インボイス解説シリーズ⑧|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/05/07
目次
はじめに
令和4年4月にインボイスQ&Aの改訂版が国税庁から公表されました。今回は改訂版で新たに盛り込まれたQ&Aと補足されたQ&Aのうち、影響が大きいものを解説します。
国外事業者の事業者登録
インボイスの発行に必要な適格請求書発行事業者登録について国内事業者の場合消費税法違反で罰金以上の刑に処され、執行終了後2年を経過していない状態でない限り登録されることになっています。一方、国外事業者の場合日本国内に事業所がある場合納税管理人の設置が必要な場合に納税管理人を設置すれば登録されますが、日本国内に事業所がない事業者(消費税法では「特定国外事業者」といいます)の場合上記の要件のほか、以下の要件を満たしていないと登録事業者となることができません。
1.消費税の税務代理権限を有する納税管理人の選定
2.納税管理人(全ての税目が対象です)の税務署への届出
3.国税の滞納が現にない状態、または、滞納があっても国税当局が容易に徴収可能な状態にあること
4.正当な理由なき消費税の無申告または国税の滞納を理由に適格請求書発行事業者の登録を取消された場合取消しから1年以上経過
(改正消費税法第57条の2第5項)
また、適格請求書発行事業者登録後、納税管理人の設置が必要になった場合に納税管理人の届出を怠ると適格請求書発行事業者登録が取り消されます(改正消費税法第57条の2第6項)。
なお、納税管理人とは日本国内に住所や居所を有しない個人、または日本国内に本社など主たる事務所を有しない法人の申告書提出など国税に関する事務を代行する者をいいます(国税通則法第107条第1項)。
(参考:インボイスQ&A Q13,Q17)
登録事業者公表サイト
インボイスにおける登録番号が正規のものであるかどうか確認できるようにするため、登録事業者公表サイト(サイトリンクはこちら)が運用され、既に登録済みの事業者については登録番号が正規のものか確認することができます。当事務所は既に適格請求書発行事業者登録済みで事業者番号を公表サイトで確認することができます(T6810547863604)。
検索はインボイスに記載されている登録番号を入力して行い、検索の結果登録されている番号ですと以下の情報が表示されます。
1.適格請求書発行事業者の氏名または名称
2.法人の場合本店または主たる事務所の所在地
3.特定国外事業者以外の国外事業者の場合国内において行う資産の譲渡に係る事務所や事業所等
4.登録番号
5.登録年月日
6.登録取消年月日、登録失効年月日
また、以下の情報については登録申請の際に追加することで追加公表されます。
1.個人事業者の「主たる屋号」、「主たる事務所の所在地等」
2.人格のない社団等の「本店又は主たる事務所の所在地」
法人と異なり個人事業者や人格のない社団等は通常税務届出を個人名および住所地で行うことから、検索する相手先が業者を特定しやすくするためのもので、当事務所も熊谷亘泰個人のみならず「公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所」の屋号で登録されています。また、旧姓や外国人の場合の通称で事業を行っている場合も登録サイトに公表させることができます。
追加事項の申請は登録申請書とは別の「適格請求書発行事業者の公表事項(変更)申出書」というう文書に記載し所轄の税務署に提出します。
なお、適格請求書発行事業者公表サイトにはWeb-API機能やデータダウンロード機能が備えられており、会計ソフトなどとの連携や業者調査などに活用できるようになっています。
(参考:インボイスQ&A Q20,Q21)
社名変更や組織変更をする場合の手続
適格請求書発行事業者になるために一度登録申請書を提出し登録された後で、社名を変更したいあるいは合同会社から株式会社に改組したいなど名称変更をする会社もあるでしょう。この場合、もう一度事業者登録し直す必要があるのでしょうか?
