そもそも売上(収益認識会計基準)って何? その4|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/02/20
目次
今回お話しすること
収益認識会計基準シリーズその4は収益認識会計基準自体の話というよりも、2023年(令和5年)から売上経理の実務で大きな影響のあるインボイスについての話です。インボイス制度自体の解説は以前シリーズで解説していますので、今回は収益認識会計基準を適用することによって売上の上げ方が変わることで消費税経理とずれが生じる点を中心にお話します。その1でお話しましたが、消費税の経理は収益認識会計基準を適用して売上の上げ方が変わっても従来通りとなります。そのため、決算書や法人税での売上と消費税での売上が異なるケースが多々生じます。消費税法上の制度であるインボイス(適格請求書)はあくまで消費税が課税されるタイミングで発行して顧客に交付しますので、その3まででお話しました顧客への履行義務を果たした時期とは必ずしも一致しません。そこで、今回はずれが生じるタイミングと経理実務での対応について詳しくお話します。
【インボイス解説シリーズ】
【売上(収益認識会計基準)って何?】
その1 収益認識会計基準の概要
売上価格変動とインボイス発行
収益認識会計基準では売上が変動する場合、当初の販売時に今後変動が見込まれる金額を見積もって見積額を当初の売上に反映させます。一方、取引先に交付するレシートや請求書には将来の見積りを出すことはありません。当然インボイス適格の請求書やレシートなどに価格未確定部分を反映させることはインボイスとしては無効になります。将来売上価格変動がある場合、実際に価格変動について取引先と同意し、変動金額が確定した際に追加額部分についてインボイス適格の書類の交付または厳格について「適格返還請求書」というインボイス適格の書類を交付します。
よって、収益認識会計基準に従って当初販売時に変動価格部分について見積計上した金額は不課税取引となる一方、売上変動額が確定した際の金額確定仕訳は、実際に変動する価格全額について課税売上取引(減額の場合課税売上の返還)として経理します。
なお、適格返還請求書についての解説はその5 インボイス制度に関する個別論点①もご参照ください。
売上に利息相当部分がある場合とインボイスの記載
収益認識会計基準では顧客から受け取る売上代金に利息に該当する部分がある場合、モノやサービスの提供に伴う売上とは別にし、代金延払いに伴う利息として別途認識します。一方、消費税法では利息は消費税非課税とされ、売上に付随する利息も消費税非課税の対象になると解されています。インボイスは顧客から徴収する、または徴収した消費税の金額を明記したものですので、利息相当部分について消費税を顧客に追加請求することは販売対価の増額とみなされますし、インボイスに記載される課税対象額及び消費税額に含めることができません。
よって、収益認識会計基準に従って売上として認識した金額は課税売上、利息として認識した金額は非課税売上として経理し、インボイスにも売上として認識した部分のみ消費税額を計算し記載します。
なお、割賦販売の場合、更新日現在国税庁から明確な取扱いが出ていませんが、消費税法上売上消費税及び取引先の仕入消費税は当初販売時に一括で計上することになっていることから、当初契約時に交付する契約書や支払予定表などについてインボイス対応することになり、支払期日の都度交付している請求書についてのインボイス対応は任意になると思われます。
一方リース契約についても更新日現在国税庁から明確な取扱いが出ていませんが、実質的な割賦販売(ファイナンス・リース、売買とみなされるリース)とみなされない限り消費税の認識は代金決済の都度となっていますので、少なくとも契約書と支払予定表についてインボイス対応し、都度発行される請求書についても必要に応じインボイス対応することになると思われます。
ポイント・クーポンの発行・利用とインボイス
ポイントやクーポンなど後日の買い物やサービスの代金に充当できるものについて、収益認識会計基準ではポイントやクーポン付与時に実質的な割引販売とみなして付与金額部分を売上から除外し、使用時(代金充当時)に使用した部分も含めて販売金額を売上として認識します。一方、消費税法では従来通り付与時は見た目の販売額について消費税を計算し、使用時に使用金額について販売代金の割引があったとみなして消費税課税対象額から控除して消費税を計算します。よって、インボイス対応については、ポイント・クーポン付与時は付与されたポイント・クーポンは無視して見た目の購入金額に対する消費税額を記載します。一方、使用時は使用したポイント・クーポンについて課税売上の割引とみなしてインボイスに記載する消費税額に反映させます。
なお、ポイント・クーポン付与時の売上割引は不課税取引として経理し、ポイント・クーポン使用時の使用額相当額の売上計上も不課税取引として経理します。一方、ポイント・クーポン使用時の見た目の決済額についての売上計上は課税売上取引(非課税対象の場合は非課税売上取引)として経理します。
実質的な代理人取引と判断された場合のインボイス
収益認識会計基準では実質的に代理人(仲介者)取引と判定されると、売上と仕入の両建てではなく手数料相当額のみ収益計上することとされています。一方、販売先の顧客にとっては、売り手が当事者であろうと仲介者であろうと購入金額は変わりませんし消費税の課税対象も変わりません。ただし、売手を当事者とみるか代理人とみるかは顧客によって判断が分かれるところです。そこで、代理人取引とみなされる場合のインボイスの扱いは国税庁から公表されたQ&Aを読むといくつかの方法があると思われます。
