公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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農業の会計・税務④

農業の会計・税務④

2021/09/10

農業の会計・税務④

農業にも数字による経営管理の重要性が増しています。また、税金も付き物です。農業に関する会計と税務について特徴的なことを解説します。

農業の決算・確定申告について

前回は農業における日常の会計・経理についてお話しました。今回は年に1回の決算作業と確定申告について実践的な内容を取り上げます。
テーマは以下の通りです。
・青色申告制度
・農業所得決算書
・経過勘定と所得計算
・減価償却
・貸倒引当金
・確定申告のスケジュール
なお、今回は個人で農業を営んでいる方向けの内容です。そのため、「個人」及び「所得税」の内容であることを前提にご覧ください。

青色申告制度

青色申告と聞くと、何か特典がある制度とお思いの方が多いと思います。改めて青色申告制度について説明しますと、会計帳簿をきちんと記帳して正確に確定申告を行うことを目的とした制度で、正規な簿記の方法で会計帳簿を記帳して保存することを条件に個人の場合以下の特典を認めるものです。
・一定の特別控除(10万円~65万円)
・青色専従者給与(家族を従業員とみなし、支払う給与を必要経費として認めるもの)
・貸倒引当金(詳細後述)
・純損失(赤字)の翌年度以降の繰越控除(前年度納付した所得税がある場合、繰越の代わりに還付の選択も可能)
青色申告をしようとする場合、開始する年度の3月15日までに税務署に届出をします。また、新規開業時や相続により青色申告をしようとする場合は開業または相続時から2か月以内に届出をします。
農業者についても農業所得について青色申告をすることが出来ます。

農業所得決算書

ここでは確定申告の際に申告書に添付する決算書について解説します。様式のリンクを以下に掲げておりますので、リンクの様式を見ながらご覧いただくとわかりやすいです。
青色白色共通の決算書は、損益計算書、種類別収入内訳、減価償却費内訳、果樹・牛馬育成費用の内訳の4つで、青色申告用のみにあるのは雑収入内訳、棚卸資産内訳、雇人費内訳、青色申告専従者給与内訳、地代家賃内訳、利子割引料(金融機関除く)内訳、専門家報酬内訳、貸倒引当金繰入計算、青色申告特別控除計算、貸借対照表と多くなります。
青色申告をすると書くことが多いと感じる方も多いと思います。ですが、記載内容は帳簿をつけていればすんなり書ける内容ですし、きちんと書くことで税務署からの問い合わせが減り、自ら正しく計算して納税する申告も高くなります。
損益計算書は他の事業所得用の様式と比較するとよりわかりやすいですが、項目が農業特有のものになっていることが特徴で、農家が使いやすい内容になっています。

経過勘定と所得計算

ここからは決算特有の経理についてお話します。
日々の経理は、お金の動きに合わせて収入と支出を経理することがあります。利益または所得は収入―支出、つまりお金の純増減とお思いの方もいらっしゃいます。ですが、利益または所得はお金の動きとは必ずしも連動しないのです。言い換えますと、利益または所得=収益(モノやサービスを提供した金額)ー費用(モノやサービスを受けた金額)です。この利益や所得の考え方を「発生主義」といい、お金の動きに合わせて計算する考え方を「現金主義」と言います。
ところで、サービスの中には賃借や利息など一定期間にわたるサービスがあります。ここでお話する経過勘定とは、サービスの提供及びサービスの享受の金額を該当する対象期間に割り振るための勘定です。
例えば、賃借で多い形態は毎月翌月1ヶ月分を支払う形態です。この場合支払時に「地代家賃」として経理したとしても、支払った賃借料は翌月のために支払ったものであり、今月末時点では支払に対するサービスをまだ受けていません。そこで、この場合当月末に「地代家賃」を取り消し、「前払費用」という経過勘定を計上します。そして実際にサービスを受ける翌月に再度「地代家賃」を計上し、前払費用」という経過勘定を取り崩します。
別の例では、ローンの利払いについて当月分を毎月末支払となっている場合、月末が平日ですと当月中引き落としとなり、支払う月とサービスを受ける月が一致するのですが、土日祝日の場合翌月最初の平日に引き落とされます。この場合、お金の動きに合わせて経理するとサービスを受けた月に対応する利息が計上されません。そこで、この場合当月末に「支払利息」と経過勘定である「未払費用」を計上します。翌月の支払時に「未払費用」を取り崩します。

減価償却

次に長期間使用する施設や機械、装置、果樹、牛馬などについて、見込まれる使用期間にわたって経費化する「減価償却」について説明します。
減価償却の意義については前述の通りですが、実務的には使用期間を厳密に見込むことは困難で恣意的になるため、耐用年数省令という大蔵省令に示されている耐用年数を取得時からの使用見込期間とみなして計算します。また、各期間における計算方法のうち主なものは、取得価額を耐用年数(計算時は×12をして月数に換算)で割って使用月数を掛けて計算する「定額法」と、減価償却未了の価額に耐用年数ごとに示されている倍率をかけて使用月数÷12を掛けて計算する「定率法」の2つです。
個人事業において使用する計算方法として所得税法で定められている方法は「定額法」です。
なお、農地などの「土地」については使用し続けても価値が下がらないとされ、減価償却を行いません。

貸倒引当金

ここでは青色申告の場合のみ認められる貸倒引当金について解説します。
貸倒引当金とは、将来見込まれる「貸倒」すなわち代金後払いで販売やサービスを提供した場合の代金回収不能部分についてその金額を決算時にあらかじめ損失計上するものです。
理論的には将来の回収不能額の予想額を貸倒割合の過去実績や将来の倒産確率を基に見込んで損失計上します。しかしながら、小規模な事業者にとってこの方法による計算は時間的にも能力的にも困難な方法です。そこで、個人事業者については確定申告の際売掛金や未収入金などの未回収債権の5.5%を貸倒引当金として損失計上できることになっています。この計算は毎年年末時点の未回収債権を用いて計算することになっており、前年度計上した貸倒引当金は一旦取崩し利益計上します。
なお、倒産や債務免除等により実際に回収不能となった場合は回収不能となった金額について貸倒損失を計上することになっています。

確定申告のスケジュール

ここで確定申告のスケジュールを載せておきます。
・所得税 毎年2月16日から3月15日(土日の場合は次の月曜日)まで
・消費税 毎年2月16日から3月31日(土日の場合は次の月曜日)まで
なお、2020年と2021年は新型コロナウイルス感染拡大に伴う密防止のため、4月15日までに延長されました。
上記のスケジュールを踏まえますと、12月31日付で決算を行うために、遅くとも2月中旬までには1年分の記帳を済ませて申告書を作成するのがベストです。よく確定申告の際年明けになって1年分をまとめて記帳される方がいらっしゃいますが、間違いが多くなり春からの農作業スケジュールにも影響が出ますので、毎月なるべく時間を作って記帳することをお勧めします。

おわりに

今回は決算及び確定申告についてお話しました。決算と確定申告は年1回のみであるため、必要な手続きや実務上のポイントを忘れがちです。年1回という意味では農作業と似ているところですが、専門知識がいるということで税理士などの力を借りている方も多いと思います。
今回のテーマを通じてその専門的な内容がどのようなものなのかご理解いただき、自ら確定申告される方は勿論のこと、税理士などに委託する場合もどのようなことをしているのか知っていただければ幸いです。

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