酒税について考える|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2023/08/18
目次
はじめに
今回は少し趣向を変えて酒税について深く取り上げます。お酒は日本人にとって体質により得意不得意があり、好き嫌いもはっきりしています。その一方で一人一人の生活スタイルや人間関係に大きな影響があります。筆者個人はあまりお酒は得意ではありませんが、飲むこと自体は好きで自宅でもお店でも飲みますし、いろいろな種類のお酒をたしなみます。
普段は意識しませんが、お酒には酒税というお酒特有の税金がかかっています。ここではお酒になぜ税金がかかるのか、税金はいくらかかるのか、納税の仕組みはどうなっているのかについて取り上げます。
酒税の意義
酒税とは文字通りお酒に対して課税する税金で、温度15℃におけるエチルアルコールの割合が1%以上の液体が課税対象となります。酒税は酒類の製造者が製造した酒類を外部に移出することに対し課税され消費者は購入時の価格に酒税相当額が上乗せになることで間接的に負担する形になります。課税の詳細は後ほど詳しく説明します。
酒税が設けられている趣旨は応能負担の観点から趣向性のある飲食物であるお酒に税金をかけることで税収を確保することにあり、租税回避(税金逃れ)を防止する手段として酒造及び酒販が原則免許制でお酒の流れを的確に追うことができる体制になっています。そのため、無免許でのお酒の製造販売には厳しい罰則が設けられています。罰則についても後ほど詳しく説明します。
酒税の税率
次に酒税の計算についてお話しします。酒税は1キロリットル当たりの金額が定められており、お酒の種類をいくつかに分類して定められています。大きな分類は発泡性酒類(ビール、発泡酒など)、醸造酒類(清酒、果実酒など)、蒸留酒類(焼酎、スピリッツなど)、混成酒類(みりん、リキュールなど)の4種類でそれぞれに基本税率が設けられています。基本税率が設けられているものの、実際にはさらに細かく分類された種類別の税率を参考にします。例えば、発泡性酒類は基本税率は20万円/klで、細かい分類別ですとビール20万円/kl、麦芽比率25%未満かつアルコール度10%未満の発泡酒134,250円/klなどです。また、蒸留という過程を経ることでアルコール純度を高くしている蒸留酒類については最低税率を設定したうえで度数が1%上昇するごとに1万円/klが加算されるかたちになっています。
税率が数量単位で設定されているため販売料金改定に伴う酒税相当額の変動はありません。そのため、酒造会社は低価格のお酒を販売する場合低い税率が適用されるように原料や蒸留を調整するのです。なお、移出数量が小量なクラフトビールなど小規模酒造業者に対しては酒税負担軽減により事業継続を支援するため、税額軽減割合が設定されています。
参考:国税庁ホームページ 酒税率一覧表
酒税の課税と納税の仕組み
では酒税はどのような仕組みで課税納税されるかお話します。
酒税は酒造業者から移出された段階で移出数量に対して課税されます。酒造業者は毎月種類別の移出数量を所轄の税務署に申告し、申告後2か月以内に酒税を納付します。ただし、輸出用として製造したお酒に関しては酒税が免税されることになっており、移出数量の申告の際に輸出用数量を記載することで免税されることになっています。酒税が免税される輸出は原則酒造業者から直接保税倉庫に入るルートで行われる場合に限られ申告の際このルートで輸出されたことを証明する移出証明書を輸出業者から入手し添付します。なお、平成29年より酒造業者直売で外国人観光客がお土産として購入する場合、消費税だけでなく酒税も免税となる輸出酒類販売場制度が導入されインバウンド消費促進を図っています。
また、日本酒に入れる醸造用アルコールなどを別の酒造メーカーに移出する場合など二次的にお酒の製造に使用するための移出についても非課税となり申告時に当該移出量を申告します。
一方、酒類を海外から輸入した場合にも酒税が課税され、輸入され保税倉庫に入庫された段階で税関に対し消費税及び関税と共に酒税を納税します。
酒税に関する罰則
酒税に関しては税金の滞納もさることながら、脱税や違法な製造や販売につながる行為も他の税金と比較すると多くあります。そこで、ここでは酒税法違反に該当する行為と刑事罰について取り上げ税理士ながら健全な酒造と酒文化の発展に寄与したく存じます。
- 無免許での酒類、酒母またはもろみの製造(未遂含む、いわゆる密造):10年以下の懲役または100万円以下の罰金
この他無免許で製造された酒類等はいかなる状態であれ現に消費されていないものは没収され、消費されたと判明した分には酒税が課税されます。 - 故意の申告除外や架空申告による酒税の課税逃れ及び不正還付(いわゆる脱税):10年以下の懲役または100万円以下の罰金
この違反行為は他の税金と共通するもので追徴課税があります。なお、多額かつ相当悪質でない限り懲役刑や罰金刑となるケースは少なく追徴課税による処分が多いようですが、法律上脱税は犯罪となり前科が付きますのでお止めください! - 必要な申告をしないで酒税を免れた場合(いわゆる無申告):5年以下の懲役または50万円以下の罰金
この違反行為も多額かつ相当悪質でない限り懲役刑や罰金刑となるケースは少なく追徴課税による処分が多いようですが、当然犯罪となり前科が付きますので期限内に忘れずに申告するようにしましょう! - 無免許での酒類の販売(いわゆるヤミ販売):1年以下の懲役または50万円以下の罰金
近年、ECやフリマサイトの発展で購入した酒類を転売する行為があるようですが、出店者本人に酒販免許がない場合無免許販売となり刑事罰の対象になることがありますので、仮に飲みきれないお酒での小遣い稼ぎであってもご注意ください!もちろん、違法転売であっても利益が出れば所得税の課税対象となります。
この他、申告遅延、自家消費が認められている果実酒等の販売、密造酒の所有、密造ほう助などにも1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。
お酒は飲まれてトラブルになることが少なくありませんが、不正なお酒の製造や販売などのトラブルも少なくありません。百害あって一利なしとならないよう健全な飲酒文化になるよう一人一人が心掛けるほかありません。
おわりに
今回は酒税を考えると題して酒税の仕組みや制度について取り上げました。お酒はコントロールの利かない状態で製造・流通されるとお酒全体の品質低下や過剰飲酒を助長し、薬物のような精神的・健康的な問題につながります。そのため、法律による酒造や酒販の規制はあるべきと考えます。
一方、現行法での規制は税法での規制である以上適正な課税の趣旨での規制となっており、飲酒文化や酒造・酒販業界の健全な発展の観点が不十分といえます。例えば、お酒の品質制度や流通管理、未成年に限らない健康維持のための制度や規制などです。お酒に関する一般法を制定して製造、流通などに関してはこの一般法に委ね、酒税法は他の税法と同様に酒税の課税、申告及び徴収に関する規定だけにすることが必要ではないでしょうか。