公認会計士・税理士熊谷亘泰事務所

令和5年度与党税制改正大綱の解説|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

お問い合わせはこちら

令和5年度与党税制改正大綱の解説|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

令和5年度与党税制改正大綱の解説|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

2022/12/23

与党(自由民主党・公明党)の税制改正大綱

 年末になり税制改正が話題になる時期になりました。令和5年度の税制改正大綱について特に影響が大きいものを取り上げます。
 そもそも税制改正大綱は財務省HPによりますと次の流れで進むものです。政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討する一方、毎年度の具体的な税制改正事項は与党税制調査会が税制改正要望等を審議し、その後取りまとめられる与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。今回はこのうち、特にその時々の情勢が反映される与党税制改正大綱について取り上げます。
 初めに基本的な考え方として挙がっているのが、
1.成長と分配の好循環
2.経済のグローバル化・デジタル化・グリーン化への対応
3.地域における活力と安全・安心な暮らしの創造
4.経済社会の構造変化も踏まえた公平で中立的な税制への見直し
5.円滑・適正な納税のための環境整備
6.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

の6つです。令和4年度は選挙前ということもありさほど改正項目はありませんでしたが、今回は度々ニュースに取り上げられるほどの大きな改正項目がいくつもあります。1~5は過去の税制改正でも取り上げられていましたが、6.防衛力強化はロシアによるウクライナ侵攻や中国・北朝鮮による挑発行為の頻発により議論が挙がったものあることはニュースなどでご存知かと思います。
以上の考え方を踏まえて具体的な改正要望事項と検討事項の主なもの特に大きな変化のあるものをご紹介します。

個人所得課税の改正大綱

1.NISAの発展的改組
 個人の継続的な積立投資を促進するため、現行のつみたてNISAの口座開設期限を令和5年(2023年)12月31日までとしたうえで、令和6年(2024年)1月1日よりNISAとつみたてNISAを新たな恒久的制度に改組し、年間取得限度額を特定非課税管理勘定(現行のNISAに相当)は240万円、特定非課税累積投資勘定(現行のつみたてNISAに該当)は120万円に拡大するとされています。なお、新しい制度における特定非課税累積投資勘定(現行のつみたてNISA)で購入できるのは原則公募投資信託等のみで上場株式は特定非課税管理勘定のみで運用可能とされています。

2.極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
 株式の運用益(配当及び譲渡益)で高額の所得を得る一方累進課税制度が適用されない一律20%(所得税15%+住民税5%)の所得課税のみで終わる申告不要制度を利用して他の所得での高額所得者と比較し大幅な節税に繋がっている不公平感を解消させるため、令和7年(2025年)より(申告不要制度を適用しなかった場合の総所得金額-3億3千万円)×22.5%で算出した金額が、実際の確定申告で申告不要制度を適用していない所得に対してかかった税額よりも少ない場合は、その差額について所得税及び住民税を課すとされています。

3.ベンチャー出資を行った場合の譲渡所得控除制度の新設 
 ベンチャー企業設立を促進させるため、自らが発起人ではないまたは自らの事業を承継した会社でない中小企業者に該当する会社に対して設立時に出資を行い株式を取得した場合、出資年度の株式譲渡所得計算の際20億円を限度に出資した金額を控除することができるとされています。ただし、一定の要件があります。また、出資年度の株式譲渡所得計算で出資額を控除しても控除しきれなかった金額が生じた場合、その控除しきれなかった金額を翌年度以降の株式譲渡所得計算の際の控除に充当できるとされています。なお、この制度は現行の制度で導入済みの株式取得金額控除(即時償却)及び株式取得価額の10%税額控除との選択適用となり、今回新設するとした制度は主にベンチャー投資家が頻繁に出資先を組み替える場合に利用しやすい制度になりそうです。

4.災害の被害を受けた資産に関する損失の繰越期間延長
 被害からの回復により時間を要する災害が近年増加していることを踏まえ、特定非常災害の指定を受けた災害により事業所得者等が保有する棚卸資産や事業用資産等の災害損失(被害を受けた資産が事業用資産全体の10%を超える青色申告者の場合事業全体の赤字)が災害の発生した年の他の所得と相殺しても控除しきれないとき繰越できる年数が翌年度以降3年から5年に拡大されるとのことです。また、特定非常災害の指定を受けた災害により個人の住宅や家財等の災害損失について災害が発生した年の雑損控除として他の所得と相殺しても控除しきれないとき繰越できる年数が翌年度以降3年から5年に拡大されるとのことです。

