【令和6年9月リライト】保険料の経理(損金・経費解説シリーズ⑤)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/09/20
目次
はじめに
10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは保険料についてです。保険料と一言で言っても種類が複数あります。もしもの時に備えて払う安心料であることはすべての保険料に共通していますが、具体的にどの「もしも」に対応するものなのか、誰の「もしも」に対応するかで経理が異なります。今回は保険の種類ごとに経理及び税金の取扱いを解説します。
なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和6年9月現在の法令に基づいています。
第1回 減価償却
第2回 繰延資産
第3回 資産の評価損
第4回 給与、賞与
第5回(今回)保険料
第6回 寄附金
第7回 租税公課
第8回 交際費、広告宣伝費
第9回 圧縮記帳
第10回 貸倒損失、貸倒引当金
社会保険料の経理と税務
ここでは、健康保険、介護保険、厚生年金保険の3つで構成される社会保険料の経理と税務について解説します。法人に勤める人は役員、従業員問わず、個人事業主の事業所に勤める従業員は一定の給与を受取るようになると健康保険及び厚生年金に加入し保険料を負担する義務が生じます。また、健康保険及び厚生年金加入者のうち40歳以上の人は介護保険料も負担する義務が生じます。
ただし、実際には保険料のうち半分は従業員負担、もう半分は事業者負担となっています。さらに子ども・子育て拠出金という児童手当などに充当される社会保険料もあり、こちらは全額事業主負担で従業員負担はありません。なお、個人事業主など給与受取りがない人については、国民健康保険(国保)及び国民年金保険に加入しますが、今回は企業の経費を中心にした解説のため割愛します。
保険料率はほぼ毎年改定されており、保険料は標準報酬月額(参考:協会けんぽHP:標準報酬月額・標準賞与額とは?)という原則4月~6月の3か月平均の給与を区切りの良い幅で区分した金額に保険料率を掛けて算定します。厚生年金保険料率及び介護保険料率(健康保険加入者の場合)は全国一律ですが、健康保険料率は勤務先の都道府県あるいは加入する健保組合により異なります。
健康保険料及び介護保険料は算定した保険料のうち、半分は会社の資金から(子供・子育て拠出金は全額)、残り半分は被保険者の給料から天引きして対象支給月の翌月末(翌月末が土日祝日の場合は翌々月最初の平日)までに年金事務所または健保組合に納付します。給与からの天引きは保険料対象月の給与から天引きする必要はなく、納付期限直前に支給する給与から天引きして差し支えありません。
納付時の経理は事業所負担分は法定福利費として従業員負担分は預り金の支払として経理し、給与から天引きする際天引きした金額は預り金の預りとして経理します。税金計算上は事業主負担分についてのみ保険料対象月において損金または必要経費に計上できます。
労働保険料の経理と税務
ここでは、雇用保険と労災保険の2つで構成される労働保険料の経理と税務について解説します。労働保険は従業員(労働者)を1人でも雇用している場合加入し保険料を納める必要があります。労働保険料のうち、雇用保険はいわゆる失業保険と言われる保険で事業主と従業員(労働者)が毎月の給与にそれぞれ一定の割合を掛けて金額を負担し、社会保険同様に従業員(労働者)負担分は給与から天引きします。一方、労災保険は事業主が毎月の給与に一定の割合を掛けた金額を全額負担します。
納付は事業所を管轄する労働監督基準署に対して行いますが、社会保険と異なり原則年1回6月1日~7月10日の間での納付です。具体的には、納付期間内に4月~翌年3月の1年間に見込まれる労働保険料の概算額を算定して納付し、翌年の6月1日~7月10日の間で実際の支給額に基づく確定額を算定します。確定額が概算納付額を上回る場合は不足額を期間内で追加納付し、下回る場合は余った金額を翌年度の概算納付に充当するか還付を受けます。概算保険料が40万円を超える事業主については概算払いを3回に分けて行うことができ、原則7月10日、10月31日、翌年1月31日の3回に分けて納付します。
経理については、概算払いをしたときに支払額を前払費用として経理しておき、毎月事業主負担分について実際支給額を基に算定して法定福利費と前払費用の取崩として経理する一方、従業員負担分を給与から天引きする際に前払費用の取崩または預り金の預りとして経理するのが理論的な経理方法です。
しかしながら、毎月労働保険料を計算することは作業負担が大きいため、毎年保険料が大きく変動しない場合は実務上は概算払いを法定福利費として経理し、給与からの天引きを預り金または法定福利費のマイナスとして経理する方法も考えられます。税金計算上も以上の経理方法で差し支えないとされています。
損害保険料の経理と税務
ここでは、損害保険料について解説します。損害保険の種類は多岐にわたり、火災保険や地震保険、自動車保険の対物部分のように財産の被害に関するものもあれば、自賠責保険のように取引先に起こした損害に関するものがあります。保険料の支払いも加入時一括払いのものもあれば月払いのように分割払いのものもあります。
税金計算における損金又は必要経費に算入される時期は保険対象期間にわたるのが原則です。例えば、加入時一括払いで加入後2年間適用される火災保険の場合、損金又は必要経費算入は原則として対象期間にわたって均等に行い、加入時の保険料支払は前払費用として経理します。ただし、1回の支払額が20万円未満のものについては保険料支払時に一括して損金又は必要経費とする簡便な方法で経理することが可能です。
なお、ここまで解説した経理はあくまで損害保険の対象が事業財産や事業に関連する損害の場合に限られ、役員や従業員個人の保有する財産や個人的なトラブルに対する損害保険料については役員報酬または給与として取り扱われることに留意が必要です。また、得意先など他者の財産やトラブルに対する損害保険料は交際費として取り扱うことにも留意が必要です。
また、個人事業主の場合業務用家事用共用の財産に対して損害保険を掛ける場合がありますが、この場合の保険料は利用時間や面積など合理的な基準で見積もった事業利用割合部分のみ必要経費に算入するいわゆる家事按分を行う必要があります。
生命保険料の経理と税務
保険には上述した社会保険、労働保険、損害保険の他に生命保険があり、役員に万が一の病気やけが、事故などで経営指揮が取れなくなったときや資産運用などのために法人契約で生命保険を契約することがあります。法人の生命保険料の取扱いについては、相続税解説シリーズの生命保険の箇所で触れていますのでそちらの記事をご覧ください。
なお、個人事業主が生命保険料を支払ったときはたとえ事業に関連する理由で加入した場合でも必要経費に算入せず、確定申告の際に生命保険料控除を受ける形で所得から控除します。
おわりに
今回は保険料の経理と税務について解説しました。保険の仕組みは意外に奥が深く経理及び税金の取扱いにも影響があります。
各項目では消費税についての取扱いについて解説していませんのでここで解説します。保険料は一律消費税非課税です(消費税法第6条及び別表第1第3号)。非課税となっているのは政策的配慮からです。
保険は公的なもの、民間のものを含めて「もしも」のための制度であり、保険料は安心料の一つです。事業におけるリスクを今一度確認し、自然災害や業務上の事故など発生確率は必ずしも高くないものの発生するとそれなりの損失が生じうるリスクに対しては「もしも」のときに資金繰りが急激に悪化することがないよう保険を掛けるようにしましょう。結果として少ない負担で損失をカバーできます。また、従業員を採用する場合や法人の場合は福利厚生のためにも社会保険や労働保険の加入漏れに注意しましょう。