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【2022年12月リライト】インボイス解説シリーズ④

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【2022年12月リライト】インボイス解説シリーズ④|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ

【2022年12月リライト】インボイス解説シリーズ④|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2022/12/15

目次

    はじめに

    インボイス解説シリーズ4回目の今回は、インボイス制度導入後の経理と申告の実務への影響について詳しく解説します。
    当然ですがインボイス制度対応は導入時の請求書や領収書、レシート等のインボイス対応だけで終わるわけではありません。インボイス制度開始後の実務対応こそが販売先への信用と仕入税額控除による節税につながるのです。実務でインボイスが登場するのは来年10月からの話ですが、実務対応できるようにする準備は制度開始前から行う必要があります。そこで、今回のシリーズで必要な実務対応をご理解いただき、実際の準備に役立ててくださると幸いです。
    なお、インボイス解説シリーズの構成は以下の通りです。
    第1回 インボイス制度の概要
    第2回 インボイスに必要な事項
    第3回 インボイス制度導入対応とスケジュール
    第4回 インボイス制度導入後の事務と消費税申告(今回)
    第5回 国税庁Q&Aの解説その1
    第6回 国税庁Q&Aの解説その2
    第7回 国税庁Q&Aの解説その3
    第8回 国税庁Q&Aの解説その4
    今回の記事の内容は令和4年(2022年)11月時点の法令及び国税庁Q&Aの内容に基づいています。

     

    インボイス交付の実務

    インボイス交付の実務というタイトルを付けていますが、あくまで従来から行っている販売事務の一環で行うものであり、事務作業を大きく変えるものではありません。インボイス交付実務は今まで通り販売した商品やサービスに関する領収書、レシート、納品書、請求書などを相手先に交付すればよいのです。
    とはいっても、交付する書類はインボイス適格でなければなりません。そこで、万が一インボイスと認められない形で領収書などを交付し、相手からインボイス適格での再発行を求められた場合の対応を考えてみます。適格とされるには以下の6つの記載事項(不特定多数と取引する業者の簡易適格請求書の場合⑥は不要)

    1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
    2. 課税資産の譲渡等を行った年月日
    3. 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡である旨)
    4. 課税資産の譲渡等の税抜価格又は税込価格を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
    5. 税率ごとに区分した消費税額等
    6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

    が記載されていればよいのです。システムの不具合や改修遅れなどですぐに印字対応できない場合は、後日対応できるようになったときに発行することになります。また、インボイスは一つの書類だけで上記記載要件がそろっている必要はなく、例えば、請求書には1ヶ月の納品書記載の合計額を記載し、取引ごとの取引日、取引内容、金額、適用税率についてはその都度発行する納品書に記載するなど、書類相互で簡単に参照できる形にすることで複数の書類にまたがって記載事項が具備できていれば構わないことになっています(インボイスQ&A Q58)。書類の形式も電子データまたは紙面のいずれかに統一する必要はなく、複数の書類の組み合わせでインボイスの要件を満たす場合電子データと紙面の組み合わせでも構いません。
     

    インボイス導入による経理実務への影響

    インボイス導入に伴う実務対応は発行・交付のみではありません。経理実務への対応こそが重要です。ここからインボイス制度導入に伴う経理面での対応をお話いたします。
    インボイス制度が導入されると原則インボイス保存が消費税申告における仕入税額控除の要件になることはこれまでの解説で何度か申し上げています。単に保存するだけが要件でしたら現行の領収書なども仕入税額控除の要件として保存が求められています。インボイス制度が導入されると、消費税計算においてこれまで会計帳簿に記録していた仕入や経費の年間税込合計から税率割合をかけて割戻す形で仕入税額控除額を計算していた「割戻し計算」だったものが、各取引単位の消費税額を合計して仕入税額控除額を計算する「積上げ計算」が原則的な計算方法になります。このため、仕訳帳など会計帳簿に記帳する消費税額はインボイスに記載された法人税額を厳密に入力することが原則になります。
    なお、インボイス保存がない仕入・経費についても経費計上はできますが、消費税非課税取引となり仕入税額控除を受けられないことになります。もっとも、インボイス交付が免除されている取引については一定事項を会計帳簿に記載すれば仕入税額控除を受けられますし、令和11年(2029年)9月30日まではインボイス交付が免除されていない取引でインボイスによる証拠がない場合でも「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を会計帳簿に追加記載すれば仕入税額相当額の80%または50%の仕入税額控除を受けることができます。

     

    デジタルインボイス

    インボイスは書類であるため電子化、ペーパレス化とも無縁ではありません。そこでこの項目で電子化についてお話しさせて頂きます。
    電子化と言っても単に紙がPDFなどの電子ファイルに変わるだけの場合(Digitization,デジタイゼーション)もあれば、電子受発注や電子決済など業務電子化の場合(Digitalization,デジタライゼーション)もあります。さらに近年は業務効率化の一環としてデジタル技術を取り入れるDX(デジタルトランスフォーメーション,Digital transformation)も注目されています。電子化を推進するに当たり電子化されたインボイスのデータ形式がバラバラだと却って煩雑になりますし、やり取りが取引先によってメールだったりクラウドだったりバラバラでも却って非効率になります。そこで、デジタルインボイスの形式及びやり取りするための情報規格を標準化し、事務効率化をはかるため、ソフトベンダを中心にデジタルインボイス推進協議会(EIPA)が設立され、Peppol(ぺポル)という国際的な標準規格を用いてインボイスの電子的なやり取りと事務の効率化を推進すべく活動しています。詳細はEIPAホームページをご参照ください。ここで説明したインボイスはEIPA発足当初「電子インボイス」と呼ばれていましたが、単なる紙面書類の電子データ化ではなく、事務そのものの電子化や効率化をデジタル技術で推進することが目的であることから令和4年(2022年)6月1日から「デジタルインボイス」と呼称が変更されました。

