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給与と賞与(損金・経費解説シリーズ④)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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【令和6年9月リライト】給与と賞与(損金・経費解説シリーズ④)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2024/09/13

目次

    はじめに

    10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは給与・賞与についてです。多くの事業者で従業員を雇用し、給与や賞与を支給されているかと思います。給与や賞与は他の経費と異なり社内で完結するため、粉飾や脱税の手段に使われやすい経費です。また、受け取る個人の税金にも影響し、労働法令による厳しい規制や、労働保険料並びに社会保険料の算定基礎となることもあり会計や税務の論点だけで給与・賞与支給を検討することは思わぬ労使トラブルや労働局等の当局からの行政処分につながります。そこで今回は給与や賞与を取り巻く税務上の取扱いを中心に受取る個人の所得税や労働保険料、社会保険料についても触れます。
    なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和6年9月現在の法令に基づいています。
    第1回    減価償却
    第2回         繰延資産
    第3回         資産の評価損
    第4回(今回)  給与、賞与
    第5回    保険料
    第6回    寄附金
    第7回    租税公課
    第8回    交際費、広告宣伝費
    第9回    圧縮記帳
    第10回    
    貸倒損失、貸倒引当金
     

    消費税仕入税額控除の対象にできる給与

    一般に給与や賞与は受取る側にとって消費税が含まれているとは思いませんし、消費税の定義からいっても従業員は事業者立場ではのないため給与や賞与に消費税は関係しません。しかしながら、給与のうち消費税がかかったとみなして消費税の仕入税額控除を受けられる給与があります。それは、通勤手当及び出張旅費です。通勤手当及び出張旅費は従業員が立替えるものの、実質的に事業の遂行の必要性から事業者負担で交通機関や宿泊先に支払っていると解釈することができ、事業者が消費税を負担していると考えられるため認められているものです(参考:国税庁HP No.6459出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い)。ただし、通勤費や出張旅費であれば何でも認められるものではなく、通常必要とされる程度の移動経路または宿泊先である必要があり、必要とされる限度を超えると全額消費税仕入税額控除の対象外とされます。また、海外出張旅費は国内での交通費及び宿泊費も含めて全額消費税仕入控除の対象外です。
    また、実質的に事業者が交通機関や宿泊先に支出していると認められるとの解釈のもと、通常必要とされうる程度の通勤手当及び国内出張旅費は所得税非課税の給与とされ、給与を受取る役員及び従業員の給与所得及び給与から天引きされる源泉税の対象外となります。一方、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料算定のための基礎(標準報酬月額)及び労働保険料算定の基礎の対象には含まれますので集計誤りに注意が必要です。
    なお、従業員が立替えた通勤手当及び出張旅費については従業員が通常消費税の課税事業者とならないことから、適格請求書(いわゆるインボイス)の要件を満たす証拠書類がなくても立替記録を基に会計帳簿に記載することで消費税における仕入税額控除を受けることができます。

     

    役員給与・賞与の損金算入限度

    給与や賞与は冒頭で申し上げた通り計算と支給が社内で完結するため粉飾や脱税の手段となりやすいです。ましてや、法人の意向を決めることができる役員に対するものは労使問題が生じないため、さらに不正操作の手段となりやすいのです。そのため、役員に対する給与及び賞与には損金算入限度が法人税法に規定され、限度を超える金額は支給する法人側で損金不算入とされる一方、受取る役員側では給与所得及び源泉徴収の対象になるという二重の税負担が生じ、社会保険料算定のための標準報酬月額にも含まれます。
    損金算入限度は以下のいずれかにあてはまるものです。

    1. 定期同額給与:事業年度終了後3か月以内に開催される株主総会決議で承認された毎月定額の役員給与(業績不振時の臨時改定に関する特例あり)
    2. 事前確定届出給与:事業年度終了後3か月以内に開催される株主総会決議で承認され決議後1か月内の支給前に所轄の税務署に届出した給与
    3. 業績連動給与:事業年度終了後3か月以内に取締役会等が決議した、報酬委員会等が決定した利益など客観的な数値を基にした算定式に基づき算定し、有価証券報告書等に算定額及び計算過程を示して事業年度終了後1か月以内に支給される給与

    上記3つの基準に当てはまらないものは仮に定額部分があったり、事前届出をしていたり、客観的な算定式に基づく部分があったりしても全額損金不算入となります。特に支給時期のずれや随時の定額支給額見直しは全額損金不算入となることを知らずにやってしまうケースが多くありますので十分な注意が必要です。
     

    えっ!?この経費も給与になるの?

    税金計算における給与や賞与は、給与明細や給与袋などで名目上給与や賞与として支給されるものに限定されません。実質的に役員や従業員個人のために事業者が負担したと認められる経費については給与とみなし、負担の利益を享受する役員及び従業員の給与所得に加算されます。また、役員給与とみなされる場合先述の損金算入限度の3要件のいずれにも該当しないため、支払った法人の損金にも算入されません。
    実質的に役員や従業員個人のために事業者が負担したと認められる経費の例としては、子息の学費負担金、社内で全員に受診を求める定期検診を除く医療費、出張中の私的な目的に関する交通費や宿泊費、会食費です。こうした思わぬ給与認定を防止するためには、旅費規程で支給対象を明確にし、立替経費支給のために領収書及び出張報告書を提出させ、事前に支給を食い止めることです。なお、社会保険料や労働保険料の算定基礎にこうした実質的な給与も対象に含まれますので社会保険料の負担にも影響します。

     