いいえ、再登録の必要はなく「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」という届出をすることで登録番号を変更することなく社名のみ変更することができます。むろん、登記事項の変更や法人名称や組織の変更に関する税務署への届出は別途必要になります。個人事業主の屋号や事務所所在地、旧姓表記や外国人の通称に関する変更の場合には「適格請求書発行事業者の公表事項(変更)申出書」使用します。変更届出書が受理されると適格請求書発行事業者公表サイトにも変更内容が反映されます。
なお、個人事業主が会社など法人を設立するいわゆる法人成りの場合は法律上の主体が別であることから、改めて法人独自の登録番号取得のための「適格請求書発行事業者登録申請書」を提出し、所轄する税務署での審査と登録を受けます。
(参考:インボイスQ&A Q22)
インボイス交付不要な自動販売機の範囲
消費税インボイス解説シリーズ⑤で一度取り上げていますが、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等については、消費税が課税される場合でもインボイスの交付が不要となっています。そして、ここでいう自動販売機及び自動サービス機とは、1つの機械で代金受領とサービス提供が完結する機械をいいます。今回改めてインボイス不要となる機械の例とそうではない例を列挙します。
・インボイス交付不要となる機械の例
1.飲食料品などの自動販売機
→近年飲食料品ではない物品を販売する自動販売機が増えていますが上記の定義の通りインボイス交付不要の機械に該当します。
2.コインロッカー
3.コインランドリー
4.ATM(ATM利用時の手数料が該当します)
5.鉄道や船舶の券売機
→上記の定義には該当しませんが、別の規定でインボイス交付不要とされています
・インボイス交付が必要な機械の例
1.コインパーキング精算機
2.セルフレジ
3.食券や入場券の券売機
4.ネットバンキング
5.ETCや有料道路自動精算機
→ETCについては料金所のレーンを通過する際に領収書が発行されませんが、ETCサイトで利用情報が一覧化された利用明細書を出力できるため利用明細書がインボイス対応されるものと思われます。
ネット決済についてはネットにアクセスするデバイス(装置)が機械と言えなくはありませんが、機械そのもので金銭をやり取りするわけでなく仮想空間上で決済されるため原則としてインボイスの交付が必要とご理解ください。なお、インボイス対応の領収書をサイトから電子データでダウンロードさせる形で交付することは可能ですし、メールやチャットでインボイスの要件となる情報が全て揃ったメッセージを送信する形で交付しても構いません。
(参考:インボイスQ&A Q28,Q38)
外貨建取引のインボイス
インボイスについて詳細な取扱いがこれまで数多く出ていますが、ドルやユーロなど外貨建てで取引される場合の消費税及びインボイスの取扱いは令和4年4月改訂版で初めて明らかになりました。
記載事項は原則として外貨や日本語以外の言語で記載しても構わないのですが、預り消費税の金額に該当する「税率の異なるごとに区分した消費税額等」のみ円貨で記載する必要があります。日本の税金である消費税の納税額に影響するため、消費税額だけは厳格な取扱いです。具体的な消費税額の計算は以下の4通りです。
1.消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税抜対価×TTM(対顧客直物電信相場仲値))×適用税率
2.消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税込対価×TTM)×10/110または8/108
3.消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税抜対価×適用税率)×TTM
4.消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税込対価×10/110または8/108)×TTM
いずれのパターンで計算した場合でも計算途中で発生する端数は最後の円貨建ての消費税額の段階でのみ処理します。
なお、外貨建取引で日本の消費税が課税され日本の法令に従ったインボイス交付が求められるのは、日本国内で行われる資産の譲渡やサービスの提供やインターネット取引のうち日本向けサイトでの取引(業者が適格請求書発行事業者登録をしている場合に限ります)です。
(参考:インボイスQ&A Q56)
出精値引きをした場合の取扱い
