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令和4年度税制改正大綱①|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

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令和4年度税制改正大綱①|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

令和4年度税制改正大綱①|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

2021/12/17

与党(自由民主党・公明党)の税制改正大綱

 年末になり税制改正が話題になる時期になりました。今回から3回にかけて令和4年度の税制改正大綱について特に影響が大きいものを取り上げます。
 そもそも税制改正大綱は財務省HPによりますと次の流れで進むものです。政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討する一方、毎年度の具体的な税制改正事項は与党税制調査会が税制改正要望等を審議し、その後取りまとめられる与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。今回はこのうち、特にその時々の情勢が反映される与党税制改正大綱について取り上げます。
 初めに基本的な考え方として挙がっているのが、岸田内閣が掲げる富の再分配を軸とした「新しい資本主義」実現のため
 ・研究開発や人的資本への投資強化
 ・従業員や下請け企業を含めた幅広いステークホルダーへ企業利益の還元
を促進し、さらに
 ・地方活性化
 ・税制に関する国際的合意の遂行
 ・納税環境の改善
を図ることとされています。以上の考え方を踏まえて具体的な改正要望事項と検討事項の主なものを紹介します。

個人所得課税の改正大綱

1.住宅ローン減税の見直し
 適用期限が令和7年(2025年)12月31日まで4年延長すると共に、長年の利率低下を踏まえ、控除額が年末ローン残高の1.0%から0.7%に縮小される一方、令和4年度と令和5年度は控除期間が10年から13年に延長することとされています。
2.配当金課税の見直し
 上場株式等の配当のうち、同族会社に該当する会社の発行済株式の3%以上を保有する場合の配当については、課税公平の観点から単一税率15.315%の分離課税ではなく累進税率の総合課税の対象するとされています。
3.コロナ対策支援金の非課税措置
 緊急小口資金の債務免除、新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金、子育て世帯への臨時特別給付金及び住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金については、コロナ禍における生活資金援助の目的を減殺することがないよう、所得税及び住民税を非課税とすることとされています。
4.控除証明書の電子化拡大
 電子化による申告効率化推進のため、現状生命保険控除に限られている電子控除証明書の対象を、社会保険料控除及び小規模企業共済等(iDeco含む)掛金控除にも拡大することとされています。

資産課税の改正大綱

1.住宅資金贈与の非課税措置延長
 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた住宅取得等資金の一定額の贈与税非課税について令和5年(2023年)12月31日まで延長し、令和4年4月1日からの成人年齢引下げに合わせて受贈者の対象年齢を20歳以上から18歳以上に引下げることとされています。
2.商業地にかかる固定資産税の負担調整
 景気回復に万全を期すため、商業地に係る固定資産税及び都市計画税の負担調整措置を令和4年度に限り、課税標準額の上昇幅を評価額の2.5%(現状5.0%)に引き下げるとされています。
3.非上場株式の贈与・相続に関する納税猶予特例延長
 事業承継の動きが進んでいない企業が多いことを踏まえ、円滑な事業承継促進のための非上場株式贈与・相続における税金の実質全額猶予となる納税猶予特例を受けるために必要な特例承継計画の提出期限を令和5年(2023年)3月31日から1年延長し、令和6年(2024年)3月31日まで延長するとされています。
4.所有者不明土地利用円滑化法の対象拡大と固定資産税等の優遇拡大
 所有者不明土地を減らすため、所有者不明土地利用円滑化法改正を前提に、損傷、腐食等により利用が困難で引き続き利用されないと見込まれる建築物の建つ土地を所有者不明土地に関する固定資産税及び都市計画税の軽減措置の対象とすることとされています。

5.死亡届情報等の通知
 法務局や市町村が死亡届等死亡に関する情報を受けた場合、戸籍等の副本や土地家屋に関する固定資産課税台帳の死亡登録情報、つまり相続が発生した事実を税務当局に通知するものとされています。

6.不動産登記情報の通知事項拡大
 不動産登記簿に登記名義人死亡情報及びDV被害者等の住所に代わる事項が追加されたことに伴い、登記所から市町村に不動産登記情報を通知する際に今回追加された2つの事項も通知すると共に、市町村が発行する固定資産課税台帳記載事項に関する証明書にDV被害者等の登記上の住所が記載されている場合、その住所に代わる事項を記載することとされています。

法人課税の改正大綱

1.賃上げ税制の見直し
 継続雇用者給与等支給額が前年度と比較して3%(中小企業は2.5%)以上増加した場合に給与支給増加額の15%を控除(ただし法人税または所得税の20%が限度)できる制度とし、4%以上の増加だった場合の控除率10%上乗せと教育訓練費が前年度と比較して20%(中小企業は10%)以上増加した場合の控除率5%(中小企業は10%)上乗せをするとされています。また、大企業における賃上げを一層強化するため、資本金等の額が10億円以上、かつ常勤の従業員数が1,000人以上の企業については、賃上げ税制適用に賃上げに関する情報公開をすることを求めるものとされています。
2.オープンイノベーション税制の拡大
 出資対象となる事業者の要件のうち、事業者の設立からの期間について、赤字会社で研究開発費が売上高の10%以上を占める会社の場合、設立10年以内から設立15年以内に延長するとされています。また、対象となる事業者に出資した株式の最低保有期間を取得日後最低5年から最低3年に短縮するものとされています。
3.環境負荷低減事業活動設備に対する税制の整備
 環境と調和のとれた食料システム確立のための環境負荷低減事業活動促進のため、青色申告をしている農林漁業者が環境負荷低減事業活動実施計画に基づき環境負荷低減事業活動機械や設備などを取得し、実際に環境負荷低減事業活動に使用した場合、取得年度に取得価額の32%相当額を特別償却できるとされています。
4.隠蔽・仮装による申告と無申告に対する重課措置
 隠蔽・仮装による申告をしたり、無申告の状態であったりした場合、対象となる事業年度の売上原価、販売費、一般管理費及び損失については保存されている帳簿書類により実際に取引があったことが明らかでない限り、法人税額計算において損金不算入となるとされています。

