令和6年度税制改正大綱|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2023/12/27
目次
与党(自由民主党・公明党)の税制改正大綱
今年も12月15日に与党(自由民主党・公明党)から税制改正大綱が出ました。今回は令和6年度与党税制改正大綱について特に生活や経済活動に影響が大きいものを取り上げます。
そもそも税制改正大綱は財務省HPによりますと次の流れで進むものです。政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討する一方、毎年度の具体的な税制改正事項は与党税制調査会が税制改正要望等を審議し、その後取りまとめられる与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。今回はこのうち、特にその時々の情勢が反映される与党税制改正大綱について取り上げます。
初めに基本的な考え方として挙がっているのが、大きな時代の転換点にある中で四半世紀続いたデフレからの脱却のため、物価上昇を上回る賃金上昇の実現を最優先の課題として税制改正に反映させると共に、税制に対する国民の信頼を高める意味においても、人口減少、経済のグローバル化など、国内外の経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しを行うとされています。そのため、今回の改正は所得税等の個人課税に関するものや賃上げ税制、国外業者及び国際取引に関する者が主となっています。
以上の考え方を踏まえて具体的な改正要望事項と検討事項の主なものを紹介します。
個人所得課税の改正大綱
1.所得税・個人住民税の定額減税
増税不安を解消するための減税策ではないかと大きくニュースになったものです。具体的には、本人、控除対象配偶者及び扶養親族に所得税について一人あたり3万円、個人住民税ついて一人あたり1万円合計4万円の税額控除をするもので令和6年度分に適用されるとされています。ただし、高額所得者への減税による不公平感解消のため合計所得金額(所得控除適用前の所得)が1,805万円を超える場合はこの4万円の控除は受けることができません。
所得税の税額控除は給与受給者及び年金受給者については令和6年(2024年)6月1日以降最初に行われる給与またはボーナス、年金の支給に関する源泉税からの控除額、事業所得者等については令和6年(2024年)7月納期分の第1回予定納税額または令和6年分の確定申告による納税額から控除されます。
また、個人住民税の税額控除は給与受給者及び年金受給者については所得税と同じように令和6年(2024年)6月1日以降最初に行われる給与または年金の支給に関する特別徴収(住民税の源泉徴収)額から控除され、事業所得者等については第1期納付額から控除されます。
2.ストックオプション税制の適用拡大
中小企業や新興企業におけるストックオプションの活用を促進するため、譲渡制限のある株式について新株予約権(ストックオプション)を付与された者と発行した株式会社との間で新株予約権の管理契約を締結し当該契約に従って発行した株式会社が新株予約権の管理をしている場合は、証券会社や信託銀行等による新株予約権保管委託をしなくとも、新株予約権行使によって生じる新株取得時の行使代金と株式時価との差額に対する利益に対して課税しない特例を受けることができるようになるとのことです。
また、設立後5年未満の株式会社が付与した新株予約権については、特例適用限度行使可能額を年1,200万円から年2,400万円に、設立後5年以上20年未満の非上場もしくは上場後5年以内の株式会社が付与した新株予約権については、特例適用限度行使可能額を年1,200万円から年3,600万円に引き上げるとのことです。
3.若年世帯に対する住宅ローン減税の控除限度額引上げ
若い世代の世帯でも高機能住宅を取得しやするため、年齢40歳未満である者、または年齢40歳以上で年齢40歳未満の配偶者または年齢19歳未満の扶養親族を有する者が以下に掲げる新築住宅または買取り再販認定住宅を令和6年(2024年)内に居住の用に供した(一般的には鍵の引渡しを受け自由に出入りできる状態になった)場合、住宅ローン減税の対象となる借入残高の限度額が以下の通り引き上げられるとのことです。
・認定住宅 4,500万円→5,000万円
・ZEH水準省エネ住宅 3,500万円→4,500万円
・省エネ基準適合住宅 3,000万円→4,000万円
資産課税の改正大綱
1.固定資産税・都市計画税の負担調整措置措置延長
土地価格の変動激しい地域があることを踏まえ、宅地等及び農地、商業地等に係る固定資産税及び都市計画税の負担調整措置を令和6年度から令和8年度まで現行の制度を維持するとのことです。
2.住宅資金贈与の非課税措置延長
