【令和6年8月リライト】減価償却とは(損金・経費解説シリーズ①)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/08/24
目次
はじめに
今回から10回にわたって損金又は必要経費についてお話します。今回のテーマは減価償却についてです。減価償却という概念が他の経費と異なり概念がわかりにくいことから、まず概念からお話し続いて実務についてお話します。減価償却については以下の国税庁ホームページのリンクもご参照ください。
国税庁HP No.2100 減価償却のあらまし
なお、このシリーズは以下の通りになっており、今回の内容は令和5年9月現在の法令に基づいています。
第1回(今回) 減価償却
第2回 繰延資産
第3回 資産の評価損
第4回 給与、賞与
第5回 保険料
第6回 寄附金
第7回 租税公課
第8回 交際費、広告宣伝費
第9回 圧縮記帳
第10回 貸倒損失、貸倒引当金
減価償却とは
減価償却費とはどのような費用なのでしょうか?端的に言うと長く使うものに関して購入した金額を一定の期間にわたって少しづつ経費または損金に計上していく費用です。つまり減価償却費の対象となるのは、長期間使うものです。
現在の会計基準や税法では一定期間内の最終的な稼ぎを明確にするため、売上や収入に対して費やした経費を、なるべく売上や収入と同じタイミングで計上すべきという考え方(費用収益対応の原則)をとっています。例えば建物は長期間にわたって、賃貸して賃貸収入を得たり、作業して商品やサービスを提供したりして売上獲得に貢献しています。一方、建物の取得・購入は建てて引渡しを受けた時一回限りです。増改築はありますが、それでも増改築工事の完成引渡しは一回限りです。そのため、購入と売上獲得に伴う価値の費消のタイミングがずれているため、減価償却という手続があるのです。次の項目で減価償却の対象となるものを列挙します。
減価償却資産の範囲
では、減価償却を行う対象となるものは何でしょうか?以下に列挙します。
・建物及び建物付属設備(空調や電気、給排水設備など)
・構築物(看板、壁、舗装など建物以外で土地に接地している物)
・機械装置(製造や加工に使う設備)
・車両運搬具(建設機械は機械装置)
・船舶
・工具
・器具備品(調度品、事務機械など)
・牛馬果樹等(生物資産)
上記に列挙したものを見るだけでも1年以上使うものであるとのイメージはつくのではないでしょうか。上記に列挙したものはあくまで自社利用の場合に限られ、販売用の商品や製品として上記に列挙したものを保有している場合は棚卸資産となり減価償却の対象とはなりませんので、物理的にも帳簿上も明確に区分するようにしましょう。また、自社利用、販売用共に定期的に棚卸や現物確認を行い、モノの有無と状態を確認するようにしましょう。
減価償却方法
減価償却は長く使うものに関して購入した金額(取得価額)を一定の期間にわたって少しづつ経費または損金に計上していくとお話ししましたが、ここでは具体的な計上方法についてお話します。
- 定額法 取得価額を一定期間にわたり均等な金額になるように割って計上する方法
- 定率法 毎年費用化していない金額(未償却額)に一定の率を掛けて計上する方法
- 生産高比例法 取得価額に当年度生産高/期間内生産高見込を掛けて計上する方法
法人、個人事業者ともに定額法または定率法のどちらを選択するか税務署への届出により選択できます。なお、特に届出をしなかった場合は個人事業者については定額法を適用したものとみなされ、法人については以下の通りです。
- 平成28年(2016年)3月31日以前取得の資産:建物は定額法、左記以外の減価償却資産は定率法
- 平成28年(2016年)4月1日以降取得の資産:建物・建物付属設備・構築物は定額法、左記以外の減価償却資産は定率法
なお、平成19年(2007年)3月31日以前取得、平成19年4月1日~平成24年(2012年)3月31日取得、平成24年4月1日以降取得で掛ける率が異なっています。掛ける率は資産の種類と種類別の費用計上年数により異なります。詳しくは以下のリンクに示す耐用年数省令をご覧ください。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令
損金算入、必要経費算入限度額
所得税法上個人事業主については先述の選択した計算方法により計算した金額を減価償却費として経費算入できます。
一方、法人については減価償却費について帳簿上の計上額は法人税法の通りに帳簿上損金計上する必要はなく、代わりに税務署に届出た方法(または法人税法で定められている方法)による計算結果を経費にできる上限額とし、この上限額を超える部分を損金不算入額として申告書上で所得に加算する方法をとっています。税法で算入限度額を設けている理由は、計算方法を一律に定めることにより公平にし、恣意的な計算による過度な節税(租税回避行為)を防止するためです。
以上が原則的な減価償却費の経費または損金計上額です。例外として購入価額が10万円未満の減価償却資産については購入時一括で経費または損金にすることができ、10万円以上20万円未満の減価償却資産については簡便的に購入価額÷3で計算した減価償却費を3年間計上できます。
更に、個人事業主及び中小法人(原則資本金が1億円以下)の場合、10万円以上30万円未満の減価償却資産について年間総額300万円の範囲で購入時一括で経費または損金にすることができます。なお、購入資産の単位は同一の資産をまとめて購入した場合でも1個単位です。例えば、タブレット端末を100台購入した場合、1台当たりの購入金額を1単位として減価償却費の算入可能額を判定します。
おわりに
減価償却費の算入限度額は上記まで説明したものに加え、節税特典の提供を通した投資促進を目的として、一定の要件を満たすと通常の減価償却限度額よりも増額して償却することが可能です。
- 増加償却:機械装置の使用時間が通常の経済状態における使用時間を上回っている場合に増加割合分だけ減価償却費を追加計上できる制度で、青色申告をしている場合に適用可能です。ただし、この制度を適用すると後の年度における減価償却費計上額が目減りします。
- 特別償却:減価償却資産を取得した年度に取得価額に一定割合を掛けた金額を減価償却費として追加計上できる制度で、主に設備投資促進税制の一環として特に設備投資を促進させたい資産の取得が対象になっています。
制度の例として中小企業投資促進税制(リンクあり)が挙げられます。特別償却のある税制はたいていの場合税額控除との選択適用となっており、特別償却を適用すると上記の増加償却同様、後の年度における減価償却費計上額が目減りするため、ある程度黒字が出ている場合税額控除を選択するほうが節税効果が大きくなります。
おわりに
今回は減価償却についてお話しました。理屈をきちんと理解すれば計算の仕方が理解できるようになります。今回の記事をお読みになって是非減価償却費についてご理解頂ければ幸いです。