インボイス解説シリーズ⑧|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/12/09
目次
はじめに
令和5年(2023年)10月1日より開始される適格請求書(インボイス)に関して、個別具体的な論点を解説していきます。
インボイス解説シリーズ5回目~8回目の4回で、インボイス制度に関する細かい論点・疑問点を国税庁Q&Aに載っているものの中から解説していきます。今回は4回目で、の適格請求書等保存方式に係るQ&A(インボイスQ&A)のうち、令和4年(2022年)4月と11月に追加された項目を中心に取り上げています。
1回目~4回目の4回でインボイス制度に関してほとんどの事業者に共通する一般的な論点を解説しました。
第1回 インボイス制度の概要
第2回 インボイスに必要な事項
第3回 インボイス制度導入対応とスケジュール
第4回 インボイス制度導入後の事務と消費税申告
第5回 国税庁Q&Aの解説その1
第6回 国税庁Q&Aの解説その2
第7回 国税庁Q&Aの解説その3
第8回 国税庁Q&Aの解説その4(今回)
わかりやすく解説するよう心掛けてはいますが、抽象的な話も多くイメージしにくいかと思います。そこで、今回は実際の業務がどうなるのかイメージしやすくなるよう、細かい論点を取り上げることにしました。
全ての疑問について触れることは難しいですが、参考になることがあれば幸いです。なお、この記事の内容は令和4年(2022年)11月改訂版Q&Aの内容に基づいています。
国外事業者の事業者登録
国内事業者の場合、消費税法違反で罰金以上の刑に処され執行終了後2年を経過していない状態でない限り、インボイス発行に必要な適格請求書発行事業者の登録されることになっています。一方、国外事業者の場合日本国内に事業所がある場合納税管理人を設置していれば登録されますが、日本国内に事業所がない事業者(消費税法では「特定国外事業者」といいます)の場合上記の要件のほか、以下の要件を満たしていないと登録事業者となることができません。
- 消費税の税務代理権限を有する納税管理人の選定
- 納税管理人(全ての税目が対象です)の税務署への届出
- 国税の滞納が現にない状態、または、滞納があっても国税当局が容易に徴収可能な状態にあること
- 正当な理由なき消費税の無申告または国税の滞納を理由に適格請求書発行事業者の登録を取消された場合取消しから1年以上経過
(改正消費税法第57条の2第5項)
また、適格請求書発行事業者登録後、納税管理人の設置が必要になった場合に納税管理人の届出を怠ると適格請求書発行事業者登録が取り消されます(改正消費税法第57条の2第6項)。なお、納税管理人とは日本国内に住所や居所を有しない個人、または日本国内に本社など主たる事務所を有しない法人の申告書提出など国税に関する事務を代行する者をいいます(国税通則法第107条第1項)。
(参考:インボイスQ&A Q13,Q17)
社名変更や組織変更をする場合の手続
適格請求書発行事業者になるために一度登録申請書を提出し登録された後で、社名を変更したいあるいは合同会社から株式会社に改組したいなど名称変更をする会社もあるでしょう。この場合、もう一度事業者登録し直す必要があるのでしょうか?