5.個人事業主の開業・廃業・青色申告に関する届出の期限延長及び記載事項簡素化
 個人事業主の開業・廃業時の事務負担を軽減させるため、令和8年(2026年)度より開業・廃業届、青色申告取りやめに関する届出の期限を開業または廃業を行った日の年分の確定申告期限までに延長するとされています。また、令和9年(2027年)度より開業届に付随して提出することの多い源泉税納期特例申請書、給与支払事務所開設等届出書、青色申告承認申請書、青色専従者給与届出書について記載事項を簡素化するとのことです。

6.年末調整に関する従業員申告書の簡素化及び税務署への源泉徴収票提出の簡素化
 年末調整事務効率化を図るため、①令和6年(2024年)10月1日以後提出する保険料等控除申告書に記載する保険契約者及び保険受取人の続柄記載の省略、②令和7年(2025年)度分以降の扶養控除等申告書について前年度分と異動がない場合の記載要求事項簡略化、③令和9年(2027年)分以降の給与及び公的年金等の源泉徴収票について、市町村長に給与支払報告書(源泉徴収票の地方自治体版に該当します)を提出した場合税務署長へ源泉徴収票を提出したとみなすことなどを図るとされています。

資産課税の改正大綱

1.相続時精算課税制度の利便性向上
 現行の制度ではたとえ少額でも相続時精算課税制度を適用した贈与全てについて相続時精算課税の対象になるため毎年必要な贈与額の把握と集計に負担がかかり制度利用者が低調でした。そこで、令和6年(2024年)1月1日以降の贈与または相続から贈与税について各年度分の贈与について暦年課税を適用した場合の毎年の基礎控除額である110万円までの控除を相続時精算課税においても認めることで、相続時に贈与税申告の必要があるレベルの贈与のみを把握すれば良くなり相続時精算課税制度の使い勝手が良くなるとされています。言い換えますと、令和5年(2023年)12月31日以前の相続時精算課税制度を適用した贈与については相続時110万円/年の控除が遡って適用されないことになるようです。
 また、個人所得課税の箇所でもお話しした災害復旧長期化による負担軽減の趣旨で、相続時精算課税制度を適用した受贈財産について令和6年(2024年)1月1日以後の受贈から相続発生時までに生じた災害により滅失等の被害を受けたときは、相続時の課税価格から滅失等の金額を控除するものとされています。

2.相続前贈与財産の相続課税資産への持ち戻し期間拡大
 親や配偶者等からの相続が近いと見込まれる人が相続税節税を図るために駆け込みで贈与を受けることを防ぐ趣旨で現行相続開始前3年間の贈与について相続税の課税財産に含めることとされている期間を、より若い世代への財産移転促進と国際的に主流な期間に合わせることを目的に、対象を相続開始前7年間の贈与に拡大するものとされています。なお、急激な相続課税財産の増加を緩和するため対象となる贈与は令和6年(2024年)1月1日以降の贈与からとされ令和5年(2023年)12月31日以前の贈与について贈与から3年以内に相続開始がなければ遡って相続財産に加算されることがないものとされています。また、相続開始前3年超~7年以内に受贈された財産については100万円の控除が適用され駆け込みを意図しなかった贈与に対していたずらに相続税が課税されないような措置が取られるものとされています。

3.本来の目的に合わない富裕層向け教育資金贈与の課税強化
 実質的に本来の目的に沿わない教育資金贈与に対する節税効果抑制と富裕層に対する課税強化のため、教育資金贈与の非課税措置を令和5年(2023年)3月31日までの贈与から3年間延長したうえで、①教育資金管理契約期間中の教育資金贈与額から教育資金支出額を差し引いた残額に対する相続税課税について、教育資金管理契約期間中に死亡した贈与者の相続税課税価格が5億円を超える場合、現行では課税対象外となっている受贈者が23歳未満の場合でも適用されるものとされ、②受贈者が30歳に達した等教育資金管理契約期間が終了したときに契約期間中における教育資金贈与額から教育資金支出額の残額に課税される贈与税について18歳以上の子や孫が父母や曾祖母から贈与を受けた場合に適用される軽減税率ではなく一般税率を適用するものとされています。

