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事業承継シリーズ4 資産・負債の評価|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2022/04/22

目次

    はじめに

    事業承継及びM&Aシリーズ4回目の今回は実行する際に重要な検討要素になる買収価格の算定に関することをお話しいたします。事業承継やM&Aの方法はいくつかありますが、どの方法を使っても買収価格の算定は欠かせません。仮に現経営者・売り手が無償で株式や持分、事業財産そのものを買い手に譲渡するいわゆる贈与の形式で当事者双方が合意して実行されたとしても譲渡対象となる資産に価値があれば税金がかかることがあります。税金に関するお話は次回お話しますが、買収価格算定のみならず税金計算においても資産価値の評価は重要です。次の項目以降で特に資産価値評価において重要な点をお話していきます。
     

    不動産の評価

    資産価値の算定の中でも特にその時々の評価額が変動し、かつ頻繁にあるのが不動産です。不動産価値の算定方法はいくつかあります。以下に例をあげます。
    土地
    1.地価を基にした評価
    2.路線価を基にした評価
    3.売買相場や近隣売買事例を基にした評価
    4.不動産鑑定士による評価
    建物
    1.減価償却による評価
    2.将来営業キャッシュフローによる評価
    3.売買相場や近隣売買事例を基にした評価
    4.不動産鑑定士による評価

    上記の他、精度はやや下がりますが簡便的な方法として固定資産税評価額を基にした評価があります。もっとも評価の信頼性が高い方法は複数の算定方法を実態に合わせて組み合わせて算定する不動産鑑定士による鑑定評価ですが、時間と報酬がかかります。そのため、時間や資金に余裕がありより正確で公正な評価を求める場合に適しています。時間や資金に余裕がなく評価の正確性よりも低コストを求める場合には不動産鑑定士評価以外の方法を使うことになります。
    不動産評価額は取得時の価格から大きく変動することがよくあります。そのため、承継及びM&Aの対象財産に不動産がある場合は何らかの方法で現在の評価額つまり時価を算定することをお勧めします。

     

    無形資産の評価

    近年、目に見えない価値に着目してM&Aが行われることがあります。こうした目に見えない価値あるものを無形資産といい、特許権や商標権など法律で制度化された知的財産に限りません。そう言っても特許権など法定化された知的財産を除くと具体的な無形資産の内容を明確にすることは難しく、仮に内容が明確になったとしても評価には難しい判断や高度な能力が求められます。そのため、事業承継やM&Aで無形資産の評価が現実的に行われる例はまだ少ないです。
    評価方法はいくつかあり、売買可能な権利であれば購入価額を基にした算定方法や売却見込額を基にした算定方法を使うことができますし、ソフトウェアなどその権利から商品やサービスの競争力をもたらされているものであれば将来の販売見込みを基にした算定方法が使えます。いずれにしても明確化された無形の価値があることで事業承継及びM&Aの成立の確率は上がります。当事者にとって価値算定は困難でも具体的な無形の価値を見出せているだけでも相手先探しや買収価格の引き上げにつながります。

     

    超過収益力(のれん)の評価

    買取価額を買い手が決める際、事業の将来性を期待して承継またはM&A対象の財産の評価額よりも高い価額に設定することがあります。この買取価額と評価額との差額をのれんまたは超過収益力と言います。のれんは具体的な期待の内容があいまいな状態で事業の将来性に期待している状態を金額的に表していると言えます。もし将来の期待の内容が具体的なもの、例えば有力取引先への売上増加やシナジー効果、新技術などがある場合は理論的にはそれら具体的なものからもたらされる将来の増収または費用削減効果を見積もり買収価額算定に役立てることになります。もちろん、見積もりには時間やコストがかかりますので現実的には買収予算の範囲内でざっくり買収価額に上乗せする形になることが多いです。ただし、仮に買収・承継した事業がなかなかうまくいかず業績不振に陥ると買い損になることもあります。のれんの多寡は当事者双方の交渉力のバランスにも左右されるところですが、できる限り継承または買収する財産の評価を正確に行うことで買い損がいくらか回避できます。
     