一度に複数の商品やサービスを受注した場合や工事で複数の作業をまとめて請け負う場合、それぞれの商品や業務の価格を合算して出た金額の端数を切り捨てきりの良い金額で販売するいわゆる「出精値引き」を行う場合があります。出精値引きは見積の段階で提示する場合もあれば、取引後請求時に提示する場合もあります。提示のタイミングによって値引のインボイスへの反映の仕方が異なります。
1.取引完了後に値引きする場合(例:請求時値引、竣工後値引)
取引完了後の値引きの場合原則として「適格返還請求書」と呼ばれる消費税返還に関するインボイスを交付しますが、インボイスに該当する請求書と一体にしても構いません。ただし、食品と酒類の一括販売など値引対象が軽減税率8%部分と10%部分の2つにまたがる場合はそれぞれの税率ごとに区分して値引額を記載する必要があります。この場合、値引対象は売手が指定した商品やサービスに紐づけて按分します。
2.これから取引するものに対する値引きの場合(例:見積時値引)
これから取引する場合はまだ消費税課税がなされていないため、適格返還請求書ではなく、通常のインボイスに値引きを反映させます。この場合、値引き対象は特定の商品やサービスではなく取引全体となり、取引する商品に軽減税率8%部分と10%部分の2つがある場合は値引前の税抜価格ベースで値引額をそれぞれの税率区分に按分します。その後、按分した値引額を税抜の本体価格部分と消費税区分に分解してそれぞれ請求書等に記載します。具体的には、以下の通りです。
①値引額の按分
8%部分=値引額×値引前の8%対象本体価格÷値引前の本体価格合計
10%部分=値引額×値引前の10%対象本体価格÷値引前の本体価格合計
②8%部分の分解
値引額のうち本体価格部分=8%部分値引額×100/108
値引額のうち消費税部分=8%部分値引額×8/108
③10%部分の分解
値引額のうち本体価格部分=10%部分値引額×100/110
値引額のうち消費税部分=10%部分値引額×10/110
(参考:インボイスQ&A Q58)
インボイス制度開始前後にまたがる取引の請求書
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から開始され、開始日以降の取引に関してインボイス対応が必要になります。しかしながら、場合によっては請求締日を月末以外の日にする場合があります。例えば毎月20日締め請求の場合、インボイス対応が必要となる請求書は2023年9月21日~10月20日取引分となり、インボイス制度開始前と開始後の取引がそれぞれ請求対象として記載されることになります。この場合、インボイス制度開始前の9月21日~30日の取引と10月1日~20日の取引を区分しそれぞれについて税率別の取引金額と消費税を表示する必要があります。ただし、請求書を別々にする必要はなく1通の請求書で区分することで構いません。もちろん、登録番号などインボイスの要件となる記載事項は漏れなく必要です。
なお、適格請求書発行事業者登録日が2023年(令和5年)10月2日以降になる場合、登録前はインボイスを発行することができないとされているため、登録前と登録後の取引を区分しそれぞれについて税率別の取引金額と消費税を表示することにご留意ください。
(参考:インボイスQ&A Q63)
電子請求書等の保存
「インボイス交付不要な自動販売機の範囲」の箇所の最後に触れましたが、インボイスの交付は紙面でなくてよく電子データでのやり取りで構いません。ここでは、電子データでインボイスを受取った場合の保存方法についてお話します。
消費税法上の取扱いは、整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面で保存することができることになっています(新消費税法施行規則第15条の5第2項)。しかしながら、所得税法や法人税法の取扱いは以前の記事(リンクはこちら)でお話しましたが、2022年(令和4年)の取引から電子データのまま整然とした形で保存することになっており(ただし、「宥恕規定」というものにより2023年(令和5年)までに電子データの電子保存体制を整えればよいことになっています)、インボイスに該当する書類が同時に消費税または法人税の経費証憑を兼ねることから、電子データのまま整然と保存することをお勧めします。保存方法の詳細は以下のリンクをご参照ください。
電子領収書・請求書等の保存
なお、単なるインボイスの電子データの枠を超えて会計帳簿への記帳や決済処理、入金確認事務の効率化に資する電子インボイスの統一規格整備が進められており、インボイス導入後データの電子化の流れが進んでいくものと思われます。電子インボイスの詳細につきましてはEIPA電子インボイス推進協議会のHPをご覧ください。