住宅購入促進のため、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた住宅取得等資金の一定額の贈与税非課税について令和8年(2026年)12月31日まで3年間延長され、相続時精算課税制度における住宅資金贈与非課税特例の適用も同日まで延長されるとのことです。また、新築住宅の環境性能向上を促進するため、令和6年(2024年)1月1日以後に贈与による住宅取得をした場合に非課税限度額上乗せの要件となる省エネルギー住宅の要件が厳格化されるとのことです。
3.非上場株式・個人事業資産の贈与・相続に関する納税猶予特例延長
事業承継の動きが進んでいない企業が未だに多いことを踏まえ、円滑な事業承継促進のための非上場株式または個人事業財産の贈与・相続にかかる税金の実質全額猶予となる納税猶予特例を受けるために必要な特例承継計画の提出期限を令和6年(2024年)3月31日から2年延長し、令和8年(2026年)3月31日まで延長するとされています。
4.公益信託財産の非課税措置
新たな公益信託財産制度の導入に伴い、相続財産を公益信託の信託財産に拠出する場合遺贈に伴う相続税課税の対象外となる他、公益信託契約に係る印紙税の免除、公益信託において生じた収益費用に対する法人税の非課税、信託受託者とは区別した消費税課税など複数の優遇措置が講じられるとのことです。
法人課税の改正大綱
1.賃上げ税制の見直し
賃上げ促進によってサラリーマン等の所得向上を目指す賃上げ税制について令和6年(2024年)3月31日までに開始する事業年度までとされている現在の期限を3年間延長し、令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度までとするとともに、給与支給増加額に対する税額控除率を現行の15%から10%に引き下げるとされています。(ただし継続雇用者給与等支給額が前年度と比較して3%(中小企業は2.5%)以上の場合に適用され、法人税または所得税の20%が限度です)
一方、継続雇用者給与等支給額が前年度と比較して
・4%(常勤の従業員数が2,000人以下の青色申告法人(以下中小法人等)は3%)以上5%(中小法人等は4%)未満増加:給与支給増加額の15%を税額控除
・5%以上~7%未満増加:給与支給増加額の20%を税額控除
・7%(中小法人等は4%)以上増加:給与支給増加額の25%を税額控除
できる制度とし、更なる賃上げ率アップを後押しする形になるものとされています。
また、教育訓練費が前年度と比較して20%(中小企業は10%)以上増加し、かつ教育訓練費の額が雇用者給与支給額の0.05%以上である場合控除率5%(中小企業は10%)上乗せし、プラチナくるみんもしくはプラチナえるぼし認定を受けている場合控除率5%(中小企業は10%)上乗せとされています。
更に実質的には大規模企業であるにも関わらず資本金操作による安易な賃上げ税制適用を防止するため、現行では資本金等の額が10億円以上、かつ常勤の従業員数が1,000人以上の企業が賃上げ税制を適用する場合に求められている賃上げに関する情報公開をする企業の範囲を資本金の額に関係なく常勤の従業員数が2,000人を超える企業にも求め、業務委託、外注、フリーランスなど実質的に雇用者と変わらない取引関係にある事業者にも透明で公平な取引条件を確保するため、消費税免税事業者に対する内容を賃上げに関する情報公開に含めるものとされています。
現行の賃上げ税制に導入されている資本金等の額が10億円以上、かつ常勤の従業員数が1,000人以上の企業における設備投資額の当期償却額比30%以上要件が40%以上に引き上げられ、かつ常勤の従業員数が2,000人を超える企業にもこの要件が適用されるとのことです。
2.戦略分野国内生産促進税制の創設
半導体やEV、鉄鋼製品、基礎化学品、航空機燃料について他国との競争が激化して久しい現状であることから、産業競争力強化法を改正することを前提に改正法施行日から令和9年(2027年)3月31日までに同法に基づく産業競争力基盤強化商品の生産または販売を行う計画が盛り込まれた事業適用計画が認定された青色申告法人を対象に、当該商品の生産設備に対し最大10年にわたり販売額または取得価額のいずれか少ない金額の税額控除を認めるとされています。
3.イノベーションボックス税制の創設
優れたAIの幅広い活用を促進するため、青色申告法人が令和7年(2025年)4月1日から令和14年(2032年)3月31日までに開始する事業年度において令和6年(2024年)4月1日以降取得または制作した特許権及びAIを活用したプログラムの著作権について内国法人または国内居住者に譲渡または貸付した場合、対象となる特許権等の譲渡・貸付収入に、研究開発に関連する支出額のうち適格とされる金額の割合をかけた金額を税額控除できるとされています。
4.研究開発費控除の縮小
