年末調整・確定申告で出てくる人的控除|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/11/22
目次
はじめに
年末となり年末調整の時期が近づいています。また、年明けになりますと確定申告の時期になります。その中で気づきにくい、間違いやすい控除に人的控除があります。年末調整の記事でも少し取り上げていますが、今回は人的控除についてもう少し詳しく取り上げます。年末調整及び確定申告で正しくかつ有利に適用できるようお役に立てば幸いです。
なお、今回の記事は令和6年(2024年)度の内容を取り上げます。年によって制度が異なることがありますので、令和5年度(2023年)以前の申告を改めて行う場合は別途個別にご確認ください。また、当事務所でも質問を承りますのでお問い合わせください。
配偶者控除・配偶者特別控除
はじめに特に適用する納税者が多い配偶者控除及び配偶者特別控除について取り上げます。配偶者控除は同一生計の配偶者の合計所得が48万円以内の場合に受けれられる所得控除で、夫婦どちらか一方が大部分の家計を稼ぐ世帯の家計を支える性質のある所得控除です。また、配偶者特別控除は配偶者の合計所得が48万円超~133万円以下の場合に適用が受けられる所得控除で、配偶者控除適用可能な所得を超えた場合に課税所得が急激に上がるのを防ぐための所得控除です。
夫婦双方とも合計所得が控除対象金額となっていてもいずれか一方しか受けることができません。そのため、このような場合はどちらが適用すれば夫婦全体で税額が有利なのか検討すると良いでしょう。
配偶者控除は一定ですが、配偶者所得控除は配偶者の所得によって変わります。また、令和2年(2020年)度より高所得者からの課税を強化するため、本人の所得が900万円~1000万円になると控除額が減少し、1,000万円を超えると配偶者控除及び配偶者特別控除は配偶者の所得に関わらず適用できなくなります。控除額を一覧にすると以下の通りです。
縦:配偶者合計所得 横:本人合計所得 |
900万円以内 | 900万円超 950万円以内 |
900万円超 950万円以内 |
|
48万円以下 ()は老人控除対象配偶者 (70歳以上)の場合 |
38万円 |
26万円 (32万円) 〔22万円〕 |
13万円 (16万円) 〔11万円〕 |
|
48万円超 95万円以下 |
38万円 〔33万円〕 |
26万円 〔22万円〕 |
13万円 〔11万円〕 |
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95万円超 100万円以下 | 36万円 〔33万円〕 |
24万円 〔22万円〕 |
12万円 〔11万円〕 |
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100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 |
6万円 |
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120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 |
6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 |
3万円 | 2万円 | 1万円 |
なお、配偶者控除及び配偶者特別控除は以下の場合適用されませんのでご注意ください。
- 民法の規定による配偶者ではない(いわゆる内縁関係である)
- 納税者と生計を一にしていない(夫婦が別々に生計を立てている)
- 青色申告者の事業専従者として年内に給与の支払を受けている、または白色申告者の事業専従者である
青色専従者の適用を受けて夫婦間で給与のやり取りをしている場合、給与を支払った側は支給額全額を必要経費として算入し、所得を減らすことができます。
参考:国税庁HP|No.1191 配偶者控除 国税庁HP|No.1195 配偶者特別控除
(所得税法第83条、第83条の2)
扶養控除
次に配偶者控除と並び適用している納税者が多い扶養控除を取り上げます。扶養控除は扶養家族つまり別の家族の所得によって生計を支えられている家族について適用されます。
扶養控除についても配偶者(特別)控除同様に
- 納税者と生計を一にしていない(別々に生計を立てている)
- 青色申告者の事業専従者として年内に給与の支払を受けている、または白色申告者の事業専従者である
家族の場合は適用を受けることができませんが、必ずしも親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)でなくてもよく、都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人で生計を一にしていれば適用を受けることができます。ただし、その年の12月31日時点で15歳までの子供については家計支援のための児童手当受給を国から受けられることから扶養控除の適用はありません。ただし、住民税については免税基準となる扶養家族数に15歳までの子も含まれます。
扶養控除の金額は以下の通りです。なお、表の中の年齢は対象年度の12月31日時点での満年齢をいいます。
扶養親族の区分 | 1人当たり控除額 |
一般の控除対象扶養親族 (16歳~18歳、23歳~69歳の扶養親族) |
38万円〔33万円〕 |
