キャッシュレス決済の経理|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/07/29
目次
はじめに
近年、デジタル化の進歩や接触機会削減による感染症防止のため、代金の支払いを現金以外の手段で行うキャッシュレス決済が増加しています。お店を持っている事業者でもキャッシュレス決済を導入している方は多いです。また、キャッシュレス決済を消費者としてだけでなく、事業経費の決済に利用している事業者も増えてきています。
一方、キャッシュレス決済に関する経理や簿記については、歴史が浅く仕組みがやや高度なためあまり解説がないのも現状です。今回はそのようなキャッシュレス決済の経理について売り手、買い手両方について解説をします。この解説を通してキャッシュレス決済を使った場合の会計処理や簿記について理解を深めて頂ければ幸いです。
【キャッシュレス売上①】決済時の処理
前半では、キャッシュレス決済を利用して代金を受け取る売り手側の経理について3つ解説をします。1つ目は最も基本的な取引である販売決済時の経理についてです。お店などでモノやサービスを提供し、会計時にキャッシュレス決済を利用して精算が完了することは多くの方がご承知のところです。モノやサービスを提供していますので、売り手は当然に対価を受取る権利が生じます。現金を受取れば対価を会計時に即座に受取ることになります。
ところが、キャッシュレス決済ではほとんどの場合すぐに対価を受け取ることにはなりません。なぜならば、キャッシュレス決済では決済手段ごとに決済キャリアと呼ばれる決済運営会社が存在し決済が行われると決済キャリアに決済情報が送られますが、一部の決済キャリアを除きすぐに決済額が現金化されず、一定の間隔(例:月1回、半月に1回)でまとまって預金口座に入金されるのです。そのため、決済日から入金日まで一定のタイムラグが生じます。
このように販売決済時に対価を得る権利は得ているもののまだ実際に入金されていない状態ですので、キャッシュレス決済は請求書を発行するなどして売上金を後日入金してもらう「掛売り」と実質的に同じなのです。そのため、決済時の経理でも「売掛金」を用います。具体的な例を以下に掲げます。
例:飲食店AでB氏が飲食代金5,000円の会計時にQR決済を利用した。この場合の飲食店Aの会計処理は以下の通りである。
(借方) 売掛金 5,000円 / (貸方) 売上高 5,000円
なお、実務的な話ですが得意先やキャリア別の未入金額を管理しやすくするため、「売掛金」については決済キャリア別に「売掛金-Paypay」「売掛金-クレジット」などと相手先別に区分すると万が一の入金トラブルやツケの管理がしやすくなります。
【キャッシュレス売上②】入金と手数料の処理
売り手側の経理2つ目は決済キャリアから決済代金の入金があったときの会計処理について解説します。
決済時の処理の箇所でもお話しましたが、多くのキャッシュレス決済では一定の間隔(例:月1回、半月に1回)でまとまって預金口座に入金されます。そのため、入金時の経理があります。また、ほとんどのクレジット会社と決済キャリアが入金時に一定の金額または率の手数料を差し引いて入金します。
手数料にはいくつか種類があります。
- クレジット手数料 クレジットカード売上の入金から差し引かれる手数料は、買い手に対する債権の買取手数料とされます。手数料は決済金額に対し一定の割合で計算されます。債権買取手数料は消費税非課税です。
- 決済手数料 ほとんどの電子マネーやQR決済では、お店側がキャッシュレス決済を利用したことに対する利用料を決済金額に応じて課金することで決済キャリアの収入としています。こちらは債権買取ではなく決済サービスに対する手数料ですので消費税込みで手数料が差し引かれます。
- 入金手数料 一部の電子マネーやQR決済では、決済代金の入金に対し手数料を徴求され、入金時に手数料として差引かれることがあります。早期入金オプションを利用する場合にオプション料金として入金手数料を課金するキャリアがあったり、振込手数料負担相当として入金時に必ず入金手数料を課金するキャリアもあったりします。いずれの場合もほとんどは銀行振込手数料のような一定の料金になっており、消費税込みで手数料が差し引かれます。