試験研究費に関する税額控除について、研究開発の国内回帰と促進を促すため内国法人の国外事業所等を通じて行った研究開発に関する支出については税額控除の対象から除外するとのことです。また、研究開発投資促進の観点から令和8年(2026年)4月1日以降開始する事業年度より前年度比増減試験研究費割合が0に満たない事業年度については、税額控除率を5年間かけて徐々に引き下げる共に現在1%となっている控除率の下限を撤廃するとされています。
5.譲渡制限等がある市場暗号資産の期末評価方法の明確化
法人が保有している市場に流通している暗号資産のうち、他の者に移転しないような技術的措置等が取られ、その措置等を講じていることを暗号資産交換業者に通知している場合は、市場流動性が低いことから原価法または時価法のいずれかを法人が選択して計算すると共に、暗号資産の種類ごとに選択した方法を確定申告期限までに所轄の税務署に届け出るものとされています。
6.交際費の損金算入制限の見直し
食材仕入価格や人件費上昇により飲食代が値上がりする一方、コロナ禍で痛手を受けた飲食産業の活性化の観点から現行法では令和6年(2024年)3月31日までに開始する事業年度までの適用となっている交際費の損金算入ルールを3年間適用期間を延長すると共に、飲食費に関する交際費の損金算入要件を現行の1人当たり5,000円から10,000円に引き上げるとされています。
7.外形標準課税の課税潜脱防止
近年、大法人が資本金を1億円以下に減資し中小法人になることで意図的に税負担を引き下げるケースが増加していることから、令和7年(2025年)4月1日以降開始する事業年度より当分の間資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える場合は資本金が1億円以下の場合には適用されない事業税の外形標準課税を適用するとされています。ただし、令和7年(2025年)4月1日以降最初に開始される事業年度についてはもともと中小法人だった法人が上記ルールの適用で税負担が増加し、本来の改正趣旨と合わない増税となることを防止するため、公布日を含む事業年度の1つ前の事業年度において外形標準課税の対象になっている法人に限って適用するとされています。
消費課税の改正大綱
1.プラットフォーム課税の導入
プラットフォームを通したアプリやゲームの販売取引は販売者が国外にある場合税務当局による捕捉が難しく結果として課税逃れをしていると指摘されており、欧米を中心にGAFAなどプラットフォーマーに消費税に該当する税金の納税義務を課すプラットフォーム課税が導入されています。日本でも令和7年(2025年)4月1日以降のプラットフォームを通した国外事業者からのアプリやゲームの購入取引についてプラットフォーマーからの購入とみなしてプラットフォーマーに消費税の納税義務を課すとされています。
具体的には、プラットフォーマーの課税対象期間において国外事業者から国内の個人に運営するプラットフォームを通して販売されたアプリ等の売上高が50億円を超える場合、国税庁長官が特定プラットフォーム事業者として認定して公表し、認定されたプラットフォーマーはプラットフォーム経由の国外事業者による国内の個人へのアプリ販売への消費税について明細書を作成して申告書に添付し納税するというものです。
2.地金購入時における事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用制限
1回の購入額が1,000万円以上の棚卸資産や固定資産といった高額特定資産と呼ばれる資産を購入した場合、高額特定資産を購入したときに多額の仕入税額控除で消費税の還付や大幅な節税を図り、購入のない翌年度は免税事業者や簡易課税制度を適用することで消費税の節税を図ることを封じるため、高額特定資産購入年度の次の年度から3年間は免税事業者になったり簡易課税制度を選択できなくなったしたりする適用制限が設けられています。
今回の改正大綱では、地金購入スキームによる消費税節税が横行していることを踏まえ令和6年(2024年)4月1日から国内または保税地域引取により行われる200万円を超える金または白金の地金等の購入を行った場合は上記の適用制限の対象にするとされています。
3.簡易課税制度またはインボイス制度の経過措置を適用している事業者の消費税経理方法の明確化
簡易課税制度を選択している場合、またはインボイス制度に登録していなければ免税事業者であった場合に適用可能な経過措置いわゆる2割特例を選択している場合、売上消費税から控除される金額が実際の仕入や経費にかかった消費税額と異なりますが、実務上消費税がかかる取引について本体部分と消費税部分を分けて経理するいわゆる税抜経理を採用して経理している場合、実際に支払った消費税額を消費税部分として経理することが多くなっています。
今回の改正大綱では、消費税申告時に簡易課税制度や2割特例を適用する場合でも継続適用を条件に仕入税額控除の対象となる仕入や経費に関する消費税額を税込金額の10/110(軽減税率対象取引は8/108)で計算することを認めることを明確にするなど消費税の経理処理に関して見直しを行うとされています。
