相続時精算課税|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2025/02/07
目次
はじめに
資産を高額でお持ちの方にとっての悩みの一つはもしものときの争族トラブルをいかに避けるかでしょう。また、争族トラブル回避のために生前に財産を多額に贈与すると受贈者に贈与税が課税されることから生前贈与のタイミングや金額を慎重に見極めるなど新たな悩みが生じます。
そこで、活用できる制度が相続時精算課税制度です。ここでいう課税は贈与税の課税のことで原則的には贈与した年度に都度課税される贈与税を相続時に一括して精算するものです。また、2500万円の非課税枠が一生涯の枠となっており、枠内であればどのタイミングで生前贈与をしても2500万円に達するまでの贈与には贈与税が非課税になります。
今回は相続時精算課税制度について詳しく解説するとともに、メリットとデメリットを分かりやすく取り上げ制度活用の是非をご検討いただけることを目的にしています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
相続時精算課税とは
先述の通り、贈与した年度に都度課税される贈与税を相続時に一括して精算する制度です。相続時精算課税の適用は贈与者と受贈者の組み合わせごとに適用します。そのため、相続時精算課税課税制度の生涯非課税枠2500万円は受贈者1人ではなく相続時精算課税制度を適用した贈与者(相続税法第21条の9第5項で「特定贈与者」と定義されています。以下「特定贈与者」と呼びます)ごとに設定され、例えば父方の祖父と母方の祖父の2名からの贈与について相続時精算課税制度を適用した場合、それぞれの祖父からの受贈に対して2500万円ずつ最大5000万円の控除を受けることができます。
2500万円の生涯控除枠は、相続時精算課税適用申請後の特定贈与者からの受贈累計額が2500万円に達するまで適用できますが、2024年(令和6年)1月1日以降の贈与からは1年ごとにその年の特定贈与者からの受贈額から110万円の基礎控除を適用できるようになりました。理由は、これまでは少額の贈与でも相続時精算課税対象の贈与があったことを申告する必要があったため利用が低調だったためです。2500万円の少額枠の計算に用いる受贈累計額は、毎年の特定贈与者からの受贈額から110万円を引いた金額(金額がマイナスの場合0円)の累計額となります。よって、ある年の特定贈与者からの受贈額が合計110万円以内であれば申告も不要で贈与税が課税されることもありません。
ただし、同じ年に複数の特定贈与者から贈与を受けた場合、110万円の基礎控除は特定贈与者ごとではなく受贈者1人単位であり110万円は各特定贈与者からの贈与金額の割合で按分しますのでその点はご注意ください。
結果として特定贈与者からの受贈累計額が2500万円を超えた場合は超えた部分の金額に対して一律20%の贈与税がかかります。具体的な精算方法については後述の「もしもの相続のときどうなる?」で説明します。
利用できる要件
ここで具体的に利用できる要件を取り上げます。相続時精算課税制度を適用できる贈与者と受贈者の組み合わせは、原則として60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫に生前贈与をする組み合わせです。この制度の趣旨として家族間での財産承継の時期をあまり気にせずに進めるためというものがあります。そのため、夫婦間の贈与や兄弟間の贈与、おじおばからの贈与、他人への贈与には適用できません。また、子や孫への贈与であっても、贈与者本人が60歳になるまでは相続時精算課税を適用することができませんし、子や孫が18歳未満の未成年の場合ですと同様に相続時精算課税を適用することができません。
また、相続時精算課税制度適用に当たってトラブルになりやすいのが、相続時精算課税の適用縛りです。相続時精算課税制度を一度適用すると適用した贈与者と受贈者の組み合わせでの贈与にはいずれかの当事者が亡くなるまでずっと適用しなければならず、例えば2500万円の生涯控除枠をうまく適用するため、ある時は相続時精算課税とし別の時には原則的な暦年課税とその年ごとにいずれかを選択適用するような方法は認められません。このことを知らずに相続時精算課税制度を適用し相続時に思わぬ課税が生じるケースがありますので、十分留意して制度を適用するかどうか判断してください。