5.補助金で取得した固定資産の圧縮記帳限度額の明確化
 補助金や保険金、収用など法人税法または所得税法の規定に基づき、固定資産の圧縮記帳を行う場合の具体的取扱いを法律で明確化するとされています。(現行は行政文書である国税庁通達で取扱いが示されています。)

6.貸付用固定資産の少額固定資産特例からの適用除外
 少額固定資産特例を適用して固定資産を一括費用計上し、その資産の貸付収入を継続的に計上して結果として課税の繰り延べを図る租税回避行為を防止するため、貸付用固定資産については貸付を本業として行っていない限り適用除外とすることになるとされています。

7.交際費損金不算入特例の適用延長
 令和3年度までとされている交際費損金不算入と設定飲食費の損金算入特例を2年延長するとされています。

消費課税の改正大綱

1.免税事業者の適格請求書(インボイス)発行事業者登録の見直し
 インボイス制度が開始される令和5年(2023年)10月1日から適格請求書発行事業者となる場合を除いて翌事業年度から適格請求書発行事業者となる原則について、免税事業者について令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの期間で登録を受ける場合は登録された日から適格請求書発行事業者になる特例を設け、この特例が適用される場合登録日までは免税事業者となるとされています。
2.免税販売場における適用対象者の制限
 外国人旅行者への消費税優遇という免税制度本来の趣旨を徹底するため、免税店など輸出物品販売場で免税で購入できる非居住者を、短期滞在、外交または公用の在留資格を持つ者及び、国内に2年以上住所及び居所を持たないことを在留証明や戸籍附票の写しにより証明できる日本国籍保有者に限るとされています。
3.免税適用手続におけるデジタル化
 行政手続電子化推進の観点から、免税購入を希望する際に行うパスポートの情報提供等をデジタル庁が整備・管理する「訪日観光客等手続支援システム」を用いてできるようにするとされています。

国際課税の改正大綱

  過大支払利子税制の見直し
 税率の高い国に存在する者から税率の低い国に存在する者に高額の利払いをして課税額を過大に抑制することを防止する過大支払利子税制を、外国法人の日本国内にある恒久的施設に帰属する所得だけでなく、外国法人の法人税の対象となる全ての国内源泉所得に適用するとされています。

納税環境整備の改正大綱

1.税理士制度の見直し
 取り上げたい内容が多い一方、申告や納税には直接関係しないため後日別途記事をアップします。
2.過少申告加算税及び無申告加算税の加重措置整備
 会計帳簿への網羅的な取引記録の記載を担保するため、令和6年(2024年)1月1日以後申告期限が到来する国税について、税務調査等により修正申告や期限後申告をしたり、更正や決定を受けたりしたとき、税務調査の際に調査官から申告の基になる会計帳簿の提示または提出を求められ、提示・提出を拒んだり、売上や収入の記載が著しく不十分な会計帳簿だった場合、追徴された法人税等の10%(記載不備の場合5%)の加算税を加算するとされています。
3.eLTAX(地方税電子申告納税システム)の対象拡大
 税務手続電子化推進のため、現状一部の地方税の申告・申請・納税に限られているeLTax利用の対象を地方税に関わる全ての申告・申請・納税に順次拡大するとされています。

4.電子取引の電子保存に関する経過措置創設
 EDI、Eメールなど電子で取引情報がやり取りされる取引について、令和4年(2022年)1月1日より電子媒体で所定の方法で保存することを求めることについて、対応に時間を要するとの声があったことから、令和5年(2023年)12月31日までは、所定の方法で保存できないことについてやむを得ない事情があり、税務署からの質問検査権に基づいて電子データを出力した書面を提示・提出できれば差し支えないとされています。

今後の検討事項

 今後の検討事項として以下の事項が挙げられています。
1.少子高齢化進展に伴う世代間課税公平化に向けた年金課税の見直し
2.デリバティブ取引に対する所得課税制度の一本化
3.正規の簿記による青色申告の普及、給与所得控除・扶養控除などの人的控除の見直し、個人事業と法人成り同族企業との課税バランス確保といった小規模事業者向け税制の見直し
4.カーボンニュートラル実現のための税制の整備
5.カーボンニュートラルやシェアリングへのシフトなど自動車の環境変化を見据えた自動車関連課税制度の見直し
6.原料用石油製品等の免税・還付措置の本則化
7.複式簿記による記帳、優良電子帳簿の普及・一般化、記帳義務の適正な履行担保のための制度整備
8.課税公平のための事業税における社会保険診療報酬の実質非課税や医療法人の軽減税率の見直し
9.地方税収と事業環境変化を踏まえた、電気供給業及びガス供給業の収入による外形標準課税の見直し


 今回は大変長くなりましたが、政治色が反映される与党の税制改正大綱についてお話致しました。

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