公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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飲食店業の会計・税務シリーズ④

飲食店業の会計・税務シリーズ④

2021/10/22

飲食店業の会計・税務シリーズ④

コロナ禍の中で厳しい状況が続く飲食店業界ですが、現状は正しく把握できていますか?また、税金について理解していますか?その問いかけにお答えし、飲食店経営者の経営管理に役立つ記事です。

飲食店の決算・確定申告

今回は、年に1回の確定申告と決算について飲食店に特化した論点に絞ってお話します。
第1回・第2回で日常の会計・経理、第3回で税金についてお話しました。それでも飲食店経営者が会計や税金を強く意識するのは確定申告の時ではないでしょうか。確定申告や決算の大部分は日々の売上や仕入・経費の把握が適時にできていれば事前に済ませることができます。それでも、決算の時でないとできないこともあります。今回取り上げる論点は、どうしても年1回の確定申告・決算の時でないとできない論点であるとご理解ください。年1回の作業であるためなかなか定着せず忘れがちになります。確定申告の際にこの記事をご覧いただいた方は勿論のこと、確定申告の前でもこの記事をご覧いただくことにより事前準備ができるものと思います。

棚卸ししていますか?

皆様のお店では定期的に棚卸しをしていますでしょうか?棚卸とは在庫の実際の残りを確認する作業です。棚卸で把握した残高は決算に反映させることになりますので少なくとも決算時には行っていただきたい作業です。飲食店にとって棚卸しにもう一つの意義があり、賞味期限または消費期限などの衛生管理です。せっかく仕入れた材料でも腐って使えなくなっては買い損になります。鮮度・衛生管理の点から申し上げますと、飲食店では毎月一回棚卸しをするのが望ましいです。
決算書における棚卸結果の反映についてですが、貸借対照表の原材料という科目に各材料の残高数量×単価の合計が載ります。単価の計算方法にはいくつかあり、先に仕入れた物から使用すると仮定して棚卸単価を算出する先入先出法、1年間の仕入額を仕入数量で割って平均単価を算出する総平均法、直近の仕入単価を用いる最終仕入原価法などがあり、いずれか1つを選択適用できます。ただし、利益・所得の恣意的な操作を防止するため、一度選択した計算方法は実態の変化など正当な理由がない限り継続して適用する必要があります。

銀行との取引残高合っていますか?

銀行にお店用の口座を開設して管理している方も多いでしょう。日々の記帳でも預金通帳を参考にされるでしょう。それでは通帳に記載された取引はすべて記帳しているでしょうか?その確認を定期的に行いやすいのが銀行預金です。預金残高について通帳と会計帳簿と一時点で一致しているか確認すればよいのです。ですので、最低でも決算日末の残高は通帳と会計帳簿と照らし合わせましょう。不一致の場合、会計帳簿への記帳漏れであれば未記帳の取引の記帳をし、通帳の記帳漏れであれば銀行で追加の記帳をします。しかしそれでも不一致が無くならない場合があります。最近では減少しましたが、振出小切手の銀行側未取立や夜間金庫への入金がその例です。この場合は不一致のままにし、会計帳簿と預金通帳で差が出ている部分について内容を説明した「銀行勘定調整表」という表を作成します。

ツケは入金されていますか?支払っていますか?

後払いとなった代金いわゆるツケについては、相手との信用問題にかかわります。ツケ自体が悪いわけではありませんが長期間返されずにいるとお店の経営を悪化させる要因となります。日々の記帳では売上、仕入、経費などを確認する方は多いのですが、代金の回収状況については把握していない方がいらっしゃいます。ツケの管理のためにも日々の記帳は売った日の売上として記帳し未入金であれば売掛金を記帳する、仕入れた日の仕入として記帳し後払いであれば買掛金を記帳しましょう。そして決算時など一定の時点で定期的にお客様ごとに売掛金残高の回収状況を確認して長期間未入金であればその相手先に支払見込を確認して資金をきちんと回収するよう努めましょう。また、買掛金についても支払状況を定期的に確認し、長期間支払が滞っているようであれば資金繰りの許す限り早めに支払いましょう。

借入金利息、前月家賃の計上対象期間は適切ですか?

現在の会計基準では「発生主義」という考え方を採用しており、お金の出入りではなく、物のやり取りやサービスの行われた時点で収益や費用を計上します。先述のツケ売上・仕入の経理に関する話もこの考え方に基づいています。
ここでは一定期間にわたってサービスを受ける借入や賃借についてお話します。借入金利息や家賃は○月分として毎月一定額を支払う契約になっていることが多いです。○月分は当月分であれば現金出金とサービス提供が一致するため支払時経費でよいです。ですが借入金利息は翌月払いまたは前月払いになるケースがあ多くあります。また、家賃も前月払い契約が多いです。翌月払いの場合、決算時に当月分を経費計上し、相手科目として未払費用という負債を計上します。一方、前月払いの場合、決算時に翌月分を一旦取崩し、前払費用という資産を計上します。

お店・家事共用のものはありませんか?

家族経営や個人経営の場合、住居兼店舗のケースがあり、電気や水道、自動車などを事業・私用兼用で利用している場合が多くあります。兼用の場合、個人事業・法人の形態に関わらず事業用として使用した部分のみ経費計上できます。つまり、私用部分については経費から除外します。メーターなどが明確に分かれ、請求も別々であれば区分はいたって簡単ですが、多くの場合請求がひとまとめになっています。そこで区分割合を一定の合理的な基準で按分する家事按分という経理を行います。
一定の基準ですが、例えば電気代ですと使用時間帯やコンセント数、水道代ですと蛇口数や時間帯、賃借料や固定資産税など不動産関連経費ですと面積が挙げられます。家事按分割合自体は変わることがありますが、按分基準は利益・所得操作と疑われないようみだりに変えず、毎年同じ方法で按分しましょう。

申告と納付の期限を忘れていませんか?

決算に伴い税務署に確定申告を行います。個人事業者の確定申告の期限は毎年分を翌年3月15日まで、法人の確定申告の期限は決算年度末日の2か月後までとなっています。期限を過ぎたからと言って受理されないわけではありませんが、期限後申告とされ期限から申告日までの延滞に対する罰課金として延滞税または延滞金が追加されます。また、申告書による計算で確定した税金についても申告期限と同じ日が納付期限となっています。期限内に申告したが納付が期限後になった場合も延滞税または延滞金が追加されます。
なお、消費税の確定申告・納付については法人は法人税の申告と同じ期限ですが、個人事業者に関しては所得税より16日長く3月31日までになっています。ただし、現実には所得税と消費税の申告書を同時に提出するほうが効率的です。
所得税・個人地方税に関しては事業以外の所得が含まれるため事業経費とすることができません。また、法人税・法人住民税に関しては費用として計上しますが、申告書上で利益に加算して税引き前の純利益に対して税金がかかるようになっています。

おわりに

今回は飲食店での決算についてお話しました。飲食店特有の論点は在庫として残っている未使用材料やお酒の残りを棚卸ししてこまめに把握すること、ツケで精算した場合の売上計上とその後の回収管理です。
棚卸しとツケの管理、いずれの論点も決算のためというよりもお店の健全経営のために行うものです。決算に影響するといっても普段からの適切な管理が損失を抑え、決算業務をスムーズにします。言い換えれば、決算や確定申告がスムーズで早くできるお店は普段からの管理がしっかりしているといっても過言ではありません。管理がしっかりとしてこそおいしく安心なメニューを提供でき、お客様からの評価も高まります。決算書の利用者は税務署や金融機関などですが、決算書・申告書の出るタイミングや内容によってお店の評判ぶりが見えてきます。

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