国際課税の改正大綱
1.各課税年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直し
令和5年度税制改正で導入され、令和6年(2024年)4月1日以後開始する事業年度から導入されるグローバル・ミニマム税制に関して導入に当たって必要な見直しを行い、最低税率課税の他国との国際的二重課税防止や最低課税の潜脱防止を図るとされています。
2.非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等
暗号資産取引における課税情報捕捉強化と各国税務当局との情報交換のため、令和8年(2026年)1月1日以後に暗号資産交換業者等の営業所を通して暗号資産を取引する場合、取引する者は暗号資産取引を行う際に暗号資産交換業者等の営業所長に対し、氏名または名称、住所または本店等所在地、居住地国(居住地国が日本国外の場合は居住地国の納税者番号も)その他必要な事項を記載した届出書を提出する義務を課すとされています。
納税環境整備の改正大綱
1.GビズIDとの連携によるe-Taxの利便性向上
行政サイトの利便性向上のため、所要の法令改正を行う前提で補助金申請や社会保険、入札など他の行政サイトで広く用いられているGビズIDを国税サイトであるe-Taxでも利用できるようにしe-Tax独自のIDとパスワードがなくても利用できるようにするとのことです。
2.処分通知等の電子交付の拡充
行政手続の電子化を推進するため、令和8年(2026年)9月24日から更正や追徴など全ての処分通知をe-Taxを通して行うことができるようにし、併せて通知の都度e-Taxによる通知の同意を求める現行の取扱いを事前にメールアドレスを登録してe-Taxによる通知に同意する取扱いにするとのことです。
3.偽り、不正などにより国税を免れた会社の役員等の第二次納税義務の整備
財産を意図的に会社から役員に移転することにより不正により滞納となった国税が事実上回収不能となることを解消するため、偽り、不正などにより国税を免れた会社が免れた分の国税の徴収が不足していると税務当局が判断した場合は、会社から徴収できなかった不足額のうち、役員報酬や配当、貸付等で当該会社の役員に移転した額を上限に当該役員個人に不足分の納税義務を課すことができるようにするとのことです。この取扱いは令和7年(2025年)1月1日以降生じた法人税等の滞納について適用されるとのことです。
4.地方公金に係るeLTax経由の納付
公金の電子納付を推進するため、地方自治法の改正に合わせてeLtax(地方税オンラインシステム)を通して税金以外の自治体への公金(例:国民健康保険、国民年金)を納付することができるようにするとのことです。なお、銀行等での公金支払いについては令和6年(2024年)10月から1件当たり62円の送金手数料がかかることになっています。
今後の検討事項
今後の検討事項として以下の事項が挙げられています。
- 少子高齢化進展に伴う世代間課税公平化に向けた年金課税の見直し
- デリバティブ取引に対する所得課税制度の一本化
- 個人事業主、同族会社、給与所得者の課税のバランスや勤労性所得に対する課税のあり方等にも配慮し、正規の簿記による青色申告の普及、「所得の種類に応じた控除」と「人的控除」のあり方の全体的見直しといった所得税・法人税の総合的な見直し
- いわゆる「老々相続」や相続財産の構成の変化などの変化を踏まえた納税者の支払能力をより的確に勘案した物納許可限度額計算の検討
- カーボンニュートラルやシェアリングへのシフトなど自動車の環境変化を見据えた自動車関連課税制度の見直し
- 原料用石油製品等の免税・還付措置の本則化
- 正規の簿記による青色申告の普及、優良電子帳簿の普及・一般化、記帳義務の適正な履行担保のためのデジタル化にふさわしい制度整備
- 課税公平のための事業税における社会保険診療報酬の実質非課税や医療法人の軽減税率の見直し
- 地方税収と事業環境変化を踏まえた、電気供給業及びガス供給業の収入による外形標準課税の見直し
- 推進すべき住宅政策との整合性を確保する観点からの新築住宅に関する固定資産税額の軽減措置の見直し
なお、かねてから増税議論として話題になっている防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、適当な時期に講じるとの附則盛り込みにとどまり一旦先送りされましたが、財源として電子たばこと紙巻きたばことのたばこ税負担の公平化も兼ねた電子たばこに対するたばこ税を紙巻きたばこに合わせた引き上げにより確保するとされました。電子たばこに切り替えた愛煙家にとっては頭の痛い話です(筆者は非喫煙者です)。
さらに、児童手当の18歳までの拡充にあわせて16歳から18歳までの高校生世代に関する扶養控除の上乗せが議論されましたが、こちらも令和7年度税制改正時までに結論を出すとされ今年度の税制改正では見送られました。