1.顧客に交付するインボイスはあたかも当事者であるかのように販売総額ベースで取引金額と消費税額を記載する。この場合仕入先からあたかも仕入れをしたかのように購入総額ベースでインボイスを入手する。
2.顧客に交付するインボイスを仕入先からの仕入に相当する部分と付加した手数料に相当する部分に分けて取引金額と消費税額を記載する。この場合仕入先から仕入部分についてインボイス適格の書類を受領する必要がある。
3.売手発行のインボイスには手数料部分の取引金額と消費税額のみ記載し、仕入部分については仕入先からのインボイスを交付する。この場合、仕入先に販売先の顧客宛インボイスを発行するよう事前依頼する。
以上3つ挙げましたが、直送取引や消化仕入が実質的な代理人取引と判定されたとしても消費税法上は顧客と売手との資産の譲渡及び売手と仕入先との資産の譲渡の2つの取引とみなされ、また実務上の手間を考えると1.の方法が多くなると思われます。不動産仲介のように契約上明らかに契約仲介に該当し、仲介手数料が明確な場合2.や3.の方法を適用することになります。
なお、食品など消費税軽減税率8%が適用される物品の取引を仲介する契約の場合、食品本体の税率は軽減税率の8%ですが、仲介手数料の消費税率は10%になります(消化仕入など資産の譲渡取引とみなされる場合を除きます)。
今回のケースに近い委託販売の場合のインボイスの取扱いにについての解説はその5 インボイス制度に関する個別論点①もご参照ください。
アフターサービス・長期保証とインボイス
収益認識会計基準では任意のアフターサービスや保証をつけて商品を販売した場合、アフターサービスや保証に相当する部分を当初のモノの販売部分と切り分けて売上を認識し、そのタイミングもモノの販売時点ではなくサービスや保証の期間にわたって計上するとされています。一方、消費税法では受け取る対価が商品代金の一部として受け取るのか、アフターサービスや保証のオプション代金として受け取るのかで取扱いが変わります。例えば無料オプションや当初の販売代金に含めた料金設定をしているなど商品代金の一部としている場合は商品本体と一括して消費税を計算し消費税額をインボイスに記載し、経理上も販売時に一括して売上消費税を計上します。一方、例えばオプション料金が明示されていたり、追加料金制になっているなど別料金としている場合、インボイス上は商品本体と一括して消費税を計算した金額をインボイスに消費税額として記載しますが、経理上オプション料金部分は当初販売時は不課税取引として処理し期間経過に伴う売上計上時に売上消費税を計上します。
インボイス制度導入後における売上の伝票入力
収益認識会計基準に基づく売上と消費税法上の課税売上の金額やタイミングが異なることがあるため、仮に売上伝票を収益認識会計基準ベースで起票した場合税込売上高から割り戻して売上消費税の金額を計上する方法では計算ミスが発生する可能性があります。そのため、伝票起票の実務としてはまず消費税法ベースの従来の方法で売上伝票を起票して売上消費税を正しく計算できるようにし、その後振替伝票で消費税法ベースから収益認識会計基準ベースの売上に修正する仕訳を起票する方法が現実的と思われます。振替伝票を起票するタイミングは取引の都度でも構いませんし、決算時一括でも構いません。なお、売上消費税の経理は当初の消費税法ベースの売上計上時のみ行い、売上修正仕訳は税抜ベースの売上を不課税取引として起票することで消費税計算誤り及び申告時の集計誤りを防止することができます。
おわりに
今回は収益認識会計基準によって売上に変化がある場合に消費税インボイス制度にどのように対応するのかお話しました。お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、インボイス制度対応といいましても収益認識会計基準と消費税法上の売上のギャップを調整さえすれば、インボイスは消費税法上の売上認識に従って作成し顧客に交付すればよいのです。
ここで参考までに買手側としてのインボイス対応について簡単にお話します。インボイスはそもそも事業者が仕入や経費にかかる消費税を消費税納付額計算の際に控除する(仕入税額控除)ために消費税支払証明書として売手から入手し保存するものです。つまり、インボイス適格の請求書等がないとない分だけ消費税を多く負担することになります。また、インボイスには1取引単位の消費税額が明記されるため、仕入税額控除できる税額は原則インボイスに記載の消費税額となります。そのため、仕入や経費の仕訳起票の際の仮払消費税の金額は従来の税込金額からの割戻し計算ではなく、インボイスに記載されている消費税額を厳密に記入することになります。また、代理人取引と判定された場合、収益に対応する仕入は売上と相殺されますが、売上消費税と仕入消費税を両建て計上したほうが申告時に消費税額が計算しやすいと思われます。なぜなら、インボイス制度が導入されると消費税額計算の方法が変わり、控除対象の仕入消費税の計算が原則、従来の割戻し計算(年間の税込仕入額を割り返し計算して計算する方法)から積上げ計算(年間の取引ごとの消費税額を集計して計算する方法)に変わるからです。
今回まで4回にわたり収益認識会計基準のお話をしました。頭をひねらないと理解しにくい話かもしれませんが、売上についてもう一度見直す機会になるのではないかと思います。