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令和5年度税制改正要望の解説|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

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令和5年度税制改正要望の解説|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

令和5年度税制改正要望の解説|札幌市の公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

2023/01/13

目次

    各省庁からの税制改正要望

     年明け前に令和5年度税制改正について与党の改正大綱を解説しましたが、税制改正要望は各省庁からも上がり税制改正に反映されます。そこで今回は各省庁が要望している事項のうち特に影響があるものを取り上げて解説します。今回の与党税制改正大綱には既に省庁から要望が上がっていた事項も一部含まれていますので、与党税制改正大綱の解説で取り上げたものは今回の記事では割愛いたします。
    そもそも税制改正大綱は財務省HPによりますと次の流れで進むものです。政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討する一方、毎年度の具体的な税制改正事項は与党税制調査会が税制改正要望等を審議し、その後取りまとめられる与党税制改正大綱を踏まえて「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。閣議決定後、国会で審議され成立すると改正された税法が公布され、改正法に示されている施行時期が到来すると順次改正事項が施行されます。なお、令和5年度税制改正大綱は令和4年(2022年)12月23日に閣議決定され国会審議に入ります。

     

    金融庁からの要望事項(主幹省庁となる共同提案事項含む)

     金融所得課税の一体化(金融商品に係る損益通算範囲の拡大)
     この要望は平成17年度から継続しているものです。令和5年度税制改正大綱には盛り込まれませんでしたが与党税制改正大綱で今後の検討事項とされており、将来的に盛り込まれる可能性があるため取り上げました。要望は以下の通りです。

    1. 投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備する観点から、損益通算の範囲をデリバティブ取引・預貯金等にまで拡大すること。
    2. 損益通算範囲の拡大に当たっては、特定口座を最大限活用すること。
    3. 制度導入に当たっては、個人投資家の利便性や金融機関の負担について十分配慮すること。

    現行の所得税計算において有価証券売却損に関しては損益通算ができますが、先物やFXなどのデリバティブで生じた差損や外貨・暗号資産の為替差損については他の所得と相殺できず損失の穴埋め効果がない状態です。同じ金融取引である以上認めてもよいのではないかと個人的には思います。
     

    復興庁からの要望事項(主幹省庁となる共同提案事項含む)

    1.福島国際研究教育機構に係る税制上の所要の措置
     この要望は令和5年(2023年)4月に創設予定の福島国際研究教育機構が税制上優遇措置を受けられるよう求める要望です。具体的な要望事項は以下の通りです。

    •  所得税(公共法人等(所得税法別表第一)として非課税措置を適用)
    •  法人税(公共法人(法人税法別表第一)として非課税措置を適用)
    •  消費税(消費税法別表第三に掲げる法人として課税の特例措置を適用)
    •  印紙税(非課税措置を適用(印紙税法別表第二))
    •  登録免許税(非課税措置を適用(登録免許税法別表第二)
      復興庁HPによりますと、福島国際研究教育機構は「福島復興再生特別措置法に位置付けられた福島イノベーション・コースト構想に関する規定を踏まえ、原子力災害によって甚大な被害を受けた福島浜通り地域等において、国内外の英知を結集して、環境の回復、新産業の創出等の創造的復興に不可欠な研究及び人材育成を行い、発災国の国際的責務としてその経験・成果等を世界に発信・共有するとともに、そこから得られる知を基に、日本の産業競争力の強化や、日本・世界に共通する課題解決に資するイノベーションの創出を目指すものとする」とされています。この創設目的から公共性が高い法人とされ、税制優遇措置のある公共法人と位置付けるべきとの要望であり、令和5年度税制改正に盛り込まれました。

    2.福島国際研究教育機構への寄附に係る税制措置
     福島国際研究教育機構が公共法人と位置付けられると当機構に対する寄付は公益に資する寄付とみなされるため、所得税の寄附金控除や法人税の特定公益増進法人に対する寄附として認めることを要望したものです。こちらも、令和5年度税制改正大綱に盛り込まれました。この他、令和5年度税制改正大綱には相続財産を福島国際研究教育機構に遺贈する場合の相続税非課税措置も盛り込まれました。
     

    文部科学省からの要望事項

    1.教育資金一括贈与の贈与税非課税措置拡充
     教育資金一括贈与制度は、高齢者世代から子育て世代への教育資金の移転・早期確保を確実なものとし、子育て世代の教育費に関する不安を解消しつつ、教育訓練等への支出を促進することで、少子化対策及び多様で層の厚い人材育成に資することを目的とする制度です。今回の令和5年度税制改正大綱には盛り込まれませんでしたが、文科省では目的に資するため以下の制度拡充を求めています。

    1. 一定割合を学校法人・公益法人等へ寄附することを条件に、非課税上限額を1,500 万円から2,000万円まで引き上げる。
    2. 拠出後の資金の一定の投資商品に係る運用損失及び拠出後の資金からの学校法人・公益法人等への寄附について非課税とする。
    3. 23 歳以上の受贈者について、教育訓練給付の支給対象となりうる「資格・検定」に係る払出しを非課税とする。

