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【令和4年7月リライト】相続税解説シリーズ⑩|札幌で税理士・公認会計士に無料相談ご希望の方は熊谷亘泰事務所へ!

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2022/07/06

目次

    はじめに

    相続税解説シリーズ最終回の今回は、事業承継時の税金対策です。
    事業承継に当たり株式や事業財産の承継に対価を伴わない場合民法上贈与契約となり、贈与税がかかります。また、先代の死亡に伴う株式や事業財産の承継は民法上相続となり相続税がかかります。株式や事業財産を贈与または相続すると一度に多額の税金がかかる一方、後継ぎがないことによる廃業を減らすため事業承継の推進が盛んに言われています。今回は事業承継の障害を取り除くための、相続税及び贈与税の優遇制度を中心に事業承継についてお話します。
    なお、各回のテーマは以下の通りです。今回リライトした内容は令和4年6月現在の法令に基づいています。
    第1回 基本事項
    第2回 納税義務者
    第3回 準確定申告
    第4回 現金・預金
    第5回 不動産
    第6回 有価証券
    第7回 退職金・生命保険
    第8回 その他財産・債務・葬儀費用
    第9回 税金計算・控除制度
    第10回(今回) 事業承継特例

    番外編 贈与税
     

    事業承継と税金

    先ほど説明した通り、対価を伴わない個人間での財産の一方的移転には贈与税が課税され、死亡に伴う財産移転には相続税が課税されます。
    一方、金銭などの対価を伴う財産の移転は譲渡(売買契約)とみなされ、譲渡した人に対し受取った対価と財産の評価額との差額、つまり譲渡益に所得税が課税されます。なお、法人が事業財産や株式を譲渡した場合は譲渡した財産や株式と対価との差額が益金(もうけ)とされ、法人税が課税されます。
    もちろん、個人間で事業資産や経営している会社の株式を移転する場合も例外ではありません。かつては特に控除や減免制度は特になかったのですが、近年中小企業の存続のために事業承継やM&Aが盛んに言われるようになると、贈与税や相続税の負担が事業承継やM&Aのネックになるとの指摘が言われるようになりました。
    そこで、優遇措置が導入され、事業承継やM&Aを円滑に進められるよう税制が整備されています。次の項目から詳しく解説します。

     

    法人版事業承継税制

    ここからは事業承継税制の内容を具体的に説明します。
    事業承継税制は法人版と個人版があり、この項目では会社の非上場株式(持分)を承継する法人版について解説します。

    1. 一般措置:贈与または相続時に総株式数の3分の2までの部分について納税を贈与の場合100%、相続の場合80%課税猶予
      1人以上の株主から1人の後継者に承継する場合に限定されており、承継後5年間は平均8割の雇用維持が必要です。また、猶予申請時に納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。担保提供する資産は承継する株式が一般的です。このほか、年齢要件や株式保有要件、役員就任期間要件などがあります。納税猶予という一時的な執行停止措置のため、猶予後一定の事由が発生すると納税免除かあるいは延滞税を加えた課税に変わります。
       ・贈与税または相続税が免除となる場合 先代経営者の死亡(贈与税免除と共に相続税課税猶予に切替ります)、次の後継者への承継、会社の倒産など
       ・課税納付となる場合 先代経営者への株式再譲渡、承継した経営者の役員任意退任、雇用維持8割以下になったときなど
    2. 特例措置:贈与または相続時に総株式数の全部について納税を100%猶予
      この特例は令和6年(2024年)3月31日までに税理士、公認会計士、金融機関、商工団体など認定経営革新等支援機関の所見が記載された「特例承継計画」を都道府県知事に提出することが要件になります。「特例承継計画」では5年以内(令和9年(2029年)12月31日まで)にすべての株式を贈与または相続し事業承継する計画とする必要があります。また、承継期間中は毎年、期間経過後は3年に1回継続届出書を提出する必要があります。この特例が適用されると、複数の株主から最大3人の後継者に承継することができ、承継後5年間の平均8割の雇用維持が出来なかった場合でも下回った理由等を記載した報告書を継続届出書に添付し都道府県知事の確認を受けることで引き続き納税猶予を受けられます。なお、当該特例措置創設時は「特例承継計画」の提出期限が令和5年(2023年)3月31日までとなっていましたが、コロナ禍による活動制限や経営環境悪化への配慮から令和4年度税制改正で提出期限が1年延長されました。

       

