公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所
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飲食店業の会計・税務シリーズ②

飲食店業の会計・税務シリーズ②

2021/10/08

飲食店業の会計・税務シリーズ②

コロナ禍の中で厳しい状況が続く飲食店業界ですが、現状は正しく把握できていますか?また、税金について理解していますか?その問いかけにお答えし、飲食店経営者の経営管理に役立つ記事です。

飲食店の日常会計実務

前回の記事では飲食店の会計の概念的な内容をお話しましたが、今回は会計・簿記を実践するための日常業務についてお話します。
いくら会計の考え方や決算書の読み方を知っていても、決算書や申告書ができるまでの作業が実践できていないと当然活用できません。年に1回確定申告の際に数字を集計して作成されているお店の方も少なくないのですが、やはりこまめに記帳し、少なくとも月1回お店の状況を数字で把握するようにしましょう。
今回はこまめに記帳するための工夫も入れながら、日常業務についてお話していきます。この記事を通して簿記が苦にならず、状況が早くわかってすっきりする感覚になる飲食店経営者が増えれば幸いです。

売上と収入を知る

売上は毎日把握していますか?毎日どのような資料で把握していますか?
レジを使っている場合レジからレシート形式で日報が出力されます。また、POSが入ったレジの場合POS端末で把握することもできます。他の業種と比較して飲食店での売上の把握は比較的容易と思われます。
では、レジを導入していない飲食店ではどのように売り上げを把握していますか?記録をつけていますか?売上現金での把握は、ツケなどサービスと入金にずれがある場合、1日の稼ぎが正確に把握できないリスクがあります。是非、1日の売上はツケ、クレジット決済分を含めて把握し、売上日報など記録をとるようにしてください。また、ツケやクレジットなど入金が後日になる場合は、相手先ごとの売上計上、入金、未入金残高を把握して回収状況を理解するようにしてください。取りはぐれを防止できます。

仕入を知る

仕入を知ることは容易です。納品書と請求書、領収書があればわかります。問題はこうした書類の保存と帳簿への記録です。
いつ、どこから何を仕入れたかを記録し集計することで食材のトレンドがわかりますし、仕入の巧拙も見えてきます。飲食店にとって売る相手は不特定多数ですが、買う相手はだいたい決まっていると思います。そのため、相手先別の区分はそれほど難しくないと思います。しかし、食材は鮮度の関係で他業種と比較し、少量で頻繁になる傾向があり、書類の枚数が多く保管に手間がかかります。手間を省くために頻繁に発注仕入する仕入先については個別に書類を管理することをお勧めします。そうすることで書類の整理が容易になり、万が一特定の書類を探す際も見つけやすくなります。

給与・賃金を計算する

店舗スタッフに対する給与はどのような方法で算定していますか?多くの場合、時給制で勤務時間×時間当たり賃率で算定していると思います。では、その給与算定は毎月どのように計算していますか?電卓と手書きのメモ、表計算ソフト、給与計算ソフトなどがありますが、一概にこの方法が適切であると言えるものではありません。2、3人程度であれば電卓でも十分でしょう。就業規則が必須となる10人以上の大人数になれば、作業時間の効率化と計算ミスの未然防止のため給与計算ソフトを導入することが望ましいです。
時給の計算に必要なデータは1か月間の勤務実績と各個人の賃率情報です。交通費を支給している場合は交通費に関するデータも必要です。勤務実績はシフトなどの計画ではなく、勤怠管理システムやタイムカードなどで正確に把握しましょう。給与計算の正確性もさることながら、従業員との労働問題を起こさないためにも重要です。また、賃率は頻繁に変わるものではありませんが、最低賃金の改定や個別の賃率アップの際に更新することを失念しないよう注意してください。
給与計算は記帳ミス対策以上に賃金不払いなど労使トラブル対策が重要です。ひとたび労働問題を起こすとお店を支えている従業員の退職や意欲低下につながり経営の足かせになります。

その他経費の記帳

その他経費の記帳に必要な書類は仕入と同様、納品書と請求書、領収書があればわかります。書類保存が必要なことも仕入と同じです。仕入とその他経費の記帳で異なる点は、勘定科目がいくつもありどの科目に該当するのかという点です。
当事務所が顧問先から受ける質問で最も多いのが経費の勘定科目をどれにするのかなのですが、「水道光熱費」「広告宣伝費」「地代家賃」など名称を見ればある程度範囲が分かる科目もあれば、「交際費」「雑費」など範囲が広範にわたる科目もあります。まず内容から見て、名称を見ればある程度範囲が分かる科目に該当するとわかる取引はその科目で記帳し、わからない取引については「雑費」とすればよいでしょう。ただし、税金計算において計上制限のある「交際費」と「寄付金」については以下の基準に当てはまれば先ほどの考え方に関わらず、「交際費」または「寄付金」で記帳してください。

