そもそも売上(収益認識会計基準)って何? その3|札幌で税理士公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/03/11
目次
今回お話すること
今回は前回のその2でお話した、売上を認識するための5つのステップのうち、ステップ2履行義務についてもう少し具体的にお話すると共に、売上の見た目が変わる可能性がある点について解説します。
収益認識会計基準は売上が上がるタイミングとして「顧客に履行義務を果たしたとき」と示しており、顧客に履行義務がどのようなものでどの段階で果たしたと言えるかが重要なポイントです。売上は顧客に履行義務を果たした成果を金額で示したものという考え方ですので、顧客に売上代金として請求し、入金されたとしても自ら果たした履行義務によらない部分については売上として計上できません。つまり、事業者自らの努力による部分のみが売上となるのです。この点についても具体的に解説します。
履行義務と消費税
販売を行うと取引価格に付随するのが消費税です。利息や家賃、保険診療・介護など一部の非課税取引を除くと、飲食料品の譲渡に8%、飲食料品以外の譲渡やサービスに10%の消費税がかかります。経理実務で消費税の会計処理については2通りの方法があり、消費税込みの金額で売上や仕入・経費を経理処理する「税込経理」と、消費税部分は「仮受消費税」「仮払消費税」のような科目で別々に経理し、売上や仕入・経費は税抜金額で経理処理する「税抜経理」です。多くの消費者課税事業者では消費税法上の特典が受けやすい税抜経理を採用していますが、収益認識会計基準でいう履行義務を絡めて考えますと消費税は消費者である顧客が負担するものであり、売上をあげた事業者は顧客から消費税を預かって代わりに税務署に納付しているに過ぎないのです。つまり、消費税部分は顧客へ便益をもたらした対価ではありません。そのため、収益認識会計基準を適用すると税抜処理が求められます。税込経理を採用している事業者にとっては、消費税分だけ売上が目減りすることになりますが、本来の事業の成果が見えることになります。
なお、消費税免税事業者についてはそもそも消費税の納付義務がありませんので、消費税相当分を顧客から受け取ったとしても税込売上がそのまま顧客へ便益をもたらした対価となり、消費税相当分を含めた税込の売上で認識します。消費税法上も免税事業者は税込経理しか認められていませんので会計基準と税法の兼ね合いでは特に問題ありません。
本人(当事者)か代理人(仲介者)か
履行義務が何なのかでよく議論になるのが、物品販売やサービスの直接の当事者となるのか、それとも、当事者同士をつなぐ仲介者になるのかです。当事者となる場合は、販売代金や報酬全額を売上とし、売上を得るためにかかった仕入や製造原価を費用とします。一方、仲介者とみなされた場合はお金の流れが一見して売上代金の入金と仕入・製造原価の支払の両方を伴っていても、手数料相当額の売上計上のみで、仕入や製造原価は計上しません。
当事者か仲介者かの判断は売上に関わる「資産の支配」の有無により判断します。例えば、委託販売のケースを考えてみます。お店に置かれている商品はあくまで納入業者がお店に売り場を借りているにすぎず、万が一商品を廃棄処分することになれば納入業者が負担することが一般的です。この場合、商品という資産の支配は納入業者側にあることになり、委託元である納入業者はお店で売れた時点でお店での販売価格で売上を計上し、商品の仕入代金は販売時に売上原価として経費計上します。一方、委託先であるお店ではほかの商品と同じように販売価格でレジ精算したとしても、販売価格ではなく販売価格に含まれる委託手数料部分のみを売上とし、それ以外の部分は委託元へ後日支払う預り金または立替金の受取りとして認識します。一方、委託先に支払う代金は仕入ではなく預り金の精算または立替金の支払として認識します。このような経理となる理由は、履行義務の捉え方にあり顧客の役に立つモノを引き渡す義務なのか、顧客と業者の間を取り持つ場を提供する義務なのかという違いになります。万が一商品が顧客にわたることなく廃棄となった場合、顧客の役に立つモノを引き渡す義務を負うのであれば義務を果たせないため廃棄に伴う損失を負うべきですし、廃棄に伴う損失を負わないのであれば顧客にモノが渡らなかったとしても損失はありません。むしろ、負うべきリスクは人を結ぶ間を取り持てないことになります。
以上の当事者か仲介者かの議論は契約上当事者と仲介者が明確でなくても、実態からみて上記の議論に当てはまれば適用されます。よくあるのが、デパートで行われている消化仕入です。これまでデパート業界では慣行としてお店での販売価格で売上計上し、販売と同時に納入先から納品としたとみなして仕入計上するのが一般的でした。この慣行が商品自体の廃棄リスクを負わないことから、収益認識会計基準に照らすと売り場を提供するだけの代理人とみなされ、売上から仕入を差し引いた粗利益部分のみを売上とする方法に変わっています。
なお、商品廃棄リスクは負わないものの代金が回収できないリスクを負う場合は売上債権(売掛金)の譲渡取引とみなして、仕入先に代金を支払う際に差し引いた部分または販売先から売上代金に上乗せした部分があれば、売上債権に関する利息の受取とみなしてそれらの部分のみ売上計上し、受取った金額の残額は債権の回収、支払った金額の残額は債権認識をします。
ポイントやクーポン
その2でもお話しましたが、ポイントやクーポンについては後の買い物に使える先払いと捉えて、付与したポイントやクーポンについては後日使用できる金額相当分は売上から控除します。例えば、10,000円の買い物をして後日1ポイント=1円で買い物ができるポイントが100ポイント付与されたとします。この場合以下のように処理します。
