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そもそも売上(収益認識会計基準)って何? その1|札幌で税理士公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2022/02/25

目次

    はじめに

    今回から4回にわたり売上についていろいろ考えます。と言いましても、会計基準と税法のかみ砕いた解説です。
    この記事をお読みの皆様にお聞きしますが、そもそも売上って何でしょうか?一言でいうと「何かを売った成果」です。4回にわたって長々とお話することは、いつ、どこで、何を売ったかをどのようにして把握認識するかです。4回で解説するテーマは以下の通りです。
    その1(今回) 売上に関する最新の会計基準(収益認識会計基準)と税法の概要
    その2 収益認識会計基準における売上(収益)認識のプロセス
    その3 収益認識会計基準適用で売上の数字が変わる可能性がある例
    その4 収益認識会計基準を適用した、あるいは、する場合の消費税インボイス対応
    マニアックな話が中心ですが、比較的規模の大きい企業の経営者、経理財務担当者はもちろんのこと、自らの仕事ぶりを外部の関係者にどのように示していくのかについての話であるため、営業や現場勤務の方にも関わりますので、できるだけ平易な表現をする所存です。

     

    収益認識に関する会計基準開発の経緯

    まず、収益認識会計基準という基準が改めて制定された経緯をお話します。
    最初に議論が始まったのは2002年にIASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)が共同で立ち上げた収益認識プロジェクトです。これまでの売上に関しての基準は抽象的かつあいまいで、売上の時期、金額についていろいろな解釈があり企業間で売上についてモノサシが一致しているかどうかわからず、単純比較ができな可能性がありました。また、21世紀に入りビジネスモデルが多様化し、比較的単純なビジネスモデルを前提としていたこれまでの売上に関する会計基準では対応しきれなくなっていました。売上に関する会計基準も新たな問題に対応するためつぎはぎのように複数の会計基準が制定され、複雑で使い勝手が悪くなっていました。
    2014年(平成26年)5月に収益認識プロジェクトはこれまで複数あった売上に関する会計基準に代わり、IFRS(国際財務報告基準)15号「顧客との取引から生じる収益」が公表され、同時期にアメリカでもほぼ同じ内容の会計基準(Topic 606)が公表されました。なお、IFRSとは日本とアメリカ以外の国の多くの国で上場企業に適用を求めている会計基準で、日本では任意に適用することができます。IFRSを適用する企業については2018年1月1日以降開始する事業年度からIFRS15号「顧客との取引から生じる収益」が強制適用となっています。
    一方、日本ローカルの会計基準については上記の収益認識プロジェクトにおける議論やIFRS15号の内容に日本の会計基準を合わせることを主な目的として、2015年(平成27年)から企業会計基準委員会で新会計基準の議論が始まり、さまざまな意見集約を経て2018年(平成28年)に「収益認識に関する会計基準」が公表されました。「収益認識に関する会計基準」はIFRS15号の内容をほぼ踏襲していますが、日本国内の内国企業対象の会計基準であり、ほぼ全ての業界に影響することから各業界から国際的なものよりも実務負担を軽減するよう求める意見も多く、収益認識会計基準独自の代替的な取り扱いもあります。これまでの基準との違いや代替的な取り扱いは次の項目以降で解説します。

     

    これまでの会計原則、会計基準との違い

    これまでの会計基準における売上の取扱いについては企業会計原則という1949年(昭和24年)に公表された会計基準に「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積もり、これを当期の損益計算に計上することができる。」と規定され、2007年(平成19年)に公表された工事契約に関する会計基準で、進捗している工事に成果の確実性が認められるときは工事途上でも進捗部分について工事売上を計上すると規定されていました。何となくわかるようなわからないような規定ですが、代金の回収のタイミングに関わらず販売やサービスを提供した時点で売上を計上し、建設工事や長期プロジェクトなど引渡しまでに長期間要するものに関しては、確実に引渡しが見込まれる場合進捗している部分について引渡し前でも先に売上を計上するということです。
    この規定の書き方では一つ疑問点があります。販売やサービスを提供した時点とは具体的にいつ、どこで、何をしたときなのでしょうか?冒頭でも申し上げましたが、規定の書きぶりがあまりに抽象的でその解釈が様々にできるのです。そのため、販売やサービスを提供した時点をある意味自分の都合よく解釈でき、特に企業外部の人とのやり取りで売上について話がかみ合わなくなる可能性があったのです。
    そこで収益認識会計基準では解釈の幅を合理的に狭めるため、売上の認識に関してこれまでの考え方を踏襲しつつ以下の5つのステップが設けられました(収益認識会計基準17)。
    1.顧客との契約を識別する
    2.契約における履行義務を識別する
    3.取引価格を算定する
    4.契約における履行義務に取引価格を配分する
    5.履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益(売上)を認識する
    ここでキーワードとなるのが、「履行義務」です。収益認識会計基準7に「履行義務」とは、顧客との契約において、(1)別個の財又はサービス、(2)一連の別個の財又はサービスのいずれかを顧客に移転する約束をいうと定義されています。この定義も抽象的ですが、顧客側が何かを買った、または、何かのサービスを受けたと感じたタイミングが履行義務を果たし売上が計上できるということです。契約内容が契約書などで明確に記載されていれば義務を果たしたタイミングが分かりやすいでしょう。もし、明確な契約内容がはっきりしない場合は今一度お客様に物の権利が移転するタイミングまたはサービスの価値を渡すタイミングを今一度考え直してみましょう。読者が自分の仕事の価値を再認識するきっかけにもなりますのでお時間のある時に是非してみましょう。そうはいっても自分の頭で0から考えることは難しいことですので、そのヒントとなる詳細な解説をその2とその3にわたってアップします。