ここまで手数料について解説しましたが、いずれの場合も会計処理については同じです。以下に例を示します。
例:飲食店AはQR決済代金200,000円について決済キャリアから飲食店Aの普通預金口座に入金を受けた。その際、3%(税込3.3%)の決済手数料と200円(税込220円)の入金手数料が差し引かれた。この場合の飲食店Aの会計処理は以下の通りである。
(借方) 普通預金 193,180円 / (貸方) 売掛金 200,000円
支払手数料 6,820円(=200,000円×3.3%+220円)
なお、決済手数料と入金手数料には消費税がかかっていますので、税抜経理の場合消費税部分の区分が必要です。税抜経理の場合の会計処理は以下の通りです。
(借方) 普通預金 193,180円 / (貸方) 売掛金 200,000円
支払手数料 6,200円(=200,000円×3%+200円)
仮払消費税 620円
【キャッシュレス売上③】チャージ入金があった場合の処理
売り手側の経理3つ目は対応している事業者は限られている話ですが、プリペイド方式キャッシュレス決済(Suica,Paypayなど)についてお客様からカードやスマホなどへのチャージ(積増し、入金)を受けた場合の会計処理について解説します。
チャージは売手のお店側から捉えると現金入金になりますが、お店の売上代金ではなく、決済キャリアに代わってキャッシュレス決済代金を預かっているにすぎません。そのため、チャージ入金された現金は一定のタイミングで本来の代金受取り先である決済キャリアに支払うことになります。ここでは、チャージ入金があったときと決済キャリアにチャージ預り金を支払う会計処理の例を示します。
- チャージ入金時 小売店Cは顧客Dからレジで10,000円の電子マネーチャージを受けた。
(借方) 現金 10,000円 / (貸方) 預り金 200,000円 - チャージ代金支払時 小売店Cは電子マネーキャリアに対する来店客から受取ったチャージ代金100,000円の口座引落を受けた。
(借方) 預り金 100,000円 / (貸方) 普通預金 100,000円
なお、預り金については売掛金同様に得意先やキャリア別の要支払額を管理しやすくするため、決済キャリア別に「預り金-Suica」などと相手先別に区分するとよいでしょう。
【キャッシュレス決済①】チャージの処理
ここからは、事業者が買い手としてキャッシュレス決済を利用した場合の会計処理について解説します。一つ目はプリペイド方式の場合のチャージ(入金、積み増し)についてです。
キャッシュレス決済には、事前に現金や預金口座などから入金するプリペイド方式(Paypay、Suica、楽天Edyなど)と決済後まとめて代金が口座引落されるポストペイ方式(クレジットカード、iD、d払いなど)の2種類があります。このうち、プリペイド方式では事前入金して入金した金額分だけ利用できる仕組みです。小銭やお札と同じように決済に利用できるため現金の一つと捉えることができます。一方、解約など一定の事由に該当しない限り現金化することができず、チャージは実質的に購入時の決済にのみ充当できるという意味では代金の前払と捉えることもできます。また、電車やバスの乗車代金にのみ利用できるなど特定の決済にしか利用できないタイプのものもあります。
以上のことから、チャージの会計処理は大きく3つのパターンがあります。1つの例を挙げて3つのパターンの会計処理を示します。
例:個人事業主D氏は自宅近くの駅の券売機で交通費決済に使うICカードに、小口現金として金庫から引き出した10,000円をチャージした。
- 現金の形態変化と捉える会計処理
(借方) 現金-ICカード 10,000円/(貸方) 現金-小口現金 10,000円 - 代金の前払と捉える会計処理
(借方) 前払金 10,000円/(貸方) 現金-小口現金 10,000円 - 交通費の一括支払と捉える会計処理
(借方) 交通費 10,000円/(貸方) 現金-小口現金 10,000円
上記の会計処理のうち、3.の方法はキャッシュレス決済時に会計処理が必要なくなる利便性がある一方実際の利用実態と乖離するため、実際にモノやサービスを消費した実態を経費という形であらわす会計基準の考え方には合わず、ちょっとした買い物にも利用するなど複数の目的で利用している場合さらに実態と合わなくなるため、私としてはあまりお勧めしません。
