【令和6年3月リライト】相続税解説シリーズ②|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/03/08
目次
はじめに
相続税解説シリーズ2回目の今回は、相続税納税義務者と負担割合をテーマに解説をします。
相続税は相続により財産を受け取った場合、財産を受け取った相続人に課税されますが、相続人は1人とは限らず普段あまりコミュニケーションを取ることがない関係の人が絡むことも多くあります。
また、相続税の課税対象となる相続人は、必ずしも実際に遺産分割協議などで財産を直接引き継いだ人だけではなく、実質課税の観点から実質的に財産相続に当たるケースもあり、相続が発生した場合に「気が付かないことろで税金がかかった」ということがないよう事前に知識を押さえておくことが重要です。
今回の解説ではこのほか、相続放棄をする場合や限定承認をする場合の相続税の取り扱いについても説明いたします。相続の方向性に合わせて税金はどのようになるのか知るきっかけとなれば幸いです。
各回のテーマは以下の通りです。
第1回 基本事項
第2回(今回) 納税義務者
第3回 準確定申告
第4回 現金・預金
第5回 不動産
第6回 有価証券
第7回 退職金・生命保険
第8回 その他財産・債務・葬儀費用
第9回 税金計算・控除制度
第10回 事業承継特例
番外編 贈与税
各回のトピックは基本的な事項の解説とし、相続税とはこんなものなのかというざっくりしたイメージを持っていただくことを想定しています。内容についてもう少し詳しく知りたい方は、お問い合わせフォームなどから個別にご相談ください。
なお、今回リライトした内容は2024年(令和6年)2月現在の法令に基づいています。
相続人と相続税納税義務者の再確認
前回の解説で説明したとおり、相続税の納税義務者は相続税法第1条の3第1項に規定されており、「相続又は遺贈により財産を取得した者」です。一方、相続を受ける人、つまり「相続人」となる人の範囲については民法887条から890条にかけて規定されており、
- 配偶者(相続順位1位)
- 子(相続順位1位、相続時既に死亡している場合はその子の子)
- 親(相続順位2位)
- 兄弟姉妹(相続順位3位)
となっています。ただし、相続人となれない場合があり民法891条に
- 故意に被相続人または相続順位が同順位以上の者を死亡させ(未遂含む)、刑に処された者
- 被相続人が殺害されたにもかかわらず、その事実を告発しなかった者(配偶者・直系血族等を除く)
- 詐欺や脅迫により、被相続人の遺言を撤回・取消・変更した、またはさせた者
- 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
と規定されています。相続人となれない者(相続欠格者)は当然相続財産を受取る資格がありませんので、仮に相続人とならないことが判明する前に被相続人の死亡に伴って相続されたとしても遡って相続欠格となり相続税納税義務も遡って無くなります。
遺贈と相続税
相続では被相続人が所有していた財産を相続人が相続し財産を引き継ぎますが、相続税法の課税対象は「相続又は遺贈により財産を取得した者」であり、遺贈による財産の取得も相続税の課税対象です。遺贈とは、「ある人の死亡時に贈与する約束(遺言)によりある人から別の人へ財産や権利を贈与すること」です。つまり、被相続人の財産が相続人以外の人に引き継がれた場合、死亡に伴う財産移転であり経済な実質からみて相続と同じ効果を有するため、遺贈により財産を引き継いだ人にも相続税がかかります。また、この場合の税額は法定相続人の税額の2割増しとなります(相続税法第18条)。
なお、無償の財産受取の形の遺贈だけでなく死亡に伴う著しく低い価額での財産買取りをした場合も公正な時価と買取価額との差額部分に相続税がかかることがありますので留意ください。
遺言、遺留分と家族信託
万が一の相続に備えてあらかじめ遺言を残し、相続財産の行き先を決めることがあります。遺言には
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
の3種類が民法で定められています。今回は相続税に関する説明のため、3種類の遺言の違いについては説明を割愛しますが、遺言通りに遺産分割された場合各相続人または遺贈の受遺者の相続税負担割合も遺言通りになります。
一方で遺言に対して兄弟姉妹以外の相続人は一定の割合の遺留分に対する金銭を他の相続人に請求し、相続財産の取り分の確保をすることができます。この場合精算する金銭は相続財産の再分配に当たるため、遺留分を請求した相続人に遺留分に相当する金銭に対する相続税が課税されます。
