公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

商品や製品は年度末に棚卸しよう!|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2022/08/25

目次

    はじめに

    事業をされている方の中には商品や材料、資材を持っている方がいらっしゃいます。こうしたものが売れたり、新たなものに加工されたり、加工やサービスで使われたリすることでビジネスができ、お金を生みます。もし、こうしたものがいくつあるのかわからなければあといくら売ることができるのか、いくつ作ることができるのか、また、どれだけサービスできるかがわからなくなり商売にも大きな影響が出てきます。
    そこで今回は物がいくらあるのか確認する棚卸についてお話します。物売りではなくサービス業であっても棚卸が必要な場合があります。今回はサービス業の方にも関係あると思って是非お読みください。

     

    棚卸を行う意義

    棚卸は大きく3つの観点から行う意義があると考えられます。
    ①販売仕入管理の観点
    棚卸は実際の在庫がいくつあるのか一定時点で確認する手続です。実際の数量を把握することにより、正確に販売可能数量と要仕入数量を把握することができます。見込み生産・仕入型のビジネスでしたら商品の受発注活動に大きく影響しますし、受注生産・販売型のビジネスでしたら作業進捗や発送状況の理解に役立ちます。
    ②品質管理の観点
    実際の在庫を確認することで単にモノの有無だけでなく、品質を確認することもできます。例えば、食品でしたら消費期限や鮮度が該当し、部品でしたらさびやキズ、包装されたモノでしたら破袋や漏れなどです。棚卸をすることで販売や製造のムダやトラブルを未然に取り除くことができるのです。
    ③決算確定の観点
    実際の在庫数量が判明することで決算書に実際に記載すべき棚卸資産がいくらなのか正確に把握することができます。もっとも、決算書(貸借対照表)には数量ではなく金額で記載しますので、数量に掛ける単価をどのように設定するかという論点があります。単価の決定方法に関しては以下の方法があります。
    ・個別法 仕入れた商品(材料)ごとに実際の仕入単価を適用する方法です。数量が多いと管理がとても手間なうえに利益の操作が行いやすい方法であるため、適用されているのは建設工事やプロジェクトなど1つ1つの資産の個別性が極めて高いものに限られています。
    ・先入先出法 先に仕入れた商品(材料)から先に出て行き、在庫は後の仕入から構成されていると仮定する方法です。在庫数量≦最終仕入数量の場合最終仕入単価が適用され、在庫数量>最終仕入数量の場合最終仕入数量に至るまでの在庫は最終仕入単価、それ以外の在庫には最終仕入の一つ前の仕入から順に残在庫数量≦1回の仕入数量になるまで該当する仕入時の単価を適用することを繰り返します。よって、この方法では同じ商品(材料)に複数の単価が適用されることがあります。
    ・移動平均法 仕入があった都度、(仕入直前の在庫金額+仕入金額)÷(仕入直前の在庫数量+仕入数量)により単価を算出する方法です。
    ・総平均法 1か月間あるいは1年間といったように一定期間の、(期首在庫金額+期間中の仕入金額)÷(期首在庫数量+期間中の仕入数量)により単価を算出する方法です。
    ・売価還元法 棚卸実施時の在庫金額は販売単価で計算し、決算をする際にアイテムグループごとに(期首仕入単価在庫金額+期間中の仕入金額)÷(期首販売単価在庫金額+期間中の売価ベースの仕入金額)で算出した原価率をかけて決算上の在庫金額とする方法です。上記に掲げた方法よりも計算精度が下がりますが、商品アイテム数が極めて多く計算の手間がよりかかる小売業で多く用いられている方法です。
    ・最終仕入原価法 文字通り棚卸直前最終仕入時の仕入単価を適用する方法です。在庫数量>最終仕入数量の場合理論的に不正確な単価が適用されることがあるため、法人税法では適用が認められているものの、大企業が主に適用する会計基準では適用が認められていません。

     