売上 10,000円÷(10,000円+100円)×10,000円=9,901円
契約負債(前受金) 10,000円÷(10,000円+100円)×100円=99円
つまり、ポイントを付与した分だけ当日の買物について割引したと捉えます。一方、10,000円の買い物に100ポイントを使用したときは、購入総額10,000円全額が売上ととらえ、100円分は前受金に相当する契約負債で決済され、残額9,900円について現金やクレジットカードなどで決済されたと捉えて会計処理します。
この一連の取引を履行義務を使って捉えますと、ポイントやクーポンの付与は、後日商品を顧客に引き渡す義務を引き受けたと捉え、付与したポイントには売上認識しません。そして顧客がポイントを利用したときに義務を果たしたとらえて、ポイントで決済した部分も含めて売上を認識します。
サブスクリプションの売上
ここからは近年多くなっているサブスクリプションについて履行義務と売上認識の捉え方をお話します。サブスクリプションの場合、一定の月料金を支払えば使い放題という形が多くなっています。中には、コーヒーやビールなどの飲み放題など物の引渡しが伴うものもあります。
ここで、動画見放題を例に考えてみましょう。従来からの動画ビジネスですと動画は1作品買いきりまたはレンタルで料金が設定されていました。この場合の履行義務は動画1作品について一定期間顧客が見ることができるようにすることになります。一方、動画見放題は一定期間顧客が見ることができる動画が1作品から見放題対象作品全てに変わるのみで顧客が見ることができるようにすることは変わりません。よって、月額をその月の売上として計上するいたってシンプルな売上認識になります。
では、飲み放題など物の引渡しが伴う場合はどうでしょうか。従来は1杯ごとの課金ですが、この場合飲み物1杯を顧客に提供することが履行義務となり、1杯の飲み物を顧客に引き渡す都度売上認識します。飲み放題の場合顧客は一定期間一定料金で何杯でも飲むことができます。この場合顧客にとっての価値は一定期間飲み放題でのめることであり、飲み放題サービスを顧客に提供することが履行義務となります。そのため、売上は顧客が飲む量に関わらず定額料金を対象期間内にわたって売上認識します。
ただし、1杯ごと別料金オプションがある場合、オプションについては1杯提供した都度売上認識します。
売掛金ではない売上債権?
収益認識会計基準では、顧客に対する履行義務を果たし顧客から対価を受取る権利を得ると「契約資産」と呼ばれる資産を売上と共に計上します(収益認識会計基準10)。売上を得て後日入金となる場合よく使われる勘定が「売掛金」です。単純に「売掛金」に統一したほうが経理事務は楽ですし、決算書を見るほうもわかりやすそうです。ですが、「契約資産」と「売掛金」には似て非なる点があります。それは、顧客に請求したかどうかです。小売店のようにモノやサービスを提供すると同時に代金決済や請求を行う場合はあまり問題になりません。一方、B to Bビジネスではモノやサービスの提供の都度ではなく1ヶ月など一定期間分をまとめて請求することが多くあります。この場合、「売掛金」とは顧客に代金を請求し顧客が支払義務を認識している状態の債権です。一方、ビジネスの履行義務を果たし顧客から対価を得る権利を得ても顧客への請求が未了で顧客に債権の存在が認められていないと民法上権利行使されていないため「売掛金」ではなく会計上売上を立てるための相手科目として「契約資産」という勘定で区別しているのです。
なお、入金済であっても対価に対するモノやサービスの提供義務がまだ果たされていない、つまり前受金に当たる部分については「契約負債」という勘定を使います。
アフターサービス・長期保証が売上に影響する
近年ではモノやサービスを長く使い続けられるようアフターサービスや長期保証を充実させているケースが増加し、アフターサービスや長期保証のオプション料金を当初購入時またはサービス提供時にまとめて徴収することがよくあります。アフターサービスや保証が法律の義務の範囲(例:PL法に基づく購入後1年間の保証)であれば、顧客との契約による履行義務ではないため売上には影響しません。一方、オプションについては法律による強制ではなく顧客との契約によるサービスとみなされるため、アフターサービスや保証は対象期間にわたる履行義務とされ、保証やサービス対象期間にわたって売上を計上する必要があります。オプション料金を元のモノやサービスの販売と同時に受け取っている場合、契約負債を認識しその後対象期間にわたって均等に売上に振り替えることになります。
もしも購入時にアフターサービスや長期保証を付けることでセット割引が受けられる場合または無料でアフターサービスや保証を付けられる場合は、販売時実際に精算する価格を元のモノやサービスの部分とアフターサービスや長期保証の部分に割引前の価格(または有料の場合の価格)を基に按分して売上を認識します。
おわりに
今回は履行義務について例を交えながらお話しました。履行義務という言葉を聞くと堅く重苦しく感じますが、顧客に満足してもらうために行っているビジネス上の約束事です。普段仕事をしている中ではなかなか意識しませんが、一旦立ち返ると気づくのではないでしょうか。その気づきが顧客に何で貢献しているのかをはっきりさせ、顧客ひいては自らの働きの喜びを感じ、売上の価値がさらにわかるのではないでしょうか。精神論になりましたが、この記事を通して感じて頂きたく結びの言葉で書かせていただきました。
次回その4では、収益認識会計基準で売上の計上方法が変わる場合に、来年2023年10月から開始される消費税インボイス制度にどのように対応するのかお話します。