     

    インボイス交付と事務のDX

    ここでは電子インボイスによる事務の効率化についてもう少し深くお話しします。
    先述の通り、単にインボイスを電子データ化しただけではあまり業務が効率化されません。というのは、インボイスを作成するために手入力をする手間やインボイスをみて会計システムに仕訳を入力する手間は変わらないからです。インボイスの発行、交付、インボイスからの記帳も自動化されることにより業務が大幅に効率化されるのです。デジタルインボイス推進協議会(EIPA)でもインボイスの電子化以上にDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務の効率化を主眼に置いてデジタルインボイスについての議論がなされています。
    一方、レシートや領収書など不特定多数に交付する書類の電子化については、多くの消費者が絡むためかあまり進んでいないのが現状です。スマートレシートなど電子レシート自体は日本国内に既にあるのですが、導入した事業者はまだ限られています。インボイスとは直接関係ない話ですが、今後ペーパレスやキャッシュレスの進展によって電子レシートの推進及び電子レシートのデジタルインボイス対応の議論が進んでいくかもしれません。
    なお、令和4年(2022年)1月1日より紙で受け取った書類をスキャニングして電子保存できる要件が大幅に緩和されました。紙面であってもOCRを利用して電子情報化することで入力の手間を削減し、経理の効率化を図ることができます。

     

    インボイス導入後の消費税納税額計算と申告

    日常の事務作業に関する話から変わって、ここではインボイス制度導入後の消費税計算と申告の解説をします。
    現行の消費税法における消費税納付額計算は以下の通りです。
    納付する(還付される)消費税=売上税額-仕入税額
    納付する(還付される)地方消費税=納付する(還付される)消費税×22/78
    売上税額=年間の標準税率課税売上税込額×100÷110×7.8%+年間の軽減税率課税売上税込額×100÷108×6.24%
    仕入税額=年間の標準税率課税仕入税込額×7.8÷110+年間の軽減税率課税仕入税込額×6.24÷108

    上記の計算は年間の税込取引金額から割り戻して計算するため、「割戻し計算」と言われます。
    令和5年(2023年)10月1日以降の取引の消費税額計算は、売上税額については現行通り割戻し計算が原則なのですが、仕入税額については取引先から受け取るインボイスで具体的な消費税額がわかるため、以下の式の「積上げ計算」と言われる方法が原則となります。
    仕入税額=インボイスに記載された税額の年間合計×78÷100
    この式での税額の年間合計は標準税率と軽減税率に区分せずに合計します。なぜなら、軽減税率部分については、税額(8%)×78/100=6.24%となり、結果として割戻し計算と同じ率となるからです。また、インボイス不要な取引でインボイスが交付されない場合や経過措置でインボイスを受け取れなかった取引で仕入税額控除を受ける場合消費税額がインボイスから判明しないことから積上げ計算においては「帳簿積上げ計算」という取引ごとの消費税額を税込取引合計額から割り戻して計算した消費税額を集計対象とする方法を併用することができます。
    ここまでお読みいただいた方の中には、「地方消費税」という言葉が登場したことにお気づきの方がいらっしゃるのではないでしょうか。日常の取引で「消費税」としてかかっている金額のうち22%は厳密には「地方消費税」と言い、国ではなく都道府県の歳入となる税金です。つまり、法律上「消費税」と「地方消費税」の2つを合わせて一般的に消費税と呼ばれているのです。ただし、税額計算は単一の消費税申告書で合わせて行い、納付も税務署にまとめて行います。
    余談が長くなりましたが、消費税の計算に例外もあり、売上消費税についても交付したインボイスの控えの年間合計を集計する「積上げ計算」で行うこともできます。一方、仕入税額についても従来通り「割戻し計算」で計算することも認められます。いずれの例外を適用するメリットの一つとして端数処理の関係による節税メリットが挙げられます。ただし、売上税額は「積上げ計算」の一方仕入税額は「割戻し計算」で行うと過度な節税につながることから、売上税額、仕入税額いずれかで例外的計算方法を適用するともう一方も同じ計算方法に統一する必要があります(例:売上税額・仕入税額ともに「積上げ方式」)。
    なお、売上税額計算で「積上げ方式」を適用するためには、交付したインボイスの控えをきちんと保管し、会計帳簿にインボイスに記載した消費税額を記録する必要があります。

     

    おわりに

    今回はインボイス制度導入後の実務についてお話しました。
    インボイス制度導入と直接関係のないDX化についてもお話しました。合わせて対応すると正確で効率的な事務に貢献できます。まだ先の話でイメージがなかなか湧かないかもしれませんが、ご興味をもって何度かインボイス制度とDXについて話を聞いていただくとイメージしやすくなるのではないかと思います。
    インボイス制度導入に関する一般論的な解説は今回までです。次回以降4回にわたって、実務上特に疑問に思う方が多いであろう個別具体的な論点について国税庁のインボイスQ&Aを基に解説していきます。

     

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