リースの会計処理が変わると税金も変わる?|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2025/01/17
目次
はじめに
新しいリース会計基準が2024年(令和6年)9月に公表され、このブログでも11月に新リース会計基準の導入に伴う変更点を取り上げました。11月に紹介した時点では法人税法上の取扱い、つまり税金計算のためのリース処理の取扱いの変更については未確定でした。
この度、与党の令和7年度税制改正大綱案でリースに関する税金計算における取り扱いが出ましたので今回は新リース会計基準でどこが変わるのかおさらいするとともに、税金計算はどのようになるのか解説します。
なお、新しいリース会計基準は上場業など公認会計士の監査を受けている企業については後ほど説明する時期から強制適用となりますが、中小企業など公認会計士の監査を受けていない場合は新リース会計基準を適用しなくてもよく法人税法上の取扱いに合わせた経理で差し支えないことになっていますので、中小企業の方においては今回の記事を日々の経理処理の参考としてもご活用くださいますと幸いです。
新リース会計基準のおさらい
法人税法上の取扱いに触れる前に新リース会計基準について簡単におさらいします。
新リース会計基準では、これまで支払時に賃料やリース料などで経費処理していたものについて独占的に「ものを使用する権利」に該当する取引について、「ものを使用する権利」を資産計上する一方、権利が満了するまでに支払うべき金額を負債計上することを求めています。
新リース会計基準適用指針では対象となる取引の例として以下の取引を挙げています。
- 特定の荷主や旅行会社が荷物輸送や貸切輸送のために独占的に特定の鉄道車両を使用している場合
- 飲食店やお土産屋などが空港ターミナル内の特定の店舗区画を自分たちの裁量で決定できる場合
- ガス供給会社が別の会社が所有する特定のガスタンクについて100%自分たちのために使える場合
- プロバイダーが特定のレンタルサーバーを独占的に使用し入換もプロバイダーに決定権がある場合
- 電力小売会社が別の発電会社が運営する特定の発電所や太陽光パネルから排他的に電力供給を受けられる場合
こうした取引は車両や施設などは別の企業が所有し賃貸していますが、使用しているのはもっぱら賃借している側であることから、安定した賃借条件によって陳謝人に中長期的な利益をもたらしていることが賃借人にとって資産価値があるとされるのです。
会計処理としては、
- 契約開始時(または新リース会計基準適用開始時)に使用権継続期間にわたる賃借料について「使用権資産」(資産)と「リース債務」(負債)を計上する
- 賃借料支払時に支払った分だけ「リース債務」を取り崩す
- 決算時に資産を使用権継続期間にわたって均等に経費化するため、「使用権資産」の減価償却をする
細かい話をすると、1.の契約開始時の計上額は単純に賃借料を合計するのではなく、1年以上先に支払う賃借料については年数に応じた利率などによる割引計算を行います。理由は権利は契約開始時に全期間分を一括で買う一方支払は期間内分割払いであると捉えるため、資産について一括購入価額で評価すべきとの考え方を採用しているためです。
そして、2.の支払時には割引計算した「リース債務」を取り崩し、実際の支払額との差額は後払いにしたことによる利息に該当するため「リース利息」「支払利息」などとして経費処理します。
新リース会計基準は2027年(令和9年)4月1日以後開始する事業年度の期首から公認会計士監査を受けている日本基準適用会社に対して強制的適用となります。また、2025年(令和7年)4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することが可能です。
現行の法人税におけるリースの取扱い
続いて、現行の法人税におけるリースの会計処理についてお話しします。
法人税法では以下の2つの要件を満たす賃貸借契約について「リース取引」と定義しています。
- 」にリース期間中の中途解約が禁止されているものであることまたは賃借人が中途解約する場合には未経過期間に対応するリース料の額の合計額のおおむね全部(原則として90パーセント以上)を支払うこととされているものなどであること。
- 賃借人がリース資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、リース資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。
つまり、名目上賃貸借契約だが実質的に分割払いのものの買い取り(割賦購入)に該当するものを「リース取引」としています。上記の「リース取引」に該当する場合、
- 契約開始時に賃貸借期間にわたる賃借料について「リース投資資産」(資産)と「リース債務」(負債)を計上する
- 賃借料支払時に支払った分だけ「リース債務」を取り崩す
- 決算時に資産を賃貸借期間にわたって均等に経費化するため、「リース投資資産」の減価償却をする
