地方税解説シリーズ⑩(国民健康保険税)|札幌で税理士・公認会計士に相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2025/08/08
目次
はじめに
地方税解説シリーズ第10回目は厳密には税金ではありませんが、国民健康保険について取り上げます。取り上げた理由は国民健康保険料が国民健康保険税といわれるからです。なぜそう呼ばれるのか、そしてどのように保険料が決まるのかを中心にご紹介します。弊所は社会保険労務事務所ではないため制度そのものについては簡単に取り上げるにとどめます。
なお、各回のテーマは以下の通りです。
第1回 地方税の種類
第2回 個人所得課税
第3回 法人所得課税
第4回 事業税
第5回 不動産課税
第6回 自動車課税
第7回 事業所税
第8回 その他の地方税
第9回 法定外税
第10回 国民健康保険(今回)
番外編 宿泊税
地方税としての国民健康保険税とは?
国民健康保険料は税金として規定されている箇所があります。地方税法第703条の4第1項に「国民健康保険を行う市町村(一部事務組合又は広域連合を設けて国民健康保険を行う場合には、当該一部事務組合又は広域連合に加入している市町村)は、当該市町村の国民健康保険に関する特別会計において負担する次に掲げる費用に充てるため、国民健康保険の被保険者(以下この節において「被保険者」という。)である世帯主(当該市町村の区域内に住所を有する世帯主に限る。)に対し、国民健康保険税を課することができる。
一 国民健康保険法の規定による国民健康保険事業費納付金(以下この条において「国民健康保険事業費納付金」という。)の納付に要する費用(当該市町村を包括する都道府県の国民健康保険に関する特別会計において負担する高齢者の医療の確保に関する法律の規定による前期高齢者納付金等、同法の規定による後期高齢者支援金等(以下この条において「後期高齢者支援金等」という。)及び同法の規定による出産育児関係事務費拠出金、介護保険法の規定による納付金(以下この条において「介護納付金」という。)並びに感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の規定による流行初期医療確保拠出金等の納付に要する費用を含む。以下この条において同じ。)
二 国民健康保険法の規定による財政安定化基金拠出金(第三項第一号ハにおいて「財政安定化基金拠出金」という。)の納付に要する費用
三 その他国民健康保険事業に要する費用」
と規定されており、国民健康保険事業である医療保険などの財源として市町村で国民健康保険税という目的税として課税できるのです。一方、国民健康保険に関する基本的な法律である国民健康保険法には国民健康保険による事業に関する規定はありますが、保険料に関する規定は特にありません。つまり、国民健康保険は保険加入者からの「国民健康保険税」という目的税を主な財源として運営されているのです。国民健康保険の他の財源として国庫からの拠出金などがあり、こちらは国民健康保険法に規定があります。
国民健康保険税の種類や計算方法についても地方税法に規定され、第703条の4第2項で国民健康保険税の種類として、
- 基礎課税額(国民健康保険事業の財源として以下の2.及び3.以外の目的に使用する部分)
- 後期高齢者支援金等課税額(後期高齢者医療制度の財源に使用する部分)
- 介護納付金課税被保険者(介護保険制度の財源に使用する部分)
が定められています。具体的な計算方法は次項で詳しく取り上げます。
また、徴収方法についても地方税法第706条に規定があり、第1項に「(前略)国民健康保険税(以下「水利地益税等」という。)の徴収については、徴収の便宜に従い、当該地方団体の条例で定めるところにより、普通徴収又は特別徴収の方法によらなければならない」とされており、原則としてお住いの市町村に直接納付する形になっています(普通徴収)。第2項に納税義務者が老齢等年金給付(中略)の支払を受けている年齢65歳以上の被保険者である世帯主は原則として、当該世帯主に対して課する国民健康保険税を特別徴収の方法によつて徴収するものとするとされ、年金からの天引きの形で徴収されます。普通徴収の場合の納期限に関しては各市町村が条例で定めており、当事務所の所在する札幌市では原則6月から翌年3月までの各月の末日を納期限として、1年(12か月)分を10回に分けて納付します。
札幌市HP|納付義務者と納期限
所得が減ったのに国保税が高い!?誤解されがちな賦課方式
では、具体的に保険料がどのように計算されるのか解説します。保険料額は以下の4つの算定式の合計で世帯ごとに計算されます。
- 均等割:1世帯当たり人数×1人当たり保険料
- 平等割:1世帯当たり保険料
- 所得割:世帯単位の所得合計×保険料率
- 資産割:世帯で所有する固定資産の固定資産税評価額×保険料率
上記のうち、均等割と平等割は応益(健康保険の恩恵を受ける度合い)負担、所得割と資産割は応能(保険料の支払い能力の度合い)での負担となっており、必ずしも所得が多い少ないで決まるわけではありません。このため、所得が低くても国民健康保険料はかかるのです。ただし、計算式は全国一律ではなく4つの方法全てを使う必要はなく市町村によって適用される計算式は異なります。事務所の所在する札幌市では均等割、平等割、所得割の3つの合計で保険料が決まります。世帯の所在市町村、世帯者数、固定資産税評価額は対象年度の1月1日の現況で決定され、所得は前年度の所得が用いられます。均等割については低所得世帯については減額制度があるとともに未就学児童分については50%の軽減があります。
なお、料率は市町村ごとに異なり年によっても異なります。札幌市の令和7年分の国民健康保険料率は、
- 均等割:1人当たり19,830円
- 平等割:1世帯当たり33,380円
- 所得割:9.35%
です。
札幌市HP|保険料の計算
引っ越したら健康保険料はどうなる?
保険料率は市町村により異なり、医療給付費・人口構成の違いによる影響があります。では、途中で違う市町村に引っ越した場合保険料額及び支払いはどのようになるのでしょうか?
保険料の徴収は転出の翌月までは引っ越し前の市町村が行います。その後転入の翌々月から引っ越し先の市町村から徴収されますが、国民健康保険は必ずしも全ての人が加入するわけではないため、転入手続とは別に転入から14日以内に手続を行う必要があります。もし遅れると加入日までに受けた診療や介護に保険が適用されず全額自己負担となります。また、最大26ヶ月間遡って保険料を払うことになります。
転入先の市町村から徴収される保険料については、所得情報が転入前の市町村ではないとわからないため当初の保険料額は均等割、平等割のみで計算し所得情報が転入前の市町村から入手出来次第所得割を追加徴収するようです。
なお、徴収期間の途中で引っ越した場合の保険料は月割り計算となり、万が一転入前の市町村に対し引越しの翌々月以降の保険料相当額を既に支払っていた場合は保険料の還付があります。
この取扱いは死亡に伴う世帯人員の減少、別の健康保険制度への乗り換え時にも適用されます。
おわりに
今回は国民健康保険の保険料(税)について取り上げました。国民健康保険料率が市町村によって異なりますが、この取扱いが地方税法に規定されている以上租税法律主義に反するのではないかという争点が話題になった裁判例があります。
この判例は旭川市における国民健康保険料の賦課決定に対して減免申請をしたものの市側が減免基準不適当として認めなかったことについて申請した市民が旭川市を相手に起こした訴訟です。最高裁判決の要旨としては、保険料には憲法第84条の租税法律主義は直接適用されないものの租税法律主義の趣旨は及ぶものとし、国が基準設定を各自治体の条例に委任すること自体は租税法律主義に反せず、市が設定した減免基準による却下は租税法律主義の範囲内で有効である旨のものです。
保険料が市町村の都合の良いように恣意的に決められることは住民生活を脅かすことになりますが、一定のルールのもとである程度の裁量は健康保険運営のために必要なのかもしれません。


