公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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申告書の質を保証する書面添付制度

申告書の質を保証する書面添付制度

2021/11/27

申告書の質を保証する書面添付制度

税理士法第33条の2には、税理士が申告書について計算し、整理し、又は相談に応じた事項について記載した書面を申告に添付することができる「書面添付制度」が規定されています。今回は「書面添付制度」について解説し、高品質の申告書で多くの関係者からの信頼を得られことを皆様に知っていただきたいです。
申告書に添付する書面のため、第一義的には税務署など税務当局向けの説明文書なのですが、銀行などの金融機関に申告書と決算書を提出する際にも添付することで、金融機関にも決算や申告内容の品質と信頼度の高さを示すことができます。
以降の小項目で「書面添付制度」について詳しくお話いたします。

書面添付制度の趣旨

書面添付制度の趣旨として国税庁HPには以下の通りポイントが記載されています。
・書面添付制度は、税理士の立場をより尊重し、税務執行の一層の円滑化等を図るために従来の制度が拡充されたものである。
・書面添付制度は、税務の専門家である税理士に対して付与された権利の一つである。
つまり、税理士の税金・税務の専門家としての立場を生かして税務執行を効率化しようというものです。確かに税務当局としては税金計算の正確さを税理士に説明させることで、税務調査などの確認作業の手間が削減できます。
では、納税者側のメリットは何でしょうか?
それは、申告時にあらかじめ計算・整理した事項を示すことで事後の税務調査の負担が削減されることですが、書面添付を行うことが正確な申告をするための動機になり納税者自身の信用が高まることもメリットの一つです。

添付書面の記載事項

ここでは添付書面に記載する事項を具体的に説明します。
記載事項は税理士法施行規則第17条、書式は税理士法施行規則別表9と別表10に示されています。
第9号様式(税理士が自ら申告書を作成した場合)の記載事項
1.自ら作成記入した帳簿書類に記載されている事項
2.提示を受けた帳簿書類に記載されている事項
3.計算し、整理した主な事項
4.相談に応じた事項
5.その他
第10号様式(納税者が申告書を作成し税理士がチェックした場合)の記載事項
1.相談を受けた事項
2.審査に当たって提示を受けた帳簿書類
3.審査した主な事項
4.審査結果
5.その他
当事務所ではもっぱら第9号様式で作成しています。理由は、納税者が中小企業で申告書を当事務所で作成するからです。申告書作成に必要な会計帳簿の記帳は各企業で行っていただき、当事務所が毎月入力結果をチェックする(業界で月次巡回監査と呼ばれます)形をとっています。それでも会計帳簿の最終確定はあくまで会計事務所が行うため自ら作成する形になります。
言い換えますと、記帳内容が真実を表しかつ網羅させるのは企業の責任で、当事務所は真実かどうか、網羅しているかどうかをチェックし、必要に応じて修正や指導を行います。修正や指導の結果、真実かつ網羅的な会計帳簿になったことを確認して会計帳簿を会計事務所が完成し、完成した会計帳簿を基に当事務所が申告書を作成するのです。
以上のプロセスを経て、1年間で作成した帳簿、提示を受けた証憑、税法や会計に関する検討事項、相談事項を文書に取りまとめて申告書に添付します。つまり、当事務所での書面添付は巡回監査の報告であり、申告書作成に当たっての説明書であるのです。

意見聴取と税務調査

税理士法第33条の2に基づく書面が添付された申告書を提出した納税者について、税務当局が税務調査を行おうとする場合、まず税務代理をした税理士(書面を作成した税理士)に添付書面に関する事項に関する意見を述べる機会を与えることになっています(税理士法第35条第1項)。つまり、税務調査をするかどうか判断する前に担当の税理士と税務当局で納税者の申告内容について協議を行います。
協議の結果、税務当局が疑問事項や確認事項が解消されたと判断した場合、実地調査いわゆる税務調査が省略されます。一方、協議をしても税務当局が疑問点は拭えないと判断した場合、拭えなかった疑問点について実地による税務調査が行われることになっています。
また、意見聴取において申告内容の誤りが判明し修正申告を行う場合は、納税者側の自主的な修正とみなされ税務調査指摘による修正と異なり、加算税は課されません。
いずれにしても、申告書に書面添付をすることで、税務調査による納税者の対応負担と追徴負担は軽減されることになります。