4.本来の目的に合わない結婚・子育て資金贈与の課税強化
 実質的に本来の目的に沿わない結婚・子育て資金に対する節税効果抑制のため、非課税措置を令和5年(2023年)3月31日までの贈与から2年間延長したうえで、受贈者が50歳に達した等結婚・子育て資金管理契約期間が終了したときに契約期間中における結婚・子育て資金贈与額から結婚・子育て資金支出額の残額に課税される贈与税について18歳以上の子や孫が父母や曾祖母から贈与を受けた場合に適用される軽減税率ではなく一般税率を適用するものとされています。

5.長寿命化のための大規模修繕工事を行ったマンションに関する固定資産税の減免
 近年築年数が長く老朽化が進んだマンションが急増していることから大規模修繕工事を後押しするため、令和5年(2023年)4月1日から令和7年(2025年)3月31日までの間に施工された大規模修繕工事されたマンションの区分所有者に課税される固定資産税について、工事完了後3ヶ月以内に所在する市町村に対してマンション管理士等が発行する証明書等を添付して大規模修繕工事が施工された旨の申告を行うことを条件に、工事完了日の翌年分の固定資産税を市町村の条例で定めた6分の1~2分の1の範囲の割合に減免することができるものとされています。
 

法人課税の改正大綱

1.オープンイノベーション税制の拡大
 オープンイノベーション税制の対象となる株式の取得に従来の設立出資または増資に伴う払込取得に加え、株式発行会社以外の者から総議決権の過半数を有するようになる程度の株式数を取得する場合が追加されるとのことです。今回追加されるケースの場合、株式の最低保有期間が現行最低3年となっているものが最低5年、取得価額5億円以上、取得対象となる株式発行会社を内国法人に限定するなど資金力が比較的高い大企業による中長期的な国内成長企業支援を目論んだ制度設計になっています。

2.研究開発税制の見直し
 大企業向けの研究開発税制については、試験研究支出増加促進の観点から税額控除率を現行の2%から1%に引き下げ、令和5年(2023年)4月1日から令和8年(2026年)3月31日までに開始する事業年度における試験研究費が前年比+4%超の場合の控除額上乗せと-4%超の場合の控除額引下げを行うものとされています。
 一方中小企業向けの研究開発税制については、中小企業向け制度を令和5年(2023年)4月1日から3年延長したうえで同じく試験研究支出増加促進の観点から前年比試験研究費増加割合が一定の割合を超える場合の控除額上乗せを現行の9.4%超から12%超に見直すとされ、ポストコロナと制度簡素化の観点から基準年度売上高比売上減少割合が2%を超える場合の税額控除上乗せを廃止するものとされています。
 また、特に革新的な研究開発を促進させる観点から、特別試験研究費に係る税額控除の対象となる試験研究費に、①オープンイノベーション税制適用対象となるベンチャー企業との共同または委託開発費用、②社内にいる5年以内博士号取得者または10年以上研究開発に専従する者が一般公募または本人からの提案で取り組む研究開発に対する人件費(当該人件費が前年度比3%以上が要件)、③ビッグデータを用いる研究開発のビッグデータ取得費用などが追加される一方、①オープンイノベーション税制適用対象となるベンチャー企業に該当しない研究開発型ベンチャー企業との共同または委託開発費用、②明らかに性能向上を目的としない開発業務の一環で行われるデザイン設計及び試作費用を除外するものとされています。

3.中小企業者等に対する軽減税率の適用延長
 中小企業支援を引続き継続するため、現行では令和5年(2023年)3月31日までに開始する事業年度までとされている中小企業者等に対する軽減税率(23.2%→15%または19%に軽減)について令和7年(2025年)3月31日までに開始する事業年度まで2年延長するものとされています。

4.実質的に事業投資に該当しないスキームの中小企業投資税制優遇からの除外
 形式的に設備投資を行う一方実質的な運営は別の業者に委託して実質的には資産運用として租税回避を図るスキームを防止するため、①コインランドリー設備を取得してコインランドリーの運営を別の業者に委託するスキームの場合の中小企業投資促進税制と特定経営力向上設備取得時の特別償却または税額控除からの適用除外と②暗号資産マイニング業用資産を取得してマイニング業務の管理を別の業者に委託するスキームの場合の特定経営力向上設備取得時の特別償却または税額控除からの適用除外がされるとのことです。また、中小企業投資促進税制と特定経営力向上設備取得時の特別償却または税額控除については、現行令和5年(2023年)3月31日までに開始する事業年度までとなっているものを令和7年(2025年)3月31日までに開始する事業年度まで2年間延長するものとされています。