近年、被相続人が認知症になって判断能力が低下することが増加していることから、相続対象財産で構成される家族信託を立ち上げ確実に相続したい者に相続できるようにすることがあります。家族信託については信託受益者という信託財産からの利益を得る人に課税されることになっており、当初の受益者が被相続人で相続により相続したい相続人に受益者が移る信託契約の場合相続税がかかります。この場合、信託構成財産は他の相続財産と一緒に相続税法上の相続財産とみなして相続税が課税されます。
遺産分割がまだでも申告は期限内に
遺産分割を巡って相続人の間で争いが起きているいわゆる争族状態になっている場合、相続税申告期限の相続開始後10ヶ月に間に合わないことがあります。争族状態を理由とした申告期限の延長は認められておらず、相続開始後10ヶ月以内に一度申告と納税をすることになります。
遺産分割協議が整っていない時点で申告する場合各相続人の相続税負担割合をどのように決定するかが論点となりますが、一旦民法900条に規定されている法定相続分で相続財産が按分されたものとみなして決定されます。このとき全体の相続税額は課税相続財産全体で計算するため、按分割合が変わっても変わりません。ただし、ここでいう課税相続財産には遺産分割協議の対象外となる死亡保険金や支払先の決まっている死亡退職金、家族信託は含まれず、受取る相続人のみに帰属する相続財産として相続税を負担することになります。
なお、法定相続分で相続財産を按分する場合、各相続人の財産按分額は「(相続人全員の相続財産+相続人全員の生前贈与財産+遺言等による遺贈財産)×各相続人の法定相続割合-各相続人の生前贈与財産-各相続人の遺贈財産」となり、ある相続人が生前贈与財産の存在を主張し立証すれば(特別受益)、過去全ての生前贈与財産が相続財産按分額計算の対象となり得ます。
外国籍の相続人がいる場合は?
前回も説明しましたが、相続時点で日本国籍を有さない人のうち日本国内に過去10年内に居住実績がある人は被相続人が日本国籍を有さず、かつ日本国内に過去10年以上居住実績がない人でない限り、日本の相続税の納税義務者となります。被相続人が死亡時に日本国籍を有していた場合は日本の民法に従って決定した遺産分割結果に基づいて相続財産が決定されます。
一方、被相続人が日本国籍を有さない一方日本国内に過去10年以内に居住実績がある場合の相続財産の各相続人への按分割合については、やや複雑な論点があります。それは、遺産分割協議が整わないまま相続税の申告・納税期限を迎える場合相続税申告に用いる各相続人の法定相続割合をどの国の法令に基づいて決めるかです。国税庁への照会回答によると、法定相続割合については被相続人の本国つまり国籍を有する国の法律に従った法定相続割合を用いることとされています。
国税庁HP 被相続人が外国人である場合の未分割遺産に対する課税
相続放棄・限定承認と税金との関係
相続財産の管理や債務負担を避けるなどの理由で相続時に相続放棄をしたり、相続財産の限度でのみ借金を引き継ぐ限定承認をするケースがあります。ここでは、相続放棄と限定承認の場合の相続税について説明します。
まず相続放棄の場合ですが、相続放棄をすると相続人資格を失い財産を受取ることがなくなるため相続放棄した人に対して相続税はかかりません。ただし、相続税計算における基礎控除額の計算においては相続放棄した人も相続人の一人とみなして控除額を計算します。理由は相続放棄者が発生することによって基礎控除額などが変わることにより全体の相続税額が変動して課税の公平が損なわれることを防止するためです。詳細は第9回で追って説明します。むろん、相続人全員が相続放棄する場合は必要な清算手続を経て残った財産が国庫に帰属するため相続税はかかりません。
一方、被相続人に多額の債務や遺贈遺言がある場合に相続財産金額の範囲内のみ相続人全員の承認で債務や遺贈を引き受ける限定承認の場合ですが、限定承認により包括的な財産移転ではなく個別の財産及債務の移転となります。そのため、税法上は相続ではなく被相続人から各相続人への時価譲渡とみなし、相続人に対する相続税ではなく亡くなった被相続人の所得税(譲渡所得)課税対象となります。この場合、被相続人の準確定申告を行い申告・納付することになります。詳細は次回第3回で説明します。
おわりに
今回は相続税納税義務者と負担割合についてお話しました。相続のパターンはその人、その時によって異なることからその時々に対応できる規定が設けられています。また、相続は実際に発生する時期が不確実であるため、生前対策として行われる遺言や信託に関する相続税の関係についても触れました。
今回の記事をお読みになった方が相続税に関して当事者意識をお持ちいただく一つのきっかけとなりましたら幸いです。