公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

インボイス解説シリーズ(令和5年税制改正編)

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インボイス解説シリーズ(令和5年税制改正編)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2023/04/28

目次

    はじめに

    インボイス制度への対応は進んでいますか?すでに進めたという事業者もいればインボイス制度って何?という事業者もいるでしょう。インボイス制度とは何か、具体的にどのような対応をするかどうかについて当事務所のホームページでは令和3年(2021年)7月から数回にわたり解説シリーズをブログ記事として連載し国税庁より新たな取扱いが出る度にリライト版として新しい内容や内容の変更について反映させてきました。これまで取り上げた解説シリーズの内容については以下の通りです。
    第1回 インボイス制度の概要
    第2回 インボイスに必要な事項
    第3回 インボイス制度導入対応とスケジュール
    第4回 インボイス制度導入後の事務と消費税申告
    第5回 国税庁Q&Aの解説その1
    第6回 国税庁Q&Aの解説その2
    第7回 国税庁Q&Aの解説その3
    第8回 国税庁Q&Aの解説その4
    その後インボイス制度開始に当たっての登録申請や対応準備が進むにつれて様々な意見や要望が出るようになりました。特にこれまで免税となっていた事業者に消費税負担が生じることやインボイス対応に伴う事務負担の増加に関する意見や要望が多くありました。そこで、令和5年度税制改正では消費税納税負担及び事務負担の軽減を図りインボイス制度を円滑に導入するための措置が盛り込まれました。今回のブログ記事では令和5年度税制改正で導入された措置を中心に令和5年(2023年)4月に公表された国税庁インボイスQ&Aで新たに登場したQ&Aを取り上げて解説します。

     

    取引先登録番号の確認

    インボイス制度が開始されると、請求書等に記載されている登録番号が正規に登録されているものでない場合、インボイス非適格とされ仕入税額控除を全額受けることができなくなります。そのため、国税庁に登録されている番号かどうか確認することになりますが取引先が多いと個別に相手先の番号を問い合わせることは作業時間がかかりあまりに非効率です。
    そこで以下の方法を用いることで効率的に正規の登録番号かどうか確認することができます。

    1. Web-API機能を用いて国税庁の登録番号サイトと会計システムを自動的に連携して番号の照合を行う方法
    2. データダウンロード機能を用いて国税庁の登録番号サイトから変更履歴を含む全件データを入手してそのデータと照合する方法

    よって、インターネット環境のない事業者にとってインボイス制度開始後の記帳はかなりの手間がかかることになりそうです。
    (国税庁インボイスQ&A Q22)

     

    少額な対価返還におけるインボイス交付免除

    令和5年度税制改正では原則として返還適格請求書(返還インボイス)を交付する対価返還取引のうち、1万円未満の取引について返還インボイスの発行・交付が不要とされることになりました。改正の趣旨は主に次項で説明する売り手側の振込手数料負担に伴う売上入金の差引における返還インボイス発行・交付のやり取りの手間に配慮したものです。この1万円未満の判定単位は1回の返還額(値引・割引など)単位で行い、返還対象になったものやサービスの量や適用税率には影響されません。
    例えば20種類の商品の販売価額20万円に対して1度に総額5千円の値引きを行った場合は1回の返還額が1万円未満のため返還インボイスの発行・交付は不要となります。一方、1個当たり5千円の商品20個の販売10万円に対して1個当たり千円の割引を行った場合は1回の返還額は2万円となり1万円以上のため返還インボイスの発行と相手先への交付が必要となりますのでご注意ください。
    (国税庁インボイスQ&A Q29)

     

    売手側が振込手数料を負担する場合の取扱い

    代金を銀行振込みをする際、振込手数料を受取る側である売手負担にすることがあります。買手負担であれば自ら手数料をいくら負担したか把握することができますが、売手負担の場合負担する売手は買手から情報がない限り振込額が請求額よりも少ない原因が振込手数料なのかどうか判別できません。そこで、実務上手数料が売手負担の場合売手は、

    1. 売上値引として経理し付随する消費税を売上消費税の返還として取り扱う
    2. 振込手数料として経理し付随する消費税を仕入消費税として取り扱う

    のいずれかで処理します。1.の場合返還インボイスの交付の対象となりますが売手側の都合で値引したわけではなく発行する手間が多くなります。そこで、先述した通り1回の振込に係る手数料はほとんどの場合1万円未満となるため、令和5年度税制改正で返還インボイス交付免除となりました。
    一方、2.の場合原則通りであれば手数料収入を得る銀行等からインボイスを受取る必要がありますが、振込手数料に関する書類は買手が入手しているため買手側に対して振込に関するインボイスまたは立替に関するインボイスを入手する必要があり、売手、買手ともに手間が増えます。そこで、入金額相殺の形で負担した振込手数料を売手が振込手数料として経理する場合でも消費税を売上消費税の返還として取り扱うことができるとの取扱いになりました。そのため、手数料に関する買手からのインボイス入手が不要になる上に1.と同様買手に対する返還インボイス交付も不要となります。ただし、食品販売など消費税率8%対象の取引に対する振込に対する手数料負担の場合、振込手数料の消費税率は10%ですが経理する際は消費税8%売上の返還として経理する必要があることにはご注意ください。

