外国税額控除|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2025/01/31
目次
はじめに
外国に所得や財産がある場合所在する国で税金がかかることがあります。一方、日本でも外国で稼いだ所得や相続・贈与に税金がかかるいわゆる二重課税が生じることがあります。二重課税は納税者に重い負担となり経済活動の阻害要因となります。一方で同一国での二重課税と異なり、国際的な二重課税は課税する政府が異なるため徴税側にとっては二重ではないという問題があります。また、法律は国単位であるため外国の税制度とは関係ありません。
そこで、外国で同じ課税対象に対してかかった税金について課税されたことを証明し説明する資料を添付することを条件に外国税額控除という制度が設けられています。今回は外国税額控除についてそれぞれの税目でどのようになっているのか取り上げます。
所得税における外国税額控除
はじめに個人の所得税における外国税額控除についてです。外国税額控除は日本に居住する人が申告する場合に適用できます。対象となる外国税額は海外で得た所得に対して現地国で課税された所得税に相当する税金です。よって、州税など外国で課税された地方税は対象外です。
1年間の控除限度額は、
- 原則的な方法
所得税の控除限度額=その年分の所得税額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額) - その外国所得税額が所得税の控除限度額を超える場合
復興特別所得税の控除限度額=その年分の復興特別所得税額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額)
と定められており、外国税額控除額は、その年分の所得税の控除限度額と、次の1または2のいずれか少ない方の金額の合計額となります。
- その年分の外国所得税額から所得税の控除限度額を差し引いた残額(マイナスの場合はその年分の外国所得税額)
- その年分の復興特別所得税の控除限度額
その年において納付することとなる外国所得税額が、その年の所得税の控除限度額および復興特別所得税の控除限度額と地方税の控除限度額(その年の所得税の控除限度額に30パーセントを乗じた金額)との合計額を超える、つまり控除限度上限に引っかかって控除しきれなかった外国勢が存在する場合、その年の前年以前3年内の各年の所得税の控除限度額のうち、その年に繰り越される部分の金額(以下「繰越控除限度額」といいます。)があるときは、その繰越控除限度額を限度として、その超える部分の金額をその年分の所得税額から控除します。
一方、その年において納付することとなる外国所得税額がその年の所得税の控除限度額に満たない、つまり控除限度が余った場合において、その年の前年以前3年内の各年において納付することとなった外国所得税額のうち、その年に繰り越される部分の金額(以下「繰越外国所得税額」といいます。)があるときは、その控除限度額からその年において納付することとなる外国所得税額を控除した残額を限度として、その繰越外国所得税額をその年分の所得税額から控除します。
なお、外貨や外国有価証券に関する利息や配当金、譲渡であっても日本国内口座でのものであれば日本の所得税及び住民税が源泉徴収されています。一方、外国口座のものについては日本の所得税や住民税が源泉徴収されることはないため、確定申告した上で現地国の所得税が源泉徴収されている場合は外国税額控除を適用できます。
法人税における外国税額控除
法人が納付した外国税に対しても外国税額控除があります。海外で展開した事業に対する所得に現地国で法人所得税に相当する税金が課税されることがあり、なおかつ法人税法では内国法人に対し全世界で得た所得に対して法人税が課税されます。よって、海外所得について二重に税金がかかるケースが生じます。
この二重課税状態を解消するために外国税額控除制度があるのですが、外国税額控除は外国での税金の納期が到来する年度で適用されます。ただし、納期の管理は実務上煩雑になることがあるため実際に支払った年度に適用することも継続適用を条件に認められます。対象となる外国税は外国の法令に基づく法人所得税であり州税なども控除を受けることができます。
外国で課税される所得は現地の拠点(PE(恒久的施設)といいます)で展開している事業に関する所得です。したがって現地での納税額計算のためにも海外PEがある場合は拠点別会計の経理体制を整備することが必須です。一方、海外出張による収益は国内拠点からの出張での販売であれば国内所得となります。また、日本から海外への輸出も国内所得に該当します。
いずれにしても現地国における税金計算と法人税における外国税額控除には外国所得の正確な識別と計算が重要となります。
参考:国税庁HP|法人税基本通達 第2款 外国法人税の控除
相続税・贈与税における外国税額控除
ここまで所得税と法人税という毎年の所得に対してかかる税金についての外国税額控除について取り上げましたが、一生に一度あるかどうかの相続税及び贈与税にも外国税額控除制度があります。
はじめに複数の国から相続税または贈与税に相当する税金が課税されるケースについて説明します。かかるケースは、大きく分けると
- 相続税法上の国内居住者(相続または贈与発生時から過去15年間に通算10年以上日本に居住実績がある人)が海外財産の相続または贈与を受けた場合
- 国内非居住者(1.の国内居住者に該当しない人)が日本国内財産の相続または贈与を受けた場合
です。このうち、日本で外国税額控除を受けることができるのは、1.に該当する場合です。ただし、外国には相続税や贈与税に相当する税金がない国やあっても日本よりも免税点が高い国が多くあります。そのため、外国税額控除を受けるケースは所得税ほど多くないです。
相続税や贈与税において外国税額控除を受ける場合、外国で納税義務があることを証明する書類(申告書、課税通知書など)の写しと申告書付表を申告書に添付します。
また、控除できる金額は、以下のいずれか少ない金額とされています。
- 外国で課された相続税に相当する税額
- その人に対する日本の税額のうち、その人が取得した国外財産に対応する金額(その人の課税額×その人が取得した国外財産/その人の相続・贈与財産)
なお、外国では財産を受けた人ではなく財産を渡した人に相続税や贈与税が課税される国がありますが、相続または贈与という同じ事実に対して課税されているため、こうした場合でも外国税額控除を受けることができるとされています。
租税条約による二重課税の回避
ここまで外国税額控除について取り上げましたが、国際的二重課税回避のためには国同士で取り決めがあることがより有効になります。日本では多くの国や地域と租税条約(または租税協定)という二重に課税される可能性があるケースについて課税の取り決めをしています。
租税条約の対象となるのは、ほとんどが個人所得税及び法人所得税であり、一方の国で納税加納となっていたり、双方の国是課税可能となっていたりします。条約は国際法上国内法より優先されるため、外国税額控除による二重課税防止策よりも租税条約で二重課税を回避できないか検討することが先になります。そのため、当事務所でも外国人納税者の相談において母国所得の課税関係を確認する際は、先に母国との租税条約の規定を確認しています。
租税条約を知ることで思わぬ二重課税を防止することができるのです。
おわりに
今回は国際的レベルでの二重課税を防止するするための対策として外国税額控除を取り上げました。
消費税については外国税額控除が受けられるのかという疑問が湧きます。結論は消費税について外国税額控除は制度はありません。理由はいくつかありますが、消費税は国内消費に対してかかり、外国での消費税に相当する税金も日本でかかることはないためです。
外国税額控除を理解いただき、もしものとき役に立てば幸いです。