公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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書類を電子データで保存しましょうか?

書類を電子データで保存しましょうか?

2021/11/05

書類を電子データで保存しましょうか?

書類を電子データで保存しましょうか?

皆様は会計帳簿をつけたり、確定申告の所得計算をしたりするとき、領収書やレシートはどう保存していますか?また、ネットで買ったものの領収書は保存していますか?
令和4年から保存のルールが変わります!大まかにいうと以下の通りです。
1.会計ソフトなど電磁的方法で作成した会計帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)を電子媒体のまま保存できる
2.紙の領収書やレシートなどのスキャン画像やカメラ撮影画像の保存がしやすくなる
3.PDF、メールなど電子媒体の領収書やレシートなどは電子媒体のままで保存する
これらの改正は昨年2020年の秋、当時の菅政権の電子化推進の流れで行われたものです。今回の解説では以上の3点の改正についてこれからどうするのかもさながら、過去の経緯についても触れて行きます。
なお、これらの改正は所得税及び法人税に関して適用され、消費税での取扱いは異なります。最後にその点も触れます。

国税庁HP「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)」

電子帳簿

ここでは、会計ソフトなどコンピュータで作成した会計帳簿の2022年(令和4年)からの取扱いについて解説します。
従前の扱いは、
・税法上、会計ソフトなどコンピュータで作成した会計帳簿を電子データのまま保存するには対象年度開始前3か月前までに税務署への届出が必要
・一度記帳した事項を訂正・削除した場合の記録が残る会計ソフトの使用
・通常記帳までに要する期間よりも遅れて記帳した場合の事実がわかる会計ソフトの使用
・会計ソフトで作成した帳簿とその他の記録との相互関連性が検証(トレース)ができるようにすること
・取引日、勘定科目、金額などでの条件検索機能のある会計ソフトの使用
などでした。つまり、今まで会計ソフトなどで作成した会計帳簿データは、所定のソフトを使用し届出をしない限り、紙に印刷しないと正式なものと認められないのです。
記録改ざんリスクを強く意識したものですが、手続が煩雑で適用しにくいとされ、ソフトベンダーから要件緩和の声があったようです。そこで、2022年1月からは、
・会計帳簿の電子保存に関して特段の届出不要
・上記のこれまで求めていた会計ソフトの要件を不要とする一方、これまで求められていた事項を満たす会計ソフトを使用して作成した場合は「優良電子帳簿」として、万が一の場合過少申告加算税を減免
・「優良電子帳簿」に該当しない会計ソフトを使用して記帳する場合、税務調査の際データのダウンロードができるようにする
とし、大幅に要件が緩和されました。
確かに届出不要となり、紙での会計帳簿印刷も不要になるため手間は減ります。でも、訂正・削除した場合の記録が残らず、遅れて記帳してもバレず、他の記録との関係もわからない状態ではいくらでも作成者の都合で不正・改ざんを行えます。そもそも記帳は事業者自ら事業の真実を数字で明らかにするためにあります。便利さだけを求めて真実が捻じ曲げられる状態を許容してよいのでしょうか?今回の要件緩和は脱税と粉飾の横行による財政と経済活動の悪化・腐敗につながると私は考えます。
だらだら私見を述べましたが、税務署への届出と紙面での帳簿印刷が要らなくなることで会計ソフトでの帳簿保存のハードルは下がり、事務が軽減される改正です。