所得税、法人税、法人住民税、消費税の書面添付

います。ここでは税目別の書面添付の特徴についてお話します。
1年間の取引を集計して計算する所得税、法人税、地方住民税、消費税については共通の記載事項として会計帳簿や証拠書類の整備状況、固定資産取引や金銭を伴わない取引など会計処理上慎重な判断を要する事項、売上や経費の計上基準を記載します。
各税目固有の記載事項として主なものは以下のようなものが挙げられます。
・法人税、法人住民税
出資や減資、企業再編など資本構成の変更を伴う取引、同族会社の判定、役員報酬など役員に対する人件費
・消費税
基準期間の判定と売上高、課税・非課税・不課税の区分、標準税率・軽減税率の区分、著しい課税売上割合の変動
・所得税
経費の公私区分、自家消費、所得控除・税額控除要件の適合性、その他所得の網羅性、譲渡所得計算の根拠
取引の網羅性について当事務所では、納税者に取引チェックリストを記入していただき取引の有無を確認し、文書で保管しております。
この他、前年度と比較した売上や経費の金額及び比率の大きな増減については増減理由を記載し、実態からみて合理的であるかどうか、つまり、脱税や粉飾の意図はないかどうかを記載して

相続税、贈与税の書面添付

ここでは、資産の移動に関する税金である相続税と贈与税に関する書面添付についてお話します。
前述の所得に関する税金と異なり、継続して発生するものではないため特に相続・贈与の対象資産を網羅しているかどうかが重要な記載事項となります。
具体的な例には、
・過年度贈与のうち、課税対象になるものは漏れなく把握し申告しているか
・名義預金や名義株について調査し相続・贈与の対象にならないかどうか確認しているか
・いわゆるタンス預金の有無を確認したか
が挙げられます。
また、相続税や贈与税は財産評価計算が複雑で高度なため、
・適用した評価方法は当事者や取引の実態に照らして適切か
・評価計算に当たっては相続または贈与時点の現況を反映した根拠を用いたか
さらに相続税は相続人が複数人になり、相続財産の行き先もさまざまなため、
・相続人になり得る者を戸籍謄本などで網羅的に把握したか
・遺産分割協議書や遺言書などで各財産の相続先を確認したか
について書面に記載することがあります。
以上の事項を申告書に添付する書面に記載することで相続税や贈与税の申告漏れや過少申告がないか税理士が確認したことを税務当局に示します。

書面添付の実施割合と当事務所の方針

財務省が令和3年11月に公表した令和2事務年度国税庁実績評価書によりますと、令和2年度に提出された申告書のうち税理士が関与した割合は、
・所得税 21.1%
・相続税 86.1%
・法人税 89.4%
で、令和2年度に提出された申告書のうち税理士法第33条の2に規定する書面の添付割合は、
・所得税 1.4%
・相続税 22.2%
・法人税 9.8%
でした。
税理士が関与した申告書のうち、書面添付がある割合に換算しますと
・所得税 6.3%
・相続税 25.8%
・法人税 11.0%
となります。この割合は過去5年間少しづつ増加していますが、必ずしも書面添付割合が高くないのが現状です。書面添付をしない理由としてよく挙げられるのが、申告書作成と同時に添付書面する手間があること、添付書面を作成できるほどの調査確認をしていないこと、書面を添付しても必ずしも税務調査が省略されるわけではないことなどが挙げられます。
相続税は件数が相対的に少なく税務調査での指摘率も高いことから書面添付割合も比較的高い一方、所得税は単純な確定申告も多く書面添付するほどの説明事項も少ない場合もあることから割合が低くなっています。
当事務所では、事業者のお客様に対してはできるだけ毎月経理内容を確認する方針であり、月次で関与しているお客様に関しては特段の疑念事項がない限り原則申告時に書面添付を実施しています。
また、相続税の申告につきましても特段の疑念事項がない限り原則書面添付を実施しています。
添付した書面は銀行などの金融機関に申告書・決算書を提出する際にも、申告品質の高さや決算内容を説明する資料としてご活用いただけます。
是非とも皆様に書面添付制度をお知りいただき、申告と申告対応、そして当事者への説明の円滑化に繋げて参る所存です。

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