EIPA|電子インボイス推進協議会HP
(参考:インボイスQ&A Q69)
複数の課税期間(会計年度)にまたがる仕入税額控除の計算
課税期間は売手である交付事業者と買手である受取事業者で異なることがあります。課税期間末日の月が異なることはよくあります(例:交付事業者は3月31日決算法人、受取事業者は個人事業者(12月31日決算))が、場合によっては日にちも異なることがあります(例:交付事業者は3月15日決算法人、受取事業者は3月31日決算法人)。このような場合、請求書の締日が交付事業者側の末日に合わせているケースが多くあります。例えば、3月15日決算法人が交付する請求書は毎月15日締めで発行・交付され、3月31日決算の受取事業者にとっては3月16日から4月15日取引分の請求書について課税期間がまたがることになります。
課税期間をまたがる場合、請求書の中身を分解し3月16日~31日の取引と4月1日~15日の取引を別々の伝票で仕入・経費計上処理を行います。ここまでは従来と変わらないのですが、インボイス制度が開始されると仕入税額控除の計算方法が変わり、年間の税込仕入額を割り返して消費税額を算定する割戻し計算から、インボイスに記載された消費税額の年間合計を集計して算定する積上げ計算が原則になるため、課税期間において支払った消費税額を正確に把握する必要があります。今回の例の場合インボイス適格の請求書に記載される消費税額は3月16日~4月15日の1ヶ月間の消費税額合計のみ記載されることから、3月31日決算法人が受取った場合請求書に記載された消費税額を税抜本体価格や各取引の消費税額を基に3月16日~3月31日分と4月1日~4月15日分に按分する必要があります。
(参考:インボイスQ&A Q100)
登録事業者でない事業者からの仕入取引に関する控除税額計算
適格請求書発行登録事業者でない事業者からの仕入や経費に関しては原則として消費税の仕入税額控除を受けることができなくなりますが、以下の期間においては経過措置として一定割合の仕入税額控除を受けることができます。
1.2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日 仕入税額相当額の80%を控除可能
2.2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日 仕入税額相当額の50%を控除可能
では、実際に申告する際の消費税計算はどのように行えばよいのでしょうか?
先ほどの説明で仕入税額控除する消費税の計算はインボイスに記載された消費税額の年間合計を合算する積上げ計算方式が原則と申し上げましたが、経過措置で控除できる消費税についても積上げ計算をします。具体的には、経過措置の対象となる取引ごとに消費税額を算出し、算出した消費税額に80%または50%をかけて控除できる仕入税額を算出します。
また、例外的に年間の税込仕入・経費を合計した金額から消費税額を割り返して計算する割戻し計算方式を適用して算定する場合、経過措置が適用される仕入・経費の税込金額を年間合計して合計金額から割り返して消費税額を算出して、算出した消費税額に80%または50%をかけて控除できる仕入税額を算出します。
(参考:インボイスQ&A Q101)
おわりに
今回は国税庁から公表されているインボイスQ&A令和4年4月改訂版の中から特に関心のある方が多いであろう新規追加項目及び改訂項目を取り上げて説明いたしました。令和4年4月版ではこれまでのQ&Aでは取り上げられていなかった主なテーマとして、
・国外事業者の登録や外貨建取引など国際的な事柄
・事業者登録前後や会計期間をまたがる場合など期間またがりに関する事柄
・令和4年税制改正によって変更があった事柄
がありました。記事アップ時点の2022年(令和4年)5月時点ではインボイス制度開始まで1年半弱となり、本格的に対応を検討すべき時期となっています。その一方、1年以上あることからインボイス対応実務が進むにつれてさらに疑問点が出てくると思われます。今後もインボイスQ&Aの追加・改訂があると思われますので、その都度影響の大きい追加事項や改訂事項をこのブログで取り上げて説明する予定です。
インボイス解説シリーズは2021年(令和3年)7月より随時アップしています。以下このシリーズのリンクを掲げます。
第1回 インボイス制度の概要
第2回 インボイスに必要な事項
第3回 インボイス制度導入対応とスケジュール
第4回 インボイス制度導入後の事務と消費税申告
第5回 国税庁Q&Aの解説その1
第6回 国税庁Q&Aの解説その2
第7回 国税庁Q&Aの解説その3