特定扶養親族(19歳~22歳の扶養親族) | 63万円〔45万円〕 |
老人扶養親族(下記を除く、70歳以上の扶養親族) | 48万円〔38万円〕 |
同居老親等(70歳以上の同居中の父母、祖父母等) | 58万円〔45万円〕 |
同居老親等については、入院中で1年以上同居していない場合は該当しますが、老人ホーム等生活の本拠が変わっている場合は該当しません。また主に海外から日本に出稼ぎに来ている人が安易に母国の親族を控除対象に含めることを防止する観点から、令和5(2023)年度より同一生計であるものの生活の本拠が海外にあるいわゆる非居住者の扶養親族のうち30歳以上70歳未満の人であって次に掲げるいずれにも該当しない人の分については、扶養控除が適用されません。
- 留学により国内に住所および居所を有しなくなった人
- 障害者である人
- 納税者からその年において生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている人
(所得税法第84条)
寡婦控除・ひとり親控除
次に配偶者がいない親、配偶者と離婚・死別した人に適用される寡婦控除・ひとり親控除について取り上げます。
寡婦控除は、その年の12月31日時点で
-
夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の人
-
夫と死別した後婚姻をしていない人または夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人(扶養家族の有無は問いません)
のいずれかであり、後ほど説明するひとり親に該当しない人が適用できます。所得から控除できる金額は27万円(住民税では26万円)です。
ひとり親控除は、その年の12月31日時点で婚姻をしていないことまたは配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次の3つの要件のすべてに当てはまる人が適用できます。
- その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
- 生計を一にする子(その年分の総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていない人)がいること
- 合計所得金額が500万円以下であること
ひとり親控除は令和2年(2020年)度より適用開始され、これまでの寡婦・寡夫控除では適用対象外となっていた婚姻歴のない親いわゆるシングルマザーやシングルファーザーにも一定の経済的支援を行う趣旨で導入されました。所得から控除できる金額は35万円(住民税では30万円)です。
参考:国税庁HP|No.1170 寡婦控除 国税庁HP|No.1171 ひとり親控除
(所得税法第80条、第81条)
障害者控除
次に障害者控除について取り上げます。障害者控除は本人だけでなく同一生計の配偶者や扶養家族が障害者に該当する場合該当者についても適用できます。ここでいう障害者は以下のいずれかに該当する人をいいます。
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人
(特別障害者に該当します) - 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人
(このうち重度の知的障害者と判定された人は、特別障害者に該当します) - 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
(このうち障害等級1級と記載されている人は、特別障害者に該当します) - 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人
(このうち障害の程度が1級または2級と記載されている人は、特別障害者に該当します) - 精神または身体に障害のある年齢が満65歳以上の人で、その障害の程度が(1)、(2)または(4)に掲げる人に準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人
(このうち特別障害者に準ずるものとして市町村長、特別区区長や福祉事務所長の認定を受けている人は特別障害者に該当します) - 戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人
(このうち障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの人は、特別障害者に該当します) - 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている人
(特別障害者に該当します) - その年の12月31日の現況で引き続き6か月以上にわたって身体の障害により寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする(介護を受けなければ自ら排便等をすることができない程度の状態にあると認められる)人
(特別障害者に該当します)
障害者控除の金額は1人当たり以下の通りです。
区分 |
控除額 |
障害者 | 27万円〔26万円〕 |
特別障害者 | 40万円〔30万円〕 |
同居特別障害者(注) | 75万円〔53万円〕 |
(注)同居特別障害者とは、特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族のうち、納税者自身、配偶者、その納税者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている人をいいます。
