租税公課と経費(損金・経費解説シリーズ⑦)|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!
2022/11/04
目次
はじめに
10回にわたってお届けする損金・経費解説シリーズ、今回のテーマは税金と経費についてです。今回の解説シリーズは所得税や法人税の計算に必要な所得の計算の細かい話を取り上げていますが、事業を行っていると消費税や固定資産税など多くの事業者に関わる他の税金もあれば、酒税や入湯税など特定の業種に関わる税金もあります。これら税金は事業においてコストとなりますが、経費として認められる範囲に留意点がいくつかあります。今回は、支払った税金が経費として認められるにあたっての留意点をいくつか取り上げて解説します。
なお、このシリーズは以下の通りになっています。
第1回 減価償却
第2回 繰延資産
第3回 資産の評価損
第4回 給与、賞与
第5回 保険料
第6回 寄附金
第7回(今回) 租税公課
第8回 交際費、広告宣伝費
第9回 圧縮記帳
第10回 貸倒損失、貸倒引当金
個人事業主における所得税の経費性
個人事業主が利益を出して事業所得が生じるとその分所得税を負担することになります。では、負担した消費税は必要経費となるのでしょうか?答えはNOです。
理由は大きく2つあります。1つ目は、所得税は個人が得た様々な所得に対してかかる税金であり、事業に対してだけ課税されるわけではなく必ずしも事業のために必要とはいえないからです。2つ目は、所得税を必要経費とするとその分翌年以降の所得が下がることになり、結果として必要経費算入ができる事業を営んでいる人だけが所得税で所得税を下げることができる不公平が生じるからです。
稀に事業所得や不動産所得の計算に際して所得税を必要経費にする方がいますが、以上の2つの理由から必要経費になりませんので帳簿を付けるとき、また確定申告のときには十分ご注意ください。
法人における法人税等の経費性
法人は毎年度の所得に対して法人税、法人都道府県民税、法人市町村民税及び事業税(一部事業を除きます。詳細は後述します。)の4種類の税金がかかります。では、これら4種類の税金は経費となるのでしょうか?答えは個人事業主と異なり、△(さんかく)なのです。
法人の所得は法人全体の収益から費用を差し引いた儲けです。法人は営利、非営利問わずなんらかの事業のために設立されているため、法人税等所得に対してかかる税金は事業のために支払っているということになり、経費として経理します。一方、法人税等は企業の儲けに対して掛ける税金であること、法人税等が差し引かれた状態の所得に対して税率をかけて税金計算すると法人税等で翌年以降の法人税等を下げる矛盾が生じることができることから、経費計上した法人税等は申告計算の際損金不算入の形で所得を増やす調整をします。こうすることで、経理上は経費となる一方で税金計算の際は法人税等が経費にならないようにしているのです。
ただし、事業税だけは納税した年度の申告計算において損金算入して法人税等の負担を減らすことができます。理由は、事業税が事業者に公共サービスの恩恵度に対して負担する性格があり(応益負担)、必ずしも儲けに対して負担する性格のもの(応能負担)とは限らないからです。その証として、
- 電気供給業、ガス供給業及び保険業に対しては所得ではなく収入に対する課税である
理由:所得課税だと年によって増減が激しく応益の実態に合わなくなる可能性が高いため - 資本金が1億円以上の大法人に対しては付加価値、資本、所得の3つの要素に対して課税される(いわゆる外形標準課税です)
理由:大法人は儲けに関わりなくより多く行政サービスの恩恵を受けているとされるため
という2つの異なる課税があります。決算書の一つである損益計算書で法人税等は純粋な儲けである税引前当期純利益の次に記載し、儲けに対していくら税金がかかるかわかる形式になっていますが、所得課税に該当しない部分の事業税は儲けと対応しないため他の税金と一緒に租税公課として記載します。
源泉所得税及び源泉住民税の経理