紙書類のスキャナ保存

ここでは、紙面で入手した書類をスキャンして電子データで保存することについての2022年(令和4年)からの取扱いについて解説します。
投稿時点の現行法の中でも紙面で入手した書類をスキャンして電子データで保存することはできましたが、以下の要件がありました。
・電子保存開始日3か月までに税務署への届出が必要
・書類受領日から3日以内のスキャニングとタイムススタンプ付与が必要
・受領した書類のスキャニング前に紙面に受領者の署名と日付が必要
・相互牽制、定期検査などの「適正事務処理」を行う必要
以上の要件を満たすためにそれなりの事務整備が必要になり、特に人員や設備が不十分な中小企業には適用しにくく、利用率は低迷していました。今回の改正で以下の通り要件が緩和され、導入しやすくなりました。
・税務署への開始届出が不要
・書類受領日からスキャニングとタイムススタンプ付与までの期間が2か月+7営業日以内に延長
・スキャニング前の紙面に受領者の署名と日付の記入が不要
・相互牽制、定期検査などの「適正事務処理」が不要
今までスキャンデータを保存することに厳しい要件が課されていた理由として、データの改ざん防止がありました。当然、改正後も受領した素のデータから改ざんして偽ることが認められないことは言うまでもありません。これまでがあまりに改ざん防止にこだわり過ぎて使いにくかったのです。2022年からの改正後の改ざん防止措置として、スキャンデータの不正・改ざんが発覚した場合、不正・改ざんによる申告漏れに対し重加算税が10%加重される制裁強化が行われます。
なお、タイムスタンプとは登録した日時をデータに付与することであり、実務的には会計ソフトベンダーなどが会計ソフトに付随して提供するクラウドデータストレージを利用して保存することでタイムスタンプが付与されます。

電子書類の保存

ここでは、当初から電子データとなっている書類の保存の2022年(令和4年)からの取扱いについて解説します。
2022年(令和4年)からの取扱いで大きく影響のあると思われる個所がこの電子書類の保存なのです。先述した電子帳簿やスキャンデータについては、保存要件の緩和で使いやすくなる一方、紙面での保存も引続き可能です。
一方、メールでの受領や電子取引であるなど、当初から電子データである書類の保存についてはむしろ厳格になります。投稿時点の現行の取扱いは、電子データのまま保存することが原則とされている一方、紙に印刷して保存することも可能でした。ところが2022年からは電子データのみが正本となり、紙に印刷したものは正式な証拠として認められなくなります。また、保存方法にも要件が設けられ、年月や取引先などのルールでフォルダを作成し、日付や取引先、書類の種類をファイル名として記載するなど整然とした保存が必要となります。
現実的に整然とした保存をするといっても事務処理に自信があり、時間に余裕のある方でない限り難しいと思われます。そこでスキャンデータのところでお話した、会計ソフトに付随するクラウドストレージを活用すると良いでしょう。日付や相手先などをデータに付随情報として記録させることができ、整然とした電子データの保存が容易になります。

消費税法における電子データの取扱い

ここまで書類の電子保存について解説しましたが、解説の内容はあくまで所得税や法人税の申告におけるものです。一方で事業者によっては消費税を申告納税し、そのために領収書などを保存しているケースもあります。では、消費税における書類の電子保存はどうなるのでしょうか?
電子帳簿やスキャンデータについては所得税や法人税と同じで、任意です。一方、当初から電子データの書類についても消費税法における保存は紙面印刷したものも正本として認められます。ただし、実務的には税金の種類に関係なく書類の保存方法を統一したほうが事務効率が高いと思われます。
また、消費税の書類については2023年(令和5年)のインボイス制度導入を見据えて「電子インボイス」普及の動きがあります。改正消費法では電子インボイスの保存は電子限定とはされていません。それでも、事務効率化の観点からは電子インボイスに該当する電子データも電子のみ保存を原則とするのが良いと思われます。

おわりに

今回は2022年(令和4年)からの会計帳簿における電子データの取扱いについてお話しました。投稿時点では2023年に開始される消費税インボイス制度の対応が並行して進んでいますが、インボイス制度と比較して改正から施行までの期間が短く、急対応になっているのが現状です。特に電子媒体書類の整然とした保存に関しては実務対応に苦慮しています。この状況は日本国内での電子化対応がいかに遅れているのかを示しているのでしょう。しかし、この電子化強化への改正を機に省スペース化、事務コスト削減、作業効率化を推進し、ビジネスに不可欠ながらも付加価値をあまり生まない会計業務の合理化で、より付加価値の高い作業や余暇へ時間を充てることができるようになると期待しています。ただし、安易な不正や改ざんは皆様の信頼を損なう結果になりますので、信頼確保と不正防止の仕組みと法整備は改めて強化すべきと私は考えます。

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