    この制度については資金が潤沢な高齢者でないと利用が難しくかえって教育格差を助長するとの批判があることから、令和5年度税制改正大綱に文科省の要望は盛り込まれなかった一方、与党税制改正大綱の解説でも取り上げた通り実質的に教育資金として生かされなかった部分について非課税除外とすることが盛り込まれました。
    2.高等学校等就学支援金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置
     高等学校等就学支援金制度は、高校授業料実質無料化のために年収が約910万円未満の世帯について国が生徒に変わり授業料を高校に支給している制度です。とはいえ、制度の申請者及び実質的な受益者は生徒本人であるため通常の税制ですと就学支援金が生徒個人への所得とみなされ所得税が課税されることになり実質無料化の効果を減殺することになります。そこで、高等学校等就学支援金については所得税非課税とされると共に財産差押禁止対象債権となっています。
     令和5年度の制度改正法案において家計急変世帯の生徒等に対しする支援を当制度に組み込む形で盛り込まれており、制度改正法案成立を前提に家計急変世帯に対する支援金についても所得税非課税とされると共に財産差押禁止対象債権とする旨の要望が出され、令和5年度税制改正に盛り込まれました。

    厚生労働省からの要望事項

    1.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等
     持分のある医療法人について持分を出資する者が死亡または退社(脱退)に伴い持分払戻が行われると医療法人の財産が失われ事業継続困難となる可能性があります。そこで、平成26年(2014年)度改正で持分のない医療法人への移行計画の厚労省による認定を前提に、持分なし医療法人に移行する際に持分出資者が出資を放棄する(実質的に特定人物一族の化体たる医療法人に出資財産を贈与する)ときに生じる贈与税の課税を猶予する措置が取られ、持分なし医療法人への移行が促進されています。令和4年(2022年)3月末時点においても医療法人社団の66%が持分ありとなっている現状がある一方、納税猶予措置が令和5年(2023年)9月までとなっていることから期間延長するよう要望したものです。この延長要望は令和5年度税制改正大綱に3年3ヶ月(令和8年(2026年)12月まで)延長の形で盛り込まれました。
    2.
    感染症等専門家組織(仮称、日本版CDC)の創設に伴う税制上の所要の措置
     これまで日本において感染症を一元的に扱う機関がなく新型コロナウイルス感染症の対応において方針が二転三転したり、関係省庁で足並みがそろわなかったりして感染症対応や経済活動に多大な混乱が生じたことから、令和4年(2022年)6月17日の新型コロナウイルス感染症対策本部会議で感染症等専門家組織(仮称、日本版CDC)の創設が公表されました。創設時期が未定であるため令和5年度税制改正大綱には盛り込まれませんでしたが、創設目的からして公共性が高いため税法上の公共法人として優遇措置を受けられるよう要望したものです。
    3.護保険法等の改正に伴う税制上の所要の措置
     介護保険からの介護給付については生活支援効果を減殺しないよう所得税非課税とされると共に財産差押禁止対象債権となっている一方、介護給付制度の適切性を担保するため介護保険制度は3年ごとに見直され法改正されることになっており令和5年度は改正年度となっています。そこで、法改正を前提に介護給付に対する所得税非課税と財産差押禁止措置を継続するようもとめる要望であり、令和5年度税制改正大綱に盛り込まれています。
    4.生活困窮者自立支援法及び生活保護法の見直しに伴う税制上の所要の措置
     生活困窮者住居確保給付金については生活支援効果を減殺しないよう所得税非課税とされると共に財産差押禁止対象債権となっている一方、生活保護制度の適切性を担保するため5年ごとに見直され法改正されることになっており令和5年度は改正年度となっています。そこで、法改正を前提に生活困窮者住居確保給付金に対する所得税非課税と財産差押禁止措置を継続するようもとめる要望であり、令和5年度税制改正大綱に盛り込まれています。

    国土交通省からの要望事項

     空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長
     親の死亡に伴い空き家となった住宅を相続してそのまま放置されることで、生活環境の悪化や地域開発の障害となっていることから空き家の処分を促進するための空き家特例が設けられています。具体的には相続時から3年を経過する年の12月31日までに、被相続人からその所有する居住用家屋及びその敷地の用に供されている土地を相続した相続人が、当該家屋(耐震性のない場合は耐震改修をした家屋に限る。)または家屋除却後の土地を譲渡した場合に、当該相続人の所得税計算において当該家屋または土地の譲渡益から3,000万円を特別控除するもので、令和5年(2023年)12月31日までとなっています。今回国交省が出した要望は、本特例措置を4年間(令和6年(2024年)1月1日~令和9年(2027年)12月31日まで)延長するとともに、譲渡後に家屋の耐震改修または除却を行った場合も空き家特例の適用対象とするというものです。この要望は令和5年度税制改正大綱に盛り込まれ、譲渡後の家屋の耐震改修または除却の期限を確定申告期間開始前の譲渡日翌年2月15日までとされました。

    防衛省からの要望事項

     防衛産業のサイバーセキュリティ体制強化のための税制上の所要の措置
     最後に防衛省からの要望を一つ取り上げます。近年、サイバー攻撃による生活インフラや経済活動の破壊及び防衛活動の妨害リスクが高まりサイバーセキュリティが喫緊の課題になっています。そこで、防衛省は自衛隊の運用する装備品等の開発、製造、維持整備等を手掛ける防衛産業が、防衛産業サイバーセキュリティ基準を満たすサイバーセキュリティ設備投資を行った場合に設備投資額の5%の法人税額控除または設備投資資産の取得年度における30%の特別償却を認めるよう要望したものです。この要望は令和5年度税制改正大綱には盛り込まれませんでしたが、令和5年度税制改正大綱に将来における防衛力強化のための課税強化が盛り込まれるなど防衛に関わる税制見直しが話題になっていることから今回取り上げました。

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