花火の原価計算|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/07/26
目次
はじめに
夏になり花火大会の時期になりました。花火師にとって夏は書き入れ時になりますが、一方でどのように花火師は生計を立てているのでしょうか?今回は原価計算を通して取り上げます。原価計算の意義もそうですが、美しい花火を打ち上げるための陰のご苦労をお伝えし、感謝できればと思っています。
なお、以前原価計算についてはケーキ及びシステム開発を例にした原価計算の記事があります。そちらも参考に頂くと原価計算について理解が深まります。
花火の真のコスト
原価計算がテーマということでまず花火の原価(コスト)にはどのようなものがあるか整理します。どこまでをコストとするかによりますが、コストは収入を得るために費やすものですのでここでは花火の収入つまり花火打ち上げを会場で行ったことに対する収入が得られることが確定した時点までとします。
そうしますと、花火打ち上げまでに主に以下のコストがかかります。
- 火薬などの花火材料の仕入
- 花火制作や打ち上げ準備に対する花火師などへの人件費
- 花火制作に使用する道具代
- 花火工場の建物代または賃借料、光熱費
- 火災や爆発などもしもにそなえる防火用品代や保険料
- 花火会場へ花火を運ぶための車両代や車両燃料費
- 打揚筒など打ち上げに使用する機材代
他にもかかるコストがありますが、上記に挙げただけでも多くのコストがかかっていることが分かります。これらのコストがいくらかかったのかを正確に把握することで、どのくらいまでコストをかけられるのか、そして花火打ち上げにいくらもらえばよいのかが見え、花火師が花火を楽しんでみてもらう努力を続ける道筋が見えるのです。
花火師の仕事
次に花火打ち上げまでの時系列を確認しましょう。ここでは、花火玉の制作から追っていきます。
花火師の仕事は、主に次のようなものがあります。
- 花火を作る(製造作業)
- 花火大会の為の準備作業(花火・打揚筒等各種機材を現場へ搬入し、設置作業をおこなう)
- 花火を打ち揚げる
- 花火大会後の片付け作業(各種機材の撤収・搬出、落下物の点検、回収・処理玉殻等ゴミの収集)
特に花火製造はわずか1日の大会だけでは想像がつかない日数がかかります。
- 配合工程:花火作りはまず火薬の調合から始まります。配合比通りに薬品を計量し、丹念に混ぜ合わせて粉末の火薬を作ります。赤や緑など、花火の色は配合する薬品の種類と割合によって決まってきます。
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成形工程:次に最も重要な「星」を作ります。配合工程で出来た火薬に水を加えて練り枠に入れて切断した「切星」を、回転釜などを利用し、水分を与えながらさらに火薬をまぶして太らせ、天日で乾燥させる作業を何回も繰り返し「星」を完成させます。
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組立工程:各部品が出来たら、次は組み立てを行います。まず半分ずつ、玉皮に沿って星を隙間なく均一に並べ、紙に包んだ割火薬を中心部に入れます。次に二つを合体させて一発の花火玉にします。
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仕上工程:最後に仕上作業に入ります。組立工程で出来た花火玉の表面にクラフト紙を糊で貼り、乾燥させる作業を何回も繰り返します。紙を貼る回数は玉の大きさや種類によって異なりますが、15cm玉で約20枚を貼り、花火玉は完成となります。
完成するまでの過程で乾燥に多くの時間がかかります。また、完成した花火玉はすぐに打ち上げられるとは限らず在庫として残ることになります。また、花火製造には工場コストや道具代など花火玉1個単位では図ることが困難なコストもあります。次の項目以降で考えていきます。
花火玉単位でわからない材料以外のコスト
花火玉は先述の通りただ材料があればできるわけではありません。作り手の技術と作業、道具、花火工場など多くの資源を必要とします。ですから、花火玉を作るまでにかかったコストは漏れなく打ち上げコストに反映されることが作り手の努力を正しく反映することになります。
一方で材料はある程度使用量がわかれば1玉当たりのコストがわかりますが、道具代や工場施設に関する光熱費や賃借料(または建築費)は花火玉の制作数に関係なくかかるコストです。ここで問題になるのが、花火玉の価格を設定する際にこうした花火玉の制作数に関係ないコストを花火玉1玉のコストに反映させるかどうかです。
こうした花火玉1個当たりコストが直接判明しない制作コストを間接費といい、花火玉1個当たりコストが直接わかるコストを直接費といいます。間接費は直接判明しないためより合理的な按分基準で按分して花火玉1玉に反映させます。例えば、
- 月給制の従業員人件費:工程別作業時間、期間あたり制作個数
- 消耗品:使用した工程における制作数量、作業時間
- 賃料(賃借物件の場合)または減価償却費(自社物件の場合):稼働時間、期間あたり制作個数
があります。どの基準を使うのが合理的なのかについては現場の実態により異なりますので、作業現場の理解が何より重要なところです。
また、花火の輸送や打ち上げにかかる売上は大会実施時に得られ、花火玉1個当たりで設定されるものではないため1個当たりコストは出さず、発生した段階で売上に対応するコストとして出します。
打上げ前花火、製作中花火の原価計算
花火玉は会場に運ばれ、打ち上げられるまで売上を得ることができません。そのため、売り上げるまで花火玉にかかったコストは費用とせず一旦製品として溜めておくことになります。製品として一旦溜めておくコストは先述の制作コストの1玉当たり直接費と合理的基準で按分した間接費です。こうすることで花火打ち上げ時に適切なタイミングで花火打ち上げコストを把握することができます。
短期間で完成する製品であれば以上なのですが、花火玉は完成まで先述の通り多くの時間がかかります。そのため、作りかけの状態で決算を迎えることがあります。こうした作りかけのものを仕掛品(しかかりひん)といいます。仕掛品として溜めておくコストは決算時点で既に使われたコストであり、どの工程にあるかにより変わります。そのため、仕掛品コストの正確な計算には工程と作業内容の正確な理解が欠かせません。
おわりに
今回は夏の風物詩花火を原価計算の観点から取り上げました。おしまいに保険コストについてお話しします。花火は無事に開くと魅力的ですが、何かしらの不注意で火災や爆発が起こる危険と隣り合わせでもあります。また、大雨などにより花火大会が中止になり、せっかく時間をかけて作った花火玉が無駄になることもあります。そこで、原価(コスト)にはこうしたもしもの時の備えとして加入する損害保険料も加味すべきです。
花火工場での事故の補償や復旧費用には火災保険、花火大会中の事故や大会中止に伴う補償や費用補てんには興行中止保険があります。花火業者としては制作中の事故に備えた保険に加入し、興行中止保険はイベント主催者が加入し万が一の時には保険金を基にいベン主催者が花火業者に開催中止に伴う損失を補てんする形になるかと思われます。
いずれにしても、損害保険は無駄なコストではなくもしもの時の必要コストと捉え安易にコスト削減対象としないようにしていただきたいと筆者は考えております。