いいえ、再登録の必要はなく「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」という届出をすることで登録番号を変更することなく社名のみ変更することができます。むろん、登記事項の変更や法人名称や組織の変更に関する税務署への届出は別途必要になります。個人事業主の屋号や事務所所在地、旧姓表記や外国人の通称に関する変更の場合には「適格請求書発行事業者の公表事項(変更)申出書」使用します。変更届出書が受理されると適格請求書発行事業者公表サイトにも変更内容が反映されます。
なお、個人事業主が会社など法人を設立するいわゆる法人成りの場合は法律上の主体が別であることから、改めて法人独自の登録番号取得のための「適格請求書発行事業者登録申請書」を提出し、所轄する税務署での審査と登録を受ける必要があります。
(参考:インボイスQ&A Q22)
外貨建取引のインボイス
インボイスについて詳細な取扱いがこれまで数多く出ていますが、ドルやユーロなど外貨建てで取引される場合の消費税及びインボイスの取扱いは令和4年4月改訂版で初めて明らかになりました。
記載事項は原則として外貨や日本語以外の言語で記載しても構わないのですが、預り消費税の金額に該当する「税率の異なるごとに区分した消費税額等」のみ円貨で記載する必要があります。日本の税金である消費税の納税額に影響するため、消費税額だけは厳格な取扱いです。具体的な消費税額の計算は以下の4通りです。
- 消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税抜対価×TTM(対顧客直物電信相場仲値))×適用税率
- 消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税込対価×TTM)×10/110または8/108
- 消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税抜対価×適用税率)×TTM
- 消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税込対価×10/110または8/108)×TTM
いずれのパターンで計算した場合でも計算途中で発生する端数は円貨建ての消費税額計算が完了した段階でのみ処理します(切り捨て、切り上げ、四捨五入いずれも可)。
一方、外貨建取引のインボイスを受け取った場合の仕入消費税の取扱いは以下の通りです。
- 請求書等積上げ計算(各インボイスに記載の消費税額を集計して課税期間の消費税を計算する方法)の場合
各仕入先からのインボイスに記載された税率別円建消費税額をそのまま消費税額として集計 - 帳簿積上げ計算(取引ごとに税込額×10/110あるいは8/108、または税抜額×適応税率から消費税額をしたものを集計して課税期間の消費税を計算する方法)の場合
以下のいずれかの方法で計算した消費税額を集計(計算した消費税額に端数が生じた場合は切捨てまたは四捨五入)
消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税抜対価×TTM(対顧客直物電信相場仲値))×適用税率
消費税額=(税率ごとに区分した外貨建ての税込対価×TTM)×10/110または8/108 - 割戻し計算(年間の税込取引総額から10/110あるいは8/108をかけて割り戻す形で課税期間の消費税を計算する方法)の場合
割戻し計算を行う際、受領した企業が採用している方法で円換算した税込の取引金額を採用
なお、外貨建取引で日本の消費税が課税され日本の法令に従ったインボイス交付が求められるのは、日本国内で行われる資産の譲渡やサービスの提供やインターネット取引のうち日本向けサイトでの取引(業者が適格請求書発行事業者登録をしている場合に限ります)であり、輸入や海外でのサービスの提供、海外向けサイトでの取引については日本版インボイスの対象外です。
(参考:インボイスQ&A Q48,Q59,Q109)
出精値引きをした場合の取扱い
一度に複数の商品やサービスを受注した場合や工事で複数の作業をまとめて請け負う場合、それぞれの商品や業務の価格を合算して出た金額の端数を切捨て、きりの良い金額で販売するいわゆる「出精値引き」を行う場合があります。出精値引きは見積の段階で提示する場合もあれば、取引後請求時に提示する場合もあります。提示のタイミングによって値引のインボイスへの反映の仕方が異なります。
- 取引完了後に値引きする場合(例:請求時値引、竣工後値引)
取引完了後の値引きの場合原則として「適格返還請求書」と呼ばれる消費税返還に関するインボイスを交付しますが、インボイスに該当する請求書と一体にしても構いません。ただし、食品と酒類の一括販売など値引対象が軽減税率8%部分と10%部分の2つにまたがる場合はそれぞれの税率ごとに区分して値引額を記載する必要があります。この場合、値引対象は売手が指定した商品やサービスに紐づけて按分します。 - これから取引するものに対する値引きの場合(例:見積時値引)
