もしかしたら贈与税確定申告が必要かも|札幌で税理士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/02/18
目次
はじめに
今週2月16日より2021年(令和3年)分の確定申告期間が始まります。確定申告で取り上げられる税金は所得税と個人事業を営んでいる場合の消費税が多いのですが、贈与税の申告も毎年1月1日から12月31日までの1年区切りで、申告期間は2月1日から3月15日までとなっています。
贈与税申告は頻繁に生じるものではないため、申告が必要なことに気づかず後日税務署から通知が来て税金を取られたということがよくあります。また、先日とある会社の相談役の方から相談を受けたのですが、贈与に関して納税額は無くても申告書の提出が必要な場合があります。今回は贈与税の申告が必要な場合となる代表的なものを取り上げます。
不動産贈与の配偶者控除
結婚して20年以上たつ夫婦間で日本国内にある居住用の土地や家屋を贈与したり、居住用土地・家屋購入資金を贈与したりした場合、翌年3月15日までに譲受けた配偶者の居住が開始され、その後も引き続き居住し続ける場合、その土地・家屋・購入資金の贈与に対して最大2000万円の控除を受けることができます(相続税法第21条の6第1項)。この控除は生前に夫婦間で保有する不動産の権利関係を整理することを促進することが趣旨です。
配偶者控除が受けられると贈与税がかからなくなるケースがあり、税金がかからないのであれば申告不要と思われる方がいらっしゃいます。しかしながらこの配偶者控除は申告書に、
1.贈与した日から10日経過後に作成された戸籍謄本または抄本及び付票の写し
2.贈与対象になった居住用土地・家屋の譲受けがあったことを示す登記事項証明書等
3.控除を受ける年度よりも前に当該配偶者控除を受けていない旨を示した書類
を添付した場合にのみ適用するとされているため(相続税法第21条の6第2項、相続税法施行規則第9条)、結果として贈与税がかからなくても確定申告をする必要があるのです。
結婚している期間(婚姻期間)の判定は、贈与をした日の時点で20年経過しているか判定し、同じ配偶者との間に離婚・再婚期間がある場合離婚していた期間は婚姻期間から除外されます。
なお、居住用土地・家屋に信託が設定されている場合、配偶者から贈与された金銭で設定された信託受益権を取得した場合でも配偶者控除が適用されます(相続税法施行令第4条の6)。
住宅資金の贈与
住宅に関する贈与の特例は配偶者同士だけではありません。20歳(令和4年4月1日付からは成人年齢引き下げに伴い18歳)以上の日本国内居住者が日本国内に居住する直系尊属(親や祖父母など)から住宅購入資金の贈与を受け、翌年の3月15日までに贈与された資金の全額を、住宅用家屋の新築や取得、増改築及びこれらの家屋の敷地にあたる土地の取得を行いその後受贈者が遅滞なく居住した場合は、一定額を限度に贈与税の課税価格から控除することができます。令和4年度税制改正が成立した場合、適用期限は令和5年12月31日までの贈与が対象となり、令和4年からの控除限度額は以下の通りになります。
1.耐震、省エネまたはバリアフリーに認定された住宅用家屋 1,000万円
2.上記以外の住宅用家屋 500万円
むろん、対象となる住宅用家屋及び敷地は日本国内に限定されます。当該控除を受けた場合も贈与税が結果としてかからないケースがありますが、以下の書類を申告書に添付して提出することで適用を受けることができるため、申告が必要となります。3月15日までの居住に関する添付書類があることから申告期限の3月15日を過ぎた申告や事後の更正請求による減額は認められませんのでご注意ください。
1.戸籍謄本など受贈者と贈与した直系尊属との関係がわかる書類
2.贈与のあった年の受贈者の所得合計がわかる書類(その年の合計所得が2000万円を超えると控除を受けることができません)
3.住宅資金の贈与を証明する書類(住宅資金贈与契約書や住宅資金信託など)
4.申告期限の翌年3月15日までに入居した場合の家屋及び敷地の登記事項証明書
5.建築または購入した住宅用家屋及び敷地の売買契約書または工事請負契約書
6.贈与翌年の3月15日までに居住できない場合のそのやむを得ない理由と入居可能見込がわかるもの
なお、贈与翌年の3月15日までに居住できないとして上記6の書類を添付して住宅資金控除の適用を受けた場合で、贈与翌年の12月31日までに入居しなかった場合、入居しないことが判明した日から2か月以内に住宅資金控除を受けないことに伴う修正申告を行い、贈与税をさかのぼって納めることになります。仮に修正申告を怠った場合でも税務署長による贈与税課税に関する更正処分が行われることになっています。
贈与資金とローンで住宅を購入した場合
住宅資金の贈与に関するお話を取り上げましたが、住宅資金贈与は贈与税のみに影響を与えるわけではありません。所得税の確定申告でよくあるのが、住宅ローン控除です。住宅ローン控除は住宅の新築などで借入をした場合に入居後十数年にわたり、新築費用と年末ローン残高のいずれか低い金額の1%(税制改正が成立した場合令和4年以降居住からは0.7%)を所得税額から控除できる制度です。
