【令和6年9月リライト】寄付の経理と税金(損金・経費解説シリーズ⑥)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/09/27
目次
はじめに
10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは寄付についてです。寄付というと社会貢献を思い浮かべる方もいらっしゃるとおもいます。寄付は必ずしも公益性が高いとは限りませんし、払う側が自らの意思で支払額を決めることができることも多くあり、他の支払と異なる点があります。今回は寄付の支払に関する経理及び税金の取扱いを解説します。寄附の受取りに関してはこの記事では割愛いたしますのでご了承ください。
なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和6年9月現在の法令に基づいています。
第1回 減価償却
第2回 繰延資産
第3回 資産の評価損
第4回 給与、賞与
第5回 保険料
第6回(今回) 寄附金
第7回 租税公課
第8回 交際費、広告宣伝費
第9回 圧縮記帳
第10回 貸倒損失、貸倒引当金
寄付金とされるもの
寄付金と聞くと、慈善のためあるいは支援のためにお金をあげるものと思うのではないでしょうか?確かに正しいです。ですが、会計や税金の世界での寄付金の定義はもっと広く、反対給付(見返り)のない一方的な財産やサービスの提供を指し、例えば経営支援金やお賽銭、不動産の提供や生活財産の無償譲渡、さらには通常有料で提供している商品やサービスの無償または著しい廉価提供も含みます。ただし、税法の世界では個人間での財産の一方的な提供は贈与とされ贈与税の対象になりますし、死亡に伴う個人間の財産移転いわゆる遺贈は相続とされ相続税の対象となります。
よって、今回取り上げる寄付金の当事者については、渡す側、受取る側の少なくともいずれか一方が法人であるとの前提でこの記事をお読みください。
個人が寄付した場合
ここでは個人が法人に一方的に財産を提供する場合について、所得税の取扱いを中心に解説します。先述の通り、個人が別の個人に一方的に財産を提供する場合は「贈与」となるためこちらでの解説は割愛し、贈与税に関する記事(リンクあり)を参照頂ければと存じます。
例えば、個人事業主が事業繁栄祈願のために祈願料を支払うケースや取引先の慶弔に際し祝い金や香典等を提供することがあります。必要経費は売上に貢献するために何らかの反対給付つまり見返りが伴う必要があります。祈願札やお返しの品は見返りだという方もいるかもしれませんが、あくまで受け取った側が好意で差し上げているのであり必ずしも見返りとして渡す性質のものではないため見返りには該当しません。一方、取引先との関係で慶弔金を払う場合は取引の発展・維持という反対給付があるとも言えます。よって、寄付金は取引先との関係維持のために支払ったもので支払先が明らかに取引先とわかるものでない場合必要経費に算入することはできません。
ただし、個人事業をやっているかどうかに関係なく全ての個人納税者は寄付金控除という所得控除を受けることができます。寄付金控除は寄付金に該当すればいかなるものでも控除を受けることができるわけではなく、公益性が高いものとして所得税法第78条第2項に掲げられている以下の寄付金が対象になります。
- 国又は地方公共団体に対する寄附金(ただし、寄付した者がもっぱら利益を享受するなど寄付者が特別の利益を受ける設備等を寄付した場合を除く)
- 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したもの
イ 広く一般に募集されること
ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること - 別表第一に掲げる法人その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(ただし、出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前2号に該当するものを除く)
よくある寄付金のうち、ふるさと納税は第1号「国又は地方公共団体に対する寄付金」に該当します。寄付金控除額は、上記に該当する寄付金の年間総額-2,000円です。ただし、寄付金の年間総額が、年間の総所得+退職所得+山林所得の40%を上回る場合は、年間の総所得+退職所得+山林所得の40%-2,000円が控除額になります。
なお、政党に対する寄付及び認定NPO法人等に対する寄付に関しては、所得控除と税額控除を選択適用できいずれか税金が有利なほうを選択できます。
法人が寄付した場合①(経理の取扱い)
ここからは法人が寄付金を支払った場合の経理についてお話しします。会計原則では発生主義というモノやサービスを享受したタイミングで仕入や経費を計上するという考え方のもと、支払うタイミングに関係なく計上します。ところが、寄付金の場合モノやサービスという見返りがないため、発生主義の考え方になじみません。よって、寄付金は支払った、物を譲渡した、あるいは無償でサービスを提供した時点で経費として計上します。
寄付金を現金で支払った場合は支払った現金の金額がそのまま寄付金となります。一方、災害支援や特別奉仕などで物やサービスの無償提供あるいは著しい廉価提供をした場合、物資提供のときは物資提供時の時価あるいは通常の販売価額、サービス提供のときは通常のサービス料金で寄付金計上し、寄付金と物資についていた簿価との差額については(資産計上されいない場合は寄付金と同額の)売上または差益を計上します。なお、売上は事業に関連する商品やサービスを無償または廉価で提供した場合に使いますが、災害支援など寄付目的が臨時的な場合は特別利益または雑収入として計上することも考えられます。
法人が寄付した場合②(法人税の取扱い)
ここでは法人の寄附金についての法人税における取り扱いについて解説します。寄附金にはモノやサービスの見返りがないとお話しましたが、見返りがない点を利用して一方的に寄付して経費計上し不当に税金負担を下げようという意図が働く可能性があります。そのため、寄附金には損金算入制限が設けられています。一方で公益性が高い寄付金について過度に算入制限すると社会に貢献したいという善意を下げかねません。
そこで、国や地方公共団体などに対する寄付金及び募金など広く公募され公益性または緊急性の高い公益性の高い事業を行う団体に対する寄付金には損金算入制限が設けられていません。また、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた特定公益増進法人に対する寄附金についてはその他の寄附金とは別に損金算入制限が設けられています。
なお、損金算入制限額は他の所得調整をした後の所得と資本金(出資金)の2つの基準で計算します。
おわりに
今回は寄付金についての経理及び税金に関してお話しました。寄付にはなにかしらの善意がありますが、その一方で直接見返りを得るためではないものの、なにかしらの便宜や見返りを得ようとする寄付もあります。よく下心のある寄付は期待している見返りを得られないと言われます。見返りを求めると業績の面ではあまり成果が出ない一方で経費がかさみ業績低迷につながったケースもありますし、税制面でも不利になります。精神論になりますが、寄付はあくまで本来の趣旨にのっとり、相手に見返りを求めず心からの善意で行うことが事業繁栄と節税につながります。