ことになります。上記の会計処理はリース契約の形態として多い所有権が賃借人に移転しない「所有権移転外リース取引」についてであり、所有権が最終的に賃借人に移転する賃貸借契約の場合賃貸借期間経過後も対象物件の使用による利益が期待できることから、
- 「リース投資資産」ではなく購入した資産に該当する固定資産科目で計上
- 減価償却は購入した固定資産に対応する償却方法で耐用年数にわたって実施
します。上記の取扱いはほぼ現行のリース会計基準に基づいており、法人税法における「リース」はリース会計基準では「ファイナンス・リース」と呼び、購入資金融通のためのリース契約という意味合いがあります。
一方、法人税法で「リース取引」の要件を満たさない賃貸借取引については、「リース料」などの科目で支払時に経費処理します。
新リース会計基準導入に伴う法人税法上の取扱い
ここから新リース会計基準導入に伴って法人税法上の取扱い、すなわち法人税等の計算に変更があるかどうかについて解説します。
令和7年度与党税制改正大綱によりますと、リース会計について「オペレーティング・リース」(ファイナンス・リースの要件を満たさないリース契約)取引により資産の賃借を行った場合において、契約に基づき支払う金額があるときは、(支払時ではなく)債務が確定した事業年度に損金算入するとあり、特に「使用権資産」や新リース会計基準導入については触れられていません。
つまり、損金算入できるタイミングは変わるけれど「使用権資産」計上に伴う会計処理の変更について法人税法では従来通りの取扱いを踏襲するということです。そのため、「使用権資産」に該当する賃借取引については決算書上の会計処理と法人税計算上の会計処理が異なることになります。違いについては次の項目で具体例を挙げて取り上げます。
会計基準と法人税法との違いはどのように調整するのか?
ここで具体例を挙げて「使用権資産」の会計基準と法人税法の会計処理と調整方法について解説します。なお、調整方法については会計基準委員会や国税庁から現時点で取り扱いが出ていないため、私見であることを申し添えます。
【説例】A社は10年間独占的に発電用ガス貯蔵施設賃借契約があり、毎月100(契約期間総額12,000)を支払う。なお、契約は期首から始まるものとする。
- 契約開始時
(会計基準) (借方)使用権資産 12,000 /(貸方)リース債務 12,000
(法人税法) 特に会計処理なし
(法人税申告書別表4での調整)
加算 使用権リース債務否認 +12,000
減算 使用権資産認定損 -12,000 - 毎月の賃借料支払時
(会計基準) (借方)リース債務 100 /(貸方) 現金預金 100
(法人税法) (借方)賃借料 100 /(貸方) 現金預金 100
(法人税申告書別表4での調整)
減算 使用権リース債務否認認容 -100 - 年度決算時
(会計基準) (借方)減価償却費 1,200 /(貸方) 使用権資産 1,200
(法人税法) 特に会計処理なし
(法人税申告書別表4での調整)
加算 使用権資産認定損否認 +1,200
今回の説例では説明単純化のため使用権資産及びリース債務について割引計算をしていませんが、実際には割引計算を行うため、決算書上の損益と法人税計算上の所得との金額に違いが生じることがあります。
リースに関する消費税の取扱い
ここまでリースに関する法人税等の取扱いについて取り上げましたが、消費税の取扱いについても取り上げます。法人税法上「リース取引」(ファイナンス・リース)に該当する場合は契約開始時に支払総額について一括して仕入消費税を計上し、契約開始事業年度の税額控除対象とします。ただし、所有権が借主に移転しない「リース取引」(ファイナンス・リース)について支払の都度リース料を経費処理している場合は支払時に支払額分だけ仕入消費税を計上する方法を採用することもできます。
令和7年度税制改正大綱では法人税法上「使用権資産」の概念や新リース会計基準についての記述はないと申し上げましたが、消費税においても「使用権資産」や新リース会計基準に関する法改正はなく、「使用権資産」に該当して契約開始時に資産を計上しても消費税は賃借料を支払う都度支払った分だけ仕入消費税を計上しますので、多額の資産が計上されても同時に多額の仕入消費税額控除を計上することはできないことになりそうです。
国税庁HP|No.6163 リース取引についての消費税の取扱いの概要
おわりに
今回は新リース会計基準適用に伴う税金の取扱い、特に借り手側の取り扱いについて取り上げました。
新リース会計基準適用に伴い「使用権資産」が新たに計上される賃貸借取引について税法では従来通りの扱いとなり、決算書における取り扱いと税金計算における取り扱いが異なる事態になります。使用権資産の計上対象になるかどうかの判定について資産の利用が独占的なのかどうかについて主観的な判断を伴うことから、課税の公平の観点から数値基準など客観的な指標による判断を求める傾向がある税金計算では使用権の概念が採用されなかったものと思われます。
使用権資産を計上すべきかどうかの判断も難しいですが、計上した場合の税金計算も煩雑になりそうで財務経理担当部門にとっては頭の痛い問題になりそうです。