これから取引する場合はまだ消費税課税がなされていないため、適格返還請求書ではなく、通常のインボイスに値引きを反映させます。この場合、値引き対象は特定の商品やサービスではなく取引全体となり、取引する商品に軽減税率8%部分と10%部分の2つがある場合は値引前の税抜価格ベースで値引額をそれぞれの税率区分に按分します。その後、按分した値引額を税抜の本体価格部分と消費税区分に分解してそれぞれ請求書等に記載します。具体的には、以下の通りです。
①値引額の按分
8%部分=値引額×値引前の8%対象本体価格÷値引前の本体価格合計
10%部分=値引額×値引前の10%対象本体価格÷値引前の本体価格合計
②8%部分の分解
値引額のうち本体価格部分=8%部分値引額×100/108
値引額のうち消費税部分=8%部分値引額×8/108
③10%部分の分解
値引額のうち本体価格部分=10%部分値引額×100/110
値引額のうち消費税部分=10%部分値引額×10/110
(参考:インボイスQ&A Q61)
インボイス制度開始前後にまたがる取引の請求書
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から開始され、開始日以降の取引に関してインボイス対応が必要になります。しかしながら、場合によっては請求締日を月末以外の日にする場合があります。例えば毎月20日締め請求の場合、インボイス対応が必要となる請求書は2023年9月21日~10月20日取引分となり、インボイス制度開始前と開始後の取引がそれぞれ請求対象として記載されることになります。この場合、インボイス制度開始前の9月21日~30日の取引と10月1日~20日の取引を区分しそれぞれについて税率別の取引金額と消費税を表示する必要があります。ただし、請求書を別々にする必要はなく1通の請求書で区分することで構いません。もちろん、登録番号などインボイスの要件となる記載事項は漏れなく必要です。
一方、インボイスを受領する買手において仕入消費税について積上げ計算を採用するため対象期間の消費税額を把握する必要がある場合、取引日別の取引金額や検針結果など取引事実に基づいてインボイス制度開始前と開始後の取引に消費税額を按分するか、インボイス制度開始後の取引に関する消費税額を明記したインボイスの交付を求める必要があります。
なお、適格請求書発行事業者登録日が2023年(令和5年)10月2日以降になる場合、登録前はインボイスを発行することができないとされているため、登録前と登録後の取引を区分しそれぞれについて税率別の取引金額と消費税を表示することにご留意ください。
(参考:インボイスQ&A Q67)
電子請求書等の保存
「インボイス交付不要な自動販売機の範囲」の箇所の最後に触れましたが、インボイスの交付は紙面でなくてよく電子データでのやり取りで構いません。ここでは、電子データでインボイスを受取った場合の保存方法についてお話します。
消費税法上の取扱いは、整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面で保存することができることになっています(新消費税法施行規則第15条の5第2項)。しかしながら、所得税法や法人税法の取扱いは以前の記事(リンクはこちら)でお話しましたが、2022年(令和4年)の取引から電子データのまま整然とした形で保存することになっており(ただし、「宥恕規定」というものにより2023年(令和5年)までに電子データの電子保存体制を整えればよいことになっています)、インボイスに該当する書類が同時に消費税または法人税の経費証憑を兼ねることから、電子データのまま整然と保存することをお勧めします。保存方法の詳細は以下のリンクをご参照ください。電子データはXMLなどデータそのものは文字の羅列であっても請求書等のフォーマットにより視覚的に確認・出力できる程度であれば必ずしもjpgやPDFなどの画像データ形式である必要はありません。
電子領収書・請求書等の保存
なお、単なるインボイスの電子データの枠を超えて会計帳簿への記帳や決済処理、入金確認事務の効率化に資するデジタルインボイスの統一規格整備が進められており、インボイス導入後データの電子化の流れが進んでいくものと思われます。デジタルインボイスの詳細につきましてはEIPAデジタルインボイス推進協議会のHPをご覧ください。
EIPA|デジタルインボイス推進協議会HP
(参考:インボイスQ&A Q71,Q72)
短期前払費用に関する仕入消費税の計上時期
将来にわたって継続して受けるサービスに対してあらかじめ一括して支払う前払費用のうち、サービスの対象期間が支払後1年以内である場合は支払時に一括して経費算入できる取扱いがあります(短期前払費用特例)。インボイス制度開始後例えば家賃や損害保険料などについて、将来の期間に関するのものとして請求された場合も支払時に一括して経費計上し仕入消費税を一括認識できるのでしょうか。
はい、インボイス制度開始後も同じ扱いのままで支払時に一括経費算入した短期前払費用に関する消費税はインボイス適格文書がある限り一括して仕入消費税認識できます。