    棚卸は段取り八分

    棚卸はほとんどの場合一定の日時を決めて行うため、通常一発勝負となりやり直すことができません。数量の数え間違いがあったとしてもその後の業務スケジュールを考えると後でやり直すことが極めて難しいのです。よって数え間違い防止や劣化品発見のためには本番前の準備が極めて重要になってきます。
    棚卸の事前準備においては以下の事項を検討し計画しましょう。
    ・棚卸を実施する拠点及び日時:全ての拠点を同じ日時にする必要はありません。ただし、決算日と離れるときは棚卸前後のモノの出入りを商品管理簿などで正確に把握するようにします。
    ・棚卸対象品:原則すべての商品や材料を対象とすべきです。ただし、災害による被災等やむを得ない理由で数量把握が困難な場合には対象外とすることもあり得ます。
    ・棚卸区画の整理:カウントミス防止のために整理整頓は欠かせません。日ごろから整理整頓を心掛けることは言うまでもありませんが、特に棚卸時は念入りに行うようにしましょう。なお、顧客や他社から預かっている在庫については棚卸対象外として差し支えありませんが、カウントミス防止と善管注意義務遵守のためにも預かっている在庫は、区画を分ける、貼り紙をするなど自社在庫とは明確に区分しておきましょう。
    ・預け品の取扱い:倉庫や仕入先に預けている在庫についても漏れなく数量を把握しましょう。保管先に預り証明書の発行を依頼し入手することが多いですが、特に管理に注意が必要な預け品については保管先で実際に棚卸を行うことも検討しましょう。
    ・棚卸の方法:事前に実施当日のやり方を検討し、棚卸実施担当者間で共有することがカウントミスや不慮の作業事故を防止するために重要です。事前の計画時に具体的に棚卸方法を明文化し実施前日までに全担当者に共有しましょう。もちろん、実施当日開始前に再確認を兼ねてやり方を説明しても構いません。棚卸の方法については次の項目でお話します。

     

    棚卸の方法

    ここでは棚卸の方法についてお話します。よく用いられる方法として以下の2つの方法があります。
    ・棚札方式:棚卸実施前に棚卸実施対象となる棚や区画に棚札と呼ばれる貼り紙を貼り、棚卸実施時に該当する棚や区画の棚札に実際の商品(材料)名と数量を記入し記入後集計担当者に棚札を提出する方法です。この方法は一度貼った棚札を実施時に全て回収することにより数え漏れを防止すると共に、あらかじめ棚卸対象区画に貼り紙をすることにより二重カウントを防止することができます。
    ・一覧表方式:商品台帳などからあらかじめ棚卸対象とする品目をリストアップした一覧表を作成し、棚卸実施時にその一覧表に実際の数量を記載する方法です。この方法は、保管場所が限られており貼り紙をするほどの手間が不要な場合に向いています。ただし、棚札方式と比べて数え漏れが起こりやすいため、一覧表に余白を設けておき棚卸実施時に品目と数量をメモするよう棚卸担当者に周知することをお勧めします。
    この他にも、片っ端から在庫となっている商品(材料)の品目と数量を一覧表に記載する方法もありますし、バーコードやICタグなどを用いた電子的な方法もあります。なお、段ボールやケースなどに封がかかった状態でまとまって入っている商品(材料)がある場合、封がかかったまま数えて差し支えありませんが、数量を記載する際はケース単位ではなく1ケースあたり入量で換算して記載し、アイテムごとに数量単位を統一しましょう。

     

    目視で量を数えられないものの棚卸

    棚卸するモノによっては目視で数量を直接数えることができないものがあります。例えば、石油製品や開封済みのお酒などの液体、量り売り品やスクラップの塊などです。このようなものについては、以下の方法で数量を把握します。
    ・物差しで測る方法:ガソリンスタンドにある燃料などタンクに保管されているものやスクラップなど山積みになっているものに用いられます。長さ当たりの重さがわかる場合に用いることができます。
    ・量りで測る方法:開封済みのお酒や量り売り商品など比較的軽量なものに用いられます。

     

    サービス業の棚卸

    棚卸はそのものが商売の対象となるものだけに行われるわけではありません。サービス業の中には医院や理美容室、エステサロンなどサービスにモノを使う業種もあります。また、図書館やレンタル店など物貸しもあります。こうした業種でも、サービスのために使う物品のうち、消耗品や賃貸品についてはこれからのサービスのために所有しているものであることから決算書上棚卸資産となります。また、先述の通り残数の正確な理解や品質管理のためにも棚卸を行うことが必要です。具体的な棚卸における留意点については先述の商品や材料などとほぼ同じですので、ここで詳しく説明することは割愛します。
    なお、消耗品について金額的重要性に乏しい場合は購入時に費用処理(経費算入)して差し支えないものとされています。

     