1.と2.の方法ですとキャッシュレス決済利用時にも別途会計処理が必要になります。この会計処理については次の項目でお話します。なお、利用できるものやサービスが極めて限定され、かつ換金が一切できない場合には、2.の方法で処理するのがおすすめです。
【キャッシュレス決済②】支払したときの処理
買い手側の経理2つ目は、キャッシュレス決済を実際に行った時の会計処理です。プリペイド方式とポストペイ方式で会計処理が異なります。
- プリペイド方式の決済手段を利用した場合
例:個人事業主Dはコンビニで取引先との打合せ用に飲み物と茶菓子1,000円を購入し、交通系ICカードで決済した。
①チャージの際現金計上した場合
(借方)会議費 1,000円/(貸方)現金-ICカード 1,000円
②チャージの際前払金計上した場合
(借方)会議費 1,000円/(貸方)前払金 1,000円 - ポストペイ方式の決済手段を利用した場合
例:個人事業主Dはコンビニで取引先との打合せ用に飲み物と茶菓子1,000円を購入し、クレジットカードで決済した。
(借方)会議費 1,000円/(貸方)未払金 1,000円
上記の会計処理はいずれも決済時に経費計上するものです。決済時に経費処理を行うことがモノやサービスの利用実態を正しく反映するのですが、正しい会計処理を行うためには決済記録を何らかの形で保存する必要があります。もっとも簡単に手に入る決済記録はレシートや領収書です。クレジットカードですと毎月の請求額の内訳である利用明細書も決済記録となります。
ただし、令和5年10月から開始されるインボイス制度が開始されると、クレジット利用明細書はインボイスとして利用することができず、消費税納税額計算において控除対象の経費として認められないため消費税を多く負担することになります。消費税課税事業者でしたら、できる限りレシートや領収書を入手保存し破棄しないようにしてください。また、インターネット取引などでキャッシュレス決済を利用した場合もECサイトなどから領収書を入手するようにしてください。
【キャッシュレス決済③】代金引落の処理
テキスト①買い手側の経理3つ目は、ポストペイ方式の場合の利用代金引落の会計処理についてです。ポストペイ方式の場合、決済後月1回一定の日までの決済代金をまとめて口座引落しされる形になっています。その場合の会計処理を例を出して説明します。
例:個人事業主Dは先月15日までの1か月間のクレジットカード決済代金50,000円について預金口座から引き落とされた。この場合の個人事業主Dの会計処理は以下の通りである。
(借方) 未払金 50,000円 / (貸方) 普通預金 50,000円
上記の会計処理は先述の通り決済時に経費計上した場合に行います。決済時に経費計上していない場合は借方の未払金が経費科目になります。ただ、口座引落の際に経費計上することはモノやサービスの利用実態が遅れて反映されることになり経営実態を正確に把握するためには、キャッシュレス決済時に経費計上することをお勧めいたします。
上記の例は全ての決済で一括払いを指定したことを前提にしたものです。分割払いやリボ払い指定を伴う場合実質的に借入をすることになるため、利息が生じます。以下に分割払いを伴う場合の例を示します。
例:個人事業主Dはクレジットカード決済代金50,000円が預金口座から引き落とされた。50,000円のうち、5,000円は分割払いに該当しうち100円は利息に相当する。この場合の個人事業主Dの会計処理は以下の通りである。
(借方) 未払金 49,000円 / (貸方) 普通預金 50,000円
支払利息 100円 /
支払利息は借入に対する対価であるため、買い物の決済時ではなく代金引落時に計上します。また、決済代金に該当しないため本来の決済代金である未払金とは区分します。
おわりに
今回はキャッシュレス決済に関する経理、会計処理についてお話しました。一口にキャッシュレス決済と言っても手段によって必要な会計処理が異なります。利用したあるいは利用されたキャッシュレス決済手段をご確認いただき、その手段に対応する会計処理をご確認いただければ幸いです。