5.法人の青色申告に関する届出の記載事項簡素化
 個人所得課税の箇所でもありましたが、法人の開業・廃業時の事務負担を軽減させるため、令和9年(2027年)1月1日以後開始する事業年度以降提出する青色申告承認申請書から記載事項を簡素化するとともに、令和8年(2028年)1月1日以後開始する事業年度より青色申告を取りやめる旨の届出書の提出期限を取りやめる年度の確定申告期限に変更したうえで記載事項を簡素化するとされています。

6.特定資産買換えの圧縮記帳の適用延長と見直し
 現行では令和5年(2023年)3月31日に行われたものまでが対象となっている特定資産買換えの圧縮記帳について令和8年(2026年)3月31日までに3年延長したうえで、他の政策と矛盾する①既成市街地の内から外への買換え、②航空機騒音障害地域の内から外への買換えのうち第二種区域(令和2年4月1日以前に指定された区域に限る)内資産の譲渡の2つを対象から除外し、地方への事業拠点分散促進の観点から、長期所有土地建物等の買換えのうち、①本店等を東京23区内から地域再生法に定める集中地域(首都圏、近畿圏、中京圏)外の地域に移転した場合の繰延べ割合の引き上げ(80%→90%)、②本店等を地域再生法に定める集中地域(首都圏、近畿圏、中京圏)外の地域から東京23区内に移転した場合の繰延べ割合の引き下げ(70%→60%)などが行われるとのことです。

7.事業再構築のための私的整理法制整備に対応した税制の見直し
 事業再構築のための私的整理法制整備を前提に、①法的整理による債権切捨てに伴う貸倒損失計上、②法的整理による計画決定に伴う個別貸倒引当金計上、③法定期整理による計画上5年以内弁済予定金額の個別貸倒引当金不算入、④法的整理による計画の成立年度における繰越欠損金控除限度額の引き上げなどについて、当該私的整理に基づいて策定された事業再構築計画の決定等を追加するものとされています。

8.暗号資産の評価方法見直し
 トレーディングされるリスクの少ない、①発行時から継続して保有する自己発行暗号資産、②発行時から技術的措置や信託財産組み入れにより譲渡制限措置が講じられている暗号資産については決算時に時価評価せず、①については発行費用に基づく取得価額、②については取得に要した額を評価額とするものとされています。
 また、空売りによる利益を得る目的で暗号資産を交換業者以外の者から借りて売却した場合に未だ買戻ししていない場合でも決算時に決算時の買い戻し価格と売却価額との差額を損益計上するものとされています。

消費課税の改正大綱

1.小規模事業者が適格請求書(インボイス)発行事業者になる場合の特例
 
インボイス制度が開始される令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの期間の属する課税期間において、もし任意で適格請求書発行事業者または課税事業者にならなかったとすれば免税事業者となることができた事業者については消費税額の8割控除を認めるとともに、原則適用したい課税期間開始前日までとなっている簡易課税制度届出の期限を課税期間終了日までに延長するとされ、適格請求書発行事業者登録を推し進める意図があるようです。

2.適格請求書(インボイス)の保存要件、交付義務の緩和
 基準期間(原則2つ前の課税期間)における売上高が1億円以下または特定期間(前課税期間開始から6か月間)における売上高が5千万円以下の課税事業者について、令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの課税仕入れのうち支払対価が1万円未満の場合はインボイスの保存なく帳簿に記録するのみで仕入控除を認めるものとし、全ての適格請求書発行事業者について売上対価の返還等の取引のうち1万円未満の場合は返還適格請求書(返還インボイス)の交付義務を免除するとされ、インボイス制度開始によって増加する事務負担の軽減を図る意図があるようです。

3.インボイス制度開始後の適格請求書発行事業者登録及び取りやめに関するルールの整備
 税務署内での事務円滑化のため、インボイス制度が開始される令和5年(2023年)10月1日の後、①翌課税期間初日から適格請求書発行事業者になる場合の申請、②当課税期間をもって適格請求書発行事業者登録を取りやめる場合の届出の期限を適用開始初日前15日以内とし、免税事業者が登録当日から適格請求書発行事業者になる場合の申請をする場合の登録日を申請日から15日経過日以後とするとされています。

