公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

宿泊税と観光地振興を考える|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2024/02/22

目次

    はじめに

    2月19日に北海道は宿泊税導入へ向けた懇談会で道が提示した条例案を大筋で了承し、道議会で条例案を提出し宿泊税導入の動きが進みました。今回は宿泊税について意義をおさらいすると共に当事務所のある北海道内を中心に宿泊税導入の動きについて取り上げ、北海道内での観光施策の在り方について考えます。
     

    宿泊税とは?

    初めに宿泊税とは何か確認します。宿泊税は地方税法第5条第3項に基づき各自治体が特定の目的のために独自に定める税金(法定外目的税)の一種で、具体的な内容は各自治体の条例に規定されています。つまり、住民税や自動車税、固定資産税のように国の法律(地方税法)に基づく全国一律で課税される地方税ではなく自治体が独自に設定する税金です。
    宿泊税は2022年(平成14年)10月1日に東京都が最初に施行した税金で、アップ日(2024年(令和6年)2月22日)現在では3つの都府県(東京都、大阪府、福岡県)と6つの市町村で導入されており、北海道ではスノーリゾートで有名な倶知安町が導入しています。東京都宿泊税条例第1条によりますと宿泊税の目的は「国際都市東京の魅力を高めるとともに、観光の振興を図る施策に要する費用に充てるため」とされており、国際都市、観光都市としての東京の振興のための事業財源として使うとされています。また、倶知安町の宿泊税条例第1条によりますと「世界に誇れるリゾート地として発展していくことを目指し、地域の魅力を高めるとともに、観光の振興を図る施策に要する費用に充てるため」とされています。つまり、地域や観光の振興を目的として宿泊者に課税する税金ということです。
    いずれの自治体の宿泊税も当該自治体に宿泊する人が課税対象者となっており、宿泊先のホテルや旅館などがいったん宿泊者から徴収し、一定の期間で区切って宿泊先のホテルなどが所在する自治体に申告納税する特別徴収(間接税)の形を取っています。例えば倶知安町ですと、倶知安町内の宿泊施設に宿泊する者のうち修学旅行や職場体験を目的して滞在する学生以外の者に、宿泊料金の2%(100円未満切り捨て)を課税し、旅館業または住宅宿泊事業を営む者が宿泊者から徴税し、毎月徴収した宿泊税を翌月末日までに町に納入申告書とともに納付するとされています。(倶知安町宿泊税条例第3条、第5条~第9条、第11条)
    いずれの自治体も宿泊税について特別徴収(間接税)の形を取っている理由は、普通徴収(直接税)ではあまりに課税対象者が多いうえに宿泊者側の納税負担と徴税逃れが容易なことが考えられます。なお、倶知安町以外の宿泊税導入自治体では、宿泊税は1泊当たり宿泊料金により定額の税額となっています。

     

    宿泊税の使い道

    宿泊税の目的について地域や観光の振興と申し上げましたが、自治体では具体的にどのような施策を行っているのか、あるいは行おうとしているのか考察します。京都市の例ですと令和5年度予算において宿泊税を活用した施策として、修学旅行の受入環境整備、京都観光行動基準の実践による市民生活と観光の調和に向けた取組、文化財の保全・継承に向けた取組など19の施策が挙げられています。また、倶知安町の例ですと、「宿泊税によって得られた税収は、観光客満足度の底上げと再び倶知安を訪れていただくため、観光客の増加に伴う課題解決のため(域内交通網の整備、ニセコ・羊蹄山の環境保全・安心・安全なリゾートの形成、観光インフラの整備、新幹線を意識したまちづくり)に使わせていただきます」とされています。一方、福岡市の例では令和4年度に宿泊税を活用した施策事例として観光振興や外国人向け設備の整備の他、特に福岡市が力を入れているMICEへの取組について紹介されています。
    つまり、各自治体が観光や旅行客の誘致を促進する一方、観光客や宿泊客の増加に伴う諸問題の解決のための地域整備のための施策の財源として利用されているということです。地方自治体が地方税法に基づき課税する税金の主なものとして、住民税、事業税、自動車税、固定資産税がありますが、いずれも自治体に住む住民や自治体に拠点を持つ事業者や所有者に課税する税金で、それらの課税対象者は観光や宿泊する側であるとは限りません。そのため、該当する自治体に観光や宿泊でやってくる人々向けの施策に充当する財源を住民や事業者だけで負担することは恩恵が相対的に薄いのに負担だけさせられるという不満につながります。そこで、宿泊税という宿泊者が負担する税金を導入することで観光や宿泊の恩恵に対して利用者が一定の負担をするいわゆる応益負担を図っており、同じような問題を抱える自治体で宿泊税導入の動きが広がっており、観光や宿泊が主要産業である北海道内でも導入の動きが広がっています。

     