    自社拠点にない在庫の把握漏れに注意

    ここでは自社拠点内にない在庫について把握漏れに注意する旨のお話をします。
    保管預け品については棚卸の事前準備のところで一部触れましたので、ここでは保管預け先の把握についてのみお話します。保管預け先は通常発注時や納品時に保管預けの旨がやりとりされていることから、仕入れ担当者に確認するのが無難です。また、恒常的に在庫を預けている先に対してはあらかじめ毎年決算のタイミングで保管預り証明書を交付するようにしてもらうことも在庫の把握漏れ防止に有効です。
    保管預け品のほか、自社拠点にない在庫となるのが委託販売品と未着品です。委託販売品は見た目は委託先の販売品ですが、委託品は販売業務を委託しているに過ぎないため、実際には受託先に預けている委託者の在庫になります。保管預け品同様、委託先の現場に行って棚卸をする方法もありますし、保管預り証明書や販売仕切書に保管数量を記載してもらう方法もあります。
    一方未着品は船やトラックなどで配送中の商品であるため、棚卸を行うことは現実的に困難です。日本国内から仕入を行う場合はそれほど輸送日数がかからず、通常自社拠点到着時に所有権が移転する契約になっていることがほとんどであるため輸送途中の仕入品が在庫になることは滅多にありませんが、海外から輸入する場合注文から到着までに数か月かかることが多々あり、輸送途中のトラブルも多いため所有権移転事項にいくつかのパターンがあります。よくあるパターンが輸出港(空港)を出港(出航)した時点で買手に所有権が移転する(FOB、本船渡し)ことになっているものです。この契約ですと日本の港(空港)につく前の船や飛行機で運ばれている状態でも買手の在庫となります。そのため、決算書上の在庫にカウントする必要があります。先ほども申し上げました通り、現場で棚卸をすることが現実的に極めて困難な状態であるため在庫の把握は仕入元からの出荷案内書や税関の検査証明書などを用います。なお、実際の数量が入手した書類の通りでないことも多くその時点によって数量が変動することがあるため、最新の入手書類の情報で在庫数量を把握するようにしましょう。

     

    不良品、期限切れ品、長期滞留品が見つかったら

    棚卸中に傷物や欠陥品、賞味(消費)期限切れ品、販売期限切れ品が判明することがあると思います。こうした販売や加工に支障のあるものについては棚卸時に報告するよう事前に計画し棚卸担当者に周知すると共に発見時の処分や取扱いを明確にしておきましょう。そうすることで顧客との販売トラブルや業務事故を未然に防止することができます。
    また、期限は特にないものの長期間販売や消費されないまま残っている在庫いわゆる長期滞留品についても棚卸の際把握するようにしましょう。長期滞留の基準としては、例えば衣料品など季節性のある商品についてはシーズンを過ぎたものが長期滞留とされますし、新しいモデルが出て型落ちとなった状態も長期滞留といえるでしょう。こうした長期滞留品を把握しておく必要があるのは売れないまま廃棄対象となったり、販売価額が仕入価額を下回る赤字状態で販売されたりするリスクが高い販売管理上の理由からです。この理由は上述の販売や加工に支障のある状態の在庫にも当てはまります。
    なお、大企業において適用される棚卸資産に関する会計基準では、こうした廃棄や赤字販売の可能性が高い在庫の決算書上の金額について販売可能見込価額で計上することとされ、先述の方法で計算した在庫金額との差額を評価損として原則売上原価にするものとされています。ただし、法人税法上将来の見込で計算した評価損は法人税計算時の所得計算で認められず、実際に廃棄または売却されたタイミングで認められることになっていることから、損失の出るタイミングにずれが出ることに留意する必要があります。

     

    おわりに

    今回は棚卸についてお話しました。今回の棚卸は一定時点の在庫数量を実際に確認する「実地棚卸」についてでしたが、他にも商品台帳等の帳簿で日々入出庫と残数を記録し、一定時点における帳簿上の残高を在庫数量とする「帳簿棚卸」という方法があります。日々記録をとっていれば帳簿棚卸によって棚卸をしたことにすることも考えられますが、現実には検品ミスや出荷数量誤り、盗難や紛失、蒸発等による減耗が生じ得ます。このように帳簿上の残量と実際の数量が異なることがあることから、日々在庫の入出記録をとっていたとしても定期的に実地棚卸を行い現実の正確な数量に補正すると共に在庫の品質管理に役立てることをお勧めします。
     

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