(参考:インボイスQ&A Q88)
切手の仕入消費税を購入時に計上できるか
郵便切手や物品切手の購入は消費税非課税であり、切手を実際に使用してサービスの対価を支払ったときに経費及び仕入消費税を認識するのが原則です。一方、実務上切手の購入と使用について管理することは手間になるため、継続適用を条件に切手購入時に経費及び仕入消費税を認識することができます。インボイス開始後でもこの例外的取扱いを継続適用できるのでしょうか。
郵便切手については第5回目でお話ししましたが郵便ポストに投函した場合インボイスなしで仕入消費税を計上できるため、転売など他人への給付目的でない限り切手購入時にインボイス適格の領収書やレシートなどを保存することを条件に仕入消費税を認識することができます。また、物品切手のうち入場券などサービスを受ける際に売手に回収されるものについてもインボイスなしで仕入消費税を計上でき、同じく転売など他人への給付目的でない限り切手購入時にインボイス適格の領収書やレシートなどを保存することを条件に仕入消費税を認識することができます(自動券売機での購入の場合は3万円未満不要特例が適用されます)。
一方、物品切手を使ってサービスを受けた場合にインボイスが改めて交付される場合または手元に残った物品切手がインボイス適格のものであった場合は切手購入時ではなくサービスを受けた時点で仕入消費税を認識し、消費税額もインボイスに記載されたものとなりますので留意してください。
(参考:インボイスQ&A Q89,Q90)
複数の課税期間(会計年度)にまたがる仕入税額控除の計算
課税期間は売手である交付事業者と買手である受取事業者で異なることがあります。課税期間末日の月が異なることはよくあります(例:交付事業者は3月31日決算法人、受取事業者は個人事業者(12月31日決算))が、場合によっては日にちも異なることがあります(例:交付事業者は3月15日決算法人、受取事業者は3月31日決算法人)。このような場合、請求書の締日が交付事業者側の末日に合わせているケースが多くあります。例えば、3月15日決算法人が交付する請求書は毎月15日締めで発行・交付され、3月31日決算の受取事業者にとっては3月16日から4月15日取引分の請求書について課税期間がまたがることになります。
課税期間をまたがる場合、請求書の中身を分解し3月16日~31日の取引と4月1日~15日の取引を別々の伝票で仕入・経費計上処理を行います。ここまでは従来と変わらないのですが、インボイス制度が開始されると仕入税額控除の計算方法が変わり、年間の税込仕入額を割り返して消費税額を算定する割戻し計算から、インボイスに記載された消費税額の年間合計を集計して算定する積上げ計算が原則になるため、課税期間において支払った消費税額を正確に把握する必要があります。今回の例の場合インボイス適格の請求書に記載される消費税額は3月16日~4月15日の1ヶ月間の消費税額合計のみ記載されることから、3月31日決算法人が受取った場合請求書に記載された消費税額を税抜本体価格や各取引の消費税額を基に3月16日~3月31日分と4月1日~4月15日分に按分する必要があります。
なお、締日が継続して課税期間末日前10日以内(例:3月31日決算法人、締日は毎月20日)であれば上記の通り按分することなく、決算月締日のインボイス(例:2月21日~3月20日)のみ反映させ、決算月翌月締め(例:3月21日~4月20日)のインボイスは当月分が含まれていても翌課税期間の仕入として反映させることが可能です。
(参考:インボイスQ&A Q111)
登録事業者でない事業者からの仕入取引に関する控除税額計算
適格請求書発行登録事業者でない事業者からの仕入や経費に関しては原則として消費税の仕入税額控除を受けることができなくなりますが、以下の期間においては経過措置として一定割合の仕入税額控除を受けることができます。
1.2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日 仕入税額相当額の80%を控除可能
2.2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日 仕入税額相当額の50%を控除可能
では、実際に申告する際の消費税計算はどのように行えばよいのでしょうか。
先ほどの説明で仕入税額控除する消費税の計算はインボイスに記載された消費税額の年間合計を合算する積上げ計算方式が原則と申し上げましたが、経過措置で控除できる消費税についても積上げ計算をします。具体的には、経過措置の対象となる取引ごとに買手が消費税額を算出し、算出した消費税額に80%または50%をかけて控除できる仕入税額を算出します。
また、例外的に年間の税込仕入・経費を合計した金額から消費税額を割り返して計算する割戻し計算方式を適用して算定する場合、経過措置が適用される仕入・経費の税込金額を年間合計して合計金額から割り返して消費税額を算出して、算出した消費税額に80%または50%をかけて控除できる仕入税額を算出します。
(参考:インボイスQ&A Q112)