    (国税庁インボイスQ&A Q30,Q31)
     

    インボイス制度(登録)前後における取引のインボイス発行の要否

    物品の譲渡取引について売手では出荷日に売上を計上する一方、買手では納品検収日に売上を計上する実務が良くあります。このようなケースで売手ではインボイス制度開始前の令和5年(2023年)9月中に出荷し売上を計上する一方、買手では制度開始後に納品し仕入を計上するケースが起こります。このケースではインボイス適格の納品書等を売手は買手に交付する必要があるのでしょうか?
    このケースではインボイス適格の納品書等を交付する必要はありません。なぜならインボイス発行の要否は売手側の交付時期によって判断するからです。買手はインボイス適格の納品書を受取ることができなかったとしても従前の仕入消費税控除要件を満たした納品書であれば仕入税額控除を受けることができます。むろん、売手がインボイス制度開始前に適格請求書発行事業者登録が済み登録番号が判明している場合、インボイス制度開始前でもインボイス適格の納品書等を買い手に交付することは可能です。
    (国税庁インボイスQ&A Q38)

     

    対価前受時のインボイス発行・交付のタイミング

    保守点検サービスや年間購読などでは1年分の料金を当初契約時または契約更新時に前もって請求し受取ることがあります。このような場合インボイス適格の請求書をサービス提供または資産譲渡前に交付した場合でも利用者は仕入税額控除を受けることができるのかが問題になります。対価前受の場合でもインボイス適格となるために必要な要件を満たしていれば買手は当初契約時または契約更新時に受取った請求書を仕入税額控除を受けるためのインボイスとすることができます。なお、契約期間中途で金額の変更など条件が変わった場合、売手は改めて条件変更後の内容が記載された修正インボイスを買手に交付する必要がありますので注意が必要です。
    (国税庁インボイスQ&A Q39)

     

    工事売上におけるインボイス発行のタイミング

    工事売上に関する消費税については竣工(完成)時ではなく決算時に工事進捗度に応じて売上消費税を計上することができます(工事進行基準)。工事進行基準を適用している場合決算時にインボイスを発行し相手方に交付する必要はあるのでしょうか?
    工事進行基準は消費税法上例外的な売上消費税の計上時期の取扱いとされていることから決算の都度交付する必要はなく竣工時に相手方の求めに応じて一括交付すれば問題ありません。なお、法人税の計算においては工期が1年以上でかつ請負金額が10億円以上の工事の場合工事進行基準による売上計上が強制されますのでお間違いないようご注意ください。
    (国税庁インボイスQ&A Q40)

     

    軽減税率対象に関する記載方法

    インボイス制度導入のきっかけの一つとして複数税率導入があります。税率が複数になると税抜金額または税込金額のみの記載だと税率をかけるもしくは割り返すことで消費税額を算出ことが困難になるケースが出てきます。そこで消費税額が明記されるインボイス制度が導入されるのですが、購入した物やサービスについていずれの税率が適用されているのか確認できるようにすることがインボイス適格要件の一つになっています。
    複数税率導入時から要件とされていますが、軽減税率8%が適用された商品(飲食料品の購入、日刊の配達新聞)について軽減税率が適用されていることを明記することとされています。特に明記の仕方に決まりはなく例えば以下の方法で示すとされています。

    1. 「※」「☆」「軽」などのマークを軽減税率8%適用商品の箇所に付け、「※は軽減税率適用商品」といった説明書きを記載する
    2. 1枚の文書内で軽減税率8%適用商品の一覧と標準税率10%適用商品の一覧に区分して表示する
    3. 軽減税率8%適用商品と標準税率10%適用商品とで別々の文書にする(この場合、軽減税率8%適用商品の文書には軽減税率が適用されている旨の文言が必要です)

    ​​​​​​​(国税庁インボイスQ&A Q71)

     

    リース借手がファイナンスリースを賃貸借処理した場合のインボイスを受取るタイミング

    リースで設備等を導入し、リース期間が通常想定されている最大利用可能期間の70%以上、かつ、リース料総額が一括購入額の75%以上である場合は、実質的に分割払いでの購入とみなされるファイナンスリースといわれます。ファイナンスリースの場合実質的に買取りであるという性質からリース開始時に一括して全リース期間の仕入消費税を計上することが原則ですが、リース期間にわたってリース料を支払うことから支払うタイミングに合わせて支払ったリース料相当の仕入消費税を計上することができます。
    通常、リースではリース契約時のみ契約書や請求書が交付されるのが一般的で、支払時期の都度請求書が交付されることは少ないです。そのため、リース料支払時に支払うリース料相当の仕入消費税を計上する場合仕入消費税の根拠となるインボイスはリース開始時に交付されたリース契約書等となります。よって、リース契約期間中はリース契約書など当初契約時に交付された書類を保管し、リース契約終了後も最終支払回の支払期限日の2か月後の日から7年を経過するまでは保管する必要があります。
    (国税庁インボイスQ&A Q97)

