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2023/12/01

目次

    はじめに

    2023年(令和5年)11月20日衆議院本会議で金融商品取引法改正法案が与党などの賛成多数で可決されました。今回の改正法案には上場企業などが作成し開示していた「四半期報告書」の廃止が盛り込まれていました。四半期報告書は主に投資家向けに企業の状況を四半期ごとに報告する書類です。今回は四半期報告書について取り上げ、報告書の意義、項目、廃止の経緯、今後の方向性と課題について取り上げます。
    なお、概要については日本経済新聞の11月21日朝刊記事がありますので、以下のリンクもご参照ください。
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO76278570Q3A121C2EE9000/

     

    四半期報告書とは

    まず、四半期報告書の意義と導入の経緯について解説します。四半期報告書とは、日本国内の証券取引所に上場している会社が事業年度が3ヶ月を超える場合に、当該事業年度の期間を3ヶ月ごとに区分した各期間ごとに、当該会社の属する企業集団の経理の状況その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書と金融商品取引法第24条の4の7第1項に定義されています。例えば、事業年度が4月1日から翌年3月31日までの12か月間(1年間)の上場会社の場合、四半期報告書は6月30日までの第1四半期、9月30日までの第2四半期、12月31日までの第3四半期の3つの期間について作成報告することになっています。
    同様の情報を開示している書類としては、各証券取引所が自主規制制度の一つとして上場している企業に決算財務情報を中心に作成開示を求めている四半期決算短信(日本証券取引所による説明のリンクはこちら)があります。四半期における開示書類としては四半期決算短信のほうが制度化が早く(1999年(平成11年))、金融ビッグバンで適時開示の流れが進んだことが導入の経緯となりました。
    一方、決算短信は証券取引所の自主規制であるため一応の記載事項や様式はあるものの法律に基づくものではないため公認会計士監査の対象外となっており、開示の信頼性に関しては保証度が低い問題点がありました。そこで、2006年(平成18年)8月に金融商品取引法制が抜本的に見直された際に、「四半期報告書」制度が導入され上場企業は2008年(平成20年)4月1日以降開始する事業年度から作成し、かつ、開示の前に報告書のうち財務諸表について公認会計士や監査法人によるレビューを受けることが義務化されました。レビューとは、企業が作成した財務諸表について会計基準等に従って適正に表示していないと信じさせる重要な事項が認められないかどうかを検証するもので、監査と異なり積極的な取引の検証は求められておらず事実に照らして明らかにおかしいと思われる事項があった場合により細かい検証手続を行います。そのため、簡易監査と呼ばれることがあります。
    つまり、四半期報告書とはある程度の保証がある適時開示書類ということになります。

     

    四半期報告書の項目

    では、四半期報告書にはどのような事項が記載されているのでしょうか?以下に掲げます。

    • 主要な経営指標等の推移(連結ベースのみでOK)
    • 事業の内容、関係会社の状況(対象となる四半期内に重要な変更・異動があった場合のみ)
    • 経営上の重要な契約等(対象となる四半期内に重要な組織再編成の決議があった場合のみ)
    • 財政状態及び経営成績の分析(連結ベースのみでOK)
    • 設備の状況(対象となる四半期内に重要な設備の異動があった場合のみ)
    • 大株主の状況(第1四半期、第3四半期については対象となる四半期内に重要な株主の異動があった場合のみ)
    • 役員の状況(直前の有価証券報告書提出後、四半期報告書提出日までに役員の異動があった場合のみ)
    • 経理の状況(連結ベースのみでOK)

    事業年度中の開示であり負担を軽減するため、有価証券報告書よりは記載事項が少なく開示内容もある程度省略することができるようになっています。このうち、公認会計士または監査法人によるレビューの対象になるのは、「経理の状況」です。四半期決算短信では少なくとも経理の状況(連結ベースのみでOK)の記載が必要ですが、それ以外にも投資家の役に立つ情報を開示することが取引所から奨励されており、四半期報告書並みの開示を四半期決算短信で行っている企業もあります。
     

    四半期報告書廃止の経緯

    四半期報告書は3ヶ月に1回の比較的高頻度な情報開示を目的として制度が運用されていますが、報告書を作成している企業やレビューを行う監査法人等からは、四半期決算短信と重複している情報が多く業務負担となっているとの声がかねてから上がっていました。2021年(令和3年)に発足した岸田政権が四半期報告書制度の見直しに言及しました。国際的にも近視眼的な投資を誘発しているとの批判があり法定の四半期開示を廃止する方向があることから、2023年(令和5年)の通常国会で2024年(令和6年)4月1日以後開始事業年度からの四半期報告書制度廃止を盛り込んだ金融商品取引法改正法案が提出され衆議院可決まで行きました。ところが、会期末近くの5月に防衛費増税批判を発端とした野党の内閣不信任案決議により参議院での審議が行われることなく継続審議となりました。そのため、上場企業からは不成立または成立が適用開始ぎりぎりになり実務対応に悪影響が出るとの懸念の声が上がったようです。
    その後、9月29日からの臨時国会で金融商品取引法改正法案が参議院で可決された後改めて衆議院で可決され成立したことから、正式に2024年(令和6年)4月1日以後開始事業年度から四半期報告書制度が廃止されることになりました。

     

    廃止に伴う今後の方向性

    四半期報告書制度が廃止され、その代わりの開示書類として上場企業は事業年度開始から6か月後に作成・開示する半期報告書を作成することになります。また、公衆縦覧(開示)期間は四半期報告書は3年間でしたが、半期報告書は5年間開示されることになりました。あわせて、企業において重要な異動があった場合に開示する法定書類である臨時報告書の公衆縦覧(開示)期間が1年間から5年間に拡大されます。
    3ヶ月に1回と高頻度の情報開示としては四半期決算短信がその役割を担いますが、四半期決算短信は証券取引所による自主規制であることから最低限開示すべき情報の範囲が限られており、企業によっては情報開示が不十分になることも考えられます。そのため、岸田政権が貯蓄から投資への流れに進む政策を進めている中で、投資の判断材料として不可欠な企業の適時情報開示が不十分になり今後増加するであろう投資家の利益・財産保護の観点からは今回の四半期開示制度廃止はあまり好ましくないとの声もあります。
    今後は法定の適時開示の負担が軽減される一方、株主や投資家が安心して投資できる情報開示を各企業が工夫することがより重要になるでしょう。

     

    おわりに

    今回のブログでは、来年2024年(令和6年)をもって廃止されることが決まった四半期報告書についてお話ししました。情報開示の充実を目的として導入されましたが、企業や監査法人の負担がかかる割にはかえって短期的利益志向の投資行動を誘発しているとの批判があり、導入から約15年で廃止されることになりました。
    この問題は開示制度そのものも問題というよりも、各投資家の投資に対する倫理観の問題であるように私は感じます。自分だけが儲かる投資よりも、自分だけでなく投資先の企業や企業の顧客にも利益になる投資姿勢により真の経済発展に寄与するのではないかと言えるのではないでしょうか。とはいえ、開示された情報の読み方を知ることはどのような倫理観であろうとも投資をするうえで重要であることは変わりません。

     

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