    給与算定期間と損金・必要経費算入時期

    給与や賞与は通常○○月分や夏期、年末といった形で支給対象時期が給与規程や雇用契約などで定められています。発生主義という物品の受取やサービスの享受のタイミングで経費計上する考え方に基づけば、支払日ではなく対象期間の最終日となります。例えば、残業代は毎月一定の日を締日として1か月分の残業時間を集計し、翌月の給与支給日に計算した金額を支給します。この残業代の場合、損金・必要経費算入時期は残業代計算の締日となります。ただし、残業代等を含めた給与が毎月大きく変動しないのであれば、支給時に経費計上することも可能です。
    また、臨時賞与など支給対象期間が明確でない賞与については支給時に損金または必要経費に計上します。
    なお、公認会計士監査を受けている法人については労働サービスを受けた期間に経費を計上する観点から支給額が確定していない賞与のうち支給期間を一部経過しているものについて、支給見込額を見積もり経過した期間の割合だけ経費計上する「賞与引当金」の計上が必要なことがあります。賞与引当金については次の項目で説明する要件を満たさない限り税金計算において損金算入できないため、申告書上で引当金として計上した額について所得加算調整を行い、実際に支給したときに同額について所得減算調整を行います。

     

    ボーナス支給前の決算で損金・必要経費算入できる場合

    給与及び賞与の損金または必要経費の計上時期は支給対象期間の末日が原則で、対象期間が明確でない賞与は支給時が計上時期と申し上げました。賞与の中には、決算賞与と称して決算時の業績に合わせて支給額を決定する賞与を支給している場合があります。支給額を決算時の業績に合わせることで従業員の仕事に対するモティベーションを引き上げるのが狙いであることが多いですが、中には業績連動であるとの論理を使いながら決算時の節税手段として利用するケースもあるようです。決算時に支給前の賞与を損金・必要経費計上することを安易に認めると、実際には支給しないあるいは少ない額で支給するのにも関わらず所得を意図的に下げることで租税回避を図れてしまいます。
    そこで、決算賞与を対象となる決算年度の損金又は必要経費に算入できる要件が定められています。算入要件は以下の通りです(参考:国税庁HP No.5350使用人賞与の損金算入時期)
    (1)労働協約または就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与
          その支給予定日またはその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度に損金又は必要経費に算入
    (2) 次に掲げる要件のすべてを満たす賞与
      イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人(支給時に退職済または退職予定の者含む)に対して通知をしていること。
      ロ イの通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
      ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
    上記の要件に当てはめますと、決算時に支給前の賞与を損金・必要経費算入するためには決算を迎える前に決算見込額を基に各人の支給額を算定して通知を済ませ、通知後1か月以内に支給することが必要となります。そのためには事前に決算見込額と支給額を算定できる経理・労務業務体制を整備することが欠かせません。

     

    退職金の損金算入

    役員や従業員に支給されるものは、給与や賞与だけではありません。退職時に支給する退職金もあります。ここでは、退職金の会計及び税金の取扱いについてお話しします。
    従業員に対する退職金は退職金規程や退職年金基金、退職金共済会などで算定額または算定方法があらかじめ定められているケースが多くなっています。このため、退職金は支給額確定日または支給日のうちいずれか遅い日に損金または経費算入します。また、決まった掛金を拠出し支給額は拠出金の運用状況により変動する確定拠出型の退職金制度の場合は拠出時に損金または経費算入し、退職金支給時には事業者に負担責任がないため何の経理も行いません。
    一方、役員退職金についても退職金規程で算定方法があらかじめ定められ、支給に際しては会社法で株主総会または取締役会の承認が必要なことからある程度のけん制はありますが、従業員に対するものと比較するとお手盛りと租税回避の手段になりやすいです。そのため、直前の役員報酬や他社事例と比較し明らかに多額と認められる役員退職金は損金不算入とされます。
    退職金を受け取る側の税金の取扱いですが、有給買取一時金など退職時に支給されるものも含めて退職所得となり、所定の源泉徴収と他の所得とは別個の所得税計算がされます。ただし、死亡に伴う退職一時金の受取は実質的な相続人への財産移転(みなし相続財産)とされるため、死亡した人の所得税ではなく相続人の相続税の課税対象となります。なお、退職金を年金で受け取る場合は雑所得となります。
    なお、退職金は入社時から退職時までの給与の後払いとも解釈できることから、公認会計士監査を受けている企業では賞与と同様に入社時から現在までの期間に生じている将来の退職金支給見込額(年金資産拠出額を控除)を引当金として負債計上し、毎年の経過により増加額を費用計上する退職給付引当金を計上する必要がある場合があります。退職給付引当金を計上する場合でも法人税では退職金支給時に損金(経費)に算入されるため、申告書上で増加額を所得加算調整し、退職金支給時にこれまで積み立てた引当金全額を所得減算調整します。

     

    おわりに

    今回は給与及び賞与について取り上げました。給与及び賞与は雇用されている人にとっては重要な収入源であり、天引きを通して社会保険料や税金の納付源となります。雇用する事業者にとっては従業員の雇用により貴重な働き手を得ると同時に従業員の家計を支える存在にもなるのです。人件費が不相当に高いのは事業経営の足かせになりますが、だからといってあまりに低いのも従業員軽視と見られるのです。雇用している事業者は給与に関する知識や事務的取扱いの理解だけでなく、実際にかかっている人件費をこまめに確認し人員配置やシフトの無駄がないか確認する一方で、従業員満足にも気を配りましょう。
     

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