「交際費」:特定の販売に直接関連しない、特定の外部者との付き合いに関する取引
交際費に該当するとわかりにくい例として、来客者の送迎に必要な交通費や運転代行料金の負担が挙げられます。ただし、広告などであらかじめ公に店舗負担であることを示している場合は交通費や広告宣伝費となる場合もあります。
「寄付金」:物の受取りやサービス享受のない一方的な金銭・財産の供与
寄付金に該当するとわかりにくい例として、大幅な飲食代割引など一見するとお金の授受が伴うものは、正規料金で売上を計上し、割引部分を寄附金として記帳することが挙げられます。

その他の支払

支払=仕入・経費とお思いの方がいらっしゃいます。お金という財産が減るという感覚で仕入・経費を捉えていませんか?必ずしも支払が仕入・経費とならない取引があります。そのパターンは以下の通りです。
1.別の財産が増える取引:手付金の支払い(仕入れ代金の先払い)、敷金の支払い(退去時返還権の発生)など
2.負債の減る取引:借入の返済、買掛金の支払い(仕入れ代金の後払い)、未払金の支払い(経費の後払い)など
3.元手が減る取引:個人事業者の個人口座への資金移動、法人の配当、減資
上記の取引は領収証や預金通帳を基にすれば把握できます。ですので、記帳するための証拠集めは簡単です。上記の中に「仕入れ代金の先払い」、「仕入れ代金の後払い」とあることにお気づきでしょうか?仕入にならないという言い方はおかしいのではないかとお思いの方もいらっしゃるでしょう。では、仕入になるのはいつでしょうか?実際に食材を仕入れたときです。食材の仕入れと代金支払が同時であれば、支払=仕入になりますが、実際には仕入代金の支払いが先になったり、後になったりすることもあります。
先払いの場合、食材を仕入れた時点で仕入計上する一方、手付金という資産を取り崩します。一方、後払いの場合、食材を仕入れた時点で仕入計上する一方、買掛金という負債を計上します。

会計帳簿と記帳の手順

ここまで記帳に必要な証拠集めを中心にお話しましたが、記帳方法について説明します。記帳方法としてお勧めしている方法は「複式簿記」という方法です。複式簿記は必ず以下の形で記帳します。
(借方(左側))科目 金額/(貸方(右側))科目 金額
各属性ごとの記載箇所は以下の通りです。
資産科目 増加+ 借方、減少- 貸方
負債科目 増加+ 貸方、減少‐ 借方
純資産科目増加+ 貸方、減少‐ 借方
収益科目 増加+ 貸方、減少‐ 借方
費用科目 増加+ 借方、減少- 貸方
この方法で記帳しますと、1年間の借方、貸方の記帳金額合計は必ず一致します。この科目を指定して取引を記録することを「仕訳(しわけ)」といい、仕訳を記帳したものを「仕訳帳」といいます。会計ソフトの多くは仕訳帳に取引を記帳する形になっています。その後、科目ごとの増減表である「総勘定元帳」という帳簿に仕訳の結果を書き写します(会計ソフトでは仕訳帳に記帳すると自動反映されます)。
総勘定元帳は、5列表示になっており、左から、日付、反対側の科目名(相手科目)、借方仕訳金額、貸方仕訳金額、仕訳後の差引合計(残高)となっています。残高は各属性ごとに以下の通りです。
資産科目 借方金額‐貸方金額(+は借方>貸方の状態)
負債科目 貸方金額‐借方金額(+は貸方>借方の状態)
純資産科目貸方金額‐借方金額(+は貸方>借方の状態)
収益科目 貸方金額‐借方金額(+は貸方>借方の状態)
費用科目 借方金額‐貸方金額(+は借方>貸方の状態)
決算になると各勘定科目の残高を集計した残高試算表というものを作成します。会計ソフトでは残高試算表が常に作成され、確認できる状態になっています。そして残高試算表を基に決算書を作成します。むろん、会計ソフトでは常に決算書が作成され、確認できる状態になっています。

おわりに

今回は会計・簿記の実践に関するお話をさせて頂きました。
決算書や申告書は1年間の日々の取引を集計したものです。ということは、日々の取引を記録することが計数管理や税金計算に役立っているのです。計数管理ができていない原因をよく分析しますと、多くがこまめに記帳していないことなのです。こまめに記帳しない理由を聞きますと、「時間がない」と答える方が多いです。なぜ時間がないのでしょうか?記帳の優先順位を低くしているからです。記帳は工夫しだいで短時間で終わらせることができます。もちろん最優先は接客とメニューの提供です。でも、接客とメニューの提供の結果を客観的に数字で知ることで、現状と今後のアクションを冷静に把握し、接客とメニューの改善につなげることができます。是非、日常業務の中で記帳作業の優先順位を高くしてみてください。きっと、すっきりするはずです。

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