    偶発債務

    前項目まで資産の評価についてお話しました。承継及びM&Aの際、資産の評価は多くの当事者が気にするところです。一方で負債の評価については借入金の残債や経営者保証などは帳簿や契約書などで比較的判明しやすいのですが、帳簿だけではわからない偶発債務(隠れ負債)が存在することがあります。負債は税金計算において相手先への債務が確定するまで原則計上しないことになっている(債務確定主義)ことから、書類だけではわからないこともあります。偶発債務の例として訴訟発生による損害賠償や罰金、他者への債務保証や連帯保証、税金や社会保険料の申告漏れ及び過少申告が挙げられ多くは法的なトラブルに起因するものです。
    財産評価に当たっては承継後または買収後の思わぬ損失につながる恐れがあることから帳簿に載っている財産や負債だけでなく偶発債務の有無にも留意します。偶発債務は法的トラブルに起因するものが多いため、デューディリジェンスのうち法務・労務・税務の分野での調査がカギになります。法務・労務・税務分野の調査の結果偶発債務になる可能性のある事項が発見された場合、財務分野での調査で発見事項に関連する将来の損失を見積もり、負債の評価に加えることになります。
    事業承継やM&Aを検討される際は将来の損失につながる要因がないかについて留意し可能な限り把握し、もし判明した場合は事業承継やM&Aの中止も含めて対応策を検討することになります。

     

    価格対策①含み損資産の処分

    ここからは先代または売り手の視点での財産評価対策についてお話します。相手側の買収価額が下がる要因はいくつかありますが、特に多いのが含み損を抱える資産の存在です。含み損を抱えている資産の例を以下に挙げます。
    ・回収が長期間滞っている債権
    ・利用されていない土地や建物(いわゆる遊休不動産)
    ・長期間動きのない在庫
    ・稼働率が低調な機械装置
    ・活用されていない特許や商標などの知的財産
    ・累積赤字を抱える企業への株式や出資
    含み損を抱える資産は抱えたままですと評価額が下がりますので、下がるのであれば事業承継やM&Aが実行される前に可能な限り再活用するかまたは処分することをお勧めします。処分することで財産が無くなり当然に評価は下がりますが保有したままの状態での評価額と大して変わりませんし、税制面でも処分したほうが節税につながります。なお、税制面での詳しい説明は第5回で取り上げます。

     

    価格対策②役員退職金制度の整備

    もう一つ財産評価対策としてよく利用されるものがあります。それは役員退職慰労金制度です。事業承継やM&Aにより先代経営者などの役員が退く際に退職金を支給することを規程として整備しておくことで、事業承継やM&Aの際に退職金支払債務を計上して評価額を下げるものです。だからといって多額に支給しては資産が大きく既存し引き継ぐ側のメリットが損なわれてしまいます。また、過度な節税を税務当局から疑われる可能性もあります。そのため、一般的には規程に多くの企業で用いられている支給限度額をあらかじめ盛り込み、限度額の範囲内で支給額を決定します。
    事業承継やM&A実施後も役員が留任する場合、事業承継やM&A時点の財産は高いため評価額が高くなりそうですが、留任役員の報酬の支給が続き将来利益(キャッシュ・フロー)が下がるため、結果として役員退任と留任の場合でそれほど大きく評価額が変動しないと思われます。
    役員退職慰労金制度を導入したからといって必ずしも事業承継やM&Aの際に役員を退任・交代させなければならないわけではありませんし、事業継続性を重視し買い手から従前からの役員の留任を求められる場合もあります。
    役員退職慰労金制度を設けることは、万が一の買収価額評価に柔軟に対応できるようにするためであるとご理解ください。
     

    おわりに

    今回は事業承継やM&A対象となる財産の評価についてお話しました。評価額が高くなると金銭を伴う場合、売り手にとっては売却による臨時収入が高くなる可能性がある一方、税金が多くかかることになります。一方買い手にとっては購入資金が多く必要になる可能性があります。そのため評価額の正確な把握は極めて重要です。ただし、税金の負担は当事者によって変わってきます。そこで次回は事業承継やM&Aの際にかかる税金について解説します。

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