(所得税法第79条)
勤労学生控除
次にアルバイト等をしている学生の場合に適用できる勤労学生控除を取り上げます。勤労学生控除はその年の12月31日時点で以下の要件を満たす人が27万円(住民税では26万円)の控除を受けられるものです。
- 給与所得などの勤労による所得があること
- 合計所得金額が75万円以下で、かつ、1.の勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下であること
- 特定の学校の学生、生徒であること
特定の学校とは以下の学校を指します。
- 学校教育法に規定する小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校など
- 国、地方公共団体、私立学校法の第3条に規定する学校法人、同法第64条第4項に規定する法人、これらに準ずる一定の者(注1)により設置された専修学校または各種学校のうち一定の課程(注2)を履修させるもの
- 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程(注2)を履修させるもの
(注1)一定の者とは、次の者をいいます。
- 独立行政法人国立病院機構、独立行政法人労働者健康安全機構、日本赤十字社、商工会議所、健康保険組合、健康保険組合連合会、国民健康保険団体連合会、国家公務員共済組合連合会、社会福祉法人、宗教法人、一般社団法人および一般財団法人ならびに農業協同組合法第10条第1項第11号に掲げる事業を行う農業協同組合連合会および医療法人
- 学校教育法第124条に規定する専修学校または同法第134条第1項に規定する各種学校のうち、教育水準を維持するための教員の数その他の文部科学大臣が定める基準を満たすものを設置する者(1.に掲げる者を除きます。)
(注2)一定の課程とは、次の課程をいいます。
- 専修学校の高等課程および専門課程
イ 職業に必要な技術の教授をすること。
ロ その修業期間が一年以上であること。
ハ その1年の授業時間数が800時間以上であること(夜間その他特別な時間において授業を行う場合には、その1年の授業時間数が450時間以上であり、かつ、その修業期間を通ずる授業時間数が800時間以上であること。)。
ニ その授業が年2回を超えない一定の時期に開始され、かつ、その終期が明確に定められていること。 - 1.に掲げる課程以外の課程
イ 職業に必要な技術の教授をすること。
ロ その修業期間(普通科、専攻科その他これらに類する区別された課程があり、それぞれの修業期間が1年以上であっていずれかの課程に他の課程が継続する場合には、これらの課程の修業期間を通算した期間)が2年以上であること。
ハ その1年の授業時間数(普通科、専攻科その他これらに類する区別された課程がある場合には、それぞれの課程の授業時間数)が680時間以上であること。
ニ その授業が年2回を超えない一定の時期に開始され、かつ、その終期が明確に定められていること。
上記にあてはめますと、バイトで働きながら受験予備校のみに通っているケースは勤労学生に該当しないようです。また、近年学び直しやリスキリングを目的として勤務しながら夜や週末に大学院などで学ぶケースが増えていますが、この控除は学生が本職である人向けの制度であるため所得制限が設けられており、休職や退職して学業をしていないない限りは勤労学生控除の適用はできないケースが多いと思われます。
(所得税法第82条)
基礎控除
最後に1人単位で受けることができる基礎控除について取り上げます。基礎控除は納税者本人について適用され、納税者1人につき一定金額の控除を受けられるものです。かつては38万円(住民税では33万円)で一律でしたが、令和2年(2020年)度から所得格差是正と稼ぎ方にとらわれない課税の観点から最大金額が48万円(住民税では43万円)に引き上がった一方、所得に応じた基礎控除の不適用・減額が導入されました。令和2年(2020年)度以降の基礎控除額は以下の通りです。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 |
48万円〔43万円〕 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円〔29万円〕 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円〔15万円〕 |
2,500万円超 | 0円〔0円〕 |
(所得税法第86条)
おわりに
今回は所得税の所得控除のうち、人的控除について取り上げました。人的控除については近年ライフスタイルの変化から見直しが議論されています。現状の人的控除制度は夫が稼ぎ妻は専業主婦という世帯が多かった時代に確立されており、共働き世帯や独身世帯には不利な制度になっています。多様化しているライフスタイルに合わせて柔軟に対応できるよう人的控除制度を見直すことは避けられないでしょう。
また、婚姻関係や親子関係がない人同士で同居し共同で生計を立てる世帯も増えてきています。こうした世帯向けの控除制度は現在の所得税制では特にありません。一方で新しいタイプの人的控除を導入すると制度が複雑になり、かえって適用誤りや適用漏れを起こしやすくなります。シンプルかつ柔軟な所得控除制度への見直しが望ましいと私は考えます。