インボイス制度開始後の消費税申告|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/01/19
目次
はじめに
消費税インボイス制度が昨年2023年(令和5年)10月に始まってから3ヶ月経ちました。制度開始に伴って新たに消費税課税事業者になった事業者も多くありますが、どのように消費税を申告・納税すればよいのかわからない事業者もいると思います。そこで今回は個人事業者の確定申告時期が近づいていることから消費税の納税額についてどのように計算し申告するのかお話します。
インボイス制度導入で消費税申告に関してもこれまでと変わった点があります。変更点も詳しく取り上げますので、既に消費税課税事業者になっている事業者様にもご覧いただきたい記事です。
申告納税する消費税の計算過程
まず、納税する消費税の計算過程を列挙します。
- 売上消費税額の計算
最初に課税事業年度中に得意先に売り上げた金額に含まれる消費税額を計算します。ここでいう消費税は国税としての消費税をいい、標準税率10%のうち7.8%、軽減税率8%のうち6.24%が厳密な意味での消費税です。 - 仕入消費税額の計算
次に課税事業年度中に仕入先などに支払った金額に含まれる消費税額を計算します。ここでいう消費税も国税としての消費税です。課税事業年度中の売上高が5000万円以下の場合に適用可能な簡易課税制度を事前に届けている場合は、売上消費税額に業種別の控除率をかけて計算します。 - 消費税額の計算
一旦、1.売上消費税額-2.仕入消費税額を計算して国税としての消費税納付額を計算します。 - 地方消費税額の計算
一般に言う消費税の中には都道府県に配分される地方消費税が含まれています。標準税率10%の場合2.2%、軽減税率8%の場合1.76%が地方消費税に相当します。計算方法ですが、3.消費税納付額に22/78をかけて計算します。つまり、国税としての消費税割合を割り戻し、改めて地方消費税割合をかけて計算します。この通り計算した結果が地方消費税の納税額になります。
以上の通り国税としての消費税と地方消費税は別々に計算し納税額を出しますが、実際の納税は事業者の本社を管轄する税務署にまとめて行います。地方消費税はその後本社のある都道府県に配分されます。
割戻し計算と積上げ計算
売上消費税と仕入消費税は年間の金額を集計します。従来の集計方法はまず税率ごとに税込の売上金額もしくは仕入経費金額を集計し税込集計金額を税率(%)÷(100+税率)をかけて消費税額を割り出す、いわゆる割戻し計算という方法で計算する方法でした。今回インボイス制度が導入されたことにより消費税額を請求書等に表示することになったことから取引ごとの消費税額を年間集計する積上げ計算という方法が登場しました。
原則的な計算方法は、売上消費税は割戻し計算、仕入消費税は積上げ計算となりました。仕入消費税が積上げ計算となった理由はインボイス制度がそもそも消費税納税額計算に当たり控除額の証拠として請求書等に登録番号や消費税額を示すことを求めた制度であることから、相手が預かったとした消費税額を集計するのが理論的であるからと思われます。
ただし、積上げ計算は煩雑であるため売上消費税、仕入消費税ともに割戻し計算とすることが認められている一方、積上げ計算のほうが端数処理の関係で合計金額が小さくなるため売上消費税、仕入消費税ともに積上げ計算とすることも認められています。なお、売上消費税の集計は積上げ計算、仕入消費税の集計は割戻し計算とするパターンは納税額が少なくなることが多くインボイス制度の趣旨にも合わないためか認められていません。
2割特例を適用する場合
仮にインボイス対応のために適格請求書発行事業者になっていなかったとしたら免税事業者であった事業者については、令和8年(2026年)9月30日以降最初に終了する事業年度まで売上消費税の20%だけ納税すればよい「2割特例」があります。
2割特例については特に税務署への事前申請や届出は必要なく申告納税の際に申告書にある「2割特例適用あり」の欄に〇をつければ適用することができます。また、消費税計算の箇所で触れた簡易課税制度適用の届出をしていても2割特例のほうが有利な場合は2割特例を選択適用することができます。
具体的な2割特例の場合の納税額の計算は、
- 売上消費税額の計算 先述の計算過程と同じですのでここでは説明を割愛
- 控除額の計算 売上消費税×80%で算出
- 消費税納税額の計算 1.売上消費税額-2.控除額で算出
- 地方消費税額の計算 3.消費税納税額×22/78で算出
となっています。つまり、簡易課税制度を適用した場合の計算のうち2.控除額の計算における割合が一律80%となっていることが異なるだけです。
2割特例を適用しないほうが有利になる場合としては、
- 卸売業を主な事業とし簡易課税制度適用を届け出ている場合(控除率が90%と2割特例よりも高い)
- 簡易課税制度適用は特に届け出ておらず、同じ課税対象期間内に売上から預かった消費税よりも仕入や経費で支払った消費税のほうが多い場合(還付を受けることができます)
が挙げられます。
なお、この特例は令和8年(2026年)9月29日までに終了する事業年度中に適格請求書発行事業者になっていなくても課税事業者になる場合は特例の対象外になります。
インボイス制度開始後課税事業者になった場合はご注意
インボイス制度は令和5年(2023年)10月1日より始まりましたが、元々免税事業者であったもののインボイス制度開始後適格請求書発行事業者になったために事業者登録後課税事業者になった事業者も多くあります。もし適格請求書発行事業者登録後から課税事業者になった場合、消費税の課税対象となる期間は適格請求書発行事業者登録日以後となります。よって、同じ事業年度(例:1月1日~12月31日)であっても消費税課税対象外の期間(例:1月1日~9月30日)と課税対象期間(例:10月1日~12月31日)が混在することになります。そのため、適格請求書発行事業者登録によって新たに課税事業者になった事業者は登録した事業年度において誤って事業年度全期間の取引を消費税申告納税計算の対象にしてしまい無駄に消費税を納めることがないよう注意が必要です。
なお、消費税計算における取引日は入出金日ではなく販売または購入をした日となりますので、登録日前後に先払いまたは後払いがある場合は特に注意が必要です。
おわりに
今回は消費税の申告書の基本的な構成及びインボイス制度導入にともなう変更点についてご紹介しました。消費税申告については注意点がもう一つあります。それは消費税納税額の経理です。消費税は事業に関する税金であるため納税額は(法人の場合)損金または(個人事業主の場合)必要経費に算入されます。
日常の経理方法についてはここでは割愛しますが、確定申告時の申告書は先に消費税申告書から作成して消費税額を計算し、租税公課等の科目で損金または必要経費として計上してから所得を確定させ、所得税または法人税申告書を作成するとスムーズです。意外に忘れがちですので「申告書は消費税から」と覚えておいてください。
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