もし、住宅の新築資金を先述した直系尊属からの贈与資金と住宅ローンの併用で賄った場合、上記の比較に用いうる新築費用については贈与資金を控除した後の金額となります。つまり、住宅ローン控除額が下がる可能性が高くなります。理由は資金贈与と住宅ローン控除による税額控除の利益二重取り排除のためです。
なお、同様の理由で住宅資金として補助金を受け取った場合も新築費用から控除します。
住宅ローン控除の適用を初めて受ける場合の確定申告では「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」の作成のため工事請負契約書や登記事項証明書、ローン残高証明書などを用意しますが、住宅資金贈与や補助金を受けた場合は贈与契約書等や補助金交付決定通知書等も忘れずに用意してください。
相続時精算課税を適用しても申告をお忘れなく
贈与税の納付は原則申告の都度申告期限の翌年3月15日までに行うことになっています。しかし、贈与による財産移転の都度税金がかかるのでは課税負担により財産移転をためらうケースも出ます。そこで、60歳以上の父母または祖父母が20歳(4月1日から成人年齢引き下げに伴い18歳)以上の子または孫に財産を贈与する場合は相続発生時に一括で過去の贈与税をまとめて納める相続時精算課税制度があります。
この制度を一度適用すると贈与の都度贈与税を納める方法に戻すことができなくなり、贈与税が当分かからないケースもあることから一度相続時精算課税を適用すると申告不要になるのではないかとお思いの方もいると思います。また、相続時精算課税には適用後2,500万円の特別控除枠があり相続発生時までの対象者間の贈与が2,500万円であれば結果として贈与税がかからないから贈与総額が2,500万円に達するまで申告はいらないのではないかとお思いの方もいると思います。
ところが、相続時のことを考えてみてください。相続は死亡によって生ずるため、いつ起こるかわかりません。また、贈与財産の評価額はその時々で異なるため、相続発生時にならないとこれまで先送りした贈与税がいくらになるのかわかりません。そこで、相続時精算課税制度を一度適用し贈与税の納付を先送りした場合でも贈与の都度贈与税申告書を提出することになります。相続時精算課税制度が適用になる贈与には基礎控除110万円が適用されませんので、1年間の対象者同士の贈与総額が110万円以内であっても贈与があった年には申告が必要です。
なお、相続時精算課税制度の適用を開始する場合、贈与税の申告書と共に相続時精算課税選択届出書を受贈者である子や孫の戸籍謄本など当事者間の関係がわかる書類を添付して提出します。むろん、相続時精算課税選択届出書を提出する年の贈与税申告は贈与の有無や贈与額に関わらず必要となります。
えっ⁉ こんなことにも贈与税がかかるの⁉
贈与税は贈与というモノや権利の一方的な移転に伴う行為に課税される税金と捉えられます。そのように捉えますと拠出から受取までに時間差のある財産移転や一部無償の財産移転についても、民法上贈与契約とされなくとも贈与税が課税される場合があります。例えばよくあるのが以下の取引です。
1.生命保険について契約者本人の死亡以外の原因(契約者以外の死亡、満期、解約など)により契約者以外の人が保険金を受取る場合
2.不動産や有価証券などを時価相場より低い価格で譲渡した場合
3.財産信託契約をしている場合で受益者が変わった場合
1.の保険金を受取ったケースは、私も過去経験しており親が掛けていた養老保険を途中で私が掛ける形に変更し、その後中途解約して解約返戻金を受取りました。解約返戻金のうち、親が掛けていた部分が結果として金銭の一方的な移転になるため贈与税が課税されます。そのときは非課税枠を超える返戻金があったため、初めての贈与税申告を行い贈与税を納税しました。
2.の低い価格なのかどうかはおおむね時価の70%未満かどうかで判断します。譲渡価格は価格交渉次第になるところですが、時価相場がいくらなのかあらかじめ見積もっておくことで思わぬ課税を回避できる可能性がありますので、高額資産の譲渡の際は必ず時価相場を把握するようにしましょう。取引が頻繁でない不動産や非上場株式は容易に時価を把握することが難しいため、専門家に評価を依頼しましょう。
3.のケースはもともと相続対策で信託を設定することも多く信託設定時に贈与税対策が行われることもありますが、財産に信託を設定する場合は当事者とその関係についてよく理解し、どのようなケースで税金が発生するのか把握するようにしましょう。
おわりに
今回は贈与税申告が必要な場合でなかなか気づきにくいケースについて取り上げました。特別控除や相続時精算課税は適用を受けると税務署に宣言することで受けることができると覚えておきましょう。税務署にとっては受贈者から何の宣言もないと税金逃れではないかと疑うのです。相手が抱く疑いを晴らすためには説明が欠かせません。
また、贈与契約でなくても贈与税がかかるケースは、他人への財産の一方的な経済的移転に着目して課税するものです。実際に行われた時点では気づかないケースが多く税務署からお尋ね文書が来て初めて気づくことが多くあります。この記事を見て「もしかしたら贈与税がかかるのかも!?」と思いましたら遠慮なくご相談ください。