    個人版事業承継税制

    ここでは個人事業者が事業財産を承継する個人版について解説します。
    この税制は以下の事業用資産について贈与または相続する場合、当該資産について納税を100%猶予するものです。
    ① 事業用宅地等(400㎡まで)
    ② 事業用建物(床面積800㎡まで)
    ③ ②以外の減価償却資産で次のもの
    ・ 固定資産税の課税対象とされているもの
    ・ 自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
    ・ その他一定のもの(一定の貨物運送用及び乗用自動車、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形固定資産)
    この特例は令和6年(2024年)3月31日までに認定経営革新等支援機関の所見が記載された「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出することが要件になります。このほか、年齢要件や株式保有要件、役員就任期間要件などがあります。
    「個人事業承継計画」では計画当初に先代経営者から上記資産の贈与または相続を受け、先代経営者からの贈与または相続から1年以内(令和10年(2028年)12月31日まで)にすべての事業用資産を贈与または相続し事業承継する計画とする必要があります。事業用資産は青色申告決算書にに記載されているものとされているため、先代経営者、後継者共に青色申告者であることが必要です。また、3年に1回継続届出書を提出する必要があります。
    なお、この事業承継税制は第5回で紹介した相続税小規模宅地特例のうち特定事業用宅地等に該当する部分に適用した特例とは併用することができませんのでご注意ください。

     

    事業承継及び事業承継税制の時系列

    事業承継及び事業承継税制の流れについてここで改めて整理します。

     

    手続 詳細
    事業承継方針の策定及び後継者の選定 事業承継実施の判断、承継スキーム及び後継者を選定します
    事業承継計画の策定 事業承継の時期、承継後の事業計画、資金計画をまとめます
    代表者の改選 順序が前後することがありますが、株主総会や取締役会で後継者を代表者に選任します
    株式等の譲渡・贈与 後継者に株式・持分・事業財産を譲渡・贈与します
    先代の死亡に伴う場合は相続になります
    承継計画の提出 特例税制を適用する場合、特例承継計画を都道府県の経済担当部課に提出し確認書を受領します
    税務申告

    納税猶予を受ける場合事業承継税制に関する事項を申告書に記載し、必要な書類を添付します
    また、株式等を税務署に担保提供します

    年次報告 納税猶予要件について年次報告書を都道府県の経済担当部課に提出し税務署に継続届出を提出します
    要件を満たさなかったり、猶予を取り止めたりする場合は猶予税額と利子税を納付します
    納税免除手続 先代の死亡や倒産など納税免除要件に該当したとき、税務署に免除申請を提出します


     

    除外合意と固定合意

    事業承継により生前贈与された株式や出資、事業用財産は贈与の時期に関わりなく先代の死亡時における遺産相続において遺留分減殺請求の対象財産となります。このとき何も保護措置がないと、後継者以外の相続人から承継した株式や事業用財産相当額について遺留分侵害額請求を受けたとき、遺留分侵害額相当の金銭が後継者以外の者にわたることにより事業の資金繰り悪化につながり事業継続を断念する事態になりえます。
    そこで、民法の特例法である中小企業経営承継円滑化法では以下の措置を定め、後継者が承継した株式や事業用財産相当の金銭が徒に流出することを未然に防ぐことが出来ます。

    1. 除外合意:事業承継により生前贈与された株式や事業用財産を相続時の遺留分侵害額請求対象から除外することを先代の推定相続人全員及び後継者が書面で合意すること
    2. 固定合意:事業承継により生前贈与された株式や事業用財産の遺留分侵害額を合意時の時価で固定することを先代の推定相続人全員及び後継者が書面で合意すること

    なお、これらの合意が会社の株式に対して行われる場合は、合意時に後継者が発行済株式総数の過半数を保有している場合に限られます。
     

    事業承継税制のメリット・デメリット

    ここまで事業承継税制について解説しました。改めてメリットとデメリットをまとめます。
    ・メリット

    1.  事業承継時に税金負担が軽減され円滑な事業承継につながる
    2.  承継後の経営が上手くいけば税金の免除を受けられる
    3.  間接的には計画的で安定した承継につながる

    ・デメリット

    1.  申請・申告時の添付書類準備や定期的な報告があり手続が煩雑である
    2.  途中で断念したり、要件を満たさなくなったりするとその時点で一度に高い税金が課される
    3.  事業承継時の申告の際に税務署に株式等の担保提供をする必要がある

    以上のメリット、デメリットを比較衡量して事業承継税制を適用するかどうか検討することになります。
     

    おわりに

    ここまで10回にわたって相続税解説シリーズをお届けいたしました。
    相続税計算に当たって気を付けるべきことは、

    1. 相続財産の範囲(相続財産に該当するかどうか)
    2. 相続または遺贈される人(誰が財産を引き継ぐか)
    3. 相続財産の評価(いくらかかるか)

    の3つです。相続対策もこれら3つが主な検討事項です。10回のシリーズですべてのことを語りつくせませんでしたが、だいたいわかったと思っていただけるよう心掛けて記事を作成しました。10回のシリーズで相続税について少しでも理解が深まれば幸いです。
    次回は、番外編として相続税と同じく財産の移転に対して課税され同じ相続税法に規定されている贈与税について取り上げます。

     

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