公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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農業の会計・税務⑤

農業の会計・税務⑤

2021/09/17

農業の会計・税務⑤

農業にも数字による経営管理の重要性が増しています。また、税金も付き物です。農業に関する会計と税務について特徴的なことを解説します。

農業法人の決算・確定申告について

前回は個人の農家における決算・確定申告についてお話しました。今回は法人経営の場合の決算・確定申告についてお話しました。
テーマは以下の通りです。
・青色申告制度
・法人税及び地方税の計算方法
・減価償却と貸倒引当金の算入制限
・交際費の算入制限
・寄附金の算入制限
・消費税の経理
・確定申告のスケジュール
なお、今回は法人で農業を営んでいる方向けの内容です。農業法人以外の法人に通用するお話も多いですが、農業法人向けの内容であることをご了承ください。

青色申告制度

個人同様、法人にも青色申告制度があります。会計帳簿をきちんと記帳して正確に確定申告を行うことを目的とした制度で、正規な簿記の方法で会計帳簿を記帳して保存することを条件としていることは個人の場合と同じです。
法人の場合の特典は以下の通りです。
・欠損金(法人税法における赤字)の次年度以降における繰越控除
・(資本金1億円以下の中小法人の場合)欠損金発生時の過年度納付額の繰戻還付
・特定の設備投資における特別償却(初年度に多額の減価償却費を計上できる制度)
・試験研究費や特定の機械取得における税額控除
青色申告をしようとする場合、開始する年度の前日(例えば3月末決算の場合前年度の3月31日)までに税務署に届出をします。また、新規開業により青色申告をしようとする場合は開業から3か月以内に届出をします。

法人税及び地方税の計算方法

法人税の計算方法は、個人の所得税と計算方法が異なります。
法人は特定の事業のために設立されているため、所得を区分することなく法人で単一の所得に税率をかけて税金を計算します。所得計算も所得税のように申告書上で決算書を作るのではなく、会社法などの要請に基づき別途作成した決算書の損益に申告書で法人税法で求められる加減算調整を入れる形で行います。
税率は、中小法人の場合年間所得の800万円以内の部分に軽減税率がありますが、それ以外は単一税率であり、所得税のように所得水準によって税率が変わる累進税率ではありません。
また、地方税(都道府県民税、市町村民税、事業税)については個人の場合市町村が所得税の申告書を基に税金計算しますが、法人の場合自ら(あるいは税理士に依頼して)税金計算し各都道府県、各市町村に申告書を提出します。理由は法人の場合従業員の常駐する事業所がある全ての都道府県、市町村に課税されるためです。大規模な農業法人ですと複数の市町村に農場・牧場があるケースもあるかと思います。その場合、法人全体の所得を従業員数や拠点数割合で按分して各都道府県、各市町村に申告します。

減価償却と貸倒引当金の算入制限

減価償却と貸倒引当金の内容については、前回第4回でお話しましたのでそちらをご覧いただく形にして、今回は法人税計算特有の技術的な話をします。
先述の通り法人税計算は決算書の損益に申告書で法人税法で求められる加減算調整を入れる形で行います。減価償却費や貸倒引当金繰入額は法人税法の規定で決算書に費用として計上する(法人税法の用語では「損金経理する」)必要があります。それでも法人税法では費用計算を各法人の裁量に任せることによる過度な租税回避を防ぐため、計上額に制限を設けています。決算書に法人税法上の制限額を超える減価償却費や貸倒引当金をして差し支えありませんが、その場合申告書で制限額を超える金額を決算書上の損益に加算して調整します。
理論的には現実的に固定資産の費消度や将来の貸倒見込を予測して計算するのですが、現実的には困難であることも多く、決算書上の減価償却費及び貸倒引当金繰入額を法人税法上の制限額に合わせる実務が多いです。

交際費の算入制限

法人税では接待、贈答に関する経費である交際費に計上制限があります。理由は事業に関係なく支出することができる交際費を意図的に多額に使うことにより租税回避を図るのを防止するためです。
農業法人に多い中小法人の場合、800万円または飲食費の50%のうちいずれか大きな金額まで経費とすることが出来ます。農業の場合、多額に接待や贈答をする方は少ないと思いますが、頭の片隅に入れておいてください。

寄附金の算入制限

寄付金は個人経営の場合事業経費とならず、所得控除の形で差引するのですが、法人の場合全ての支出が決算に反映されるため寄付金も決算書上経費として計上されます。しかしながら、寄付金は何かの対価として支出しないため先述の交際費同様、意図的に多額に支出することで租税回避の手段にすることが出来ます。そのため、算入制限が設けられています。
具体的には、個人の所得控除に合わせるため自治体への寄付には制限がなく、赤十字社や私大などの特定公益増進法人への寄付は、他の寄付金とは別に控除制限額を計算し優遇を図っています。
寄附金(法人税法では「付」ではなく「附」で統一されています)の算入制限額は下記国税庁HPリンクをご参照ください。

消費税の経理

ここからは消費税の経理についてお話します。消費税申告・納付の仕組みについては第2回で解説していますので、今回は割愛します。
販売時に預かった消費税及び購入時に支払った消費税の会計処理には、「税込方式」と「税抜方式」の2種類があり、文字通り「税込方式」は売上や仕入、経費などの金額を税込で記帳するもので、「税抜方式」は売上や仕入、経費などの金額を税抜とし、消費税部分の金額を別途「仮受消費税」または「仮払消費税」という科目で記帳する方式です。
決算に当たって計算した消費税の納付額は「未払消費税」として負債計上します。このとき税込方式の場合、同額を「租税公課」として費用計上します。一方、税抜方式の場合はやや複雑ですが、会計年度内に計上された「仮受消費税」または「仮払消費税」を取り消し、「未払消費税」と「仮受消費税ー仮払消費税」との差額を「雑収入」または「租税公課」として計上します。

確定申告のスケジュール

法人の場合、確定申告は各法人が定款で定める決算年度末から2か月以内に行うことになっています。したがって、確定申告期限の日付が法律で定まっている個人と異なり、法人によって確定申告を行う時期が異なります。農業法人の場合、個人と同じ12月末または農繁期前で多くの企業が採用する3月末とするケースが多いようです。

おわりに

今回は農業法人における決算及び確定申告についてお話しました。決算と確定申告は年1回のみであるため、必要な手続きや実務上のポイントを忘れがちです。年1回という意味では農作業と似ているところで、法人税計算は個人の場合以上に専門知識がいるということで税理士などの力を借りている方も多いと思います。
今回のテーマを通じてその専門的な内容がどのようなものなのかご理解いただき、自ら確定申告される方は勿論のこと、税理士などに委託する場合もどのようなことをしているのか知っていただければ幸いです。

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