4.小規模酒造業者の酒税税率特例の適用拡大
 近年増加しているクラフトウイスキーやジン、ワイナリー等を後押しするため、令和6年(2021年)4月1日以降出荷分よりこれまで地酒やクラフトビール醸造業者等に限定されていた酒税税率の軽減特例を前年度出荷数量3000キロリットル以下の酒造業者に拡大する一方、軽減割合の引き下げと引下げに伴う激変緩和のための従来特例の経過措置を行うとのことです。

5.IRリゾート内のカジノにおける消費税仕入税額控除の制限
 IRリゾートのカジノ利用者から受取る収入の大部分を占める賭け金収入は消費税不課税となる一方、少額の利用料収入が消費税課税取引となることで利用料収入よりも大きくなる消費税が課税された仕入・経費について消費税額の控除を受けることで消費税還付を受けることになる弊害を防ぐ趣旨で、カジノ運営業者におけるカジノ事業用としての仕入・経費については仕入税額控除を認めないものとされています。

6.免税店で購入した商品の国内譲渡に対する規制強化
 近年日本国内に長期滞在しているにもかかわらず外国籍であることを悪用して免税店で免税購入した商品を国内で転売し消費税を免れているケースが増加していることから、税務署長の承認がない限り国内で転売された免税適用商品の消費税について転売者と転売先の双方が連帯して消費税課税義務を負うとされました。

7.電子決済手段譲渡の消費税非課税明確化
 資金決済に関する法律の整備に伴い電子決済手段について通貨と同等の取扱いになったことから、電子決済手段の譲渡について消費税非課税とすることが明確化されるとのことです。

国際課税の改正大綱

1.グローバル・ミニマム課税(最低税率)制度の導入
 
アメリカのバイデン大統領の発言から議論が始まった、低税率国が多国籍企業を誘致することで国際的な過当な低税率競争と競争の結果生じる税収不足防止のための国際的最低法人税率の設定に呼応し、令和6年(2024年)4月1日以降開始する事業年度より、企業グループ全体の対象年度前直近4事業年度中2事業年度の売上高が7億5千万ユーロ以上の内国法人に国際最低課税額を課すものとされ、国際最低課税額が課される多国籍企業グループに属する内国法人に対し、多国籍企業グループの更正企業等の名称、所在地国、国別実効税率等の情報を対象となる事業年度終了日後1年3か月以内に当該内国法人を管轄する税務署長に申告するものとされています。

2.非居住者に対するカジノ非課税制度の導入
 
IRリゾート内のカジノはインバウンド客向けであり来客促進のため、非居住者が得るカジノの勝金のうち令和9年(2027年)1月1日から令和13年(2031年)12月31日までに獲得した分については、日本の所得税及び住民税を非課税とするとのことです。ただし、入場料を課される場合やIR整備法の規定上カジノ利用が禁止されている者だった場合は対象外とされるとのことです。
 

納税環境整備の改正大綱

1.優良電子帳簿の範囲の明確化
 令和4年(2022年)1月1日より改正電子帳簿保存法が施行され、電子データでの帳簿や証憑の保存がしやすくなりました。一方、電子帳簿については訂正・削除記録や検索機能など特に透明性が高い電子帳簿を優良電子帳簿として普及を推奨し、利用している会計帳簿全てを過少申告加算税軽減の優遇措置があります。しかしながら、優良電子帳簿とすべき帳簿の範囲が不明確であったことから、令和6年(2024年)1月1日以後法定申告期限等が到来するものから対象となる帳簿の範囲が明確になるとのことです。

2.スキャナ保存要件の緩和
 改正電子帳簿保存法では紙面の書類を電子データ保存するための要件が緩和され利用しやすくなりましたが、それでも人材や設備に限りがある中小企業には未だ利用しにくい要件が残っています。そこで、令和6年(2024年)1月1日以後保存するスキャナ保存から、①画像データ解像度要件廃止、②記録事項の入力者等に関する情報の確認要件廃止、③保存した電子データと会計帳簿との相互関連性要件を契約書や領収書など重要性が高いもののみに限定するとされています。

3.電子取引(データ)保存要件の緩和
 改正電子帳簿保存法ではPDFやメール文書など当初より電子データとなっている書類について体系的な管理方法で電子データのまま保存することを求めていますが、多くの企業の実務では定着に時間がかかるため令和5年(2023年)12月31日までの移行準備期間(宥恕措置)が設けられています。それでも定着に時間がかかるとみこまれ中には電子データのまま体系的に保存する能力(スキル)やソフトを有していない企業もあるため、令和6年(2024年)1月1日以後の電子取引データ保存から①電子データファイル等の検索要件免除対象者を対象期間の売上高1000万円以下から5000万円以下に拡大し、②電子データ保存者等に関する情報の確認要件廃止などがされる一方、令和5年(2023年)12月31日までの移行準備期間は延長することなく終了するとされています。