     

    適用される企業、適用開始時期

    企業会計基準は全ての国内企業が適用できます。そうはいっても、企業会計基準に規定されている事項は高度で作業負担も多大になります。そのため、現実的には企業会計基準の適用が強制される企業が適用しています。適用が強制されるのは、公認会計士監査を受けている、または、法律で求められている企業です。中小企業で公認会計士監査を受けているケースはまれで適用は任意なのですが、基本的な考え方だけはご理解いただき売上の考え方を今一度再確認していただけますと幸いです。
    また、収益認識会計基準は2020年(令和2年)4月1日以降開始する事業年度から適用可能となっており、企業会計基準の適用が強制される企業においては2021年(令和3年)4月1日以降開始する事業年度から強制適用されます。

     

    法人税法における取扱い

    収益認識会計基準を新たに適用すると従来の方法と異なる方法で売上認識することになり、これまでの方法で認識した場合と利益(所得)が異なることがあります。その場合法人税も変わることになりますが、法人税の計算における所得計算でも収益認識会計基準を適用できるのでしょうか。
    結論を先に申し上げると原則的に収益認識会計基準を適用した売上で法人税の計算をすることができます。2018年(平成30年)の税制改正で、収益認識会計基準公表に対応した法人税法改正が行われ、「内国法人が、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、同項の規定にかかわらず、当該資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。」(法人税法第22条の2第2項)という規定で明記されました。この規定がなければ、決算書の売上と申告書の売上が異なることになり申告書で所得加減算を行うことになっていたことでしょう。
    ただし、法人税法第22条の2第6項で収益認識会計基準の規定を適用した場合でも法人税の計算で調整が必要な項目が挙げられており、
    ①将来の代金回収不能見込額の売上からのマイナス
    ②将来の割引見込額の売上からのマイナスの2つです。
    これら2つについては、実際に回収不能または割引になるまで税金計算上売上のマイナスを認めないことになっています。

    消費税法における取り扱い

    多くの販売取引では消費税がつきものです。では消費税は収益認識会計基準によって変わるのでしょうか。こちらも先に結論を申し上げますと消費税は従来と変わりません。そのため、決算書上の売上と消費税計算上の売上に誤差が生じることになります。消費税法第28条第1項では「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。中略)とする。」と規定されています。つまり、1回の取引で対価として収受すべき金額が課税対象となります。当たり前といえばそれまでですが、収益認識会計基準では先ほどの項目でもチラッと取り上げましたが将来代金が回収できないと見込まれる金額や割引が見込まれる金額は販売時にあらかじめ売上から控除することになるのです。詳細はその3でお話しますので、今回は収益認識会計基準と消費税法で売上の考え方が異なり、売り上げるときの消費税は従来通り変わらないことを理解してください。また、消費税のインボイス制度も売上と密接に絡みますので、その4で収益認識会計基準を適用した場合のインボイス対応について取り上げる予定です。

    おわりに

    その1の今回は売上に関する最新の会計基準(収益認識会計基準)と税法の概要を取り上げました。概要は抽象的になりがちで読んでもなかなかわかりづらいと思います。収益認識会計基準を学んだことがない方は、経理や財務のお仕事をされている方でもこの記事を初めて見て混乱するかもしれません。会計の専門家である私も収益認識会計基準を学び始めたときはわかったようなわかんないようなもやもやした気分になりました。具体的な話が出てくるとわかりやすくなると思います。そこで、その2以降、会計金のプロセスや具体的なビジネスの例を取り上げて、収益認識会計基準の考え方をさらに理解できるよう説明していきます。

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