リースの会計処理が変わる!?|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2024/10/11
目次
はじめに
新しいリース会計基準が2024年(令和6年)9月に公表されました。この新しいリース会計基準が適用されるとリースやレンタルをたくさん利用している企業にとっては大きな影響があるとされています。また、リース会計基準で取り扱っているリースの範囲は一般的に知られているリースよりも範囲が広く、まさか適用対象になるとは思っていなかったという事態も想定されます。
今回は、リースの会計処理を再確認したうえで新しいリース会計基準の現行基準との違い、適用時期、法人税計算における影響について取り上げます。
リースの会計処理のおさらい
はじめに変更点をきちんと理解できるようにリースの会計処理を現行の会計基準に従っておさらいします。リースには借りる側と貸す側の二者が必ず存在します。そのため、ここでも借りる側と貸す側両方について取り上げます。
現行の会計基準ではリースを2種類に分け、実質的に割賦購入と同じとされる「ファイナンス・リース」と期間を区切った借用で一般的にリースといわれる「オペレーティング・リース」のいずれかに分類します。「ファイナンス・リース」に該当するかどうかは、所有権移転の有無、リース期間と対象物件の耐用年数との兼ね合い、中途解約可能性などを基に判定します。
リース契約がファイナンス・リースに該当した場合、リース対象物件の割賦払いによる売買とみなし、以下の会計処理をします。なお、貸手(貸す側)については3つの方法いずれかを選択できるため①~③の3つのパターンを示します。ただし、所有権が借手(借りる側)に移転するとみなされるリース取引については、リース開始時に対象物件が販売されたということになるため①の方法のみとなります。
設例:リース料月10万円、リース期間5年(60ヶ月)、耐用年数5年(60ヶ月)、一括購入する場合の販売価格及び仕入価格540万円、利息は分かりやすくする関係で毎月同額発生するとみなします。
- リース開始時
(借手) 借方 リース資産 540万円 / 貸方 リース債務 540万円
(貸手) ① 借方 リース債権(所有権移転の場合)又はリース投資資産 600万円/ 貸方 売上高 600万円
借方 売上原価 540万円 / 貸方 リース資産 540万円
借方 繰延リース利益繰入 60万円 / 貸方 繰延リース利益 60万円
② 借方 リース投資資産 540万円 / 貸方 リース資産 540万円
③ 借方 リース投資資産 540万円 / 貸方 リース資産 540万円 - リース料決済時
(借手) 借方 リース債務 9万円 / 貸方 現金預金 10万円
支払利息 1万円 /
(貸手) ① 借方 現金預金 10万円 / 貸方 リース債権又はリース投資資産 10万円
② 借方 現金預金 10万円 / 貸方 売上高 10万円
借方 売上原価 9万円 / 貸方 リース投資資産 9万円
③ 借方 現金預金 10万円 / 貸方 リース投資資産 9万円
/ 貸方 受取利息 1万円 - 決算時
(借手) 借方 減価償却費 12万円 / 貸方 リース資産 12万円
(貸手) ① 借方 繰延リース利益 12万円 / 貸方 繰延リース利益繰入 12万円
② 特になし
③ 特になし
一方、オペレーティング・リースと判定された場合は、リース料決済時に
(借手) 借方 リース料 10万円 / 貸方 現金預金 10万円
(貸手) 借方 現金預金 10万円 / 貸方 リース料収入 10万円
と会計処理します。ファイナンス・リースとされた場合でも、リース期間が12か月以内またはリース料総額が300万円以下の場合オペレーティング・リースと同じ処理をして差し支えないことになっています。
使用権!? 何でしょうか?
新しいリース会計基準では「使用権」という言葉が多く登場します。この「使用権」という用語が新しい基準のキーワードなのです。企業会計基準第34号(いわゆる新リース会計基準)第6項でリースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義し、名目上リース契約とされなくても該当する場合があるのです。また、同基準第9項では「原資産とは、リースの対象となる資産で、貸手によって借
手に当該資産を使用する権利が移転されているものをいう」と定義し、第10項で「使用権資産とは、借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産をいう」と定義しています。
つまり、従来のリース会計基準では「特定物件の一定期間の賃貸借」に着目していたのに対し、新リース会計基準では「何かを使用する権利」に着目しているのです。このことにより、資産そのものは貸主所有であるものの実際には借主が独占的に使用できる場合は、リース契約名目でリース料をやり取りしていなかったとしても賃料やレンタル料、月額使用料等の一部について利用期間にわたってリース資産とリース債務を計上することになるのです。企業会計基準適用指針第33号(いわゆる新リース会計基準適用指針)にある説例では以下の例が挙がっています。
- 特定の荷主や旅行会社が荷物輸送や貸切輸送のために独占的に特定の鉄道車両を使用している場合
- 飲食店やお土産屋などが空港ターミナル内の特定の店舗区画を自分たちの裁量で決定できる場合
- ガス供給会社が別の会社が所有する特定のガスタンクについて100%自分たちのために使える場合
- プロバイダーが特定のレンタルサーバーを独占的に使用し入換もプロバイダーに決定権がある場合
- 電力小売会社が別の発電会社が運営する特定の発電所や太陽光パネルから排他的に電力供給を受けられる場合
以上の例は物件そのもののリース契約は締結されませんが、新しいリース会計基準では元々の売買契約や役務契約の中にリースの要素が含まれているとされ、該当する部分についてファイナンス・リースとして使用者はリース使用権(かつてのリース資産)とリース債務を計上することになるのです。
なお、物件所有者についてファイナンス・リースに該当する場合、会計処理は前項目で説明した会計処理方法のうち③の方法のみとなります。ただし、下請業者への設備貸しやショッピングセンターでのテナント貸しなど製造業者や小売業者が本業の一環として行うリースについては、前項目にある会計処理方法の②の方法を適用します。
いつから変わるの?
新リース会計基準は2027年(令和9年)4月1日以後開始する事業年度の期首から公認会計士監査を受けている日本基準適用会社に対して強制的適用となります。また、2025年(令和7年)4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することが可能です。適用初年度においては新たにリース使用権(資産)及びリース負債を計上すべき契約については期首時点で新たに期首残高を計上することになります。なお、適用する前の年度について遡って新リース会計基準を適用する必要はなく、リース使用権(資産)及びリース負債を計上することによって生じて過去の損益差額は期首利益剰余金で調整します。
税務上はどうなる?
ブログ更新時点では、国税庁から新リース会計基準に関する税務上の取扱いは出ていません。そのため、法人税の計算においてどのような申告調整が必要になるかはまだ判明していません。過去の新会計基準導入時の取扱いから推測すると新リース会計基準適用に伴って使用権資産とリース債務を計上する場合特段の申告調整を不要とし、中小企業など公認会計士監査を受けていない企業については従来の取扱いを継続するものと思われます。
今後、国税庁から法人税における取り扱いが公表されましたら改めて取り上げます。