4.ダイレクト納付の利便性向上
 ダイレクト納付はe-Taxから納税者指定の銀行口座から引落指示をすることにより納税する方法ですが、銀行での対応時間の関係上当日中引落が叶わない場合があります。そこで、令和6年(2024年)4月1日以降のダイレクト納付手続より期限内申告とともに法定納期限内に引落指示をする場合、法定納期限翌日引落であれば法定納期限当日納付とみなすものとされています。

5.スマートフォンを利用したe-Taxの利便性向上
 現行ではスマートフォンからe-Taxにログインする方法として、①ID・パスワード方式と②マイナンバーカードログイン方式がありますが、①については覚えたりメモを取ったりする必要があり、②についてはマイナンバーカードの保有と携帯が必要です。そこで、令和7年(2025年)1月1日以降スマートフォンに搭載された署名用電子証明書を利用したログインが可能となり、このログイン方法の場合IDやパスワードの入力が不要になるとのことです。

6.税理士でない者が税務相談に対応した場合の処分や罰則の強化
 税理士法の規定で税理士でない者が税務代理や税務相談など税理士の独占業務を行うことは禁止されており罰則規定もあります。その一方、会計事務所経験者やコンサルタントなど税理士でないにもかかわらず税務知識がある者が節税や還付の相談に乗ると言って不当に税金の賦課を免れたり還付を受けたりするケースは後を絶ちません。そこで、令和6年(2024年)4月1日よりこうした違法な税務相談が二度と行われないことを確保するため財務大臣の命令により必要な措置を講じることができるとされ、命令の日から3年間インターネットなど不特定多数が容易に閲覧できる方法で命令内容が公表されるとともに命令直後に発行される官報に公告されるとされています。なお、命令を受けた者が命令に従わずに違法な税務相談等を行った場合1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑が課されるとのことです。
 

今後の検討事項

 今後の検討事項として以下の事項が挙げられています。
1.少子高齢化進展に伴う世代間課税公平化に向けた年金課税の見直し(昨年度から継続)
2.デリバティブ取引に対する所得課税制度の一本化(昨年度から継続)
3.正規の簿記による青色申告の普及、給与所得控除・扶養控除などの人的控除の見直し、個人事業と法人成り同族企業との課税バランス確保といった小規模事業者向け税制の見直し(昨年度から継続)
4.カーボンニュートラルやシェアリングへのシフトなど自動車の環境変化を見据えた自動車関連課税制度の見直し(昨年度から継続)
5.原料用石油製品等の免税・還付措置の本則化(昨年度から継続)
6.複式簿記による記帳、優良電子帳簿の普及・一般化、記帳義務の適正な履行担保のための制度整備(昨年度から継続)
7.課税公平のための事業税における社会保険診療報酬の実質非課税や医療法人の軽減税率の見直し(昨年度から継続)
8.地方税収と事業環境変化を踏まえた、電気供給業及びガス供給業の収入による外形標準課税の見直し(昨年度から継続)
9.「出産・子育て応援交付金」の令和6年度以降の継続実施のための安定財源確保

なお、国民の関心が特に高い防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、基本的な考え方の箇所で令和6年度以降の適切な時期より以下の措置を施行するとされており、増税負担に対する世論や与党内・野党の意見の違いと有事リスクを勘案して導入時期について議論先送りの格好となりました。
1.法人税額に対し税率4~4.5%の新たな付加税を課す一方、中小企業に対する負担軽減のため課税対象となる法人税額について500万円の控除をする
2.所得税に対して付加されている復興特別所得税(現行所得税額に対し2.1%)のうち1%分を防衛力強化のための付加税とする一方、残存する復興特別所得税については福島第一原発の廃炉や福島県内の特定帰還困難区域等への帰還など長期間を要する取組みに充当する
3.たばこ税の1本あたり3円の引上げを、国内葉たばこ農家の影響を考慮しつつ段階的に実施する
 今回は大変長くなりましたが、政治色が反映される与党の税制改正大綱についてお話致しました。

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。