    北海道内における宿泊税導入の動向

    ここでは北海道内における宿泊税導入の動向について取り上げます。先述の通り、当記アップ日における北海道内での宿泊税導入自治体は倶知安町のみです。しかしながら、北海道においても各地で観光客が増加し観光振興の一方観光公害対策も喫緊の課題となっています。こうした課題に対応する施策を自治体が行うための財源を確保するため、地元住民だけでなく観光客にも応分の負担をしてもらおうとしているのです。2024年(令和6年)中ですと倶知安町と連なるスノーリゾートであるニセコ町でも宿泊税が導入される予定です。
    長期滞在する宿泊客の増加は日本国内でも世界的知名度が高いニセコエリアだけの問題ではなく、北海道内各地で起こっています。宿泊する観光客の増加に伴い観光客が安心して楽しめる環境づくりが必要な一方、観光地の地元住民の暮らしや観光従事者の確保も課題です。そこで北海道でも宿泊税導入の動きがありますし、札幌市でも導入の動きがあります。北海道での宿泊税は市町村を超えた広域での観光施策を行うための財源に使うとされています。主な施策としては観光人材の確保・育成、観光客受入機能の強化・高度化、移動の利便性向上、大規模災害など不測の事態への対策のうち道内広域におけるものとされ、市町村と役割分担して施策を行うとされています。一方、札幌市では観光施設・宿泊施設の受入環境整備、電車やバスなどの二次交通の課題解決への取組み、定山渓地区の魅力アップ、持続的な雪まつりの運営などのために宿泊税を導入するとしています。
    北海道が宿泊税を導入する場合、宿泊税を導入しているあるいは導入予定の道内市町村で宿泊する客にとっては2つの宿泊税を負担することになりますし、温泉のある宿泊施設では宿泊客は所在する市町村に入湯税も負担するため3重の税負担になり、観光客に敬遠されるとの懸念の声があります。

    日本経済新聞北海道経済2月20日記事(宿泊税、身構える観光地 道100~500円案、市町村も独自に)(登別、入湯税に上乗せ)

    二重課税対策について、既に県と市が共に宿泊税を課税しているケース(福岡市、北九州市)がある福岡県では福岡市内または北九州市内で宿泊する場合、他の県内の市町村で宿泊する場合と同額の税負担になるよう県の宿泊税額が軽減されている事例がありますが、北海道における宿泊税条例案では現状宿泊税を導入する市町村での宿泊での軽減税率導入の予定は特にないようです。
     

    宿泊税に代わる手段はないか?

    ここまで、宿泊税の意義、目的、動向について取り上げました。観光振興及び対策に使う財源の確保が宿泊税の目的であると申し上げましたが、税金は強制力のある支払であるため、負担を嫌がったり逃れようとして課税地への観光や宿泊を回避しようとする人が出てくることは避けられません。では、観光客や宿泊客を受け入れつつ観光振興及び対策に使う財源を確保する策は他にないのでしょうか?
    こうした財源確保の代表的な対策は、観光振興財源に使途を指定するふるさと納税です。返礼品狙いでふるさと納税を行う方が多いですが、自治体によっては使途を指定しての寄付をすることができる点がふるさと納税の特徴であり、使途に共感してふるさと納税を行う方もいます。観光振興のためと使途を指定して寄付することで寄付を受けた自治体は観光振興及び対策に使う財源を多く確保することができるようになります。また、民間レベルではクラウドファンディングなどを活用して観光に関する資金の確保を図ることもできます。
    ただし、寄付は任意であるため多く集めるためには自治体の事情を正しく理解してもらい共感してもらうことが欠かせません。訪れた観光客や宿泊客に自発的に寄付を促す有効な策として実際に旅先に行ったときに旅先の自治体にふるさと納税ができる旅先納税という株式会社ギフティが運営する仕組みがあります。対応している自治体は全国各地にありますが、北海道内では宿泊税を既に導入している倶知安町をはじめ、空港のある千歳市、知床を抱える斜里町など13の市町村が対応しており全国最多のようです。こうした自発的な観光振興や対策への資金提供の仕組みが整うことで観光客、地元双方が納得がいく施策が実現するのではないでしょうか。

     

    おわりに

    今回は宿泊税と観光振興について取り上げました。宿泊税の課税対象となる宿泊施設についてどこまで含まれるのか問題になります。いわゆる民泊については実質的な宿泊施設ですが、例えば東京都では民泊が増える以前から導入されていたこともあり宿泊税の課税対象外施設となっている一方、民泊が多く存在する大阪府や福岡県では民泊も宿泊税の課税対象施設となっています。観光客が多く泊まる施設であるにもかかわらず観光目的税である宿泊税が課税されない租税回避の弊害については今後も条例改正などの対策が必要そうです。
    また、納税義務者についても政策的配慮から対象外とするケースがあり、金沢市の例ですと先般の令和6年能登半島地震で被災した人々が金沢市内のホテルで避難しているケースがあることから、石川県内で金沢市以北にある市町村から宿泊した方については令和6年1月2日宿泊分~令和6年3月31日宿泊分(状況によって延長あり)は宿泊税及び入湯税が免除され、既に支払った分については返金に応じる対策が取られています。災害など必要に応じて免除あるいは軽減できる制度設計も検討の余地があるようです。
    いずれにしても、宿泊税の導入や見直しについて地元住民が関心を持って議論することで自らの生活を守ることができることは言うまでもありません。

     

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