多くの事業者で役員や従業員がいて給与や賞与を支給しています。給与や賞与は総支給額をそのまま支給するわけでなく社会保険料や労働保険料、源泉税などを天引きしています。ここでは、源泉税の経理について留意点をお話します。源泉税は事業者が納付しますが、課税対象者は役員及び従業員個人であり事業者は支給時に天引きし、課税対象者に代わって税務署などに納付しているに過ぎません。よって事業者負担の税金ではないため、経費にすることはできません。代わりに天引きしたときは負債の一種である預り金として経理し、納付時に預り金を取崩す経理をします。なお、給与及び賞与そのものの経理については第4回を、社会保険料及び労働保険料の天引きについては第5回をご参照ください。
また、源泉税は事業者自身に課税される場合があります。それは、利息及び配当金の受取りです。利息及び配当金は所得税法及び地方税法の規定に従い所得税と都道府県民税を源泉徴収した差引額が入金されます。ここでおやっと思った方もいるかと思いますが、法人名義の口座や有価証券の場合でも所得税が源泉徴収されるのです。法人にとって源泉徴収は税金の前払いになるため、申告計算の際に1.いったん支払った源泉所得税を損金不算入で所得に加算し、税額計算後税額控除する、2.経費として取扱い申告時に調整しない、のいずれかの方法で調整します。なお、源泉住民税は源泉徴収時に納税額最終確定となり、経費として取扱い申告計算時に調整しません。
消費税の経理と経費性
多くの事業者で消費税が課税されています。消費税についてどのように経理するのかこの項目でお話しします。消費税は日々の取引の中で取引価格に含めてやり取りされることから消費税課税取引経理の都度消費税を反映させます。経理方法には以下の2つの方法があります。
- 税込経理:消費税を本体価格部分と一緒に該当する取引科目に記帳する、つまり税込金額を取引科目の金額として経理する方法
- 税抜経理:消費税を本体価格部分と切り離し、取引科目は税抜金額で経理し、消費税部分は販売の場合仮受消費税、購入の場合仮払消費税として経理する
1.の経理の場合、日常の経理では消費税がいくらやり取りされているかはわからず、決算において納税する消費税が確定した時点で納税額を経費処理します。一方、2.の経理の場合日常の経理の段階で消費税がいくらやり取りされているか判明します。決算の消費税額確定時は、事業年度内の仮払消費税と仮受消費税をすべて取り崩し、取崩による差額と確定額との差を雑収入または経費として処理して最終精算します。
免税事業者の場合、消費税の納税義務がないため消費税課税取引は税込経理で経理します。課税事業者の場合、税込経理または税抜経理のどちらを選択するのがよいかという質問を受けることがあります。当事務所では原則として税抜経理を選択するよう関与先にお勧めしています。理由は課税売上高が消費税が含まれない分少なくなり、免税事業者判定や簡易課税制度適用判定の際有利になるからです。税抜経理は手間ですが、たいていの会計ソフトでは入力の際税抜経理が簡単にできるよう工夫されています。
金銭的罰則の税務上の取扱い
事業を営んでいると、あまり嬉しくないですが交通違反による反則金、納税漏れや遅延による加算税、その他罰金や課徴金など金銭的な罰則を受けることがあります。こうした金銭的罰則は一方的な財産の流出になるため、支払時に損失または経費として経理されます。ところが、税金計算時は経費として認められず、個人事業主の場合必要経費算入はできませんし、法人の場合経費処理した金銭的罰則は申告計算の際所得加算します。理由は、金銭的罰則を経費として認めると節税効果により罰則効果が薄まるためです。
なお、事業に関連する相手への損害賠償金や慰謝料等の支払は罰則ではないため経費算入することができます。また、利子税及び延滞金は期限遅延に伴う利息の性質を有し、遅延に対して制裁を科すためのものではないため、支払時に経費算入できます。
その他税金の経費性
前項目まで経理や税金計算において特に留意が必要な税金について取り上げました。最後にその他の税金の経理及び税金計算についてお話しします。事業を行っている間、様々な税金が課税されます。代表的なものは固定資産税、自動車税、事業所税、関税などです。これらの税金は納税義務が判明した時点で経費として経理することもありますし、納付時に経費処理することもあります。いずれの経理方法でも構いません。法人の場合法人税等の計算において特段留意することはありませんが、個人事業主の場合所得税計算において事業に関連する税金だけ必要経費算入するようにし、公私部分が混在している場合は事業に関する部分のみを合理的な割合で按分して計上するように留意してください。