    一定規模以下の事業者における事務負担軽減措置

    インボイス制度開始に当たり適格請求書発行事業者の登録が行われていますが、個人事業主やフリーランスについてはインボイス適格書類の保存のための事務作業負担が増える一方、免税事業者で無くなり消費税の負担が生じることを避けるため登録を控えている業者も多くあります。
    そこで令和5年度税制改正では負担を軽減し適格請求書発行事業者を増やすための方策として以下の要件を満たす事業者については、令和5年(2023年)10月1日の制度開始日から令和11年(2029年)9月30日までの6年間、1回の取引金額が税込1万円未満の取引についてはインボイス適格の書類保存なしで会計帳簿への記帳だけで仕入税額控除を受けられることになりました。

    1. 基準期間(前々事業年度)の売上が1億円未満
    2. 前事業年度の当初6か月間の売上が5000万円未満

    なお、上記の要件を満たす取引についてインボイスを保管しないで記帳する場合でも保管なしでの記帳である旨を会計帳簿に記載する必要はありませんので、念のため申し添えます。
    (国税庁インボイスQ&A Q108~Q109)

     

    小規模事業者における消費税額控除特例(2割特例)

    上述の項目で免税事業者が適格請求書発行事業者登録をしインボイス対応をする場合免税事業者ではなくなり新たに消費税負担が生じるとお話しましたが、この負担増が生じることで個人事業主となっている作家や声優を中心にインボイス制度導入反対の声が強くあがりました。この反対の声を受け適格請求書発行事業者登録がスムーズに進むよう、令和5年度税制改正で導入されたのが小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置で、消費税負担が売上消費税の2割に軽減されることから「2割特例」と言われています。以降、「2割特例」について詳しく解説します。
    「2割特例」が適用できる事業者は基準期間(個人事業主は2年前、法人は2事業年度前)の消費税課税対象となる売上高が1000万円未満で適格請求書発行事業者登録をもししなければ免税事業者になっている事業者に適用されます。そのため、中小企業であっても基準期間の売上高が1000万円以上だったために課税事業者に該当する場合には適用されませんので注意が必要です。また、以下の場合にも「2割特例」は適用されません。

    1. 前年(個人事業主)または前事業年度(法人)の開始日から6か月間の消費税課税対象売上高及び給与支給額がそれぞれ1000万円以上だった場合
    2. 相続、合併、分割等により事業を引き継いだときの免税事業者不適用の特例に該当する場合
      (ただし、相続の場合相続前から適格請求書発行事業者登録していた場合は他の不適用要件に該当しない限り「2割特例」の適用可能)
    3. 設立時資本金が1000万円以上ある等の理由で設立年度及び設立次年度において課税事業者となった場合
    4. 設立年度及び設立次年度において100万円以上の固定資産を購入し消費税の確定申告を行ったことを理由に購入年度から3年間課税事業者となることが強制となった場合
    5. 輸入消費税の適時還付などの目的で消費税の課税期間を1ヶ月または3か月に短縮している場合

    「2割特例」が適用される期間はインボイス制度開始後の令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの3年間で、令和5年10月1日より前に事業年度が開始する場合は令和5年10月1日以降の課税取引についてのみ「2割特例」特例が適用される一方、令和8年10月1日以降終了する事業年度については令和8年9月30日までの期間が含まれている期間については10月1日以降であっても事業年度終了日の取引まで「2割特例」特例が適用されます。
    「2割特例」の適用に当たっては事前の税務署への届出は必要なく申告書提出時に申告書に特例適用の旨を記載すれば適用可能で、他の消費税関連の制度と異なり一度適用すると2~3年継続しなければならないという縛りもありません。そのためある年は適用除外要件に該当した一方、翌年度は適用除外要件に該当せず適用可能になった場合、翌年度について「2割特例」を受けることが可能です。なお、「2割特例」適用可能な事業者が「2割特例」不適用に備えて簡易課税制度適用を所轄の税務署に届け出る場合、届出期限が適用対象年度初日の前日から適用対象年度末日までとなる特例があります。簡易課税制度適用を届け出た場合でも「2割特例」適用除外要件に該当しない限り申告時に簡易課税と「2割特例」のいずれか有利な方法を選択できます(ほとんどの場合「2割特例」のほうが有利です)。

    (国税庁インボイスQ&A Q111~Q114)

    おわりに

    今回は令和5年(2023年)10月1日の制度開始を目前に成立した令和5年度税制改正で新たに盛り込まれたインボイス制度の特例を中心に令和5年(2023年)4月に公表された国税庁Q&A改訂版に追加された項目を解説しました。
    当事務所のブログでは昨年12月に令和5年度税制改正大綱の紹介記事をアップし、その記事中でもインボイス制度に関する改正要望について取り上げました。実際にほぼ改正要望の通りに成立したのですが、改正大綱の記事では概要しか触れていなかったため今回詳細に取り上げることにしました。大まかなことはわかっていても細かい点については不明なこともあると思います。今回のブログ記事をお読みいただいてご理解いただければ幸いですし、さらにご不明な点がありましたら「お問い合わせはこちら」よりご質問を承ります。

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