なお、相続時精算課税制度を適用できる贈与資産に関しては特に制限はなく、現金預金、不動産、有価証券、債権、生活用動産などあらゆる資産を対象とすることができます。
必要な手続
ここでは、相続時精算課税制度を適用するに当たり必要な手続について説明します。
相続時精算課税制度の適用は贈与税の暦年課税と同様に受贈者が行います。適用申請は相続時精算課税を初めて適用する年の翌年2月1日から3月15日までの間に受贈者の住所を所轄する税務署で行います。
提出する書類は、
- 相続時精算課税選択届出書
- 受贈者の戸籍の謄本または抄本その他の書類で、受贈者の氏名、生年月日及び受贈者が贈与者の推定相続人または孫であることを証する書類
- (贈与を受けた財産の価額が110万円を超えるなど贈与税の申告書を提出する場合)贈与税の申告書
です。このうち、相続時精算課税選択届出書は国税庁所定の様式で税務署に備え付けられていますし、国税庁HPからのダウンロードも可能です。また、贈与税の申告書は表紙に該当する第1表の他、第2表という相続時精算課税を適用する場合の計算明細表を用います。
国税庁HP:相続税申告書第2表
国税庁HP:相続時精算課税選択届出書
適用申請はe-Taxによる電子申告で行うことが可能で、電子申告の場合戸籍謄本や抄本は別途税務署に郵送するか、画像データをe-Taxで添付送信します。もちろん、税理士による代行によることもできます。
なお、相続時精算課税適用2年目以降は、適用した組み合わせ同士の年間の贈与額が110万円を超える場合に贈与税申告書を翌年2月1日から3月15日までの間に受贈者の住所を所轄する税務署に提出します。その際も、第2表を添付します。
もしもの相続のときどうなる?
相続時精算課税は相続時に贈与税を精算する制度ですが、実際に相続が発生した場合どのように精算するのか説明します。生涯控除枠2500万円を超え、20%の贈与税がかかる部分については申告の都度納税するため生前納税となります。こう説明すると「相続時精算課税ではないのでは?」と思う方もいらっしゃると思います。相続時精算課税は生涯控除枠2500万円に対して適用され、2500万円の生涯控除枠内の生前贈与については贈与税がかかりませんが、一方で相続税の課税対象資産に含まれ相続税の課税対象になるのです。相続税課税対象にすることにより相続時に生前贈与資産の税額を最終精算するからこそ「相続時精算課税」なのです!
相続時精算課税を適用しなかった生前贈与資産については贈与後7年以内に相続が発生した場合に相続財産に加算されますが(2023年(令和5年)以前の贈与については経過的に対象期間が短くなります)、相続時精算課税が適用された生前贈与資産は相続発生がいつになるのかに関係なく相続財産に加算されます。
ですので、2500万円の非課税枠があることだけをもって安易に相続時精算課税を適用すると相続発生時に多額の相続税が生じる可能性があります。特に贈与者の財産が相続税基礎控除適用額を上回る場合は特に注意が必要です。ただし、相続税計算時の生前贈与財産の評価額は贈与時の評価額となり相続時に改めて再評価することはしませんので、資産価格が上昇局面にある場合はある程度相続税額を抑制できる効果があります。
おわりに
今回は、親子または孫への生前贈与に適用できる相続時精算課税制度について取り上げました。相続時精算課税がお勧めなケースは節税以上に生前に円滑な財産の承継を重視するケースです。先述の通り、相続時精算課税を適用した2500万円の枠については贈与税が都度課税されるのではなく、相続時に相続財産に加算して相続税としてまとめて精算する制度です。相続時精算課税適用が有利なのか、暦年贈与が有利なのかは資産総額及び贈与の時期により異なります。もし、いずれが有利になりそうなのかは相続税や贈与税に強い税理士に相談されることをお勧めいたします。
当事務所でも相談に応じますのでお問い合わせください。