為にかかる費用が課税価額から控除できる葬儀費用に該当し、埋葬後に発生する葬儀関連費用は控除対象外になります。また、香典は相続と関係なく遺族の利益となるため相続税の計算には影響しません。そのため、香典返しも控除できる葬儀費用に該当しません。
墓地や墓石については元々相続税がかからない財産のため除外されています。この他相続税がかからない相続財産として仏壇、神棚などの礼拝対象となる財産や公益事業への寄付金のうち相続税申告期限内に寄付したものが挙げられます。
おわりに
今回はその他財産、債務、葬儀費用について取り上げました。第4回から第7回まで取り上げた項目と比べて相続税対策においてあまり注目されないものですが、相続税対策において注目すべき論点はいくつかあります。例えば、生活用動産の一括評価、骨董品の評価、債務の限定承認、葬儀費用の範囲です。比較的多くの方に関わる論点ですので、今一度確認いただきたいところです。